その七 資格を取ろう
「え〜っとこれから本当にどうするか」
俺とハイナは現在これからどうするかについて話し合っていた。
「何って決まってるでしょ。師匠の資格を取りに行きなさいよ。このままじゃ私、一生この街から出られないんですけど」
「何言ってんだよ。いざとなったら飛んでいけばいいだろ」
「あんた弟子になんて提案してんのよ。ていうか外には結界が張ってあって魔法を跳ね返すのよ」
マジかよ。
そんな面倒くさいものがあるのか。
「じゃあ、あれだ。変装して行くとか」
「外に出て行くには3段階の検査があるから無理」
どんだけ厳重にやってんだよ。
そこまでして外に出したくないのか。
「あれ?でもよ、それって魔法使いだけなんだよな」
「そうよ」
なるほど魔法使いだけか。
そうなると俺は魔法使いじゃないからいつでも出られるんだよな。
「ちょっと待って何その顔?もしかして自分は魔法使いじゃないから出られるって思ってないでしょうね!」
「なわけねぇだろ」
「絶対許さない!早く試験受けてこーい!」
そう言って持ってる杖を投げ飛ばす。
「ちょ、おま、あぶねぇな!当たったらどうすんだよ!」
後ろを見ると投げた杖が壁に刺さっている。
「て、刺さってるじゃねぇか!これ当たってたら穴空いてたぞ!おでこに当たってたら第三の目になってたぞ!」
「知らないわよそんなの!早く試験を受けに行きなさいよ!さもないと尻の穴拡張するわよ!」
「お前なんてこと言ってんだよ!女の子がそんなこと言ってんじゃねぇよ!」
そう言ってまた杖を構える。
「分かった!行くから!だから構えんじゃねぇよ!」
半ば強引に街に向かわせられた。
―――――――――――――
「痛ててて……全身筋肉痛だぜ」
やっぱりあのクソモンスターは早めに対処しなきゃ体が持たないな。
ハイナに全部駆除してもらいたいが一発撃ったら終了だしな。
「て、ここが試験会場か?」
俺は地図を頼りに試験会場に着いた。
俺は早速中に入った。
中は結構な広さで2階もあり人が話し合ったり、喧嘩したりと大分自由にしていた。
「何だ世紀末かここは?ちゃんと規律を守れよ」
俺は目の前の受付カウンターに向かった。
「いらっしゃいませ。ハンベルトサポートセンターですけど何か御用ですか?」
サポートセンター?
てことはここは試験会場じゃないのか。
「すみません。師匠になりたいんですけど」
「師匠資格の取得ですね。それならまずあそこの師匠育成場に向かって下さい」
そう言って地図を渡された。
「分かりました。それと後、俺師匠になれますかね」
「はい、なれますよ」
「いや、みんな絶対そう言うじゃないですか。ぶっちゃけどうですか?」
「大丈夫ですよ。頑張ってください」
「いや、俺人に言われなくちゃ決められない人なんで、本当に教えて欲しいんですけど」
「早く行けよ優柔不断なウザ男」
「あ、はい」
俺は悲しい気持ちになりながらサポートセンターを後にした。
「たく、何でこんな悲しい気持ちにならなきゃいけねぇんだよ。俺何か悪いことしたか」
俺は切り替える為地図を開いた。
「えっと、この道を真っ直ぐ進んでそれから右に曲がる。そしてその道を真っ直ぐ行った後にまた右に曲がった所に試験会場が……」
そこは試験会場と描かれた看板が真っ二つに割れていて屋根も壊れていて木材で出来たボロボロの建物しか無かった。
「あのクソ受付嬢騙しやがったな」
どう考えても違うだろうなと思ってしまう雰囲気を持っているが、見た目で判断するなと母さんに言われていた事もあり少し確かめることにした。
「失礼しまーす……」
その時首を吊っている男の人が見えた。
それを見た瞬間俺は勢いよく扉を閉めた。
「あれ、目でも悪くなったか。もう1回」
そして扉を開けた瞬間首を吊っている人と目があった。
「ぎゃあああああ!!!」
――――――――――――
「いやーすまんすまん。驚かせてしまったようじゃのう」
そう言って笑いながら頭を掻く爺さん。
俺はそんな爺さんの顔面を殴りたい思いを留めながら座っていた。
「ていうかあんた死んでなかった。たった今命絶って無かったか」
「いやーあれは浮遊魔法で首だけ浮かしてたんじゃよ。そこに縄を付けると心が休まるんじゃよ」
「それは本能的に死にたいと思ってる証拠だな」
「それよりお前それ………」
そう言って俺の手に持ってる地図を見つめる。
「何だよ」
「ふっふっふ、お前才能無しって思われたな」
不敵な笑みを浮かべ俺の評価を勝手に決める。
「おいおい、何勝手に決めてんだよ。俺は魔法の才能は無いがゲームの才能はあるぞ」
