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鳥たちの革命歌  作者: 榎茸エノ
序章「空」
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 二羽の鳥は長い間にらみあいを続けていた。しかし一筋の落雷と激しい轟音ごうおんが地上に降りたとき、彼らは動き出した。

 黒鳥は白鳥に突進し、真っ暗な炎をふいた。白鳥はそれをするりと避け、空を大きく旋回した。するとやがてぶ厚い雲が渦巻いて、白い竜巻が発生した。竜巻はみるみる発達し、すぐに地上に連なった。地上の建物や木が次々と竜巻に吹き飛ばされていった。黒鳥はより一層激しい炎を白鳥に浴びせた。白鳥は今度は避けきれず、その白い羽に点々と黒い炎が燃えた。白鳥は苦しみもだえ、甲高い声をあげながらはばたき、黒鳥につかみかかった。黒鳥はバランスを失い、風にあおられ白い竜巻にのまれていった。


 カイは神殿内に戻り、慌てふためいてソラにこう言った。

『今、外に天使と悪魔がいる。殺し合いをしてるんだ。急いで止めないと、この国が滅んでしまう!』

 それを聞いて、ソラは目をパチパチとさせた。

「天使と悪魔? 国が滅ぶ? 何言ってるのよ、カイ……」

『ソラ! はやくしないと、はやく止めないと、みんな死んじゃうんだよ!』

 ソラはハッとしてカイを見た。カイの首元のトライアングルがキラリと光った。

 ソラはかすれた声で言った。

「止めるって……一体どうすれば……」

『鐘を鳴らすんだ』

「鐘?」

『この神殿のてっぺんにある鐘を鳴らせばいい!』

 ソラは周りを見回した。誰もが恐ろしい鳥たちの声に震えあがり、正気を失っていた。

 ソラは覚悟を決め、階段へと向かった。ふたりは大急ぎで階段を駆け上がった。とてつもなく長い距離だったが、どういうわけかソラは疲労を感じなかった。まるで足の裏にバネがついているように、とても速く駆けることができた。

 頂上に着くと、恐ろしい光景が目に飛びこんできた。空には分厚い黒雲が浮かび、そこから巨大な竜巻が降りていた。街の建物の多くは竜巻によって破壊され、あちこちから黒い煙があがっていた。二羽の巨大な鳥は傷を負いながらも、ものすごい勢いで争いを続けていた。

 ソラは蒼白になって頭を抱えた。悪い夢でも見ているようであった。意識が遠のき、ふらふらと倒れそうになった。カイはそんな彼女を支えこう言った。

『ソラ、はやく鐘を鳴らさないと!』

「鳴らすってどうやって?」

 3つの鐘がそこにつりさがってはいるが、それを鳴らすための道具は全くなかった。

『六芒星、床に六芒星が描いてあるでしょ? その真ん中に手を置いて、想像するんだ、鐘が揺れる姿を!』

 確かに、床には一階の広間と同じように金色の六芒星があった。しかし床に手を置いて想像するだけで鐘が鳴るなんて、聞いたこともないし信じられなかった。が、ソラは他になすすべもないので、カイの言う通りに六芒星の中心に両手を重ねた。そして目を閉じ、鐘が揺れ動く姿を一心に思い描いた。

 その瞬間、六芒星が金色に輝いた。光は一瞬にして、ソラとカイを包みこみ、3つの鐘へと連なった。そして、鐘がその光におされるようにして動き始めた。

 ソラは黄金の光の中、その鐘の音を聞いた。それはとても美しい音色だった。ぜつが打つ力強い拍の裏、3つの音のハーモニーが響いた。春空の風のように爽やかで、海底の谷のように奥深い和音だった。

 ソラはその美しい音楽に聞き入るとともに、あらゆることを思い出した。林の湖、高い壁、町の人たち、三角屋根の家、父親と母親、学校の友達、そしてカイ。楽しかったこと、悲しかったこと、うれしかったこと、怖かったこと……たくさんの思い出が彼女の胸にあふれた。

 いつしか、ソラは泣いていた。

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