序章 気持ちの良い夢が見れる薬
2作品目となりますが、頑張って書いていこうと思います。
「ん?ううん……朝か」
俺は時計を確認する。
時刻は午前4時。
親はまだ仕事に行く時間では無くまだ寝ている。
そして重い体を動かし、洗面所に向かう。
「ふ、ふふ〜ん」
俺は鼻歌をしながら歯を磨く。
普通鼻歌をしながら歯を磨くなんて中々無いがそれをしてしまう程今日は嬉しい出来事があるのだ。
シャワーを浴びて、外に出掛ける服装に着替える。
そして俺は再び時計を確認する。
時刻は4時23分。
「よし!行くか」
―――――――――――――――
「ふっふ〜ん、ついに買えたぜ!GANFight3!早速家帰ってプレーしよ」
俺は買ったばかりのゲームを大事に抱える。
このゲームを買う為にわざわざ朝早く起きて、ゲーム屋さんで2時間待ったのだ。
つまらなかったら、ボロクソ言ってやる。
俺は胸踊らせながら家に向かう。
「これやばくなーい!」
「超やばい!ねえねえ、これもやばくなーい!」
「やばーい!」
すると向かいからやばいやばいとしか言わないイカれた生物、通称女子高生が騒ぎながら歩いている。
「朝っぱらからうるせーな。静かに歩けないのかよ」
俺はうるさい女子高生にお前らの方がやばいから!と言ってやろうと思ったが、変な奴と言われネットに晒されるのは困るのでグッと我慢した。
「現代っ子はこえーな。あいつらすぐネットに叩くから恐ろしいぜ」
そんな事を言っているが俺もその現代っ子の1人だ。
こんな朝っぱらからゲームを買っているが実は16歳の相田和人。
社会的に言うなら高校生と言う部類に入る。
実は先程やばいと言ってたイカれた女子高生は俺と同じ高校の生徒だ。
そう、俺は現在高校生というレールを外れ家で自宅警備員をしている男。
社会的に言うならニートという者だ。
「ま、別に俺は自分の意思でこの道を選んだし、後悔なんてしてないし」
誰に言い訳をしてるかよく分からないがとりあえず俺が学校を辞めたというか行かなくなった理由は単純に人間関係の問題だ。
毎日高校に通うに連れて人間関係にストレスを感じ自然的にニートになっていた。
「まあ学校側もおかしいんだよな。何で勉強しに来てんのに友達なんか作んなきゃいけねぇーんだよ。そういうことしてるからいじめとかクソみたいな人種が出てくんだよ」
そう学校に文句をブツブツと呟きながら、俺は歩を進める。
「ん?何だあれ?」
それは名前も書いてない怪しげな看板を掲げた店だった。
あるのは商店街にある様な宣伝用の看板だけだった。
「気持ちの良い夢が見れるドリンクあります?」
それは周りが虹色に塗られ、文字はピンク色で書かれた怪しさマックスな、雰囲気の店だった。
「おいおい、誰がこんな店はいるんだよ。まず看板からしてセンスがなさ過ぎだろ。て言うか名前も何も無い店に入るわけ無いし。帰ろ」
俺はアホらしいと思い、店には寄らず家に向かう。
すると誰かとすれ違った。
最初は気にして無かったがよくよく考えるとあの怪しげな店の方向に行ってるのではないかと思い、俺はすぐに振り向いた。
するとちょうど男が店の中に入ってる所を見てしまった。
「え、ええ……マジかよ。普通入るかここ。文字に騙されすぎだろ」
最初は馬鹿にしてたが入る人がいるという事が分かり少し興味が湧いた。
「まあ、急いで帰っても明日があるし、少しだけ入って見るか」
人が居るという安心感もあり、俺は緊張しながらも店の中に入って行った。
「失礼しまーす……」
扉を開けると扉に付いていたベルがリンリンとなる。
木造建築で出来ていて中は様々な色の飲み物が瓶に入れられ棚に並べられている。
ライトは付いてない物と付いてる物があるせいか薄暗いが見えない訳ではない。
丁度いい不気味さを醸し出す明るさだった。
液体自体が発色したり、中に魚が居たりと、不思議な空間だ。
「まるで魔女の家みたいだな」
そういえばこんな感じのゲームがあった気がするな。
「そうだ、魔女はクリスって言うゲームだな」
そう思って改めて見ると何かゲームの世界に入ったみたいでワクワクするな。
すると奥で先程外に出てた看板が掲げらていた。
