その九 亡き人
「…………」
「よっ爺さん」
「っ!?なんだ……おめえか」
「おめえかとは何だよ。それにしても爺さんそれどうした?」
爺さんは腕に放題を巻き付けている最中だった。
「その傷俺が付けた傷じゃないよな」
「年寄りを殴ること自体を不審に思え」
先程からしんみりとした表情でただひたすら包帯を巻く。
「何かあったのか?」
「別に何もねぇよ。ほら用がないならはよ帰らんかい」
爺さんは面倒くさそうに手であっち行けと払う。
「昔弟子、亡くしたんだってな」
「っ!?おめえ……それを何処で」
爺さんは驚いた表情でこちらを見る。
「やっぱりそうだったのか。さっき酒に酔っ払った男から聞いてな。ボロボロの家で師匠を育成してるって聞いたからもしやと思ってな」
「ボロボロの家は余計なお世話だ」
すると爺さんがおもむろに立ち上がる。
「付いて来なさい。知ったんならついでにやってけ」
そう言ってふすまを開けて部屋の奥に入って行く。
「これって………」
そこには幼い顔をした少女の遺影が飾られてあった。
「その子の名はナツ。わしの1番弟子だった、あの日までは」
「父親に弟子を奪われたってのは本当なのか?」
「ああ、本当だ。わしは裁判に負け弟子の失った。その後さらにその子の命までも………復讐してやろうと思ったが奴はマスター共に匿われてたせいで呆気なく捕まっちまったよ。挙げ句の果に師匠権も剥奪されちまった。たく、わしは何の為に行ったのかこれじゃあ分かんねぇよ」
爺さんは遺影を見ながら悔しさと悲しみが入り混じった様な表情をした。
「今じゃ閑古鳥の泣き止まない育成場でボソボソと暮らす日々。まあわしみたいな師匠権剥奪されたようなやつの弟子になりたい物好きなんて居ないだろうな。わし自身もそんな奴の弟子になりたいなんて思わないしの。だからサポートセンターに来た面倒くさい客を押し付けられる事が主な仕事になっちまったな」
「おい、待て。今の話だと俺は面倒くさい客に選ばれたって事か」
「というか気づかなかったのか?おめえだいぶ面倒くさいぞ」
何か心配して損した気分だな。
「何か今の聞いてフォローする気なくなった。帰るわ」
「おおい!ちょっと待て!」
そう言って俺の肩を掴む。
「何だよ。まだ何かあるのか」
「お前これからどうする気だ?師匠資格取るのか」
「まあ一応取る予定だけど」
「気休めだがおめえ今まで来た奴らの中で1番師匠らしかったぞ」
爺さんは笑いながら俺に気休めの言葉を言った。
「それって何人来ての答えだよ」
「おめえとさっきのボウズだけだ!」
その瞬間俺は爺さんの手を振り払った。
「それ全然嬉しくねぇんだけど!」
「ガッハッハッハっ!じゃあな」
たくっ何なんだあのジジイ。
あ、そう言えばあのこと聞くの忘れてた。
「なあじいさん。さっき居たマオンにはこの話したのか」
最初に会った時に奥から出てきたあいつなら知ってるかもしれねぇな。
「あいつには昔死んだ孫って事にしてある」
「へぇ〜そうなのか。それじゃあな」
俺は満足してボロボロの家を出た。