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第92話 渦巻きポテト・その3

 翌日、学園祭二日目。今日も今日とてエリス達はポテトを売りさばく。


 今日はエリスとアーサーの他、リーシャが抜けて代わりにルシュドが入った。先輩の面子も変わり、初日とはまた違った感覚の仕事になる。




「い、いら、いらしゃいませー。ぽ、ポテト、いかがー!」

「ルシュド大丈夫? 無理しないでね?」

「うーん……」



 ルシュドは鍋の前で頭を抱える。自慢の黒いエプロンは油染みが若干目立ってきた。



「おいおい、ぼけっとすんなよ。狐色に揚がったら油を切って、紙コップに入れる!」

「あ、そうだ、仕事……」



 ルシュドは急いでポテトを引き揚げ、塩を振りかける。そして紙コップに入れてアーサーに渡した。





「……」

「……」

「……」

「……」



「……受け取れ」

「態度がなってねえぞぉ!!」



 アーサーが仏頂面で渡してきたポテトを、ユーリスは睨み付けながら奪い去る。



「この際だから言うけどさあ、何で君は目上の人に敬語も使えないの? 馬鹿なの? あっそうだった君は――「はいはい美味しいポテトをいただきましょうねえ」


「ちょっと、僕はまだ言いたいことが……!!」




 ユーリスはエリシアに連行され、既に取っておいた席に着かされた。そしてすかさずクロにポテトを口に突っ込まれる。






「……ちょっとずつでいいからね。ちょっとずつ、慣れていけばいいんだよ」

「……」

「そうだ。少し、少し。でも、おれ、話、わからない」

「あーこっちの話だよ」

「そうか……」



 ルシュドは物寂しそうに入り口を見遣っていた。



「ルカさん……来れないんだよね、確か」

「うん……お金、足りない。時間、足りない。おれ、わかってる。でも……寂しい」

「ガラティアは遠いからね……往復の距離考えると、仕方ない所もあるかな」

「ならばあいつの分までポテトを揚げればいい」



 アーサーは硬貨を数えながらぶっきらぼうに言った。



「……うん。おれ、頑張る」

「……」

「おっと、お客さんだね。さあルシュド仕事だよ」

「うん」



 ルシュドが鍋の前に戻ると、褐色肌で白い丸型のふさふさな髪型――俗に言う所のアフロヘアーの男性が近付いてきた。



 その横にはにっこり笑顔のヒルメもついてきている。



「ふぅ、ここか料理部。部員の皆さん、それにお客様の皆さん、おはようございまーす」

「エリっちアサっちルシュドーン! おはよ!」

「ヒルメ先輩おはようございます。あの、そちらの男性は……」


「パパ、父さん。おれ、聞いた」

「そうそう! ウチのパパだよ! ライナスっていう名前で、すっごい偉い人なんだ!」

「ヒルメ、それ僕の台詞……まあいいか。では改めて」




 ライナスが頭を下げると、近くにあった旗の装飾にアフロが食い込む。




「あっどうしよ! 絡まりそう!」

「もうパパったら~! えいっ!」



 ヒルメが指を鳴らすと、静電気が走って旗とアフロを分断する。



「すごい……」

「かっこいい……」

「静電気を操る力か」


「そうだよ~。ウチにかかれば朝飯前! 身体に貯め込んだ静電気を使ってバチーン! だよ!」

「でもその影響で、髪がもっさりしてたり爆発している人が多いんだよね。僕も結構強い方だから毎日髪の手入れが大変で……」

「ちょっとパパ、自己紹介するんじゃないの?」

「あ、そうだった。えーっと、僕の名前はライナス・ブランドと言います。ミョルニル会っていうトールマンの互助組織の本部長やってます。よろしくお願いしますね」



 ライナスは装飾の当たらない位置、教室のほぼ中央まで下がって丁寧にお辞儀をした。



「すごく礼儀正しい人ですね。アフロヘアーの人って、なんていうか活発な印象あります」

「そいつはイメージってもんだぜ。パパは全然そんなんじゃなくて、穏やかで優しくてでも強いんだ。まあ偉い人ってそんなもんじゃないといけないのかなーって!」

「なるほど……あ、ポテトはどうしますか?」

「んじゃあ四本ちょーらい!」

「わかりましたー」



 ヒルメは銅貨を四枚机に置き、アーサーは流れるようにそれを受け取る。






 応対が上手く進んでいる一方で、ユーリスはエリシアとクロに連れられ教室の外で頭を冷やしていた。ちなみに、ジョージは園舎に入るには大きすぎるというユーリスの自己判断により、彼の身体に収まっている。




「わかっているのかにゃ。あんな所でアーサーの正体を言ったらやばくなること間違いなしにゃ」

「っつったってよ~……」

「おかしいわね、あなたはお酒は飲まないはずなのに……」

「酒には酔えんが自分には酔える!!!」

「ある意味一番タチが悪いにゃ」

「ぬおおおおおお……!!!」




「……ん?」



 謎に張り切るユーリスの視界の中に、一人の男性が入った。




 上は赤色のポロシャツ、下はだぼついた青色のズボン。ピンクのジャケットを羽織って、緑色のチロリアンハットを被っている。萌黄色の瞳を持つ男性は、教室の入り口でずっと周囲を見回していた。


 不審者――と思わなくもない。




「……」

「……何にゃあのコーデは」

「目に悪いどころの騒ぎじゃないわね……」

「……」

「あっ、何をする気にゃ!?」




 エリシアとクロが気を取られているうちに、



 ユーリスはすぱぱっと男性に近寄る。




「……ちょっと貴方ぁ!」

「――っ! 何でぇあんた――」

「いいからこっちに来るんだ!!」

「おおっ!?」



 ユーリスは男を教室の中に引っ張っていく。



「ああ、またよからぬ方向に暴走して……!」

「学園祭で張り切っていいのは学生だけにゃ!」

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