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第19話 身分差の二人

 それから時刻は過ぎて夕方。エリス達四人は園舎から出ようとしている所。




「はぁ疲れた。まだ明日もあるなんて信じられない」

「……エリスはこれからどうするの?」

「これからかあ……料理部の食材、は一年生はまだ準備担当じゃないんだった。それなら真っ直ぐ帰ろうかなあ……」



「……何だか、一年生って帰りに寄る場所少ないよね」

「言ってもまだ四月だし。学園生活も序盤も序盤なのに、色々うろつく方が逆に性根座ってると思うなぁ」



 イザークはサイリに鞄を放り投げ、口笛を吹く。



「……」

「ほらアーサー、オマエも何かコメント寄越せ」

「言う理由がない」

「はい出たお決まりの。オマエホントそればっかりだよなあ」

「黙れ」

「お断り申し上げる~……って何だあれ」




 他愛のない会話をしていると、校庭の方に人が集まっているのが目に入った。




「……行ってみようぜ」



 イザークは数歩先に向かってから、ついて来いと手振りをする。それに三人もついていく。






「あらぁ? あなたまだ退学していなかったんですの」

「……」


「あなたにグレイスウィルの制服は似合いませんわ。早くお脱ぎになられたら?」

「……」


<ぬおおおおお!

 カトリーヌ様ばんざーい!

   <下賤な貧乏人に裁きをー!





 ブロンドの髪で巻き髪ツインテール。左手を顎の下に添えている生徒の隣には美しい剣士が立っており、周囲には野次馬が立ち並ぶ。彼らは皆一様に醜い称嘆の声を上げている。





「――そうですわね。今からあなたを『人望無し』にして差し上げましょう。やってしまいなさい!」

「御意」



 剣士は足元に隠れていた何かに向かって剣を振り下ろす。それは剣戟を回避し、観念したかのように出てきて、エリス達の視界に入る。




 幼い雪だるまのような少女だった。




「スノウだ……! じゃああの子はリーシャ……!」

「え、知り合い?」

「うん、同じ課外活動の子……!」

「……」



 エリスが焦燥の表情を浮かべたのを見て、アーサーは鞘に手をかける。



「おいアーサー、何で鞘に手をかけてんだよ。まさかやり合うつもりか?」

「……あんたがそう言うなら」



 アーサーはそう言いながらエリスを見つめる。彼女が言葉を探している間に、イザークが鞘から力づくで手を引き離す。



「バッカ見てみろよ。あの隣のヤツ強そうだぞ。多分あの巻き髪のナイトメアだ。オマエがどんだけ強いが知らねえが、向かった所で返り討ちに会う可能性が高い」

「……オレなら倒せる」

「冗談抜かすなよ。まあオマエの戦闘力? 知らねえから何とも言えねえけど、仮に勝ったとしてその後の生活に大きく響くぞ。少なくとも平和には過ごせない。どうせオマエは気にしないと思うが、いつも一緒にいるエリスはどうなる」




「……」

「……何でどうなるかわかんないような顔してんの?」





 集団から少し離れた所から、四人は一方的な論争を指を咥えて見つめている状況だ。





「大体あの手のタイプは逆ギレするタイプだから、何言っても無駄だと思う。ボクらはこうしてじっと見ているのが最適解ってわけさ」

「……そんな」


「面倒臭えよな、ああいうヤツって。エリスが何か言いたい気持ちもわかるんだけどさ……」

「……友達が、困っているのに……」


「……魔物ハンターが獲物に喰われたら意味がねえんだよ」

「……っ」




 イザークは呆れたように溜息をつく。エリスは俯きアーサーは状況を窺っており、カタリナはセバスンを抱き締めたまま目を見開き硬直している。




「どうしたサイリ……あ、何か来るみたいだぜ」

「え?」





 刹那、凄まじい暴風が吹く。





「カトリーヌ・ディアス……!」



 三階の園舎の窓から、女性が風に乗って迫ってきた。





「なっ何ですの! いきなり組みかかるだなんて無礼ですわ……!」

「下郎が。我が主から離れたまえ」

「さあ……無礼なのはどちらかしらね?」

「ぐっ……!」




 銀髪で長い耳の女性はカトリーヌに乗りかかり、剣士の攻撃を風魔法で弾いている。野次馬達は雲散霧消、リーシャはただ髪を暴風になびかせているだけである。




「グレイスウィルに入学するからには差別は禁止。入学する時にそう説明されたはずです」

「くっ……この老害女! 私を誰だと思っておりますの! 高貴なるディアス家の――」

「何とでも言ってみなさい。次は容赦しませんよ」



 女性はカトリーヌから降り指を鳴らす。再度風が吹き荒れカトリーヌに威嚇する。



「……いいですわ。ここは引いて差し上げますわ……!」

「何を言っているの。これから生徒相談室に――」

「フレイア! 行きますわよ!」



 カトリーヌと剣士はふてぶてしくその場を去っていく。





「はぁ……全く。さあ皆も早く帰りなさい……貴女は大丈夫、じゃないわよね」



 女性は野次馬達に呼びかけた後、リーシャに心情を案じるように声をかける。立ちっ放しのリーシャの背後に隠れて、スノウが震えていた。



「い、いえ……慣れてます。こういうのは覚悟してます……」

「考え方一つで変わる問題を、慣れとかそういう言葉で片付けないで。……続きは生徒相談室で聞きましょう」



 女性はリーシャの手を取り、校舎へと誘導する。




 途中エリス達とすれ違ったが、リーシャは微笑みを返しただけだった。




「……すごく心配……」

「でもアイツなら――リーン・ブレッドなら大丈夫だろ」

「リーン・ブレッド……?」



 女性の名前をイザークから聞くと、エリスは首を傾げた。



「また知り合いか何か?」

「ううん、違うんだけど……何か聞いたことある名前だなって」


「……ボクが聞いた話じゃあんな感じでいじめにも立ち向かういい先生だとよ。あとエルフ族なんだってさ。でもまあ……さっきの風魔法見ちゃったらな。それ以外にも色々と有名な先生なんじゃねえの」

「……」



 エリスは先程まで人だかりができていた場所を見つめている。



「どうしたんだよエリス。まだ何か心残りでも?」

「ううん……この学園には色んな所から、それこそ貴族とかの子も来ているって言われたけど、それって本当なんだなって」



 エリスの脳裏にはヴィクトールとクラリアの姿が浮かんでいた。


 あの二人は良い性格の様に思えたが――



「その分いいヤツも悪いヤツも選り取り見取りさ――おい、オマエも何か言えよアーサー」

「……」


「あーあ、全くオマエは。せめてこういう時には何か言えよ……って、大丈夫かカタリナ」

「カタリナ……?」




 カタリナは冷や汗をかき、目の焦点が定まっていなかった。自分の世界に入っているかのように反応しない。




「カタリナ、大丈夫?」

「……はっ!? え、えっと、ごめん、ぼーっとしてた……じゃあね!」

「あ、待って!」



 エリスが止める間もなく、カタリナは鞄とセバスンを抱えてそのまま走り去ってしまう。





「……どう考えてもぼーっとしている様子じゃなかったけど。まああんな罵倒見たら怖くなるのもしゃーないか」

「……」



 魔法のものではない涼風が、静かに草木を靡かせた。

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