その十四 時間厳守
「それで、これからどうするんだ?」
「今日の所は認めてやる。だが明日からは地獄の試練がお前らを待ってるから覚悟しておけ」
「分かりました。全力で頑張ります!」
そう言って、マオンは力強く拳を握る。
「気合だけでどうこうできるもんじゃないぞ。お前らにはわしの全てを教える価値があるか、これから見てやるよ」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
その時ランドが俺を指差す。
「特にお前、今の所見込み無しだぞ」
「え?俺?」
まあ確かに俺にはなんの才能も無いけど。
「態度の悪さに口の悪さ、どういう環境で育ってきたんだ」
「確かに和人さんは口が悪いですからね」
「うるせぇバカ」
「極めつけは魔力の無さだ。今の所お前からは魔力を一切感じない。これで師匠なんて務まるのか?」
確かに今の俺には魔力が無いだろう。
ていうか俺元々この世界の人じゃないしな。
「まあ、頑張りますよ。師匠になれるように」
「チッ!何でわしがこんなやつを弟子にしなきゃいけないんだ」
「まぁまぁ落ち着いてください。和人さんもこう言ってますが、やる気はありますから」
「どうだかな。とりあえずもうお前ら帰れ」
「分かりました―――ってえ!?ここで泊めてもらえないんですか!?」
正直俺もそう思ってたんだけど。
「泊らすわけ無いだろ。お前らは明日から自分の家からここまで来てもらう。これも修行の一環だ。時間は朝の3時だ!忘れんじゃねぇぞ!」
「マジかよ!本気で言ってんのか!?」
「嫌ならやめていいんだぞ」
そう言って、こちらを睨む。
「くっ!分かったよ。じゃあなランド師匠」
「それじゃあ明日からご指導お願いします」
俺達はそのまま家を出た。
「たくっ、バランは何でコイツラを選んだんだ?」
―――――――――――――――
「ああ〜死ぬ!まじで辛いんだけど」
「たしかにこれは死ぬ」
俺達はフラフラした足取りで山を降りた。
「それじゃあ、僕あっちなので」
「え、あ、そうなの。じゃあな」
「はい、また明日ー」
マオンは手を振りながらフラフラと歩きながら帰って行った。
「さて、俺も家に帰るか」
明日からは地獄の修行とやらが始まるみたいだし早く帰って早く寝よう。
「て、思ったけどそう言えばこれがあるんだった」
森の目の前のこのメカが配置されている先、こっからが地獄の始まりだ。
「もうこれ、修行みたいなもんだろ」
俺は憂鬱になりながらも家に帰るために森の中に入って行った。
――――――――――
「はあ……はあ……はあ……いや、まじで死ぬって」
山登りに更に追い打ちの森ダッシュこれは今日グッスリ眠れるな。
「ただいま〜って鍵かかってる。お〜い開けてくれー!」
俺は扉を何回も強く叩いた。
「う〜ん何?新聞ならお断りなんですけど」
「いや、新聞じゃねぇから。俺だよ俺、和人だよ」
「乱闘?なるほど私に勝負を申し込んで来たんだな。よし!やるぞ〜!」
「いや、違うから。ていうかお前絶対寝ぼけてんだろ。ほらもう家に入るぞ」
俺はハイナを家に入れようと肩を触ろうとした瞬間。
「おりゃーーー!!」
「ごはっ!?」
見事な右ストレートを受け俺はその場で意識を失った。
―――――――――――
「う、ううん……あれ?ここは何処だ?」
俺は目覚めると布団の中に居た。
「っ!?頬が痛い。それに昨日の記憶がないな」
俺が困惑しているとハイナがエプロン姿で食事を持ってきた。
「はい、朝ごはん食べてないでしょ?早く食べて師匠資格とっとと取りなさいよ」
それは朝ごはんとは言わなさそうなほどの量の鍋が出てきた。
美味そうだがこれ食えるかな。
「ん?ていうか今、師匠資格取れって言ったか」
「そうよ。まさか忘れてたなんて言うんじゃないでしょうね。こっちはあんたのせいで人生めちゃくちゃになってるんだから、ちゃんと受けなさいよね」
そう言って、ハイナが鍋の具を器に盛る。
「あー!やばい忘れてた!」
「きゃっ!?」
その瞬間ハイナが持っていた熱々の汁を零す。
「て、あっつー!おま、何してくれてんだ!」
「あ、あんたが大声出すからでしょ!」
そう言って、急いで溢れた汁を拭く。
「て、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!ハイナ、今何時だ!」
「え?午後の6時だけど」
やばい!完全に遅刻じゃねぇか!
「まずい!急がなきゃ!」
俺はすぐに支度をして家を飛び出した。
「な、何なのよ一体」
――――――――――――――
「はぁはぁあと、もう少し……」
俺は家から山まで全力ダッシュで向かったがすでに空は真っ暗だ。
「はぁはぁ、着いた。まだやってるのか?」
するとそこには汗だくになって腕立てをしているマオンの姿があった。
あいつ頑張ってるな。
その時それを大声で指導しているランドと目があった。
「あっ」
俺はランドに何か伝えようとした瞬間こちらの事を興味がないように再びマオンの方に視線を移す。
俺は思わずカチンと来てしまいすぐにランドの所に向かった。
「あの!すみません!遅れました」
「ん?ああ……お前か」
「これから俺も参加します!何からやればいいんでしょうか」
流石の俺も丁寧語は使える。
この状況だ、これは素直に謝罪するしかないだろう。
「お前、もう来なくていいぞ」
「え?」
そう言って、再び俺を見なくなった。
「遅刻した事で怒ってるんですか?それは本当にすみません。だから今からその分頑張るんで」
「だからもういいと言ってるだろ。お前はもう来なくていい。わしは昨日忠告したよな。遅刻するなと」
「だからこうして謝ってるじゃないですか!」
「謝って済む問題じゃないと言ってるんだ!」
その瞬間持っていた杖を地面に叩きつける。
「ふぅ……これから師匠を目指す男がこんなことも守れず、弟子を育てていけると思うか?わしはそんな身勝手な男の元には行きたくは無い。師匠になる覚悟も弟子を預かる責任も無い奴に、師匠になる資格などない!」
「うぐっ!?」
何なんだよ。
こっちは申し訳ないと思って先進誠意謝ってるっていうのに。
資格がないとか師匠になるのに資格があるのが変だろ。
「なんだその顔は?まだ納得できてないのか」
「納得できるわけ無いだろ。俺だって頑張ってここまで来たんだぞ!なのに資格が無いから駄目とか、意味分かんないだろ!」
「それじゃあお前の脳みそでもわかりやすく言ってやろう。お前には師匠の才能はない!」
「なっ!?あんたに何が分かるんだよ!」
「分かる。お前よりも何倍も生きておるからな」
俺はランドの師匠の才能が無いという言葉でつい切れてしまった。
「ああいいよ!分かったよ!やめてやるよこっちから!」
本当は自分が悪いのは分かっていた。
だが自分を馬鹿にされた事もあり冷静じゃなかった。
そのせいで俺は怒りをそのまま言葉に表した。
そして俺はそのまま山を降りた。
「1万!はあ……はあ……終わりました……ランド師匠……て、師匠?」
「……やはり才能無しだな」
「ん?あれってもしかして和人さん?」