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射手座の箱舟  作者: トンブラー
奴隷解放編
69/72

敵陣の中で 2

誤って2話分載せてしまいましたが、やっぱり文章が拙いので分けて投稿。

今回の補てん分はもうちょっとかかりそう。

  ゲシッ! ゲシッ!


「それでイシュミルよ。何故貴様はこの者達に手を貸している?」

「それについては以前話した通り、儂とこの者達が目指す先が同じだった事。それが一番の理由ですな」

「貴様、俺が馬鹿だと思っているのか? 俺が聞きたいのはそんな事ではない。侯爵である貴様がこれだけの危険(リスク)を負うからには、それなりに信用がおける者達なのだろう? それを説明せよといっておるのだ」

 

  ガッ! ガスッ! 

 

「むぅ、それにつきましては、儂より副長(ソウヒ)から説明を受けてもらえますかの? 儂は急に呼び出され、昼夜問わずの移動でもうヘトヘトですので」

「え? 俺からかよっ!?」

「チッ、仕方ないソウヒよ。包み隠さず説明せよ。…だがその前に――」


 ガッ! ガスッ! ゲシッ!

 

「カリナよ、先の件は悪ふざけが過ぎたのは認めるから許せ。本気でなくとも少々痛いぞ」

「…………」


  ゲシッ!

 

 機嫌が直らないカリナは頬を膨らませてラクーンを足蹴にしている。

 少なくとも王家の者にとる態度ではない。ラクーン本人がどれだけ罪を軽くすると言っても死罪は免れないだろう。寧ろその場で討ち捨てられたとしても不思議ではない。

 

「と言うか、貴様らは早く止めんか! 王家(オレ)が足蹴にされて黙っている者がおるか!」

「そ、そうは申されましても…」

 

 勿論、グスタフや将校達も黙って見ていたわけではなかった。

 カリナを捕えたり斬り捨てる事は出来ずとも、機嫌を取るくらいは出来るはずなのだが、彼らの前に立ち塞がるリーシェがそれを許さない。

 カリナの傍に控えていたリーシェは当の本人よりも気が荒くなっている。下手に近づけば何をするか分かったものではなかった。

 

「ここを血の海にされていないだけ感謝するんだねェ…!」

 

 冷たく微笑みながら物騒な事を言い放つ。ソウヒもそんなやりとりを呆れて眺めるだけで、止めることはしない。

 寧ろ、ここまで怒るカリナを見るのは久しぶりで、そこもまた可愛いと内心思ってしまうのだった。

 だが、このままでは話が続かないのも事実である。イシュミルにカリナを止めるように目で合図を送ると、やれやれと言う表情を返される。

 

「嬢ちゃん。ここはソウヒに任せて儂と外に出てるとしよう」

 

 その声でラクーンの足を蹴り続けるカリナは動きを止める。未だ目が座っているのでまだ納得はしていないが、イシュミルが言うのだから渋々了承したという感じだ。

 

「――わかりました。リーシェはこのままお兄さんの護衛に就いてください」

「はい、お任せください!」


 リーシェも未だに人間達には敵意を向けながら、カリナの指示には快く返事をしながら見送るのだった。

 

 天幕から出ると既に陽は沈み一面の星空となっていた。遠巻きにして様子を伺っていた兵士達の顔は強張っているのが見える。

 カリナは彼らを一瞥すると、その全員が目を逸らし持ち場に戻って行った。

 

 

「――アレが例の…」

「まじかよ……子供(ガキ)じゃないか」

「それよりも耳を見ろよ。 ありゃエルフか?」

「バカ、髪の色が違うだろ。あれはハーフエルフだ」

 

 兵士達が持ち場に戻る最中、そんなやり取りをしている声が聞こえてくる。今まで散々聞かされてきた話題だ。

 

(他人の姿形なんて、どうして気になるのかなぁ)

 

 そう考えてしまうのもいつも通り。恐らくその疑問に答えられる者はこの世に誰もいないだろう。

 そんな思考を振り切るように、前を歩くイシュミルについていく。

 先程まで息も絶え絶えの様子だったイシュミルも、時間が経つにつれ回復し今では話ができる程度にまでに元気になっていた。

 

「イシュミル様はどうしてここに? ボク達との事はもう知られてたみたいでしたが」

「様はいらんよ嬢ちゃん。儂の王子殿下と考えに幾つか通じるところがあってな、前に討伐軍が編成されてから、殿下にはお主たちの事を伝えていたのじゃ。

 儂がここに来たのは、殿下から火急の用があるから急いで来いと言われてのぉ…。そりゃもう昼夜問わず馬を走らせて、つい先程到着したばかりじゃよ」

「あの人は…!」


 領主であるイシュミルを呼びつけた理由が単なる悪戯の為だったのかと、カリナは心底呆れた顔をする。だがそれを当のイシュミルは彼をフォローするように笑いながら言った。

 

