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射手座の箱舟  作者: トンブラー
魔王降臨編
7/72

カリナvsガエン

「ふぅ…。死んでないよな…?」

 

 ガエンは思わず手加減なしで殴ってしまったことを反省しながら、カリナの方へ駆け寄った。

 

 その瞬間――

 

「――火の精霊よ!」

 

 吹き飛ばされたカリナを庇うように火の精霊が顕現する。

 

「な、んだと!」

 

「刃となりて敵を滅せよ! ファイアボール!」

 

 火の精霊が火球に姿を変え、ガエンに襲いかかる。

 

「うおおおぉ――――ッ!?」

 

 ガエンが飛んできた火球をギリギリで躱し、すぐに体制を整える。

 

「――舞い上がれ砂塵! 踊り狂え!」

 

 風によって舞い上げられた土石がガエンを吹き飛ばした。

 

「――ぐはっ!」

 

 背中から地面に叩き付けられ、思わず肺から空気が噴き出した。


(どういうことだ…いきなり魔法を使い始めやがった!)


 攻撃の質がこれまでとは明らかに異なり、知性が感じられる。


「……お嬢ちゃん、狂化が解けたのかい?」

「はい、おかげ様で色々と思い出しました」

 

 カリナの雰囲気に、ガエンは違和感を覚える。

 狂化前はもっと余裕がなく、ソウヒが近づいただけで怯えていたのに。

 単に戦う覚悟ができただけか、それとも……?

 

「そうか、なら話を聞いてもらいたいのだが」

「……ボクは見逃してほしいのですが」

「君がそう望むなら止めないさ。まあ俺としては、君が仲間になってくれることを期待してるが」

「……それなら押し通るまでです。盗賊は信用できない、それが私の答えです。」

「そうか……残念だ……」


 そういって、ガエンは剣を構える。

 対峙するカリナは――魔力によって作り出された――短剣を持ち構えた。

 それを見た途端、ガエンは呆れて毒づいた。


(その魔力があればAランク冒険者、いや何処かの国で宮廷魔導師にだってなれるだろうよ…!)



*****



 カリナは内心怯えていた。

 気を失っている間の記憶は、朧げに覚えていた。

 それをきっかけに目覚めた前世の記憶。

 そんなもので今の状況を切り抜けられる事はない。

 必要なのは戦う力なのだ。

 

(相手が警戒してる間に逃げないとっ!)

≪はいっ! 大丈夫です! アタシが主様をお助けしまっ!≫


 頭の中でエルベレーナの声が聞こえた。

 

(ゆ、夢じゃなかったんだ…!)

≪はいっ! アタシも兄アルベルトもいつまでも主様にお仕えしまっ!≫

 

(あの…、じゃあ此処から逃げることはできますか?)

≪はいっ! それくらい余裕です! でも…≫

(でも…?)

≪張り倒して、従えてしまえばいいのではないでしょうか?≫

 

 とんでもない提案だった。

 カリナは当然却下しようと思った。

 

≪主様、この辺りは主様にとって過酷な土地。撤退後は装備や食料がない状態で野盗や魔獣達を警戒しながら生き抜くには危険が伴います。≫

 

 アルベルトが妹の提案に賛成する。

 

(で、盗賊を部下にしてボクも盗賊になるのですか? そんなの嫌ですっ!)

≪では、一旦は話に応じるというのは如何でしょうか。相手を油断させて隙を見て逃亡するのです。現在、主様は非常に危険な状態です。こちらに害が及ぶまでは利用するという手もあります。≫


 気が張っているせいで気づいてないが、実はカリナの体力は限界だった。

 アルベルトの提案はそれを鑑みたもので、逃げたり戦うよりも現実的なものだ。

 尤も、カリナ自身に手が及ぶようならその限りではないが。

 そうと決まれば、あとは落としどころを如何するか。。。

 その時――

 

「じゃあ、始めようかっ!!」

 

 ガエンがそう言いながら向かってきた。

 

 

*****

 

 

 ガエンは内心焦っていた。

 

 「あれ?なんでまだ戦うことになってんの?」とか、「それ以前に穏便に済ませたらよくない?」とか、「その場の勢いって恐ろしいよね」など……。

 

 狂化が解けたのだからもう戦う理由はないはずなのに、尚対峙する自分に心底呆れている。

 

 それと、目の前の小娘が異常なのだ。

 ありえない魔力で形作る短剣は、カリナの潜在能力の高さを示している。

 殺しあえば無事では済まないだろう。

 厄介な相手だが、手がないわけはない。

 

(先手必勝だ)

 

 なぜか此方に注意が逸れている今が最大のチャンス。

 それを逃すわけにはいかない。

 

「じゃあ、始めようかっ!!」

 

 そう言いながらカリナに斬りかかった。

 

「……えっ!?」

 

 呆けた顔をして動かないカリナに、ガエンが最速の一撃を放つ。

 

 ――ガキンッ!!

