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第100話 魔術師いろいろミネストローネ

「……すごかったね」

「ああ、スゴかった」

「ふええ……」

「どうしよう、カタリナの意識が飛んでる」




 エリス達五人は王城の庭での催し物を見物した後、入り口の門まで戻ってきていた。




「まず……鍋がね。もう鍋の時点ですごかったよね。庭のほとんど埋まっていたよね」

「その後に投入される食材もな……第一階層の家一軒に匹敵する量だぞあれ。毎年あんなに野菜採れるのが予想外だわ」

「学園長先生、それにそのご先祖様とか、本当に頑張ったんだね……」

「……ふむ……」



 現在門は閉じられ、中で魔術師達が何かを行っているようだった。アーサーはその様子を何とか見ようとしているが、首をどのように伸ばしても無駄だと気付いたので諦めた。



「アーサーはどうだった? 収穫祭名物」

「……特に攪拌が凄まじいと感じたな。あの量をあの勢いで、しかも料理だからむらなく混ぜないといけない。それを行える点に魔術師達の実力の高さを窺えられた」

「うん、冷静な分析ありがとう。確かに魔術師の人達、気合がすごかったね」


「魔術師もそうなんだけど、それを率いる学園長もだよ。オマエら学園長の顔見た? 完全にイってたぞあれ」

「主催は学園長先生って話だから、気合の入れようが違うんだろうね」




 そこで門が開けられ、魔術師が数人駆け寄ってくる。




 中で留まっていた匂いも解放され、城下町を包み込んでいく。




「……ふわあ……いい匂い……お腹空いたあ……」

「あ、戻ってきた。これ中に入っていいのかな?」

「そりゃあ折角作ったもんなんだから食わねえといけねえだろ」



 今まで黙っていたローザが口を開く。



「おおう、生きてた。んじゃあ中に入ろうぜ」

「待て。それはやめろ。生きてたって物言いには突っ込まないでやるからやめろ」

「ったくよー、何だって王城に入るの嫌がって……」




 そこにエリス達四人は知っている顔、ローザにとっては悪魔の化身に他ならない人物が歩み寄ってきた。




「げぇ……!?」

「ネム~」

「あ、ブルーノさんこんにちは」

「おお、君達は……九月の研鑽大会で見た顔だな。特に金髪の君、あの応援は鮮烈だったぞ。事件があった以外では一番印象に残っている」

「……」



 アーサーは顔を俯け、その拍子にローザを掴んでいた手を離してしまう。



「よっしゃ!! 行ける!!」

「うん!! 残念!!」


「クソがぁぁぁぁぁ……!!」

「ネム~」

「あははぁ。抵抗すらしないんだねネムリン」




 ブルーノの杖から触手が伸び出て、ローザを拘束して引き摺り戻す。青い肌の少女マキノは、飛び出たと同時にネムリンの身体に乗りかかった。




「嫌じゃ~嫌じゃ~働きたくないんじゃ~!!」

「どうせお前のことだからな。いい感じの生徒をハントしてキャッキャウフフするつもりだったんだろうが、こっちに来たのが運の尽きだったな」

「だからこっち来たくなかったんだよ!! 小僧共てめえらのせいだ!!」



 ローザは顔に青筋を浮かべ、腕の代わりに足を必死に動かして脱出を試みている。



「あの……知り合いですか?」

「おうよ。こいつはローザ、アールイン家に仕える宮廷魔術師だ」

「宮廷魔術師……ええ!?」



 エリスに続き、アーサー、カタリナ、イザークもそれぞれ驚いた素振りを見せる。



「ほらー、驚かれてるぞ? いいのかこんなんで?」

「いいからさっさと放せ!!!」

「うん、いいか君達こんな大人になっちゃ駄目だぞ。なるならアドルフ様やルドミリア様のような情熱に溢れる大人になるんだぞ」

「はぁ……」

「……うう。もう、あたし、限界だよぉ……」



 その瞬間、カタリナの腹が大きく音を立てた。



「ああ……う、うう……」

「ははは、豪快に腹が鳴ったな! こりゃあミネストローネもたくさあだぁ!?」

「あのねぇ!! 年頃の女の子ってそういうの気にするんだよっ!! 大声で言うんじゃないよ、このニブチン!!」




 マキノはブルーノに平手打ちすると、四人の前にひらりと躍り出る。




「というわけでねぇ。出来上がったミネストローネは城下町の皆に配って食べてもらうことになっているんだぁ」

「なーるほど、だからあんなでっかい鍋でどどーんと作る必要があったんですなあ」

「そゆことっ! さあさあ、学生だからって遠慮しないで食べていってよぉ!」

「よっしゃ、そうとなったら行くとしようぜ!」



 イザークに捲し立てられて、エリス、アーサー、カタリナも続いていく。



「じゃあ大人はここで……」

「ワットアーユーセイン、お前は何を言ってるんだ。さあさあ行くとしようぜ!」

「ぎゃああああああ……!!」

「ネム~」

「ネムリンって本当に動じないよねぇ……まっ、そこが面白いんだけどぉ」



 魔術師の二人も、彼らに続いて後についていった。






「はぁ……アタシってホント素敵……」



 明るい黄緑色の髪を団子に束ねた女性は、そう呟いて配膳用のお玉を手に取る。



「エプロンでもローブでも……ドレスを着てても映える女……」



 数十個の鍋に分けられたミネストローネをよそい、器に注ぐ。



「そして魔術研究も……家事もこなせる女……」



 仕上げに少しだけパセリを振りかける。



「やっぱりアタシっててんさ」

「フィルロッテ殿、もう少し静かに作業できませんか?」





 受け渡し口に向かおうとした瞬間、女性はマーロンと目が合い固まる。





「……」

「ああ、気に障られましたらすみません……ただ他の魔術師の方もいらっしゃるので……私は別に構わないのですが……」

