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最弱師匠と最強の弟子!  作者: 福田ひで
第一章 最弱師匠の誕生
3/17

その二 現実

まるで終わらない悪夢を見ているようで。

いや、悪夢なんかよりずっとたちの悪いこの夢には俺をここから逃がしてくれることもさせてくれなかった。


「何なんだよこの夢。早く覚めてくれよ」


目の前でほんの数時間前に助けてもらった恩人が、自分のせいで死ぬ事なんて想像できなかった。


「これが夢だから良かったけど……夢じゃなくて現実ならトラウマ確定だな。夢だから……夢だよな?」


俺はおもむろにコイトの胸に刺さっている剣の剣身に触れた。

すると切れ味が余程いいのか触れた指が少し切れてしまった。

そこから血がぽたぽたと地面に落ちていく。


「何だよ。痛いじゃねぇか」


手の切り傷の痛み、そしてコイトから伝わる重さ、剣の触ってる感覚さえある。

答えはすでに最初から出ていた。


「これは夢じゃない。現実だ。紛れもない俺は日本では無く、異世界に来ちまったんだ」


その事実を受け入れた瞬間奥の方から草をかき分ける音が聞こえる。


「っ!?誰だ!」


そこに居たのはこちらを見ているハイナの姿だった。


「ハイナ!?何でここに!」


その目は俺では無く俺の膝で横たわるコイトの事を見ていた。


「コイト?………」

「コイトはもう………」


自分の口では言えなかった。

ハイナが来たせいなのもあってどうしようもない罪悪感が俺を襲う。

その時強い風が森中に吹いた。


「あんたが殺ったの?」

「ち、違う!俺じゃない!」


その瞬間ハイナが杖を突き立てる。


「あんたが殺ったの!?コイトを!」


その瞬間エネルギーが一点にハイナの杖に集まる。

これは最初に俺に魔法を撃とうとした時とは比べ物にならない物だった。


「おい!人の話を聞け!」

「許さない!許さない許さない許さない許さない!!」


頭上に巨大な魔法陣が出現する。

それは俺を真っ直ぐ捉えている。


「ハイナ!人の話を聞け!ここで魔法なんて撃ったらコイトにも当たるぞ!!」


コイトと言う言葉でハイナの手が止まる。


「っ!?コイト………」


ハイナは杖を手放し、そのまま崩れ落ちる。


「じゃあどうすればいいのよ!?何で……何でコイトが!う、うう……うわああぁぁぁぁん!!」


ハイナは悔しそうに地面を何回も叩き、涙を流す。

地面に落ちて行く涙が土に吸い込まれる。

しばらくして俺達は隠れ家にコイトを連れて行くことにした。


――――――――――

俺達はコイトに刺さっている剣を抜き、血を拭き取って綺麗にした。

体を拭くのは俺は出来ないのでハイナに任せた。

その時風呂場でハイナの泣く声が響いていた。

その声を聞いて俺はさらに罪悪感にかられる。

そして今、コイトを布団に寝かせてそれを俺達が囲んでる状況だ。

するとずっと黙っていたハイナが重い空気を壊すようにおもむろに口を開ける。


「コイトは誰にも負けない最強の魔法使いだった。私は1回勝負を挑んで呆気なく倒された。その時私の手を握って、『ねえ君、私の弟子にならない?』その言葉のおかげで今の私がいるの」


