その四 失踪したハイナ
「うおぉーい!!何なんだよこれぇ!!!」
俺は現在大量のモンスターの群れに追われていた。
「クソ!俺は何回この森で走んなきゃいけないんだよ!!」
「遅いわよ。もっと早く走らないと追い付かれるわよ!」
おんぶされながら後ろでハイナが急かせてくる。
「テメェ!もとわと言えばお前がモンスターに魔法を撃つのが悪いんだろ!」
「私の前に立つのが悪い」
こいつ、自分勝手に言いやがって!
「ていうか一発撃っただけで何で動けなくなるんだよ!」
「動けなくなるんじゃなくて動くのがダルくなるの間違いよ。そこん所ちゃんと覚えておいて!」
クソロリコンが〜!
後で絶対ロリコンって言い続けてやる。
「ほら、森の出口が見えてきたわよ!」
ハイナが指差す方向に確かに開けた場所が見える。
「グギャャャャ!!」
「クソぅ!燃えろの俺の何か!!」
俺はその場所まで思いっきりジャンプした。
「ぐふぅ!いてて……うわぁ!」
だがその森を出てもモンスターがこちらにジリジリと近づいて来た。
「おい!どうなってんだよ!モンスターは来れないんじゃないのか!?おい、ハイナ!」
「私は死んだ。死んでます」
「おい!何死んだふりしてんだよ!自分だけ逃れようとすんじゃねぇ!」
「グギャャャャ!!!」
モンスターは口元からヨダレを垂らしながらこちらを美味しそうな肉の塊の様に見つめる。
「俺汗だくで美味しくないから!こいつの方が美味しいぞ!」
「私を売るのか!?お前どんだけクズなんだ!」
「お前に言われたくねぇよ!自分だけ死んだふりしてたくせに!しかも死んだふり出来てねぇから!死んだやつは死んでますなんて言わないから!」
するといつの間にか巨大な口を開けて俺達を食おうとしていた。
食われる!
そう思ったその時、謎の機械音が聞こえた。
〘モンスターを確認。排除します〙
その声と共に木が銃に変形した。
「え?」
その瞬間モンスターに向かって、無数の銃弾が降り注いだ。
「ギャァァァァァ!!」
悲痛な声と共に逃げる様に森の中に帰って行った。
〘モンスター消失。モンスター排除区域に異常なし。待機モードに移行します〙
モンスターを追い払ったあと最初の木の姿に戻って行った。
「え?ちょっと待て。思考が全然追いつかないんだけど。いま何が起きた?」
「私は死んでる。私は死体です」
「おい、それもういいから。はよ起きろ」
俺は未だに死んだふりをしてるハイナをぶっ叩く。
「痛ったーい!ちょっと私死体なんだからもっと丁寧に扱いなさいよ」
「死体は喋んねぇって何回言えば分かるんだよ」
「何言ってんの?死体はしゃべるわよ」
そんな事を真面目な顔で言ってくるハイナ。
「は?お前何言ってんの?そんな事よりさっきの銃なんだったんだよ」
俺は話題を変え、銃の話に戻した。
「ねぇ何ではぐらかすの?死体は喋るわよ?」
「もしかして、これがこの街にモンスターがこない理由か?迎撃用に作ったってことか」
「ねぇちょっと人の話聞いてる?死体の話わ?」
俺はハイナの話を聞かず、無理矢理でも先程の出来事の話をする。
「もしかして怖いの?」
ハイナがこちらを馬鹿にするような顔で言ってくる。
「はあ!?怖くねぇよ!馬鹿じゃねぇの!?あ、そっかお前は元々馬鹿だったもんな!だからいつまで経ってもロリっ子なんだよ、テメェは!」
「はぁ!?それ関係なくない!ていうか怖いなら怖いってはっきり言えばいいじゃない!」
「だから怖くねぇって言ってんだろ!今更そんなアンデッドみたいな奴怖がるわけねぇだろ!俺が何匹そいつらを倒したと思ってんだよ!なめんな!」
俺は1回興奮を抑える為息を整える。
「そんな事よりだ。早く服買いに行くぞ、ロリっ子」
「それじゃあ行きましょ。ヒビト」
「テメェ今何つった!今すぐ訂正しやがれ!」
「うるさいわね!ロリっ子って言い続ける限り私も言い続けるわ!」
俺は怒りのあまりデビと取っ組み合いになった。
それが5分位続いた。
――――――――
「おい、何で街の中に入るまでにこんな時間掛かってんだよ」
俺達はこの街に入るまでにすでにボロボロの状態になっていた。
「あんたが私の事襲ったからでしょ」
「やめろその言い方。俺がロリコンみたいに思われるだろ」
「大丈夫よ。あんたはロリコンよりクズの方が似合ってるから」
こいつ絶対後でひどい目に合わせてやる。
「とりあえず俺は服を買いに行く。お前はどうすんだ?」
「私はお腹が空いたからなんか食べて来る」
そう言いながら自分のお腹を擦る。
