第978話 卒業生の覚悟
<魔法学園対抗戦・総合戦
七日目 午前九時 一般天幕区>
「チャオ~……起きてる? カルディアスゥ~」
「……その声はヒルメ。あとノーラもいるな」
「素晴らしいです。何も言っていないのに気付くなんて」
「純血の異種族は気配が際立っているからな。入学式の日に、君が俺の出身を言い当てたのと同じだ」
「また懐かしい話を持ってきましたね~」
体調がまだ万全ではない為、ウェイブ魔術協会の指示の下休んでいたカルディアス。立ち向かえる体力も残っていない現状、変に動かない方が聖教会にバレないで済むという判断であった。
パーシーによってその情報は、共通の友人であるヒルメとノーラに齎された。そして二人は見舞いにやってきて、肝心の情報を流した張本人はと言うと――
「ふー……」
「うおっ、これまた大胆なアフロヘアー。パパみたいだ」
「しかも絶妙に焦げ臭いですし。まあ一応何をしたか聞いておきましょうか」
「パンジャンドラムを……十個ぐらい爆発させてきた……」
「どこでどうやって十個も……」
「亜空間で圧縮してぼぼーんと……俺はその爆風を受けてこんな風に……だが、おかげで吹っ切れたッッッッッ!!!」
ぶぅんと頭を一回転させると、黒焦げアフロヘアーは一瞬にして、緑のマッシュルームヘアーへと様変わり。伊達に魔術協会で魔術師やっていない。
「……ああ、君はそれでいい。それでこそパーシー・アンダーソンだ」
「そうだろ~~~これが俺の通常テンションだぜ!! しんみりした雰囲気なぞパンジャンドラムで吹き飛ばせ!!」
「見境なくやるなよ、と冷静にツッコミを入れてみる。んなことより、四人集うのは久々だな~」
「バルルゥ~」
「ピィピィ!」
ヒルメのナイトメアであるワーウルフのメリー、ノーラのナイトメアであるひよこのヒヨリンも出てきて、部屋はそこそこ密度が高くなる。
「~!」
「そして遅れてソロネも登場ッ! ところでヒルメ、その手に持っている箱は土産物と解釈していいか!?」
「いいぜいいぜ~。これはね、砂漠を模したざらめ砂糖を振りかけたおまんじゅう~」
箱を開けると乾いた砂のような物体がお見えに。十二個は入っている。
「いただこうか……むぐっ、甘いものはやはりいい」
「んだろ~? エレナージュ土産、存分に満喫してくれよな!」
「エレナージュですか……だとするとこれを入手するのも、骨が折れたのでは」
「無理して祖国のこと気遣う必要ねーんじゃねえのか? ヒルメよぉ」
「う……」
純血のトールマンであるヒルメは、トールマンという種族の原産地とも呼ばれる、エレナージュ王国出身。エレイネ事変という騒乱を起こした影響で、現在風当たりがとても強い国だ。
「……ウチは心の底からエレナージュが好きなんだもん」
「それはまあ……知ってる」
「そりゃあ今の陛下のお考えになられていること、一切わかんないけどさ……だからと言って、それは文化に影響していいことじゃないと思う」
「国内で弾圧が始まってるのですか?」
「ウチが出てきた頃には、そんなことはなかった。パパから特に連絡はないし、今もそういうのはないと思うけど……」
「……出てきた頃だと?」
「ああ、そういやカルやパーシーには伝えていませんでしたね。ヒルメは現在ペスタを抜けて、リネスにある私の家に居候してるんですよ」
「このままじゃ自由がなくなるって思って……ラース砂漠の裏ルート抜けてきたの」
「危険な方の砂漠じゃねえか……大変な思いしたんだな。それでも祖国のことを……」
「うん……」
生まれ育った国へ対する思いというのは、本来簡単に断ち切れるものではないのだ。割り切れない思いを抱えて、パーシーやノーラは話を聞いている。
「俺もヒルメの気持ちは理解できるな……イズエルトの為なら、幾らでも命を懸けられる」
「あ゛? お前そういう考えだったからこそ、今こんな目に遭ってるって自覚あんのか?」
「……」
「ったく……お前がリーシャとかに何話してたか知らねーけどさ。俺は心配なんだよ。折角魔法学園でできた繋がりってのを、簡単に失いたくないんだ」
