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射手座の箱舟  作者: トンブラー
奴隷解放編
64/72

魔獣化

 ラクーンが剣を振り降ろした瞬間、目の前が真っ暗になる。

 意識はあった。ただ自分がどうなっているのか分からない。

 立っているのか、浮いているのか――。

 

≪まったく、君は心が弱すぎる。もう少し精神を鍛えたらどうだ?≫

 

 背後から掛けられた声に反応して振り向くと、長い黒髪で少し吊り上った目が特徴の女性がそこにいた。

 初対面だったが、それが誰か直ぐに理解する。

 

「君が理世だな? そしてそれが本当の姿――」

「コラ、私の方が年上なんだ。さんをつけなさい」

 

 荒事などしたことないのだろうと思わせるほどに細い腕と白い肌の美人。

 その面持ちはカリナとそっくりだった。

 ただ、カリナとは違って性格はキツそうだが。

 

「そう、この姿が本来の姿だよ」

「カリナもだが、アンタもえらく美人だな。驚いたよ」

「そう? まあ死んだ私の姿なんて詮無い事だよ」

 

 褒め言葉のつもりだったが、理世は大して興味のなさそうな口調で返す。

 実際、前世でも自身については無頓着だった。それが何故か他人の目からは『美人なのにそれを鼻にかけず、控え目な性格』と映っていたのだが。

 

「そんなことはいい。早く目を覚まさないと、あの大男にとどめを刺されるぞ」

「あ、ああ……。だがこのまま戦っても勝ち目が――」

 

 ラクーンがあの鎧を纏っている限り、ソウヒの攻撃は通用しない。

 鎧を破壊して効果を弱める事が出来ればいいのだが、多少削っただけでは殆ど意味がないし、時間がかかりすぎるのだ。

 理世が身体能力(ステータス)を限界まで引き上げれば――そんなソウヒの考えを否定するように理世が話し出す。

 

「悪いが今以上に身体能力(ステータス)は引き上げられない。というかこれが目一杯なんだ。本当ならもっと能力を上げられるはずなんだが」

「どういうことだ?」

「どうにも身体能力(ステータス)を引き下げる状態異常(デバフ)効果を感じるんだ。 あの鎧のせいか他の要因なのかは分からないけど」

 

 なるほどとソウヒは一人納得する。

 確かにまともに直撃を受けたとはいえラクーン――人間の振り降ろした程度の攻撃に耐えられない身体能力(ステータス)ではないはずだ。

 少なくとも、これまでカリナは戦鬼(オーガ)の剛腕を受け止め、致命傷となるはずの矢を受けても死ななかった。

 

「カリナ……そうだ、カリナがよく使うあの技は?」

「あれは駄目だ。あの技――確か『朧』って名付けてたけど、あれは『高速思考』を使って反応速度を上げる技だし、『高速思考』を使っても自分の体まで高速に動けるわけじゃないんだ」

 

 理世が言うには、相手が攻撃を繰り出す瞬間に『高速思考』でその起動を予測し、その先に向かって刃を振るのだという。

 当然、予測が外れれば体勢を戻すことは出来ないので、隙だらけとなる。

 

「それにしても、『朧』だなんて……中二病はこの世界にもあるんだねぇ」

「…なんのことだ?」

「こっちの話さ。それよりそろそろ目が覚める。まだ戦う気なら腹を決めて全力でいきなよ!」

 

 理世はそう言うと姿が見えなくなり、同時に体の感覚が戻ってくる。

 

「まだ、負けたわけじゃない。けど……」

 

 どうすれば勝てるのか、その答えは未だに出なかった。

 

*****

 

 

「ぐ……あ……」

「んな……っ!?」


 意識が戻ると同時に強烈な頭痛がソウヒを襲う。

 ラクーンから受けた一撃は傷が深く、額から血がどくどくと流れているのだった。

 

(こ、これは、運が悪ければ死んでたかもな……)

 

 痛みを堪えて身を起こすと、目の前でラクーンは驚愕の表情を浮かべて此方を見ている。

 

「貴様は……不死身か!」

 

