その十三 テスト
「ここが……その例の爺さんの知人が居る所か………ていうか……遠すぎんだろ!」
俺達は先程1時間による山登りを終えた後だった。
「いや、本当ですよね。僕、これ以上は動けないってくらい、歩きましたよ」
「何、久しぶりに外に出たニートみたいなこと言ってんだよ。とりあえず俺はさっさと終わらせて家で帰って寝たいんだよ」
俺は山の上にぽつんと立っている家のドアを開けた。
「すんませーん!誰かいませんかー!」
だが誰も答えなかった。
「はあ〜、とりあえず入るか」
「え?勝手に入って良いんですか」
「いいんだよ。どうせこのボロボロの家なんかに高価なもんなんて無いだろうしな」
「悪かったな高価なもんなんて無くて」
「っ!?」
いつの間に!
後ろを向いた時そこにいたのは長い爪楊枝のような物を加えて、こちらを鋭い目つきで見つめる爺さんが立っていた。
「お前ら、人の家に勝手に入ろうとした挙げ句文句を言うとは、もしかして泥棒か?」
「あ、えっと、違うんです!僕たちここにバランさんの知人が居ると聞いて来たんです」
「バラン?お前らが例のか。たく、面倒なもん引きつけちまったな」
そう言って分かりやすいくらい嫌な顔をする。
「おい爺さんあんた顔に出やすいタイプだな。そんなんだから友達も出来ずに山で引きこもってんのか」
「爺さんではなくランドだ。頼まれたならわしはきっちり最後までやる。ただし!最初にテストをやってもらう」
「テスト?」
「付いて来い」
そう言って黙ったまま行ってしまった。
「テストってなんでしょうね。またお婆さんだったら最悪ですけど」
「流石にそれは無いんじゃないのか。ま、もしそうだったら俺は即刻下山するけどな」
俺達はババアじゃない事を祈り付いて行った。
――――――――――――
「はあ……はあ……どこまで行くんだよ……まじで……死ぬって」
「同感です……ていうか……もう達しちゃってるんですけど……」
「着いたぞ」
「おおお……キレイだ」
そこは沢山のピンク色の花びらが舞い落ちている幻想的な場所だった。
「これは……桜か?」
「違いますよ。これは源光桃と言う木です。花びらがピンク色に光舞い落ちる姿は将に幻想的な光景です」
「確かにキレイだな。それで、ここで何するんだ?師匠」
源光桃を眺めていた師匠がこちらの方を向く。
「わしはまだお前らの師匠ではない。それよりこれからテストを開始する。さっきまで歩いた道の途中に白い玉を落とした。それを見つけてここまで持って来い。期限は最初の日の出までだ」
一気に説明されたせいであまり良く理解できなかった。
「ちょっと待ってくれ。その白い玉はどれくらいの大きさなんだ?」
「5mmだ」
「5mm!?5mmってそんなの見つけられるわけないじゃないですか!ていうか絶対無理でしょ!ねぇ和人さんもそう思うでしょ」
「たしかに普通に考えればそう思うが、これはテストなんだろ?だったら何かしらのヒントがあるはずだ。流石にそのまんま探すのは無いだろう」
そう、こう言うテスト的な物は白い玉を見つける事が重要ではなくその過程が大事というバトル漫画ではお約束の展開だ。
そうと決まれば先ずは周りをよく見ることだな。
「よし、日没までまだ時間はあるが、どっちにしろ5mm位の大きさだ。そう簡単には見つかんねぇし早いところ見つけに行こう。行くぞライオン!」
「いや、ライオンじゃなくてマオンですから」
―――――――――――
3時間後
「おいどうなってんだこれ、まじで全然見つからないんだが」
どこかしらにヒントがあると思って注意深く見ていたのに全然見つからない。
ていうか何ならヒントすら見つからない。
これまじでただ単に白い玉を見つけるテストか。
現実はアニメみたいな展開にはならねぇってことか?