「貴方は何だかんだ友達思いですよね。致命的なことにパンジャンドラムが大好物ですが」
「パンジャンドラムを人間の欠陥として扱う風潮よくないと思いまーす」
「あれは歴史に生まれ落ちてしまった欠陥だからな……」
カルディアスが脱力気味のツッコミを入れる。次いでヒルメが身体から力を抜くように、長い溜息をついた。
「あー……なんだかなあ、魔法学園卒業してからの方が人生大変だよね。学生だった頃は、レポート出すのめんどくせーからさっさと卒業してえと思ってたけど……」
「仕事に追われるのがここまで大変だったとは。私も人間関係のあれこれで、胴体がはち切れそうになりますよ」
「俺もなあ。思っていた以上に自分の思う通りにできなくて、大変だよ」
「俺も……人前で礼儀正しくいるのは心労が計り知れない」
「……だから魔法学園にいた頃に、君達と出会えたこと、本当によかったと思っているよ」
ふとカルディアスは笑ったかと思うと、そのようなことを持ち出した。
「……その通りですね。気軽に連絡を取って会える友達って、作るの大変なんですよね。社会に出てみて気付かされました」
「確かに俺、この四人じゃないと話せない話題いっぱいあるわ。それこそパンジャンドラムだってそーだよ」
「世界中に仲間がいるのではなかったのですか?」
「いるけど見つける難しさはまた別問題だよ」
「……うん。ウチもさ、この四人じゃないとエレナージュの話はできない。今はした時点で睨まれるから」
「偏見を生み出さないことの大変さよ! 俺達は既に王子様と知り合ってるから、そういうの皆無だもんな!」
「ああ……俺という存在が、皆の中に活きているのか」
「そういうことだぜ殿下~?」
「ははは……」
何かと一人で行動することの多いカルディアスだが、友人達のひと時を経て自覚する。自分は一人ではないのだと。ウェンディゴ族の男は宿命を背負っているが、案外それもどうにかなるのではないかと。
確かにその宿命は重い。しかし誰かと分担して抱えることはできるはずだ。勝手に一人でやらなきゃと思い込んで、誰にも相談しなかっただけだったのかもしれない。
「……世界の行く末は誰にもわからない。どこが覇権を握って支配者になるのか予測がつかない。荒れ狂う大嵐が目の前まで押し寄せてくる……」
「だから、今ここで改めて、覚悟を決めておかないか。俺達四人で果たす覚悟を」
カルディアスはベッドの上から、右腕をできる限り友人達に伸ばす。
それを受けて、他の三人は手を重ねた。
「うん……そうしよう。ウチらはウチらなりにやることやって、その上で死なない覚悟だ」
「私は事務員、パーシーは魔術師、ヒルメはトールマンの宣伝。そしてカルは王子様ですね」
「仕事内容も身分も様々。でも俺達が出会ったという事実は、決して消えることはないんだ。胸の奥に息づいている」
「決してそれを忘れずに生きていこう。俺達に与えられた役割は、世界の一部として、堅実に舞台を支えることだ。失われてしまうと、舞台の存続が危ぶまれる。意外と重要な立場なんだ」
「……自らに与えられた役割を果たすのなら、俺は君達と一緒にやりたい。気心のしれた皆と」
「それが俺の些細なる願いだが……受け入れてくれるか?」
当然のように三人は頷いて答える。
「へへ、お前が頼み事なんて珍しいからな~。そういう意味でもやってやるぜ!」
「つーかあの子はどうしたん? リーシャンシャンは一緒にやりたくないん?」
「か、彼女は別格だ。俺にとっての特別な存在というか、俺自身の求められている役割とは別に換算するというか」
「わー途端に早口になったぞこの純血ウェンディゴ」
「おほほ、やっぱりカルは好きな女性のことでいじってやると、た~のし~ですねぇ~」
「気分が明るくなりそうだぜ! ぎゃはは!」
「ノーラ、全く君は……ヒルメもパーシーも、そんな目で俺を見てくるな!」
冷え切っていた身体の一部が、恥ずかしさによる熱で息を吹き返していく。久々にじっくり友と語らう時間は、カルディアスに大切なものを齎してくれたのだった。




