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光ある世界へ  作者: マントラ
2/3

文句を言う。説教される。

ポーン。


 無機質な音が耳に届いた。顔面と両手に広がっていた激痛は嘘のように無くなっていた。

視界を開けるとそこは真っ白な空間だった。


 そんな空間の中に一人の女性が白い空間に合わせて同様に白い宙に浮遊した椅子に腰かける女性がいた。

「死亡確認しました。これより24時間の再ログインが不可能となります。ご注意ください」

 女性は無機質な表情で、そして無機質で抑揚のないトーンが口を開く。手元には空間に現れたキーボードをなにやらカタカタと入力作業を行っている。


「あ~~~、はい」


 俺は突然の空間の入れ替わり様に困惑しつつ声を出す。


 痛かったなぁ…。


 そんなことを心の中で感じつつ、ある事を思い出す。


「あ、あの」


「はい、なんでしょうか」


女性の声は変わらず無機質なままだった。感情変化の乏しいその表情はまるで人形のようだった。


 まぁNPCだから当然っちゃ当然なんかな…。


「あの、24時間経過後再ログインする時ってどこから再開になるんですか?」


「始まりの町のポータルより再開になります。また装備品や所持アイテムは死亡した瞬間のままとなります。」

 NPCは視線を手元のディスプレイに移しながら何でもないように答えた。


「わかりました。あの…。今更なんですけどなんで24時間ログインできないんですか?」

 俺は若干落ち込みつつも改めて疑問に感じていたことを再度尋ねる。


「死亡した肉体の再構築を行うために最低限の時間を必要とします。そのため24時間の再ログインは不可能となります。」

 NPCは何でもないかのように話す。正直俺は肉体の再構築とかデータ世界の中なのになんでそんなことが必要なんだ。バックアップでささっと復活できないのかよ。とは感じたが、なんだか聞くのも億劫で正直さっき死亡した瞬間の恐怖感が残っていたのもあり、背筋が未だにぞわぞわしていた。ひとまず納得することにした。


