敵陣の中で 4
2話分投稿してしまった部分の後半。
推敲してないので、文章に誤りがあったりするかも・・・。
「あれはやっぱり、こっちに気付いてますね。目的はボクたちかな?」
「考えられるな。生死人に知り合いはおらんのだが…」
「ボクだっていませんよ…!」
カリナとイシュミルは石壁の影に身を隠しながら、此方に向かってくる生死人を出来るだけ観察していた。
すぐに気が付いたのは、王国軍の正規兵と同じ鎧を纏っている事。
それに動きにも統制がとれている。自然に徘徊している生死人は勿論、下手をすれば味方の兵士達よりも訓練された動きだ。
だが、幸いにもその移動速度はそれほど速くない。
「死霊軍隊と呼ばれそうなくらい動きに無駄がありません。やっぱり『夜目』を持ってるのか、孤立してる兵士さんをあっという間に取り囲んでます」
「まだ儂には見えん…な。あとどのくらいでここに辿り着きそうか?」
「もうそろそろです」
そう言うと、辺りを見回しながらカリナは立ち上がり狙撃手の気配を警戒する。
故意か偶然か、最初の一発は領主であるイシュミルを狙撃したのは間違いない。障害物を避けて雨の様に矢を降らせる曲射ではなく、狙いを定めた平射であったことがその証拠だ。
それにまだ狙われているとしたら、今度は守りきれないかも知れない。
「とにかく、お兄さん達の所に戻りましょう。ついてきてください」
「よし、背中は儂に任せよ!」
小柄なカリナの体が半分くらい埋まってしまいそうな大きな腹を揺らしてイシュミルも立ち上がる。
天幕に移動しようと走り出した矢先。突然、予想外のところから予想外の襲撃を受ける事となった。
「て、敵かッ!? 死にやがれェ!」
「ぅわぁぁ! 違います! 見て、よく見てッ!!」
暗がりから剣を振り下ろしてきたのは、味方の兵士だった。
まだ経験不足なのかカリナ達を敵と勘違いして怯えた表情をしている。
恐怖のあまり無我夢中で攻撃してきたのだ。
「何ッ!? ――あッ! これは申し訳ない!」
「謝って済む問題じゃないですよ! 冷静に相手を見て!そうでないと――」
「…マズい! この暗がりでは同士討ちになりかねんぞ!」
カリナが文句を言い終わる前に、イシュミルが声を上げる。
それに驚いて周囲の兵士達を見回してみると、その言葉通り、敵味方の判別がつかない兵士達の間では同士討ちが始まっていた。
「あ、あれは……!? どうして…!!」
「みんな周りが見えておらんのじゃ、この者の様に!」
敵の速度が遅かったのは、孤立した兵士達を倒すことだけではない。
陣中の篝火を消すことで、闇をつくり、闇にまぎれて兵士を各個撃破していく。
それよって兵士達は恐怖と不安の中で戦闘を強いられる事になる。
『夜目』を持つカリナはともかく、殆どの兵士は敵味方の判別がつかず、近づく者や動く者に反応して剣を振るう。それを攻撃されたと勘違いした兵士も相手を敵とみなして反撃する。
つまり、敵は味方の混乱を誘発しているのだ。
それを聞いた瞬間、自分の能力の異常さにカリナは初めて気が付いた。
「でも、幾らなんでも同士討ちだなんて…。ここの指揮者は何をしているの!?」
これがガエンやソウヒが率いる解放団であればこんな事にはならない。
例え夜襲を受けてもそれなりの対処法があり二人はそれを熟知しているからだ。
だが、いつまでたっても収まらない混乱。指揮官や兵士達の質は高くない事は確かだった。
「う、うわぁぁぁ!?」
「な、何だコイツらッ!!」
周囲から兵士の悲鳴が上がる度に混乱に拍車が掛かっていく。
しかし幾ら練度が低くとも、指揮者の一声があれば混乱は収まる筈。だが一向にその声が上がってこない。
「そうだ、指揮官はグスタフ様。あの人は天幕に――もしかして!」
カリナは先程まで居た天幕の方を見た。そしてその光景に愕然としながらイシュミルに声を掛ける。
「イシュミルさん、敵はこっちだけじゃなくてお兄さん達――いえ、王子様の天幕に向かってます!」
「何と…!?」
「それだけじゃない、指揮官であるグスタフさんを狙ってるんです!」
「それはつまり陣内に内通者がおるという事か!?」
「判りません! でもすぐに助けに行かないと!」
カリナはそう言うと、兵士達を叱咤するように大声で叫ぶ。
「皆さん、急いで指揮官の所に向かってください! それと明かりを、篝火を焚いて!」
だが混乱している兵士達に指揮官でもないカリナの声は届かない。
暗がりの中で恐慌状態に陥った兵士達は、敵の姿を探す者、近くの悲鳴を聞いて逃げ惑う者、怪我を負って倒れた仲間を守る為にその場を動かない者で溢れており、完全に指揮系統が麻痺している。
「ああああ――ッ!! もう!」
時は一刻を争う状況で兵士達はこの様である。声を荒げるのは無理もない。
その時、カリナの声に反応した生死人達が長剣を片手にものすごい速度で斬りかかってきた。
その動きは本能によって獲物を追うそれではない。明らかに混乱を収めようとするカリナを排除しようとしている。
先日の戦いで見た時と同じく、生死人とは思えぬ機敏でかつ変則的な動きで翻弄しながら間合いを詰めてくる。
「イシュミルさん、ボクの後ろに隠れて!」
「くっ! すまん嬢ちゃん!」
不甲斐ないと謝りながら、イシュミルはカリナの背中に隠れる。
カリナは右手に魔力を込めて魔力剣を形成すると、牽制するように剣を振った。
キン! キキンッ! ギギィンッ! ガンッッ!!
数十の生死人が一斉にカリナに群がってくる。
その物量と重圧に、取り囲まれるのを辛うじて逃れながら攻撃を往なしていた。
動かない左手のせいで体を思うように動かすことができないが、一歩でも下がる訳にはいかず、また一歩も後ろに行かせる訳にはいかない状況。
カリナは右手一本で敵の攻撃を受け流す。僅かでも隙を見せれば命とりだ。
敵の隙を伺ってる余裕はない。反撃は即ち隙を晒すことになってしまう。
最悪なのはそんな状況を覆す術を考える時間すらない事。
最早どうしようもなく不利な状況に追い込まれていった
あまりの手数で。そしてついに敵の一撃がカリナを捉える。
グズッッ!!
「くぅ! このぉぉぉッ!」
一度気が削がれれば、後は一瞬だった。
横腹に一撃を受けた事で思わず仰け反ってしまう事が切っ掛けとなり、次々と刃がカリナの体に突き刺さっていく。
「うあ、ァアッ! ッアアアァァァアア――ッ!!」」
「嬢ちゃん――――ッ!?」
カリナは生死人達から代る代る幾つもの剣を突き刺され、まるで剣山の様になっていく――
そして遂に、カリナの右手から魔力剣が消失した――