その下には例の気持ちの良い夢を見れるドリンクのような飲み物が置いてあった。
「あれが例のドリンクか……せっかく中に入ったんだし暇つぶしに買ってみるか。ん?あれは」
俺はとっさに棚の影に隠れた。
レジの所で先程入った男の人が会計をしていた。
手には気持ちのいいドリンクを持っていた。
「うわー本当に買ってるよ」
会計を終えて顔色一つ変えず扉に向かう。
そしてそのまま出口に向かう。
その人は手には四角い形をしたコンパクトなカバンでスーツ姿の30代のサラリーマンっぽい人だった。
途中俺の横を通り過ぎたが俺の方には見向きもせず店を出て行った。
「な、慣れている………」
こんな不気味な店に来ている客を気にしない訳がない。
俺だったら絶対誰か来たら気になって見てしまう。
それなのに俺には目もくれずそのまま店を出て行った。
それにさっき店の中に入る時も躊躇なく入って行った気がした。
俺だったら初見で入るなら3時間は迷ってその場をうろつく。
つまり、このサラリーマンは何度もここに通っている常連ってことだ!
「となると、あの看板に書かれてた内容は本当なのかも知れない」
物は試しだ!
俺は隠れるのをやめ、レジに迷わず向かった。
「いらっしゃい、おや?珍しいね。こんな所に若いお客さんが来るのは」
レジにはしわくちゃの紫色の服装きた80代位のおばさんがいた。
「えっと………あんたがこの店の店主か?」
「ああ……そうだよ。何を買いに来たのかな?」
マジかよ。
こんなおばさんが店やってるってまんま魔女の店じゃん。
「あ、えっと……そこのドリンク欲しいんだけど」
俺は例の怪しいドリンクを指差す。
するとおばさんが嬉しそうにそのドリンクを手に取る。
「おお〜これが欲しいのか欲しいのか。そうだろ」
「あ、えっと……そうだよ。魔女―――――」
するとその瞬間俺の目の前に刃物が向けられる。
「今、何て言った?」
「え?え?え?何?え?これ、何がどうなってんだ!?」
俺は突然の出来事で、テンパる。
これ一体どういうことだ!?
何で俺魔女みたいなババアに刃物向けられてんだよ。
「今!なんて言った!?」
「え?あ、えっと、おばちゃん!おばちゃんて言った!」
俺はとっさにそう答えた。
すると正解だったのか、刃物納め椅子に腰掛ける。
意味が分かんねえー。
だがこの数秒は俺にとっちゃ最もやばい数秒だったのは確かだ。
「それで何が欲しいんだい?」
まるで何事も無かったように質問してくる辺りやばいやつなんじゃないかと思う。
もう出よう。
「おばちゃん、やっぱり俺帰るわ。そんじゃ」
そう言って俺は一目散に扉の方に走って行った。
「ちょっと待ちな!」
突然の奇声を上げながら走っている俺の背中にダイブする。
俺は突然上から乗っかられたせいでそのまま顔からすっ転んだ。
「ぐぼふっ!?おま、何すんだ!このクソババア!!」
「お前さん!これがほしいんだろ!?そうだろ!?」
そう言って、俺が仰向けになりその上にクソババアが乗っかる形で気色悪いドリンクを顔に押し付ける。
「やめろ!離せ!いらねぇよそんなもん!顔に押し付けるな!このクソババアが!!」
「ふっふっふっ!なら私のディープキスが欲しいのかい!?それならそうと早く言いなさいよ。ほら!」
するとおばさんが唇を尖らせながら俺の顔に近づいてくる。
「うおー!!やめろーー!!分かった!買う!買うから!!だからやめろ!!」
その言葉を聞いてようやく俺を押さえつけるのをやめて、開放される。
やばい、これトラウマになる。
「ほい、特別に無料だよ」
そう言ってドリンクを俺に手渡す。
「あ、ありがとうございます」
俺は嫌々そのドリンクを受け取り、ゲームの袋に入れる。
「それじゃあまた来てくれよ。てい!」
「痛っ!?」
俺はクソババアに蹴られ店を追い出された。
「いつつつ……あのクソババア絶対許さねえからな。ネットで叩いてやる」
俺は不快な気持ちになりながら家に帰った。
――――――――――――――
「おい!ジョージ!!右だよ!!右!ああクソ!!またやられたよ」
クソ、あのジョージとかいうポンコツのせいで負けた!
