天使と悪魔
天使と悪魔。
人間の心には、このふたつの存在が住んでいる。天使は愛情や安らぎをつかさどり、悪魔は憎しみや怒りをつかさどる。人間はこのふたつの存在を心に宿すことで、豊かな感情を表現できる。笑ったり、怒ったり、泣いたり……。
しかし、天使と悪魔はしばしば対立し、人間の心に苦しみを生む。人間はその苦しみを葛藤と呼ぶ。葛藤は迷いを生み、迷いは争いを生む。
古来より、人間は葛藤から解放されるべく、あらゆる努力をつくしてきた。しかし、葛藤から解放された者は、死人をのぞいて他にいなかった。
そこで、人間は神に願った。
「我々の中に住む天使と悪魔を別離させてほしい」
神はこれを聞きいれた。人間は分解され、地上に天使と悪魔が舞い降りた。ただし、分解を拒んだ者もおり、彼らはこれまで通り人間として生きていきたいと願った。神はこれも聞きいれた。
こうして、3つの国が誕生した。天使の国『エンゲル』、悪魔の国『トイフェル』、人間の国『メンシュ』。それぞれの国は高い壁を築いて、互いの関係を絶った。それから長い年月の間、天使は天使、悪魔は悪魔、人間は人間という明確な境界線のもと、その世界の秩序は保たれていた。