「それじゃあ用事が済んだらこの噴水で待ち合わせだ。それじゃあな」
「しばらくあんたの顔見れなくて清々するわ!」
そう減らず口をたたきながら行ってしまった。
「何なんだあの口の悪さは。一体どんな親に育てられたんだか。ま、とりあえず服屋を探すか」
街を歩いてみると魔王が居る世界とは思えないほどの平和っぷりだった。
だが、街にいる人の中には強そうな人や剣や斧などを身に着けてる人など居て、やはりそういう世界なんだなと思わせられる。
「異世界転生なんてマジであるんだなぁ。あんなの頭がお花畑状態の奴が考えた妄想だと思ったけど」
すると1つの店に目が止まった。
元気な声で接客をするおじさんがやってる果物屋だった。
「いらっしゃい!いらっしゃい!安いよ安いよ!新鮮採れたてだよ」
う〜んどれも見た事がない形と色の果物だ。
「お、お兄さん、何か買ってくかい?今ならお安くしとくよ」
おっちゃんは俺に目をつけたのか急に商品を勧めだした。
どうするか。
せっかく来たんだしどれか1つ買っていこうかな。
「おっちゃん!こんなかで1番オススメのをくれ!」
「お、兄ちゃんいいねぇ!それじゃあこんなのはどうだい?ジュウカって言う果物なんだが。ほれ、食ってみ」
おっちゃんはそのジュウカという果物を1つ取り俺に渡してきた。
大きさはさくらんぼ位だが色は青色で雫の様な形をしている。
「えっと頂きます」
俺はジュウカを口の中に丸々入れた。
そして歯でジュウカを噛んだ瞬間、恐ろしい位の量の果汁が一気に口の中に広がった。
「うごっ!?うぐっ……ゴクン。ぷはぁ!おい、何だこれ!?溺れるかと思ったぞ!」
「ガッハッハッ!そいつは身の中にタプタプと詰まった果汁が甘い代物だ。量は多いが味は絶品!だが果汁しか無く、果肉などは無いし、間違って穴を開けちまうと一瞬で破裂しちまうのが欠点だがな。あと目に入ったらめちゃくちゃ染みるからそれも注意だぜ」
何か物凄いデリケートな果物だな。
「まあ色々気おつければいいって事だろ。とりあえずこれ1個くれ」
「おっしゃ!毎度あり!それじゃあ3000コインだ!」
「はぁ!?3000コイン!?高くねぇか」
あまりの値段の高さに流石に買うのを悩む。
「何言ってんだお前。ジュウカは扱いがデリケートなうえに年に1度しか収穫の時期はなくしかもいつ実る分からないし、1度実った場所には2度と実らない非常に貴重な果物だぜ。その代わり大量に実るから見つければ大量出荷出来るんだけどな」
「なるほどね。そうなのか」
俺は自然と袋の中を見る。
たしか1万コイン位入ってるって言ってたな。
ちなみに1つ1コインと言う計算ではなくコインの柄によって違うのだ。
五芒星の柄をしてるのが1万コイン。
猫の柄をしてるのが千コイン。
ほうきの柄をしてるのが百コイン。
そして何も描いてないのが1コインだ。
裏はそれぞれの額の数字が書かれている。
それで話を戻すとこの街の服はどれ位の値段なのだろうか。
正直上だけでなくせっかく異世界に来たんだから全身変えようと思ってるんだけど。
「おっちゃん、もうちょっと安くならないかな?」
「そう来ると思ってたよ。よし!兄ちゃんの為におじちゃん人肌脱いでやるよ。2500コインでどうだ!」
「もっと安く!」
「う〜ん!2250コイン!」
「もういっちょ!」
「しゃあねぇ!2000コインでどうだ!!これ以上は流石に無理だ!」
2000コインか………
結構下がったがやはりこれじゃあまだ心配だ。
よし!こうなったらあの作戦だ。
「おっちゃん、こんな事言いたくなかったけど俺実は貧乏人でさ。父さんは俺が産まれた日に事故で死んじまって母さんは妹と俺を女で1つでここまで育ててくれたんだよ。でもそのせいで体を壊しちまって今は寝込んでんだよ。俺が兄ちゃんとして家族を守らなきゃって思って色々やって来たんだ。でも、母さんの病気は酷くなる一方。でもどんなに苦しくても俺達の事を心配してくれる母さんに何か恩返しがしたいって思ってでも俺じゃできることが限られててその時母さんが寝言でこう言ってたんだ。ジュウカが食べたいって。実は母さんと父さんが出会ったのはジュウカを取りに行った場所で出会ったらしいんだよ。それで俺、母さんにジュウカを食べさせてやりたいって思って。父さんと母さんが出会った思い出の果実をまた食べさせたくて……でも、金がなければ買えないよな。母さんに食べさせてやりたかったけどあきらめるよ」
俺はそのまま俯きながら果物屋を離れようとする。
「まちな!」
かかった!