あいつ前に出る割には、踊ったりアイテムを取るだけで何もしないとか邪魔しに来てるだけだろ!!
「ああーー!!むしゃくしゃする!」
俺はふと時計を見た。
時刻はすでに午前3時を回っていた。
「はあ……もういいや、寝よ」
俺はベットで横になろうと向かった時に足になにか当たった感覚がした。
「ん?あ、これって………あのクソババアから貰ったドリンク」
ゲームにハマってすっかり忘れていたが、これを飲めば気持ちの良い夢が見れるんだよな。
「あのクソババアから貰ったドリンク何て胡散臭すぎて即ゴミ箱行きだけど、気持ちの良い夢を見れるんだよな。う〜ん」
て、俺は何を迷ってんだよ!
こんなの捨てるに決まってんだろ!
そう思っても、手がガッシリとドリンクを掴んでいる。
「ちょっとだけなら大丈夫だよな………」
今日は特に酷い1日だったのもあって、気持ちの良い夢と言う物を体が欲している。
「よし!覚悟を決めろ相田和人!!これで死んでもいいって思うくらいの覚悟だ!いいか!行くぞ!言っちゃうぞ!!」
「うっせぇーぞ!!このクソニートが!!何時だと思ってんだ!!あたしはクソニートと違って、朝早いんだよ!!分かったらとっとと寝ろ!!」
階段の下から母さんの怒鳴り声が部屋中に鳴り響いた。
「あんたの方が絶対うるさい」
そう、母さんに聞こえないように小声で言ってしまう所、俺もまだまだ小心者と言う事だ。
「何を俺は深く考えてんだ。あのサラリーマンっぽい人も飲んでたんだ。毒なんてあるわけ無いだろ」
俺は前向きに考えピンク色の液体を一気に飲み干した。
「んぐっんぐっぷはぁー、うん、もも味だな。普通の」
もう少し特殊な味だと思ったが案外普通だな。
「さ、寝よ寝よ」
俺は瓶をそこら変に投げ捨て、ベットに潜った。
「気持ちの良い夢見れますように」
そう呟いて、俺は瞼を閉じた。
――――――――――――
「フンバー!フンバー!フンバー!フンバー!」
ん?何だ?騒がしいな?また隣の山田さんが奇声上げてんのか?
俺は聞こえない様にする為、布団を深く被ろうとする。
が、何故か体が動かない。
な、何だ?どうなってんだ?
俺は重い瞼を開き現在の状況を確認した。
「う、う〜ん………え?何これ」
目の前には十字架に建てられた木に手足を縛られている俺。
その下にある巨大なグツグツに煮込まれ過ぎてマグマ見たいになっている汁が入った黒い鍋。
そしてその周りを仮面を被った6人位の部族見たいな人が踊りながら右回りで舞っている。
「フンバー!フンバー!フンバー!フンバー!」
え?やばいやばいやばいやばい意味が分かんない。
意味が分からなさ過ぎて女子高生みたいにやばいしか言えないんだけど。
「フンバー!!」
「「「「「フンバー!!!」」」」」
そう言って仮面を被った部族見たいな人が奇声を上げて手を上げる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。状況を説明してくれ!」
意味が分からないこの状況の説明をしてくれる様に意味分からない部族見たいな奴らに伝える。
「フンバー!!フンバー!!フバフバ!」
やばい、全く意味が分からないんですが。
てかここ森の中か!?