「ハハハッ! しかし王子殿下はあれで頭が切れるお方。この国の現状を常に憂い、少しでも良くしようと日々頑張っておられる。――少々子供じみたところもあるが、話の解るお方じゃぞ?」

「それは…、そうだけど…」

 

 今一つ腑に落ちなかったがそれはカリナでも理解できる。

 ラクーンは王族であり、上級貴族の頂点に当たる。彼らにとってカリナ達など盗賊の一味でしかなく、そんな連中の話に応じる理由など何一つない。

 しかしラクーンは「戦力としても労働力としても有能だから」と言いながら迎え入れようとしていた。こんな事、大陸中でどこを探してもあり得ない。

 

「でも、イシュミル…さんだって同じ事をしていたと思います。領主様にとってガエンさんやお兄さんは『盗賊』です。それこそ王子様と同じじゃないですか」

「フフッ! ここだけの話、儂とガエンは遠い親戚にあたるのよ」

 

 そう言いながら小声でカリナの耳元で秘密を打ち明けた。


「ほ、本当なんですか…?」

「うむ。今までそれを知っておったのは儂とソウヒだけじゃった。そして今頃、王子殿下にも伝わっておるじゃろうな」

 

 ガエンは隣の小国であるグレイス王国の血筋で、先日会ったメルティナの実兄だった。とある事情で国を追われ冒険者として近隣諸国を廻っていた際、アルガットの奴隷の事を知ったのだった。

 そして奴隷商人達の中には盗賊達と手を組み、近隣諸国から罪のない旅人や村人、果ては子供を攫っては売買している事や、表向きは違法としておきながらもそれを黙認している国の実情を知る。

 

「奴は激しく怒りこの近辺を荒らしまわった。儂が領軍を差し向ける程にな。そして奴を捕えた時に取引にしたのよ」

「……いま、さらっとすごいこと言いませんでした?」

 

 ガエンの冒険者としての実力はAランクに匹敵する。Aランクと言えば戦鬼(オーガ)と同程度の脅威に立ち向かえる実力を持つという事だ。

 そしてガエンの恐さは実力がありながらも、解放団という集団――組織を率いている事にある。

 普通の兵士では唯でさえ手に負えないのに、それを捕えるなど並み大抵の事ではない。

 

「その時、奴と対峙したのがソウヒよ。それはもうケッチョンケチョンに熨されての! ワハハハハッ!」

「えええぇ…」

 

 面白おかしく笑うイシュミルと、それに痛々しい顔で返すカリナ。

 それも当然の話である。今はともかく元々ソウヒの実力はDランク。地方で勤める衛兵とそう変わりはない。

 

「どうやって捕まえたんですか?」

 

 先程まで機嫌を損ねていたカリナも興味が湧いてきてイシュミルに尋ねた。その食いつき方から逆にイシュミルの方が驚きながらも話を続ける。

 

「ふふっ、何だと思う? 特に策を用いたわけでも罠に嵌めたわけでもない。そんな器用な事はソウヒには出来んからの。……なんと、馬鹿正直に真っ向勝負を挑んだのよ。それはもう何度も何度も熨されて、それでもすぐに立ち上がり、立ち上がっては熨されての繰り返しじゃ」

「…………ッ!!」

 

 それを聞いた瞬間、その時の光景が目に浮かんできて吹き出しそうになる。そして同時にソウヒらしいと感心するのだった。

 恐らくソウヒは真面目過ぎるが故に、実力がありながら盗賊紛いの活動を続けるガエンの事が許せなかったのだ。

 そしてガエンのやり方を、それこそガエンの方が折れるまで挑み続けたのだろう。

 

「ガエンさんもそうですけど、お兄さんは不器用ですから」

「ワハハ! 正にその通り! そして遂にガエンが折れ、以降は儂の元で活動する事となったんじゃ」

 

 そう聞くと、ガエンが何故ソウヒをあそこまで信頼しているのかが分かった気がする。

 恐らく今の解放団の方針は全てソウヒの意向に沿っているのだろう。

 二人の関係をこんなに羨ましいと思ったことはなかった。

 

 

 そんな話をしている内に、陣の外周まで辿り着いていた。

 簡素ながらも敵の襲撃に備えてしっかりと打ち込まれた柵の先には、嘗てカリナが魔素を振りまいた森が見える。

 

「…んん?」

 

 ふと、その森の奥から気配を感じた。まるで糸をキリキリと引き締めていくような音も――。

 

「どうかしたの?」

「いえ、森の方から何だか変な気配が…」

 

 カリナがそう呟いたその次の瞬間――。

 

  ヒュバッッ!!

 

「ぅあッ!?」

「じょ、嬢ちゃんッ!?」

 

 風切りと共に衝撃がカリナを貫いた――。

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