「お前のその気持ち……ガツンと胸に響いたぜ!」
おっちゃんの顔はすでに涙と鼻水でとても商売をする人の顔には見えなかった。
「お、おっちゃん?」
「持ってけ泥棒!!」
そう言って小袋に入れたジュウカを渡してきた。
「そいつァ特別な魔法が掛かってて、ちょっとやそっとじゃ中の物に衝撃が来ないようになってんだ」
「いいのか?」
おっちゃんは涙を拭い後ろを向く。
「何言ってだ。俺は何も見てねぇよ。ただ薄汚え家族思いの泥棒猫が来ただけだ」
「おっちゃん。薄汚いは余計だ」
俺はおっちゃんに背を向けそのまま走り去った。
「いやぁ意外とチョロかったな。まさかあんなほら話を信じるなんてな」
これで3000コイン浮いたってことか。
いい買い物したぜ。
「よーし!それじゃあ早速服屋で全身揃えるとするか!」
―――――――――――
俺は現在服を全身揃え、剣を腰に身に着ける。
「いやぁー、意外と金が余っちまったから剣を入れる鞘も買っちまったぜ。その他にも必要そうな物とか色々と。しかし異世界らしい服装になったな。そろそろあいつも噴水に居るかな」
俺は剣をカチャカチャと鳴らしながら噴水広場へと向かった。
「ふっふふ〜ん、あれ?まだあいついないのか?一応一通り見回ったしすれ違いになるのは面倒いし待つか」
俺はしばらく買った物を改めて見ながら暇を潰していた。
だがしばらくしてもハイナは噴水に来なかった。
「だぁー!遅すぎだろ!何やってんだあいつは!?」
すでにもう日が沈みかけている。
ここまで何回1人しりとりをした事か。
「チクショー!もう待ってられるか!俺はもう帰るぞ!!」
ハイナはすでに俺を置いて帰ってるかも知れない。
あいつならやりかねん。
「家に帰ったら文句言ってやる」
俺は苛立ちを覚えながら家に向かった。
俺はとりあえず森の入り口で立ち止まった。
「よし、それじゃあ始めるか」
俺は買った物からスプレーを取り出した。
「へへ、モンスター避けのスプレー、やっぱりこれが無きゃ命がいくつ合っても足りねぇよ」
俺はモンスター専門店で買ったスプレーを全身にまいた。
「よし、これで大丈夫だな。やっと安全に帰れるぜ。何であのクソモンスター共の為に1日中走り続けなきゃいけないんだって事だよ」
俺は早速森の中に入った。
「いやいや、こんなに安心して森の中にいるのは初めてだな。やっぱりワクワクはゲームだけで十分だ。現実じゃモンスターに会っても何も嬉しくねぇよ」
すると大型モンスターが何かを食っていた。
普段なら逃げる所だが今の俺はスプレーをかけている。
逃げるのはあいつの方だろ。
すると大型モンスターがこちらに気が付いた。
大丈夫だ、ジッとこちらを見ているがこちらを嫌悪しているに違いない。
何かこちらに着いてきているが多分変な匂いがするから気になってるだけでこれ以上は着いては来ないだろ。
俺は少しずつ歩くスピードを上げる。
その度にモンスターも同じように上げる。
そして俺はそのままスピードを更に上げ結局走った。
「どうして着いてくんだよぉぉぉ!!!」
モンスターは雄叫びを上げ、いつも通り俺を追いかけ始める。
「クソぅ!おかしいだろ!スプレー使ったはずなのに!」
俺は改めてスプレー缶を見る。
説明欄をよく見るとそこには小型モンスター専用と書かれていた。
「何なんだよそれ!こんな小さい文字見えるわけねぇだろ!詐欺商売か!」
結局俺はいつも通り家まで走りきった。
「はあ……はあ……もう、やだ」
汗だくにならずに帰れると思ったらこれだ。
「クソぅ、ふざけんじゃねぇぞ。あのクソモンスターめ。次絶対あったらハイナの魔法で消し飛ばしてやる。あ、そう言えばあいつはどこだ」
家に帰っても人が居る気配がしない。
電気は消えていて、靴も無い。
「あいついないのか?もしかして置いてきちゃった」
俺はとりあえず買ってきた物を置いて、汗だくの為シャワーを浴びる事にした。
だがシャワーを浴び終わって部屋に戻ってみてもハイナの、姿は無かった。
「まぁ朝には流石に帰ってくるだろ」
そんな事を思い俺は眠りについた。
だが明日になってもハイナが帰ってくることは無かった。