その話は俺では無くコイトに、言ってるように見えた。


「私もコイトみたいに最強の魔法使いになりたかった。もっともっと教えて欲しかった。一緒に居たかった!ねえ、コイトを返してよ……私の大切な人を………」


布団に横たわるコイトをハイナは涙を流しながら抱きしめる。

その姿を見ると心が苦しくなる。

ずっと人を避けて生活してた俺が1番恐れていた事態になってしまっている。

ただでさえ異世界と言う謎の世界に飛ばされたと言う状態なのに、こんなに心を苦しめられる状況になるなんてこれは神様が与えた試練なのだろうか。


「何でここに居るの?」

「え?」


するとハイナがこちらを睨む様に見つめる。


「出てってよ……出ていけ!」


それは完全に俺に向けられた敵意だった。

普通だったら俺はこんな所にいる資格は無い。

さっと俺も出て行く所だが中々足が動けない。

それはコイトの最後の言葉、遺言を聞いてしまったからだ。


「それは……出来ない」

「私の苦しんでる顔、そんなに見たいの」

「そういう事じゃねぇ。コイトが言ってたんだよ。任せたって」


その瞬間ハイナが突然立ち上がる。


「絶対やだ!そんなの私は認めない!!」

「ちょ、ちょっと落ち着けよ」

「私の師匠はコイトただ1人なの!代わりなんていないの!いくらコイトの最後の言葉だったとしても私は絶対認めない!」


俺の言葉を全否定するハイナ。

やっぱりそう簡単に、はいそうですねとはならないよな。


「あんたのせいでコイトは死んだの。大切な人を殺した奴の弟子なんかに私は絶対ならない!!