「何言ってんだ?だが逆におめえは幸運だぞ。わしの育成場に来られて」
「ちょっと待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが。育成場って他にもあるのか?」
「そうだぜ。他にも沢山あるうちの当たりを引いたんだよ」
その瞬間一目散に出口まで走っていった。
その時俺の足を爺さんが掴む。
「おい!どこに行こうとしてるんじゃ!」
「何処って別の育成場に決まってんだろ!こんな爺の育成場に居たら頭が剥げちまうよ!」
「ハゲってどういうことじゃ!わしはまだフサフサにきまっとるだろ!毎日育毛剤つけとるわ!」
「おま!その年で今更抗ってんじゃねぇよ!諦めろ!」
「何言ってるんだ!ていうかわしの頭の話はどうでもいいだろ!師匠になりたいんじゃな!おめえにとって悪くない話がある」
その言葉を聞いて俺は足を止める。
「悪くない話?」
「ああ、だから話を聞け」
胡散臭いが一応聞いてやるか。
俺は一旦爺の話を聞く為落ち着いて座った。
「それで悪くない話ってのは何だ?」
「ここ最近師匠共が腐り始めている。金さえ払えば育成場がどんな奴だろうと師匠にしちまうからまともな師匠が減少しちまってんだ」
そういえばここ最近まともな師匠なんて見てないな。
「それには確かに共感するな」
「わしはそんな奴らを世に出したくないだからお前が師匠として大切な器を持っとるか見定めるぞ」
そう言ってこちらをニヤリと見つめる。
「爺に見定めて貰わなくてもこちとら漫画で師匠の器鍛えてんだよ」
「そうかなら、ちょっと待ってろ。マオンー!」
「おじいちゃん何ですかー?」
そう言って奥から高校生くらいの男が出て来た。
「もしかしてあんたの孫か?」
「いや、わしの弟子だよ」
「いや、違うから僕はあんたの弟子じゃないから。僕は師匠になりたくてここに来たんですよ」
こいつも俺と同じ目的で来たのか。
「そうかそうじゃったな。と言うわけでおめえらに試練を与える!と言う事でおめえら付いて来い!」
――――――――――――――
そう言って連れて来られた場所は森の中でそこに年寄りが重い荷物を持っていた。
「あそこに重そうな荷物を持っているババアが居るだろ。助けろ」
「いや、助けろじゃねぇよ!何の試練だよこれは!ていうか何でババアが森にいるんだよ!?」
「何言ってんだ。ゴチャゴチャ言わずに助けろ」
「だから何のためだって聞いてんだよ!」
「まあーまあー落ち着きましょうよ和人さん。あの師匠の事ですから何か意味があるかも知れませんよ」
そう言ってマオンはババアの所に向かう。
「大丈夫ですかお婆ちゃん?重そうですね。荷物持ちましょうか?」
するとババアがマオンの方を見た瞬間口から触手みたいな物を出した。
「え?ぎゃあああ!!ちょ、何これ!?」
「おい!なんかレロレロ出してるぞ!マオン食おうとしてるぞ!何なんだあのババア!」
「あれは擬態モンスターグルットだな。あれはハズレだ」
「ハズレとかあんのかよ!ていうかそれ先に言えよ!」
「いいからおめえもババア助けて来い!」
そう言って爺に尻を蹴られる。
「痛って!あ……」
そこで倒れている俺は荷物を抱えたババアと目があった。
「えっと………おばあさん大丈夫ですか?」
その瞬間口から触手が飛び出してきた。
「ぎゃああああ!レロったぞ!このババアもレロりやがったぞ!」
「ちょっと、こっちもやばいんですけど!助けてください!!」
「「ぎゃあああああ!!!」」
――――――――――――
「次は絡まれてるババアを助けろだ」
今度は路地裏に連れてかれ現在ババアが3人組の男に絡まれていた。
「またババアかよ。ていうかこれ何の試練だよ。おい爺!テメェ教える気あんのかよ!」
「いいから行ってこい!」
そう言ってまた俺のお尻を蹴り飛ばす。
「いて!クソ、あの爺………」
「あ、何だテメェは!?文句あんのか!」
やべ、目合っちゃったよ。
すごいめんどくさいな。
「そのババア離してやれよ。年寄りは労るものだぞ」
「あ!?何だと……やんのかごら!」
チッ!喧嘩はやったことが無いがやるしかないか。
「かかってこいよ!この野郎………え……」
その瞬間ヤンキー共とババアから触手が飛び出して来た。
「ぎゃああああ!!コイツラもレロレロすんのかよー!!!」
「おじいちゃんこれ何なんですか?」
「何って試練だよ。おめえそれ以外に何があんだよ」
「いや、これもう試練ていうか拷問なんですけど」
「つべこべ言ってねぇでお前も行け!」
そう言ってマオンもレロレロしてる方に蹴られる。
「ぎゃああああ!!何で!?何で僕蹴られたんですか!?」
