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第30話 嵐の前兆

 そして四人は演習場に到着し、授業へと臨んだ。



「全員着いたな。それでは今日の授業を始めていくぞ」

「先生、他のクラスは座学やったって聞いたんですけど、どうして外に出たんですか」

「ちょっと授業内容を変更したんだ。他のクラスでもやる内容だから安心してくれ。今日は合成魔法についてやっていくんだが、先ずはいつものように触媒を持っていってくれ」




 ケビンは指を鳴らして杖が入った箱を呼ぶ。生徒達は次々と杖を持って行き元の場所でしゃがむ。最早見慣れてきた流れだ。




「さて。人は必ず属性を有していて、その属性の魔法を使えることは知っての通りだ。だが自分の属性一つだけだと扱える魔法の内容に限りがあり、これは魔法の使い方が限られるということになる。それを補うための応用が合成魔法だ」



 ケビンは杖をかざして火の玉を出し、それをランタンに入れる。



「ちょっとこいつに触ってみろ」

「はいはい……冷たぁ!?」

「本当だ、冷たい」

「手がくっつきそう……」




 順番に生徒達を回っていき、一通りランタンを触らせていくのだった。




「冷たい火の玉、火属性と氷属性の合成魔法だ。逆に熱い氷なんてのも生成できるぞ。このように何かを生成するのは合成魔法の基本形。今日は皆にこのような物体を生成してもらう」

「……できませんよそんなの! まだ普通の火の玉も出せないのに!」


「それもそうだ、合成魔法は本来二年生から習っていくからな。ただ早い内から魔法に親しませる方がいいのではないかということになり、合成魔法を一年生に少しだけやらせることになった」

「はあ、そんなんですか」


「そんなんなんだよ。それに、魔法の内容はこちらで指定してある。触媒にもちょっと細工をして、呪文を唱えるだけで勝手に合成魔法が発動するようにしてあるぞ。まあ失敗して当たり前だから、合成魔法を行使する感覚だけ覚えていってほしい。では始めていくぞ」






 そして移動が完了し、各自列になって並ぶ。



「えっと……火と水の合成魔法か」

「こっちは闇と土……何が出てくるんだろう」

「雷と氷! よくわからないがカッコイイぜ!」

「……」



 エリス達は配られたプリントを穴が空くように見つめていた。そこにケビンがやってきて、



「エリス、ちょっといいか? 今回はお前からやってもらうと思っているんだが」

「それならわたしは全然構いません」

「よし。それじゃあ準備が出来たらこっちに来てくれ」




 それだけ言うと彼は戻っていく。エリスはカタリナ達と顔を見合わせた。




「火属性の呪文って何だっけ」

「えっと……宴の時間だ、驕(プラウ・)慢たる炎の神よ(サンブリカ)だったかな」

「それだね。それじゃあ行ってくる」

「行ってらー。ボクらはここから見ているよ」




「……」

「ワン?」

「……気配を感じる」

「ワオン……」

「……巧妙に隠れているようだ。察知できない……」



 アーサーはいつものようにケビンの近くにいたのが、普段より警戒心を強めている。その中でもエリスは普通に授業を受けていた。




 彼の視界に、おどおどと杖を構える彼女の姿が目に入る――



「よし、ではやっていく前に……君には火と水の合成魔法を指定していたはずだ。どっちの呪文を唱える?」

「火属性です。サンブリカ神です」

「わかった。ではやってみてくれ。おっと、構えを取ってからすぐに呪文を唱えるように。そして準備ができていない間は杖を強く握らないこと。前回のように勝手に魔弾が放出されなねないからな」

「わかりました」



 詠唱の準備をするエリスをケビンは腕を組んで見つめる。



(成功すれば火が付いたままの水の球が生成される。あるいはどちらかの属性が強くなって、火か水の単体属性の球だ。火属性の呪文を唱えるなら火の球だろうが、さて……)




 そしてエリスは右手に杖を持ち、目を瞑って集中力を高めつつ詠唱を行う。




宴の時間だ、驕(プラウ・)慢たる炎の神よ(サンブリカ)――」






「きゃあっ!」




 詠唱が終わってすぐに、白い稲妻が走りエリスと杖を分断する。



 そしてエリスはその勢いで地面に尻餅をつき、杖は宙に放り出された。




 アーサー達三人とケビンがすぐさま駆け寄る。




「――っ!」

「エリス! 大丈夫か!?」

「凄く痛そうに見えたけど、平気かー!?」



「……ねえ、エリス、これ……」

「えっ……」



 カタリナは右手をゆっくりと持ち上げエリスに見せる。



 丁度杖を握っていた部分に重なるように、火傷ができていた。




「これは……一度診てもらわなければ。誰か保健室まで連れていってくれないか」

「オレが連れて……」



 アーサーはしゃがみ、エリスを支えようとする。


 だが背中に手を回そうとしても腕が動かなかった。





 何かで拘束されているかのように腕が強張っている。





(……)