何で森の中にいるんだよ!?
「フンバー!!フンバー!!」
すると突然俺に縛らてる木が動き出す。
「うおっ!?何だ何だ!?」
下を見るとフンバー言ってる奴らの1人が木を持ち上げていた。
「はあ!?嘘だろ!?こんなでっかい木を1人で動かしてんのかよ!」
「フンバー!!フンバー!」
すると木が急に傾き、黒い鍋に顔ギリギリで止まる。
「お、おい!ちょ、タンマタンマ!!ストップ、プリーズ!!」
頭が混乱し過ぎて意味分からんことを連発して言ってしまう。
とりあえずこの状況を打破しなければ。
俺はフンバー言ってる1人に話しかける。
「お、おい、フンバー、俺を食っても美味しくないぞ!だからやめろ!」
「フンバー?」
何言ってのか分かってないのか首を傾げる。
なるほど日本語は通じないって訳だ。
それなら一か八かやってみるか。
「フ、フンバー!フンバフンバー!フンバー!!」
とりあえず何となくこれ外して、俺美味しくないと伝えたが伝わってるのか?
するとフンバーの1人が理解したのか大きく頷く。
「フンバー!フンバー!!」
よし!これは何とか上手く行った感じじゃないか!?
ゲームで意味分かんない言葉の対処法と言う物をプレーしといて良かった。
やっぱりゲームはやっとくもんだな。
するとフンバーは鍋に草や何かの赤い粉を入れかき混ぜる。
え?あれ?何やってんだこいつら。
あ、もしかして別の材料を使うから鍋に入れる物を変えてるのかもしれない。
そうだそれしかない。
「フンバー!!」
「「「「「フンバー!!!!」」」」」
その瞬間、俺に繋がれている縄を切り離そうとする。
「え?ちょ、お前、何やってんだ!?人の話聞いてましたか!?俺開放しろって!」
「フンバーフンバー!」
親指を立て、グッジョブポーズをする。
「何がグッジョブだよ!意味分かってんのか!?ちょ、まじでやめて、やめろーー!!」
悲痛な叫びも虚しく縄を切っていく。
ブチブチと切れると同時に体が下に傾く。
「くそー!絶対覚えてろよこのクソフンバー共!!化けて出てやる!そしてトイレ中に膝カックンして手にかからせてやる!!」
ああ……まさか俺、こんな意味分かんない所で死ぬのか。
お父さんお母さん、今まで喧嘩ばかりだったけどありがとう。
「フンバー!!!」
全ての縄が切れ俺は鍋に向かって落ちてい――――――
「コールド!!」
その瞬間、俺の顔に熱さでは無く冷たさを感じた。
「うえっ!?ぐお!」
そしてそのまま何故かツルツルと滑り地面を転がる。
「な、何だ!?」
俺はすぐに立ち上がり俺がグツグツに煮えられるはずだった鍋の方を見ると、氷漬けになっていた。
「ど、どうなってんだこれ?」
すると先程フンバー!してた奴らが俺の方を指差し怯えた声を出す。
「フンバー!!フンバーフンバー!!」
それは俺では無い事は確実だ。
もしかして俺の後ろにいるのか?
俺はすぐさま後ろを振り返る。
「あんた達!何やってんの!?人は食べちゃ駄目だって言われてるでしょ!」
あのクソフンバー共を怒鳴り付けている女の人は俺が今まであった中で1番と、言うしかない程のキレイな人だった。
そう、まるで2次元のキャラクターの様な。
「フンバー!フンバーフンバー!!」
クソフンバー共は逃げる様に森の奥へと消えて行ったが、そんな事今の俺には気にも止めなかった。
「君?大丈夫?」
心配そうにこちらを見る白い髪の女の人。
その時俺はこの意味不明な現象に自分なりの答を出した。
これ、夢だ。