「……いや、うん……」




 フィルロッテが立ち竦んでいると、そこにエリス達が受け取り口にやってきた。




「はあ~い! いらっしゃいませ~!」

「えっ……」

「ミネストローネをご所望ですね? ただいまお待ちくださいませ~!」



 困惑するエリス達をよそに、フィルロッテは一方的に言い放ち屋台の奥に戻っていった。



「ほらマーロン、さっさとやるぞ」

「……え、ええ……あの、人数……」

「四人だろうがどう見てもよ。やるぞやるぞ!」

「……はぁ」




 数分後。




「お待たせしました~! 大地の恵みと魔術の叡智がぎゅぎゅっと詰まったミネストローネ八人前で~す!」

「え……八人ですか?」

「そうだよ? だって主君が四人ってことはナイトメアも四人でしょ?」

「あの……その、色々あって七人前で大丈夫なんですけど……」

「……」



 フィルロッテは両手の人差し指と中指を立てポーズを決めていたが、その状態のまま固まってしまった。




 後ろからマーロンが申し訳なさそうに出てくる。



「ほらあ……しっかりと話を聞かないから……」

「……」


「えっと……そういうこともありますよ、多分。だから……大丈夫です」

「ああ、なんて出来た学生さんなんだ。とりあえず一個こちらでもらっておきますね」

「ありがとうございまーす」

「ふん、ざまあみろとしか言いようがないな、フィルロッテ」




 マーロンとエリスの間で器の受け渡しが行われている横から、トレックがミネストローネを食べながらやってきた。




「トレック様こんにちは。第二階層から昇って来ていたんですね」

「うむ。折角の祭りだからな」

「……」



 フィルロッテは変な態勢のまま眼球だけをトレックに向ける。顔は完全に強張って、心なしか角が生えてきたように見える。



「あの、さっきから……フィルロッテさんの目付きが怖いんですけど……」

「このクソ人間のことなぞ気にすることはない」

「クソ人間って、言い方が……」


「何を隠そう、こいつは家で空想小説ばかり読みふけっている引き籠りでな。流石にこのままでは不味いと親が判断したのか、ルドミリアに頼んで魔術師として強制的に働かせるようになったんだ」

「ルドミリア先生ですか?」

「こいつルドミリアの従妹(いとこ)なんだよ。十歳ぐらい年が離れているが。だから四大貴族の家系に連なっている影響で、ある程度教養があるのが救いだったな」

「へぇ……へぇ……」

「……ふむ」



 頭の先から見える部分全て、アーサーとイザークはフィルロッテをじっと見つめる。



「いわゆるぶりっ子ってヤツっすか」

「まあそうだな。将来はそこそこの貴族と結婚して、仕事をせずにぐうたらするのが夢だ。そんな夢なぞクソくらえだ」


「……あの~、トレック様? 流石にもうそろそろ自重してもらえませんこと……?」

「これは僕の親切だ。貴様のような駄目な人間に引っかからないようにするという、大人としての責務をこなしているのだ」

「……」



 フィルロッテの目には明らかな殺意が込められているが、トレックは平然としたまま睨み返した。



「……ねえアーサー」

「何だ」

「……最近、模範にならないような大人にしか会ってない気がするんだけど……」

「……オレに言われても困る」

「だよね……ごめんね……」





 そこにようやくブルーノとローザ、マキノとネムリンが到着した。



 依然として触手に拘束されたまま、ローザはトレックと再会する。





「……あぴぃ」

「おおローザ、なんとブルーノに連れられてきたか。貴様が真面目に仕事をするかどうか心配で見に来たんだ。決してミネストローネを食べたいからではないぞ」


「……もぉ何でぇ……」

「さて、生徒達よ。奥の方に椅子と丸机が置いてある区画がある。そこに行ってミネストローネを食べてくるといい。器には保温の魔法をかけているとはいえ、冷めてしまうと勿体ないからな」

「ありがとうございます」




 トレックの言葉を受けて、生徒四人はその場を後にする。すると当然残ったローザに話の主軸が向くわけで。




「ところでローザ」

「……何だよクソが」

「次の仕事が決まったぞ」

「えっ」

「喜べ、貴様にはイズエルト駐屯の仕事が与えられた。あっちはいいぞぉ、何も起こらない限りは暖かい部屋でずーっと寝ていられるからな、何も起こらない限りは」



 トレックはねっとりとした笑顔で話しているが、一方でローザはどんどん顔を引き攣らせていく。



「……アルシェスと仲良くやれよ?」

「……あああああああああああ!!! 今日は厄日だああああああああああああ!!!」

「ネム~」




 そんなローザの様子を見たブルーノは、触手を解除して彼女を自由に暴れ回させることにした。杖を仕舞った後、受け取り口に向かう。




「あれ? マーロン、フィルロッテの奴は何で倒れているんだ?」

「さっき暴れようとしたら、急に身体に電流が走ったようで。そうしたらぱたりと動かなくなりました」

「電流か……まあルドミリア様が何かやったんだろうが。しかしそこまでするか?」

「身内だから厳しくしているんでしょうね。本当に、魔術師としての可能性はあるのに……」

「腐っても四大貴族の血が流れているってことだな。羨ましい才能だ。性格が全てを台無しにしているが」



「……はい、ブルーノ殿。ミネストローネ二人分です」

「悪いな。さて、あの生徒達に合流して食べるとするか……」




 マーロンから器を受け取り、ブルーノとマキノも生徒達に合流しに向かう。

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