「そ、それは………」


返す言葉が無かった。

ハイナの言う通りだったからだ。


「もう出ていって」

「お、おい!何すんだよ!」


俺は背中を押され無理矢理外に追い出されてしまった。


「くそ!何なんだよ一体……」


その時モンスターらしき声が聞こえる。


「やばっ!もしかして近くにいるのか」


今は丸腰の状態なのもあり、今この瞬間モンスターに出くわせば一巻の終わりだろう。


「とりあえず今日をしのぐために寝床を見つけるしかないか」


俺はとりあえず何処か休める所がないか探した。

ここは周りが草とか木しかなく、休める場所と言うのが全くなさそうだ。


「クソぅ何でこんな事になってんだよ。意味分かんねぇよ」


その時うめき声の様なものが後ろから聞こえた。


「何だ?今の声たしか後ろから………」


後ろを振り返るとヨダレをダラダラ垂らした、鋭い牙の生えた巨大な猫がこちらを餌を見るような目でみる。


「マジかー」


その瞬間俺は中学生以来の全力ダッシュをしたのは言うまでもない。


―――――――――――――

「はあ……はあ……マジでしんどい……」


結局モンスターから逃げてばかりで休む事が出来ずに朝を迎えてしまった。


「やばい……運動してないから………体力の消費が半端じゃない……」


俺はふらつきながらとりあえず一時的でもいいから寝床が欲しかった。


「ん?ここって……」


そこには血がべっとりと地面に広がっていた。


「もう一度だけ隠れ家に行ってみるか」

「グルルルル………」

「え?ちょ、マジかよ!!!」


延長戦に突入しました。


――――――――――――

「もう……本当に無理………」


気付けばもう日が沈みかけてしまっている。

今回の出来事で人は命の危機に迫るとこんなにも走ることができるということが分かった。


「今日で3キロ減量したな絶対」


俺の目の前にはハイナが住んでいる隠れ家が見えている。


「気まずいが俺にだって責任感はあるんだ。あんな言葉を最後に貰って放っておくのは流石に心にくるしな」


俺はコンコンと2回ドアを叩く。

だが反応はない。


「えっと………相田和人だけど!会いたくないのは分かる。けど、こっちも色々事情があって、とりあえずもう一度だけ話し合わないか!」


だが反応はない。

俺は少し心配になり、一応ドアノブを捻った。

すると鍵がかかっておらず普通に扉が開いてしまった。


「開いてんのか……不用心だな」


俺は恐る恐る中に入る。


「失礼しま〜す」


だが中は真っ暗で人が居る様子も無かった。


「留守にしてんのか?」


俺はコイトがどうなってるのか気になり寝室に向かう。

コイトは昨日と同じように布団で眠っていた。


「こうして見ると今にも起き上がってきそうなんだよな」


だが肌に触れると冷たく、死んでしまってるという事が嘘ではないことが理解できてしまう。


「もう行くか」


これ以上ここにいても仕方ない。

俺は立ち上がり出ようとした時何かが光ったような気がした。


「これは……剣か?」


それはコイトの胸に突き刺さっていた剣だった。


「んっ、重いな。本当は俺が刺されるはずだったのに、これもあのクソババアのせいで俺が生き残ってしまう様になっているのかもしれないな」


その時近くで大きな地響きが起きた。


「お、おわ!?な、何だ!?」


今のデカイ衝撃かなり近かった。

すると俺はある人物が頭に思い浮かんだ。


「ハイナ?」


なぜそう思ったのか分からないが、大きな衝撃を出せるのはあのハイナの魔法しか思い浮かばなかったのかもしれない。

俺はそう思うといてもたってもいられずその場を飛び出した。


「やばい、つい剣持ってきちゃったけどこれ重たいな!腕が攣りそう!」


必死に走りながら音が聞こえた場所に何とか到着した。


「あれは……やっぱりハイナか。ん?奥に1人居るな。あれは……な!まさか!」


あの風貌俺を殺そうと剣を抜いたあの男!


「もしかしてハイナ、復讐するためにあいつと戦ってんのか」


あのさっきのドデカイ音は多分ハイナの魔法だろう。

その証拠に真ん中に大きなクレーターが出来ている。

だが男は倒れておらずハイナは何故か地面に倒れたままで動こうとしない。


「何やってんだあいつ。あのままじゃ殺されるぞ」


ジリジリと近寄っている男に対しハイナはその場で動かない。


「もしかして動けないのか?だとしたらまずいぞ」


助けに行くか?

