その三 ハイナはツンデレ
「やべぇーよ。マジでやばいよ。2日連続巨大猫とフルマラソンだよ。アスリート選手でもやんねぇーぞこれ」
「何言ってんのよ。こんな事で弱音を吐くなんてやっぱり所詮その程度って事ね」
「お前助けてやったのにその態度はねぇだろ。ていうかまず降りろ!」
俺はその場でハイナをおんぶしている手を離す。
「いったー!?ちょっと何すんのよ!もっと丁寧に下ろしなさいよ!?」
痛むお尻を擦りながら俺に文句を言ってくる。
「知らねぇーよ。とりあえず俺はお前をここまで届けたし、俺はもう消えるよ。じゃあな」
俺は疲労した足を叩きながらドアの方に向かう。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「ん?何だよ。まだ文句があんのか?」
「ち、違うわよ。あの……私は助けてもらわなくても全然平気だったし!まあでも!一応助けてもらったし!私はそこらの礼儀知らず共とは違うから!まあ、ここに居ても別にいいわよ!」
すごい、全然素直じゃないな。
「素直にありがとうって言えないのかお前は」
「何言ってんの?私は全然助けてもらわなくても勝てたから。でも私はちゃんと礼儀をわきまえてるから仕方なく言ってんのよ」
生意気な態度は相変わらずだが泊めてくれるってんなら素直に従ったほうが断然いいだろう。
「ま、そ~言う事にしとくわ。とりあえず厄介になるぞ」
俺はボロボロの体を休めるため横になる。
「ちょっと何か勘違いしてない?」
横になってる俺の顔をハイナは立ちながら見下ろす。
「え?何がだ?」
「一応借りができたから返す為にしてやってるだけでずっとここに居ていいなんて言ってないからね?それと後私はあんたのこと師匠なんて思ってないから!」
うーん、やっぱり一筋縄じゃいかないか。
でもとりあえず俺もそこまで無理矢理なろうってわけじゃない。
コイトの最後の頼み、叶えてあげたい気持ちはあるがハイナが嫌がってる状態でなるのはコイト自身も嬉しくはないだろう。
「分かってるってそれに関してはお前が決めてくれ。俺もお前の師匠として半分位努力するから」
「何で半分なのよ。そこはもうちょっと頑張ってよ!いや、別に頑張ってほしいわけじゃないけどね!」
「はいはい、ツンデレロリコン略してツンロリ」
「あんたそれ以上言うとぶっ飛ばすわよ!」
何か凄いムシャクシャしてるな。
でもそれより気になってしまう事がある。
「そんな事より、パンツ見えてるぞ」
「っ!?」
その言葉を聞いて、急いでスカートを手で隠す。
「あんたわ〜……もういい!私部屋に行ってるけど勝手にもの触らないでよ!」
そう言って怒りながら部屋の中に入っていってしまった。
「これは俺のせいじゃねぇだろ」
さてどうしたもんか。
その時急激な寒気が俺を襲った。
「うーさぶ!そう言えば上投げ捨てたんだったな」
俺は震える上半身を擦りながら俺はその場で立ち上がる。
「勝手に触るなって言ってたし、ていうかどこに服があるか分からないし、ハイナに聞いてみるか」
俺はさっきハイナが入って行った部屋に入った。
「おいハイナ。ちょっと服貸してほしいんだけ………」
「え?」
目の前には下着姿のハイナがいた。
「あ、えっと……」
「き、きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハイナが俺を見た途端叫び出す。
「ちょ、おま!うっさ!」
「で、出てけ!早く出てけ!!出て行ってぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺に出てけと叫びながら色んな物を投げつけてくる。
「痛!ちょ、分かったから!投げんのやめろ!」
「早く出てけ!ゴミ!クズ!クソ野郎!!」
罵倒されながら俺は部屋を追い出された。
「いてて……色んなもん投げつけやがって目に入ったらどうすんだよ」
しばらくしてハイナが部屋から出てきた。
その顔は俺を真っ直ぐ睨みつけていた。
「おいおい、確かに俺も突然入ったのは悪いが、鍵を閉めないお前もお前だぞ」
「言いたい事はそれだけ?」
あーこれ、本気で怒ってるやつだ。
これは素直に謝ったほうがいいな。
「悪かった。俺のせいだな完全に。反省してます!」
俺は深々と頭を下げた。
するとハイナが、1つため息を吐く。
「はあ……もういいわよ。それよりなんのようだったの?」
「見ての通り俺、上半身裸状態だろ?だから服ないかなと思って」
「そんなもん無いわよ。それに合ったとしてもあんたにあげるわけ無いでしょ!」
こいつ……クソムカつくがよくよく考えてみると女しか居ないし男物の服なんてあるわけ無いか。
「それじゃあ買いに行かないか?寒くて寒くて仕方ねぇんだよ。早く何か着たい」
今なんの季節かは知らないが無性に肌寒く感じる。
ずっと家に居たせいで寒さ抵抗がなくなったのかもしれない。
日本より気温の変化が激しいかも知れないし早急に服は欲しいな。
「別にいいけど、お金あるの?」
「あるわけ無いだろ。俺を誰だと思ってんだ」
「知らないわよ。あんたが何者なのかなんて。興味ないし。ていうか無いなら買えないじゃない」
「それは……」
俺はジッと金が入った袋を見つめる。
するとそれを察したのかその袋をさっと隠す。
「あげないわよ。これは私のお金なんだから」
「ケチケチすんじゃねぇよ。そうだ!お前もなんの理由も無く上げるのは嫌なんだろ?だったらジャンケンで決めようぜ」
俺は早速握り拳を前に出す。
「ふっふっいいわよ。最強の私の力見せてあげるわ!」
ハイナも張り切って拳を出す。
こいつ掛かったな!
この勝負俺の勝ちだ!
「いくぞ!最初はグー!」
「ジャンケン、ぽん!!」
俺はグー、そしてハイナはチョキだ。
「はい、俺の勝ちー」
「な、ちょっと待て!今のはデモンストレーションよ!こっからが本番だから、覚悟しなさい」
「別にいいぜ。何度やっても俺の勝ちだからな」
「フッそう言ってられるのも今のうちよ!それじゃあいくわよ!ジャンケン――――」
13回目
「ぽん!何でよーーー!!!」
「はい、また俺の勝ちー!」
これでもう何回勝った事か。
しかも中々こいつも負けず嫌いだな。
「クソぅ……私が負けるなんて」
「これでもういいだろ。流石に俺も疲れてきた」
「今日はちょっと調子出ない見たいね。今日の所はここらへんで―――ジャンケンぽん!」
突然ジャンケンを出してきたが俺は普通に勝利する。
「もう何でよー!」
「だから諦めろって」
「うう〜分かったわよ。今回は許してやるわ」
そう言って袋を渡してきたが俺が受け取ろうとしても中々離さない。
「おい、お前まだ抗うか」
「分かってるわよ。ほら、やるよ」
「お前なんでそんなに偉そうなんだよ。何だ?反抗期か?反抗したいお年頃なのか?」
「うるさいわね。とりあえずこれ羽織って行くわよ」
それは黒いフード付きのローブだった。
「こんなんで隠せるのか?」
「まあ、バレても武闘家っぽく見えるからいいんじゃない?」
「武闘家に見えたくないんだけど、我慢するか」
ハイナは大きな帽子を被り杖を持つ。
「それじゃあ行きましょうか。モンスターだらけの森を抜けて」
「え?」
扉を開けた瞬間から戦いは始まっていた。