覚悟を示すもの
(そっか、今のボクじゃ駄目なんだ。だったら――)
発想を逆転させてみたらどうだろうか。
「そんなの示せるわけないじゃないですか!」
「「…えぇ!?」」
ガエン、ソウヒ、そして周り男達が驚き言葉を失った。
(あれ…何かマズい事言った? まぁでも今は勢いが大事!)
「だって商人なんです。…見習いでしたけど。傭兵や兵士じゃないのですから戦いにも慣れていません。でも最初から戦いに慣れている人なんていません。新兵はまず後方で支援をしながら戦の空気に慣れることから始めると聞きます。ボクがそこから始めるのは不思議じゃないでしょう?」
間違ってはいない。訓練、演習、そして実戦。それらを経て兵士は成長する。ただ、カリナは忘れていることがある。自分が女の子であるという事と、周りの目を引くほどに可憐な容姿の持ち主であること。そういう存在が戦場でどうなるかという事に。
全く意図が伝わっていない事実に気付いたソウヒが、頭痛でこめかみを抑える。ガエンと部下達は苦笑していた。
そして――
「そりゃそうだ!ソウヒ、お前が面倒見てやれ」
「お、親父殿! 正気ですか!」
「お兄さん、お願いします」
「ほら見ろ、嬢ちゃんはお前を指名してるぞ? 男をみせろ!」
「「そうだそうだ!」」
ガエンと部下達、そしてカリナも加わりソウヒを煽り焚き付ける。
逃げ道のなくなったソウヒだが、カリナを見ながら覚悟を決めて叫ぶ
「あぁ畜生! やってやろうじゃんか!」
「よっし! 言ったことは絶対守れよソウヒ! 絶対にだ! お前ら今夜は飲むぞぉぉぉぉ!」
「ぃやっほぉぉぉぉおおおお―――――――ッ!」
ソウヒの言葉を歓迎する男達。今度こそ最高の盛り上がりになった。
そんな連中をソウヒは疲れた目で睨んでいた。
そして――
「絶対に護ってみせるさ、絶対に……!」
*****
カリナから見れば、ガエンから解析――という名のセクハラを受けて黙ってるのは面白くない。
その為、何か仕返しをしたいところだった。
(アルさん、何かいい仕返しってない?)
何気にアルベルトに尋ねる。
≪ならば、同じことをやり返すのは如何でしょうか。少しは懲りるかもしれません≫
(それはいいかも。ガエンさんがどれだけ強いのかも知りたいしね)
カリナとしても解析スキルに興味があった。
という事で、さっそくガエンをジッと見つめて解析スキルを発動する。
(解析…)
名前:ガエン
性別:男
年齢:35歳
HP:492 / 492
MP:270 / 270
攻撃力:392
防御力:266
集中力:153
魔力:16
魔力抵抗:96
魔力精度:0
状態:酩酊
コモンスキル:武器技能(7)/戦闘指揮(5)/警戒(6)/異常耐性(6)/交渉力(1)
エクストラスキル:イーグルアイ/鑑定解析/解析察知
ユニークスキル:ラッキーチャーム
解析スキルを発動すると、ガエンがギョッとした顔でカリナを見た。
カリナはそれに対して、フフンと言わんばかりの表情で返す。
(…でも、基準がないからどのくらい強いのか分からないかな。お兄さんも解析しよう)
最初はセクハラの仕返しのつもりが、楽しくなってソウヒにも解析を発動する。
この能力は相性が良すぎた。
名前:ソウヒ
性別:男
年齢:15歳
HP:130 / 130
MP:91 / 91
攻撃力:124
防御力:113
集中力:62
魔力:18
魔力抵抗:62
魔力精度:0
状態:興奮
コモンスキル:武器技能(4)/戦闘指揮(2)/警戒(4)/異常耐性(3)/交渉力(2)
エクストラスキル:ワイルドリリース
ユニークスキル:悟りの光
全体的にガエンが上回っていた。
他、目についた男たちを解析したが、ソウヒと同じくらいかやや強い程度だった。
(アルさん、ボク自信も解析できる?)
≪可能です。主様≫
戦いに関しては素人なのであまり期待していないが、何を中心に訓練すればいいかの目安になるだろうと、
自分に解析を発動した。
名前:カリナ
性別:女
年齢:12歳
HP:1280 / 1280
MP:6500 / 6500
攻撃力:581
防御力:476
集中力:257
魔力:692
魔力抵抗:916
魔力精度:325
状態:通常
コモンスキル:武器技能(10+)/魔法技能(10+)/警戒(4)/異常耐性(3)/交渉力(4)
エクストラスキル:威圧/狂化/暴走制御/鑑定解析/解析察知/鑑定遮断/高速思考
ユニークスキル:前世の知識/分割意思/魔王の権能
(なにこれ…!?)
解析結果があまりにも規格外だった。
何度も解析しても同じだったので間違いではなさそうだ。
≪主様の持つユニークスキル『魔王の権能』により、眷属である我らの能力を主様へ献上した為です。ちなみに我が能力は解析や探知などの情報系スキル、妹エルベレーナは戦闘技能系を保有しております。≫
(つまり、どのくらい強くなってるの…?)
≪はいっ! 戦闘技能なら既にスキル上限を超えた状態です! 人間でいう達人や剣聖といった類を相手にしても余裕で倒せまっ! 魔法技能は詠唱なしで戦術魔法も操れまっ!≫
自分の得意分野の話題が回ってきたので、エルベレーナが得意気にデスマ口調で語り始めた。
(そんな能力、ボクでは扱いきれないよっ…!)
≪主様、『魔王の権能』を解除することで我らの能力を抑えることは可能ですが、主様に危険が及ぶ可能性があり推奨しません。代案としていくつかの能力を信用のできる者に提示し、味方に引き入れる事を提案します。≫
(信用できる人にボクの能力を教えて、不信感を抱かないようにするんだね)
誰にも教えられない秘密を告げられるという事は、信用しているという証になる。
そう言う時は得てして相手を信頼してしまうものだ。
≪流石は主様、我らの考えなど全てお見通しでございますか≫
(それなら、ガエンさんと、あとはお兄さんに伝えようかな)
宴会が終わる時を見計らって、カリナは二人に自分の秘密を告げようと考えた。