「へ~。そうなんですね。わかりました」

 分かっているような、分かっていないような。そんな曖昧な返事で返す。


「ではまたお会いしましょう。我々はいつでもお待ちしております」

 NPCはそう告げると突然視界がブラックアウトする。


~~~~~~~~~~~~~~~


「ふぅ~」

 俺は深いため息をつきながらヘルメットギア、【アストラルダイブヘルメットギア】を外す。まだ洞窟内での死亡した感触が残っているようで、背筋の寒気が残っている。

ベッドから身体を起こし、枕元に無造作に置いてあったペットボトルに口を付ける。ただのミネラルウォーターがいつも以上に美味しく感じた。


「ううぅ!」

 ふたたび身震いする。ふたたびミネラルウォーターに口を付けて一気に飲み込む。空になるまで水を飲み、無造作にゴミ箱へ放り投げると、左腕に装着されたバックルタイプのデバイスを操作する。


「えーと、渋川のアドレスは…」

 デバイスより空間に映し出されたキーボードを操作して【インフィニットオンライン】に誘った友人の名前を探し、通話をかける。コール音が4~5回鳴ると、渋川の顔がバックルより上方に映し出される。正直顔を見るのも憎々しい。


「お~裕二どした~?インフィニットはどうだ?教えた洞窟、なんかいいアイテムでも出たか~?あれ?なんでじゃっかん不機嫌な顔してんの…?」

気の抜けた表情でこちらに笑いかける渋川。クソ、この野郎。分かっているくせに…。


「どうしたもこうしたもねぇよ!死んじまったよ!くっそ強い蟻のせいで!メッチャ痛かったんだぞ!!ふざっけんな!適当な情報教えやがってお前ちょい面かせやまじで殴ってやる!」


「は?死んだの?あの洞窟で?蟻ってなんだ?ってかお前ログインできないじゃん!」

こいつ、まだとぼけやがる。


「そうだよ!おかげで明日のこの時間まで再ログイン不可能だよ!新人いびりか?マジでつまんねぇぞそういうの。にやにやしやがってきもいわ」


「いやいやまてまてまて。あの洞窟は低レベルのモンスターがフィールドよりも早い段階でリポップするからおすすめのレベリング場所だぞ。インフィニットユーザーが新人ユーザーに進める定番の場所だ。あとにやにやは元々こういう顔なんだよお前まじでキレすぎだろ。落ち着けよ。詳しく聞かせろよ。」

 渋川は変わらずにやにやした表情で答える。俺は事のあらましを全て伝えた。


「…まずお前に謝るわ。スマン。まさか死ぬことになってるとは思わんかったわ」

 話を聞き終えると渋川はにやけ面をやめて真剣な表情でこちらに謝ってくる。


「おう。そんだらおれの装備新調しろよ。あと明日またログインするからレベリング手伝え。」


「えぇ~初心者のレベリング手伝うの~?ダリィ~わ~」

 真剣な表情で謝ったと思ったらすぐににやけ面に戻りながら文句を言い始めた。


「あ?」


「おーけーおーけー、分かりました。分かりましたよ。お前マジで明日大学で殴ってきそうだもん分かったよ」

 観念したかのように承諾する。渋川はまた再び真剣な表情で考え込む。


「でもマジでおかしいな…。教えてやった場所は間違えるようなところでもないし、他に高レベル帯のモンスターが出るような洞窟もないぞ?アシッドアントなんてレベル40のプレイヤーが相手にするようなモンスターだぞ。ダンジョンですげー群れで襲ってくるんだよ。あの酸に大量で群れて来られるから結構なプレイヤーキラーなんだよあいつら。装備の耐久度ガンガン減らしてくるし…。そいつ1匹だけだった?」


「洞窟進んでったらそいつ単独でいたな。中は暗いから松明も持ってたけど奥の方は確認できなかった。もしかしたら奥に大量にいたかもしれん。ぞっとするわ」

ブルりと再び背筋が凍るような感覚に襲われる。あの時の死ぬ感覚。正直もうごめんだ。


「あ、あとお前マニュアル読んで痛覚感度設定変更してないだろ?お前それはヤバ過ぎ。マゾかよ」


「痛覚設定?なんだそれ」


「やっぱりな。初心者がよくやるんだよ。設定で痛覚感度を通常より3以下にしない奴。そんで怖い思いしたーって文句言うの」

 渋川はあきれた口調で話す。とても腹が立つ。


「っま。マニュアルよまねーでゲーム始めるやつが悪い。初ログインの時に注意書きでデカデカとマニュアル読めってでたじゃん。何で読まないんだよもはやその感覚が信じられないわ」


「っう」

 まずい。渋川の癖に正論だ。なにも言い返せない。


「ゲームを伸しむためにマニュアルもしっかり読んでから始めるのがマナーってもんだろ?マニュアルを読みつつもうわー!早くゲームしたい!!ってワクワクしながらもそれをぐっと我慢して説明を読むんだよ。っかー、これだからマニュアル読まないでどうせゲーム内で説明出るだろ的な感覚でやり始めるやつ。ホントあほだよなー。それで痛い目みてモンクぶーたれてんだからそりゃ手に負えね…」


「あーもうわかったよ俺が悪かったよ!!!!!」

 俺は観念したようにそのままベッドに倒れこむ。何も言い返せない。渋川に言われるのがより腹が立つが、自分の失敗でこうなったため本当に何も言い返せない。


「わかればいいんだよ。初心者くん」

フフンと鼻を鳴らしながらドヤ顔を見せつけてくる。続けて渋川が言った。


「まぁでもちゃんと説明してなかった俺も若干…本当に若干だけど悪い気はするから明日のレベリングは手伝ってやるよ。パワーレベリングはしないぞ?あくまでもお前にやらせるからな。俺は後方でアドバイスする程度だ」

 渋川はゲーム大好き人間だ。俺もゲームは好きだし今までいろいろなゲームをでやってきたが、渋川は根っからのゲーマーで、今は骨董品と化した据え置きゲーム機なども持っており、かなりの量をやりこんでいる。


 ゲームが大好きだからこそだろうか、MMORPGでよくみられるパワーレベリングといった行為を良く思っていない。もちろん両者間の合意で行われる行為だから問題は無いのだが、「それだと強くなるまでの過程が面白くない」と言って一緒に行動しようとしないのだ。


 むしろ「早く俺のステージまで来て一緒に冒険させろ」とまで行ってくる。そんな渋川からの情報であの忌々しい洞窟でレベリングを行っていたのだが、はぁ。とんでもない目に遭ったわ…。


「あと装備もな。一式全部おごれ」


「へーへー。装備できるステータスの中で最高のやつ作ってやるよでもマジでそれ以降は無いからな。もししてほしかったら素材と金をちゃんと用意しろよ。それと、俺もその洞窟、どうなってんのか気になるからまた明日行くぞ。」

 渋川はそう言った事は徹底している。それが俺に対して本当にこのゲームを全力で楽しんでほしいからこそそういうのだろう。ゲームに関しての渋川はリアルよりは信用できる。ただ、またあそこでありに合うのは正直気が引ける…。俺は露骨に嫌な顔をする。


「洞窟内でだけは俺がなんちゃってタンクしてやるから。それならいいだろ?」

 親指を立ててこちらにウィンクをしてくる。気持ち悪い


「気持ち悪いなその顔。まぁそれならいいか。頼むわ」


「ひっでーやつだな!?まぁいいや。そいじゃまた明日」

 ふうとため息をつきながら渋川は答えた。俺もそれにのっかり適当に挨拶を交わすと通話を終了した。デバイスを外してベッドの上に適当に放り投げる。

 

 途端に部屋の中の光がなくなる。まっくらな空間。俺はそのまま目を閉じながらこめかみの中に埋め込まれているチップに触れる。身分証明となるIDナンバーチップ。また現実世界の情報を拡張し、デバイスを通して世界に光をみせてくれるそのチップに触れる。丸く、固いそのチップは未だ体に残っている身体の死の恐怖を消してはくれなかった。

正直設定活かしきれる自信ないっすわ。

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