 そう驚くのも無理はない。ラクーンが振った剣は完璧にソウヒを捉え、それは手加減など微塵もない渾身の一撃だったはずなのだ。

 それにも拘らず、倒れて殆ど時間が経たない内に意識を取り戻し、再び立ち上がろうとしている。

 

治癒魔法(ヒール)――」

「なにぃッ!? お前、一瞬で回復魔法を……」

 

 ラクーンが何度目の声を上げる。

 元々独学で治癒魔法(ヒール)を習得していたのに加えて、引き上げられた魔力によって瞬時に傷が治る。

 それが常識外れであるのは、魔法に詳しくないラクーンでも分かる事だった。

 

「まあ、その鎧ほど頑丈じゃないが、身体能力(ステータス)には自信があってね。これで五分だ」

「おのれ…、山賊風情と侮っていたが、そこまでの能力(ちから)を持っているとは…」


 ラクーンはソウヒの能力の底が見えない事に警戒して動きを止める。

 だが、ソウヒはそう言い放ったが、それは完全にハッタリだ。

 問題の鎧を破壊しない限り、やがて力尽きるのは目に見えている。

 

 こういった駆け引きはラクーンの方が一枚上手のようで、ソウヒに対して警戒しながら不敵に笑みを浮かべて見せる。

 

「貴様の能力(スキル)はハッキリ言って見直した。だが所詮、能力(スキル)能力(スキル)だ。俺が纏う鎧とは違い、体力にも限界があるのだろう?」

 

 いともあっさり見破られる。それを顔には出さず、出来るだけ平静を装いながら言い返した。

 

「体力に限界があるのは王子殿下も同じだろう? 寧ろあんな大剣を振り回していたんだ。 アンタの方が――」

「ウハハハハッ! 能力(ちから)はともかく頭は足りてないようだな! 今、お前は体力に限界があると認めたな? それは能力(スキル)に限界があるという事!」

「なっ……だがそれは――」

「俺の鎧には体力増強の魔法も付与されているのさ! つまりこの鎧を破壊しない限りお前に勝ち目はない!」

 

 愕然とする。だが考えれば当然の話だ。ついさっきまで巨大な大剣を振り回しておきながら、息が上がることがなかったのだから。


(俺は……なんという間抜けを……)


 自分の不甲斐なさに嫌気がする。何度同じ失敗を繰り返せばいいんだと。

 そんなソウヒを励ますように、或いはからかうように理世が呟く。

 

≪なるほど、あの王子様も君と同じくらい馬鹿だな。態々攻略法を教えてくれるなんて≫

 

 簡単に言うなっ! と心の中で叫んだ。

 それが出来るなら苦労はない。それが出来ないから足掻いているのだ。

 

≪私はさっき腹を括れと言った。君には奥の手があるだろ?≫

 

 奥の手……そう、獣人であるソウヒの最後の手段。

 

(あれは駄目だ! 使えば理性が抑えられなくなる。本当に殺してしまうかもしれん!)

≪大丈夫、そうなる前にあの子(カリナ)が止めてくれるさ≫

 

 不意にカリナの名前を出されてふとそちらに顔を向けた。

 臆病で気が弱く傷つきやすい。だが何に対しても真剣に向き合って、非常識な発想(おもいつき)で行動し、後から話を聞いて心配をかけさせられ、先に釘を刺してもやっぱり何かをやらかす。

 それも結局は非常識な能力で解決してしまい、兄貴面している自分が馬鹿に見える時もあった。

 恐らく理世の言うとおり、獣化してもカリナが何とかしてくれると、そういう気にさせてくれる。

 

「そうだな……」

 

 そう呟くと、構えを解いて武器を捨てる。

 

「なんだ、今更負けを悟ったか!? 言っておくが降参したら娘は頂いていくからな!」

「死んでもそれはねェよ!」

 

 そう言うと、カリナに向かって声を上げる。

 

「カリナッ! スマンが後始末を頼む!」

「え……? えええぇぇぇ――ッ!?」

 

 何をしようとするのか察したカリナの絶叫を聞きながら、ソウヒは『獣化』を発動させた――。

 

*****

 

 