 

 カリナの短剣がガエンの剣を打ち払った。

 

(あれだけ隙だらけだったのに……まさか誘導されたっ!?)

 

 ガエンが慌てて距離を取る。

 だが、カリナから追撃は来なかった。

 分けが分からず慎重に出方を見るが、単に反射的に受け止めただけらしい。

 

(そうか、うっかりしていた。魔力は高くても戦いは素人だったな。)

 

 そうとなれば、あとは魔法さえ気を付ければ何とでもなる。

 ガエンはそう考え、再度斬りかかった。

 いかに魔力が高くとも、間合いさえ詰めればこちらのものだと。

 

 だが――…

 

 ――ガンッ!! ガンッ!! ガキンッ!!


 ――ギンッ!! ギンッ!! ガッ!!

 

 ――ガキンッ!! ガキンッ!! ガンッ!! ガッ!!

 

 全ての攻撃が弾かれた。

 始めこそ手加減していたが次第に手を抜かなくなり、最後は本気になって攻撃を繰り出す。

 それでも一撃も当たらない。

 避ける必要もないと言わんばかりに、事もなげに。

 

「な、何なんだお前は…」

 

 ガエンが驚愕する。

 彼が冒険者ギルドに所属していた頃、

 格上のAランク冒険者すら渡り合える程の実力があった。

 自惚れていたか、相手を侮っていたつもりもなかった。

 

 更に重く鋭い一撃を、そして速度を上げていく。

 だが、次第にガエンの方が疲労によって攻撃が乱れ始めてきた。

 

(くそ…。何か手はないか…?)

 

 その時――…

 

「ま、参りました…」

 

 カリナからの予想しなかった言葉。

 全く歯が立たず、遊ばれていた感覚すらあったのに。

 思わず激昂するガエンがカリナを睨み――すぐに理解した。

 

「そうか、なら話を聞いてもらえるのだな」

 

 ガエンが剣を収めながらカリナに声をかける。

 

「は、はい……」

 

 カリナの顔は真っ青だった。額に汗を浮かべ、手も足も震えている。

 ガエンとは違い戦いに慣れていないカリナは、ガエンの気迫に押され気力の方が持たなかった。

 

 「うおおおおおおっ!」

 「なんかすげぇもの見たぜ!」

 

 離れてみていた周囲の男たちも安堵し、そして盛り上がってガエンに駆け寄っていく。

 その中でソウヒがカリナの所へ――なるべく脅かさないようゆっくりと近づいた

 

「じゃあ、傷の手当てをするぞ? 別に触れるわけじゃないから安心してくれ」

「う、うん……」

 

 それでもカリナの体は強張っていた。どうしても恐怖が蘇る。

 それをソウヒは呪文を唱え始めた。

 

「ムニャムニャ……キェェェェェェェェェェェェェイッ!!」

「ひえぇぇぇっ!?」


 ソウヒから奇声があがり、カリナから悲鳴が上がる。

 その瞬間――…

 

「あ、体が…」

 

 カリナの体に光が集まり、傷が塞がっていく。

 光は優しく温かく体を包み込み、カリナの緊張を和らげた。

 

「むぅ……すまない、傷が深すぎて残るかもしれない。」

 

 ソウヒはすまなそうに謝った。

 

「そんなこと、ないよ。ありがとう…」

 

 はにかみながら応えた。

 もしかしたら、本当に助けてもらえるかもしれない。

 もしかしたら、奴隷生活から解放されるかもしれない。

 捨てた希望が再び戻ってきた感動から、涙が浮かんできた。

 

 光に包まれる心地よさからか、これまでの緊張の糸が緩んだせいか、

 程なくしてカリナは眠りについた。


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