「おお!お前も来たのかマホト!ていうか助けて」
「いや、マホトじゃなくてマオンだから!ていうか助けて欲しいの僕の方なんですけど!!」
「「ぎゃあああああ!!!」」
――――――――――――
「次の試練は今にも落ちそうなババアを助けろだ」
そう言って崖に捕まっている状態の今にも落ちそうなババアが居た。
「おい爺テメェ教える気ないだろ。何なんだよこのババアのフルコースは」
「何言ってんだおめえは。まだデザートを出してないだろ」
「まだやる気かよ!ていうかあのババアもどうせレロレロするやつなんだろ!」
「そんなわけ無いだろ。ほらババアの顔よく見てみろよ。そんな奴に見えないだろ」
俺がババアの顔をよく見ると口から何か細長い物が出ていた。
「和人さん、僕何か見えちゃったんですけど」
「マオンそれは見えちゃったじゃねぇ。見えるんだよ」
「それじゃあ早く助けろ」
「助けろじゃねぇよ!やっぱりバケモンじゃねぇか!やってられねぇ。俺は降りるぞ」
俺は落ちそうなババアを放っておいて帰ろうとした。
その時崖の端に捕まって今にも落ちそうなババアをが口を開いた。
「ごめんなタカシ。私が悪かったねぇ」
そんな言葉をぽろりとこぼす。
「和人さんいいんですか?あの人何か懺悔してますけど」
「知らねぇよ。しょせんバケモンだろ」
「ごめんな。お前を悲しい思いさせてごめんな」
その時、ババアの目から涙が溢れる。
「っ!?和人さん……僕!」
その瞬間手を離そうとしているババアを間一髪で手を掴む。
「おい!お前何やってんだ!」
「和人さん、僕はこの人を助けたいです!バケモンでもレロレロしてても、涙を誰かの為に流す人を見過ごせません!!」
「マオン……お前」
こいつなんか面倒くさい性格してんな。
掴んでる手も苦しそうなのに諦めずに掴んで、それに何か手がレロレロされてるし。
「おめえにはわかんねぇか。こいつの生き方が」
「分かるよ。分かるから嫌なんだよ。こいつの生き方は自分を苦しめるだけだ」
「あいつは自分より他人を優先するんじゃよ。だから他人を理解できる」
「それはちげぇよ。他人を優先してそのせいで自分は何も得しない。そうしてる間に他人に利用されて終わる。ただのバカだよ」
「ぐおおぅぅぅ!!手がちぎれるぅぅぅぅ!!」
苦しそうにレロレロババアを掴んでいるが限界が近付いていた。
「そういうバカを助けるのが俺達師匠の役目だろ?」
「な!?おめえ」
俺はマオンの所に走る。
「やばい!もう手が限界!」
「気張れマオン!」
俺はマオンがギリギリ離しそうな所でレロレロババアの手を掴んだ。
「ふーあぶねぇな。おい、引っ張るぞ」
「は、はい」
俺達はレロレロババアを何とか引き上げる。
「おい、やめろ!レロレロしてくんじゃねぇよ!」
俺は絡みつく触手を振り払った。
「ありがとうございます。助けてくれて」
「別に助けたわけじゃねぇよ。俺はただ師匠資格が欲しいから助けただけだよ」
「おめえら合格だ。よくやったな」
そう言って満面の笑みでこちらに近寄ってくる。
「いや、そー言うのいいから。早く師匠資格をくれよ」
「そーですよ。僕達ここまで頑張ってきたんですから」
「分かっとる、分かっとる。これが欲しいんじゃろ?ほれ、おめでとさん」
そう言って手作り感満載のカードを渡してきた。
その瞬間俺は爺を踏みつけた。
「おい爺、テメェふざけてんのか?」
「ちょ、いきなり何するんじゃ。年寄は労れと自分で言っておったろう」
「クソジジイを労るほどこちとら心広くねぇんだよ」
「和人さん落ち着きましょうよ。多分おじいちゃんも冗談で言ったと思いますよ」
「いやーわし、本当は資格持ってないんだよね」
その言葉で俺達は固まった。
「は?」
「いや、だからわし、資格を渡す資格無いんじゃ」
その瞬間マオンが、クソジジイを凄い勢いで蹴る。
「テメェふざけんじゃねぇぞ!こちとら資格取る為にここまで来てんだよ!今までの努力全部無駄じゃボケェ!」
おー意外と攻撃的だな。
「おいマオンその位にしとけ。本当に死んじまうぞ」
「知らねぇよ!こんなクソジジイどうなったって」
するとクソジジイがポケットをゴソゴソとしだす。
もしかして本当に持ってるのか?
「本当にすまんと思っとる。その代わり飴をプレゼントしよ――――」
「だから飴じゃなくて資格くれって言ってんだよ!テメェはあれか?ボケジジイか?老人ホーム行きか?」
「和人さん、クソジジイ死んじゃいますよ」
「たく、付き合ってらんねぇよ」
「全くですよ。無駄な時間を過ごしました」
俺はクソジジイを置いてその場を後にした。