でも俺が行ったところで何になる。

剣も魔法も使えない俺に何ができるんだ。

変に出しゃばってコイトみたいな事になるのがオチじゃないのか。


「もう十分だろ。諦めろ」


2人の会話が聞こえる。

俺は耳を澄ませて会話を盗みぎく。


「俺の弟子になれ。そしたらまだお前に足りないものを教えてやる。最強にもなれる。いい話だろ?」


あの男、ハイナを弟子にしようとしてるのか。

そういえばコイトにもそんな事を、言ってた気がするな。


「私の師匠はコイトだけ。頭の悪いクソ魔法使いでもわかるでしょ。コイトを怒らせたらどうなるか」

「ふ、ふふ……コイトか、そんな奴もいたな」

「どういう意味?」

「死んだろ。コイトはもうこの世にはいない」


あいつなんてこと言いやがるんだ。


「っ!?な、何でそのことを」

「俺だよ殺したのは。心臓を一発で貫いてやった。今まで散々やられてたからスカッとしたよ」

「そんな……あんたが殺したの?じゃあ和人は本当に……」


これ以上は見てられない。

だが、前に進もうとすると足が震えてしまう。

これが夢では無いという事を認めてしまったこともあってより死を実感してしまった。


「それじゃあ返事を聞かせてくれるかい?」

「なるわけ無いでしょ、このクソ野郎が!絶対ぶっ殺してやる!」

「そうかならこうするしかないか……」


すると男は剣を取り出した。


「お前の師と同じ様に殺してやるよ。良かったな」

「あんた何かあんた何か!この手で殺してやる!」


男は剣を構える。

何やってんだ俺、ここでやらなきゃいつ命を懸けるんだ。

でも俺は……

その時自分の手に持ってる剣が目に入る。

その瞬間、コイトの言葉が頭を駆け巡る。

『ハイナを任せたわよ』

そうだ俺は――――


「じゃあな、師も救えなかった、弟子よ」

「ちょっと待てーーー!!!」


俺は木の影から飛び出し思いっきり叫んだ。


「この声はああ……昨日殺し忘れた男か。せっかく命をたすけてもらったのに。何しに来たんだ?」

「助けに来たんだよ。師匠として!」


その瞬間ハイナとその男が驚いたようにこちらを見る。


「はっ!?お前がこいつの師匠だと」

「ああ……そうだ。だからこいつを離してやってくれ。人の弟子に手を出すのは駄目なんだろ?」


この情報も頭の中に出てきた情報だ。


「ハイナ、本当なのか?」

「そ、そうよ!だから諦めなさい。このクズ魔法使い」

「おお、言ってやれ。師匠として、暴言を許可する」

「お前らおかしいぞ。こんな奴に師の資格があるわけ無いだろ!そこまで言うなら見せてみろ!」


そう、師匠になるにはその資格が必要なのだ。

もちろん俺はそんなもん持ってる訳がない。

さあ、どうしよう。


「師匠の資格?何だよそんなもん。師匠になるには資格なんていらないだろ。弟子が師匠って言えばそれはもう立派な師弟関係だ。と言う訳で俺はもうこいつの師匠だ」

「は!?何言ってんだお前?そんな屁理屈通じるわけ無いだろ!」


こいつは意地でも引き下がらないみたいだな。

できれば平和的解決をしたいが、そうも行かないみたいだな。


「もういい、これ以上喋っててもらちがあかない。俺と決闘しろ!勝ったほうがハイナを貰う。それでいいな!」

「ハイナは物じゃねぇぞ」

「ふっ分かってないな。道具だよ。弟子なんて自分のキャリアを上げるためのな」


こいつ、想像以上のクズだな。

こんな奴が生きてるなんて世の中は平等じゃないな。


「分かった。それでハイナに手を引いてくれるなら喜んでやってやるよクズ魔法使いさん」

「ちっ!ナメやがって。後悔させてやる」


するとクズ男が剣を構える。

やっぱり剣を使ってくるのか。


「それじゃあ行くぞ」


そう言って俺は上を脱ぐ。


「何やってんだお前?」

「何って勝負するんだろ?その準備だよ」


あいつの気配がする。

やっぱり近くに嫌がるな。

フルマラソンを共にした仲だもう、感覚で分かってしまう。


「行くぞよーい……」

「スタート!!」


と、同時に俺はクズ男に向って服を投げつけた。


「グギャァァァ!!」


その咆哮と共に森の奥から巨大猫が飛び出す。


「な、何だぁぁぁ!!!」


その巨大猫はクズ男に向って一直線に突っ込んで行く。


「や、やめろ!来るな!来るなぁぁぁ!!」

「おー予想通りだな。やっぱり血に反応してたのか」


俺の服にはコイトの、血がべっとりついていた。

多分そのせいで俺はよく見つかってたのだろう。

日本で肉食は血に反応すると聞いて試してみたが、もし違かったら今頃クズ男みたいになってたのは俺だろう。


「たす、助け!助けてくれ!!」


必死に助けをこう男を俺は無視してハイナの所に向かった。


「自業自得だな。ま、転生出来たらもっとまともな奴になれよ」

「クソがァァァあ―――」


巨大な猫はグチュグチュと音を立てて食べている。


「うわーグロいグロい。おい、ハイナ立てるか?あいつが夢中になってる空きに逃げるぞ」

「むり、体がもう動かない」

「めんどくさいな、ほらおんぶしてやる」


するとさっきまで動けないと言ってたのにすぐに俺の背中にしがみつく。


「お前本当に動けないんだよな?」

「これで全部体力使ったからもう動けないわ」

「便利な体力だな」


俺はすぐにその場を離れた。


「ごめんな、勝手に師匠とか名乗って。お前を隠れ家まで運んだら、消えるよ」

「………ごめん、疑ったりして」


ハイナがいきなり耳元でそう呟いた。


「別にいいよ。実際俺のせいで死んだも同然だしな。罵られるのも当然の報いだ」

「なら、許さない」

「うおぉいお前極端だな」


しばらく沈黙が続いたと思ったら、ハイナが再び耳元でつぶやく。


「……助けてくれてありがと」


こいつ……


「何だって?もう1回言ってくれよ」

「な!?しね!クズ!カスト!」

「おま!?そこまで言う必要はねぇだろ!このツンデレロリコン!」


その時後ろからズシンという大きな音が聞こえた。


「え?今のって?まさか……」

「え?何?私動けないから見えないんだけど」


俺は恐る恐る後ろを振り返る。

そこには血まみれの巨大猫がいた。


「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

「ニャァァァアン!!」


俺は全速力で走り本日3度目のフルマラソンを経験した。



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