 『獣化』とは、獣の血を色濃く受け継いだ獣人が人としての理性を捨て、その野生の能力(ちから)を解放する能力(スキル)である。

 それは云わば『狂化』の獣人版とも言える能力(スキル)だが、獣人であればだれでも『獣化』出来るわけではない、相応の修練を積んできた獣人のみが可能なのだった。

 だが、獣人が動物の血を色濃く受け継いだ者であるなら、魔物としての能力を持った獣、即ち魔獣の血を持った獣人が『獣化』を行えばどうなるか。

 

「グオオオオオォォォオオオォォォ――――ッ!!」

「な、なんだそれは……っ!?」

 

 変わり果てたソウヒの姿を見てラクーンは絶句する。

 アルガットからフォルンを隔てたその先の国、ムーライトに多く住む獣人達だが、ラクーンは幾度か獣人が『獣化』する様を見たことがあった。

 理性を棄て野生と本能を呼び起こし、飛躍的に身体能力(ステータス)を向上させることができる獣人の切り札。

 確かに使い手の姿や体躯を変化させる。それは獣人によって異なるがどんな『獣化』であれ動物の姿により近くなるのだ。

 だが、ソウヒの『獣化』はどう見ても獣とは思えない。

 異常に発達した上半身を2本の足が支え、腕は丸太のように太く、赤く光る4つ(・・)の眼からは知性の欠片も感じられない。

 その姿はまるで魔獣そのものだった。

 

「ば、化け物めッ!」

 

 あまりの変わり様に圧倒され震え上がる。それを奮い立たせるように目一杯叫んで剣を構えた。

 ソウヒはそのラクーンの敵意を感じ取ると同時に突進する。

 

「グガアアアアアアア―――ッ!!」

「な…!? はや…」

 

 足を踏み出したその一歩が既に最高速度。あまりの速さに目で追う事が出来ず、そして声が漏れる暇も与えられない。

 そのままラクーンはソウヒの巨大な平手で弾き飛ばされた。

 ボキンッと鈍い音と共に丸太で殴られた様な衝撃、そしてその後に続いて響く激痛。

 

「ぐはぁあああああ――ッ!!」

 

 だが、それどころではない。

 何度も地面をバウンドしながら十メートルは吹っ飛ばされる。意識があるのが奇跡だった。

 だが、皮肉にもラクーンが纏う鎧はその防御力故に彼を地獄を見せる時間を長引かせるだけだった。

 この時点で満足に動くこともできない程にダメージを負ってしまう。

 

「――ギャアアァアア――ッ!!」

 

 立ち上がる間もなく足を踏み抜かれた。その足が不自然な方向に向いている。

 それでも鎧の効果は主を護ろうと効果を発揮するが、その圧倒的な攻撃力、破壊力の前には意味をなしていなかった。

 

「ま、参っ……たッ! 降参する!」

 

 最早戦う事はおろか逃げる手段もなくなり、ラクーンの戦意は完全に折れた。

 しかし、ソウヒの耳には届かない。本能のままに足元の獲物に拳を振り下ろす。

 

  ガスッ!!

 

「ガァァァアアア―――!? な、なぜぇ……!?」


 右脚に続いて肋骨も折れた――いや粉砕された。

 胸の激痛によって呼吸ができず思考が乱される。そんな中でもラクーンは必死に藻掻き思考を巡らせていた。

 確かに負けを認めたのだ。この男にとって最良の結果になる筈なのだ。

 もし自分が死ねば、その約束を守る者がいなくなる。

 なのになぜ――?

 

 

 それを見た瞬間、カリナはソウヒに向かって飛び出す。

 『獣化』によって本能のままに戦う状態のソウヒが力尽きるまで暴れ続けるのは、初めてそれを見た時に経験済みだった。

 このままではラクーンを本当に殺してしまいかねない。

 

「止まってお兄さん! もう勝負はついてる! これ以上は――」


 カリナの声にソウヒが反応する。

 ソウヒとカリナが目があった瞬間、カリナに向かって拳を振り上げる――


仕事の都合で出張が多く、7月まで投稿や推敲できないYO!


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