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変人相談者の想い人

「とりあえず、いっこ質問させてくれ……。お前誰?」


「あははっ、面白いことを言いますねぇ? さっき自己紹介したじゃないですか?」


「いや、名前しか分からなかったんだけど……。えっと……。あなたが相談者ってことでいいんですか?」


 そう尋ねると、弥富は「にししっ」と笑い声をあげた。どうでもいいけどその笑い声おかしくね? 発音むずくね? 人類の進化から外れてね?


「そうですよ? 私が相談者です。名前は弥富梓ですっ」


「お、おう……」


 改めて自己紹介されても、お、おう……と頷く他ない。こんな強烈なキャラ現実に実在するんだ……。漫画やアニメではそんなに気にしたことないけど、リアルでこういうキャラを見るとすごい違和感しかない。


 彼女の対応に困っていると、耳元でくすぐったい囁き声がした。――みなさん、お待たせしました。毎章恒例、加納琴葉によるドキドキ耳打ちタイムのお時間です。イヤホンかヘッドホンのご準備を。


「――今回は厳しいわ」


「お前いつもそれだよな」


 いや、もう分かってたけどね。加納に太刀打ちできる相手じゃないってことくらい。というかこのタイプの人間は常人じゃ扱いきれんでしょ。たぶん智也ですら尻込みするぞこういうの。


 耳打ち会議ではロクな議論が出来そうにない。ここは真正面から彼女にぶつかってみるしかないだろう。


「まあとりあえず……、弥富さんはどうしてうちの部活に?」


「はいっ。わたし、恋愛相談があって来たんです。林間学校が始まる前までに、どうしても相談をしたくて」


「……林間学校?」


 弥富の言葉に疑問を投げる。林間学校――それはもちろん忠節高校一年生が参加するあの林間学校を指し示しているのだろう。


「はぁ。なんで林間学校の前にわざわざ……。夏休み明けでも良かっただろ」


 わざわざアポを取って機会を設けるほどのことなんだろうか。だいたいこの部活はそんな有能集団ではないのだ。俺も加納も恋愛経験なんてないのである。もはや詐欺集団。捕まるのも時間の問題。


 だが、弥富はきょとんと目を丸くして言う。


「なんでってそれはもちろん……? 恋に『急がば回れ』はないからですよ?」


「……ん? ん、ああ、ね」


「つまり、林間学校でアタックをしたい男の子がいるってことじゃないかな?」


 弥富の発言の解釈に困っていると横から助け舟が。今のでよく分かったな加納……。さすが成績優秀なだけのことはある。こと恋愛以外においてこいつに抜かりはない。いつの間にか表モードになってるし。


「さすが加納さん! よく分かってますねぇ」


「あはは……どうも」


 弥富のおだてるような発言に、さすがの加納も苦笑い。こいつの戸惑ったような表情は珍しいな。写真にすれば悪魔除けとして使えるかもしれない。


「ハルたそはもう少し頑張ってください!」


「おい誰だよ、ハルたそ」


 初めて聞くあだ名なのに、なぜか反射的に自分のことだと分かってしまった。つーかなんで加納は『さん』付けで俺はあだ名なの? なんかすげえ距離感詰められたんだけど……。


「――ふっ、ふふっ、いいじゃない、ハルたそ……」


 加納が後ろを向いて懸命に笑いをこらえていた。こいつは後で蹴り飛ばす。


「ハルたそはやめろ。そんなあだ名付けられたことねぇよ」


「そうなんですかー? じゃあどんなあだ名で呼べばいいんですかー?」


「あだ名は確定なのか……」


 いや、あだ名とかつけなくていいから。距離感詰めなくていいから。普通に柳津さんとかでいいだろ。なんで俺だけ親しみ込められてんだよ。それともアレか。もしかして軽蔑してるとか軽視してるとか、そういう意味? そういう意味でのあだ名? それならすげえ合点がいくんだけど。……合点がいっちゃう自分に涙を禁じ得ない。


「どんなあだ名にします?」


「いや、普通に名字で呼んでくれ……」


「分かりましたっ! じゃあ柳川さんで!」


「――うん。分かった。もういい。俺のことは『ハルたそ』と呼べ」


 そもそも名前覚えられてなかったし、マジでなんなんだこいつ。やべぇよ。こんな奴の恋愛相談がマトモなわけねえよ。


 今まで遭遇したことのないタイプだ。ある意味ギャルとか不良とかよりも恐ろしい存在である。マジで怖い。マジでこの女怖い。


「…………えーっと」


 一通りの茶番で口の中はパサパサになっていた。シェケラートを一口飲み、喉のコンディションを確認。咳払いを挟んで、俺は話を本題へと戻した。


「……んで、林間学校で想いを伝えたい奴っていうのはどこのどいつだ」


 下手に話を脱線させてしまえばこちらの体力が持たない。こういうのは手短に終わらせるに限る。


 俺の切り込んだ質問にさすがの弥富も即答を躊躇ったか、彼女は苦笑いを浮かべた。


 さすがに恥ずかしいんだろうなとか思いつつ、彼女の発言に注目する。




「……はぁ」




 そして。


 一呼吸置き、決心したかのような表情で。


 弥富はその名を口にしたのだった。




「――私が告白したいのは、大里智也くんです」


「「…………は?」」



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