(……何だ、これは)



 視線の先にエリスの首筋が入る。そこには見たことのない痣があった。


 鋭い刃のような痣が――





「アーサー? 大丈夫?」

「……ああ。オレは駄目だ。誰か連れて行ってほしい」

「じゃ、じゃああたしが!」


「アーサーが珍しいな。それはさておき、ボクも行った方がいいですかね。あの時カタリナはずっとプリント見てて、ボクは何が起こったか一部始終を見てたんですけど」

「……そういうことなら、頼めるか」

「了解しましたよっと。カタリナ、エリスの筆入れとか持ってきてよ」

「わ、わかった!」



 カタリナは慌ててどこかに向かい、イザークはエリスを起こす。



 ケビンは他の生徒達の対応に向かうが、アーサーだけは全く別の方向を向いていた。





「グルルルル……! バウッ!」



 カヴァスが身体から現れ、牙を剥き出しにして吠える。演習場の隅にある倉庫に向かって威嚇していた。


 先程上手く感じられなかった気配も、そこから――



「……行こう」








 倉庫の裏。あまり手入れはされておらず、雑草が茂って足の踏み場がなかった。




「――」

「……やるじゃん。まあぼくの使い魔やるってんなら、これぐらいはね?」

「……」



 そこにいた人物は何者かに声をかけ、舐めるように見つめ返す。





 そうしていると狙い通り、目的にしていた一人と一匹が近付いてきた。



「やあ、こんにちは」

「……何の真似だ」

「きみと話がしたくてね。それで呼んだんだよ」

「……あの火傷はあんたか?」

「あれに関しては知らないよ?」




 薄いベージュ色の髪で糸目の生徒が、壁にもたれかかって足を組みながら話す。その隣には雲を纏った精霊が浮かんでいる。




「何者だ」

「はっ、先にぼくに名乗らせるの? 随分と強情だね。まずはきみの方から名乗れよ」

「……」



「いいの? 名乗んなきゃきみの正体言いふらすよ」

「……なっ」




 険しい表情になるアーサーを見て生徒はけたけたと嗤う。髪で幾らかは隠れているが、それでも長い耳であることが窺える。




「ぼくさあ、見ての通り誇り高きエルフだからさあ、すれ違っただけで魔力の感じとかわかっちゃうんだよね……きみの魔力って人間のものじゃないよね。寧ろこいつやそこの畜生に近い感じだ」



 生徒は雲の精霊を親指で指し、カヴァスに視線を向けながら言った。



「……オレの名はアーサーだ」

「物分かりがいいねえ。そんなに言いふらされたくない?」

「……」



「まあいいや。さて、ぼくはハンスだ。よろしく。メティア家って知ってるかい?」

「知らないな」

「じゃあ死ねよ」

「……っ!?」



 ハンスの指先から糸が現れ、アーサーに巻き付く。




 アーサーが気付いた時には、既に肉体はきつく縛られており、



 抵抗できないまま地に叩き付けられる。




「ははっ、こいつは愉快だ。メティアの名も知らないでよく生きてこれたな?」

「……」

「まあ死ねなんていうのは冗談だ。本題はそれじゃないからな――」



 ハンスは馬乗りになりアーサーに顔を近付ける。



「アーサー、てめえぼくの下僕になれ」





 濃い緑の瞳は血走っており、飢えた獣の形相を成している。舌は蛇のように蠢き、それは愉悦に満ちた笑みを浮かべた。





「……断る」

「じゃあさっきのに加えて、あの子――エリスとか言ったっけ? あの子の首を切るよ」

「何……?」



「きみを拘束した時についでにね。後で首元見てみろ、痣が付いているから。きみが何かしたらあそこから刃が喉元に刺さるぞ。まあそうじゃなくてもひどい目に合わせるさ――あの様子じゃ抵抗も無理そうだし?」

「……」




 数分の沈黙、そして。




「……何をすればいい?」




「……単純だよ。ぼくの命令を聞いてそれを実行すればいい。きみは何も考えなくていいし、考えたらどうなるかわかるね?」

「……ああ」


「……契約成立だ。これからよろしく、下僕君」

「……」




 ハンスはそう言いアーサーから降りる。彼を縛っていた糸もほどかれ立ち上がれるようになっていた。




「くぅーん……」

「――」



 主君達の秘密の契約を、彼らの騎士達は力なく見つめていた――

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