おいおいふざけんじゃねぇぞ。
マジでどうしようもねぇじゃんか。
「和人さ〜ん日の出まで後5時間ですよ。これ見つかるんですか」
「見つけるしかねぇだろ。じゃないと俺達本当に師匠になれないぞ」
「それは本当に嫌ですね。あ!」
「どうした!あったのか!?」
俺は急いでマオンの所に向かう。
「いや、すんません。これ、ただの卵の殻でした」
「んだよ、紛らわしいな。ていうか何で卵の殻があるんだ?」
「それは、近くで何かが産まれたからじゃないですか」
その瞬間俺達はお互いに察して顔を見合わせる。
「近くで何かが生まれたってことは」
「その近くにお母さんモンスターがいるって事ですよね」
最悪の状況になる前に俺達はすぐにその場を離れた。
「はあ……はあ……和人さん、やばいですって!あと逃げるのに夢中になっていたらあと3時間ですよ!どうするんですか」
「分かってるよ。俺だって焦ってるんだよ。とりあえず木登りでもして考えるか」
「何で木登りしようとしてるんですか!駄目に決まってるでしょ!」
「何言ってんだよ。木登りというのはいつまでも少年の心を忘れないという重要な儀式だぞ」
「あんた木登りを儀式だと思ってんのかよ!」
その時何処からか鳥の鳴き声が聞こえた。
「て、まずいですよ、本当に!この鳴き声は呼び鳥ですよ。この鳥が鳴くってことは日の出が近いってことです」
「マジかー、じゃあ急がなくちゃな」
「そう思ってんなら早く降りてくださいよ」
「いや、何かここから見る景色が良くてさ。もうちょっとだけ見たいんだよね」
「何言ってんですか。その木そんなに高くないんですから景色なんて見れるわけ無いでしょう。ん?もしかして………降りれなくなったとか?」
その瞬間俺は一瞬落ちそうになった。
「ああ!和人さん危ない!何やってるんですか」
「いや、お前が変な事言うからバランス崩しちゃったじゃねぇか。どうしてくれんだよ。俺が落ちて骨折ったら責任取れるのか!」
「変な事言って無いで早く行きま…………」
「ん?どうした?え、なんで離れて行ってんだ。何で背中を向けるちょ、ま、待ってー!!」
――――――――――――
残り1時間
「石、石、石、葉っぱ、石、石、爪、石、石」
そう言ってぶつぶつと呟きながら拾った物を後ろに投げ捨てて行っている。
「あのう、その呪文みたいなやつやめてくんない。なに、失恋した男子高校生ですか?未練たらたらなんですか」
「石、石、紙くず、石、石、葉っぱ、石、石、石、石」
「あ〜はいはい、分かったわかった。もうお前の好きにしろよ」
「石、石、白い玉、石、石、葉っぱ………あれ僕今なんて言いました」
「ていうかまず俺だって精神的に来てんだぜ。さっきの木登りしてた時もお前は俺を見捨てて先に逃げやがったし」
「和夫さん!僕今なんて言いました!」
「え?いや、知らねぇよ。いちいちお前の呪文みたいな言葉を聞いてるわけねぇだろ」
「今僕、何か重要な物を手放した気がするんです」
「何、もしかしてお前白い玉って言いながら捨てたとかか?て、そんなありきたりなことあるわけ無いよな………」
するとマオンがゆっくりと頷く。
「何やってんだテメェは!?おい、今すぐ探すぞ!」
「すみません!本当にボーッとしてて!」
後ろに投げたからそこまで遠くには行ってないはずだ。
すると木の下に白い玉が見えた。
「あった!あったぞ!」
「本当ですか!よかったー、見つかって」
「たく、気おつけろよな。まじでこの白い玉に俺達の人生かかってんだから」
「はい、気おつけます」
よし、早く回収してあの師匠に渡しちまおう。
すると白い玉を取ろうとしたとき頭から温かい空気を感じた。
何だ?ここは冷たい空気しか感じなかったはずだが。
そう思い上を見た。
「がっ!?」
「フシューフシュー」
そこには荒い鼻息をたてながらこちらを睨む鬼がいた。
やばいー!木かと思っていたら鬼だったー!
どうするどうするどうする!
これ取っちゃって大丈夫なのか!?
取った瞬間持っている金棒振り下ろさないか!?
ていうか俺、助かるのかこれ。
「何やってるんですか?早く回収して行きましょうよ。時間ももう無いいんだし」
そんなこと出来たらとっくにやってんだよ。
このバカが!状況考えろよまじで!お前を先にミンチにしてやろうか!
はあ……一旦落ち着け俺、すぐ取ってすぐ走ろう。
よし!それしかもうねぇよな。
「取った瞬間、殺す」
はいもう俺の作戦終わったー!
ていうか喋れんのかよ!
ていうか何で取った瞬間逃げること分かったんだよ!
テレパシーか?鬼の癖にテレパシーですか?
最先端かよドチクショウ。
「和人さんいい加減行きましょう。さっきは本当にすみませんでした。だから早く………ええええ!?な、何ですかそいつ!」
しめた!
マオンの言葉で一瞬空きが出来た。
今しかねぇ!
俺はすぐに白い玉を回収して走り出した。
「え?ちょ!和人さん!」
「死にたくないなら死ぬ気で走れ!」
「ええええ!?ちょっとー!!」
――――――――――――――
「はあ……はあ……はあ……まじで死ぬって言ってんだろ………はあ……」
「いや……そんなこと……言われても……はあ……はあ……あ、あと白い玉です……」
「うむ……いいだろう。お前らを師匠見習いとしてここで修行する事を認める」
「そんなこと分かってんだよ。逆に認めなかったらぶっ飛ばすところだ」
「………ひとまずわしの家まで戻るぞ」
そう言って来た道を戻って行った。