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射手座の箱舟  作者: トンブラー
奴隷解放編
62/72

ソウヒの迷い

 討伐軍およそ4000人、解放団50人とカリナ率いる魔物約900体。

 砦の前で双方が見守る中、ソウヒとラクーンの両者は何の前触れもなく得物を手に走り出す。

 優れたバランス感覚で翻弄するように左右に体を振りながら接近するソウヒに対し、体躯に優れたラクーンは重い大剣をまるで小枝を振るが如く振り回して追い払う。

 

「ウハハハッ! どうした猿野郎! 近づけるものなら近づいてみろッ!」

「チッ! 間近で見たら竜巻だなこりゃ!」

 

 特に厄介なのは短槍よりも長いリーチを活かした大剣の横薙ぎだ。

 重さを活かた振り下ろし程には威力はないが、接近しながら体ごと回転させながら振り回してくるので後方以外に避難する場所がない。

 一見隙だらけに見えるそれは、高速で鋭い剣戟は受け止めれば短槍ごと腕をへし折られる程の威力があった。

 間合いが離れれば回転を止め、振りかぶりながら突進、射程に捕える直前から振ってくるので中々近づけなかった。

 

 ソウヒは心内、カリナはこれを捌いていたのかと、改めて力量の差を痛感させられる。

 いや、捌いていただけでなく、ソウヒやラクーンよりずっと小さな体、短い得物で反撃すらしてみせたのだ。

 それはカリナ自身の能力(ちから)ではなく『魔王の力』によるものであるのはわかっている。

 だがそんなことは関係なく、ソウヒでは到底カリナに敵わないという事実には変わりはない。

 

≪ほら、余計な事は考えない。一発でも当たれば致命傷だぞ!≫

(解ってる……けどさっ!)

 

 ラクーンはこの重い大剣を自在に操ってみせた。

 横薙ぎを避けたと思えば、いきなりの振り下ろし。そのまま剣を止めることなく地面を砕き、その反動で振り上げ。

 時には片手で斬りかかってくる事すらあった。

 しかし問題はそこでだけはない。

 確かに猛攻に晒されてはいるが、それ以前にソウヒの動きが鈍いのだ。

 思うように体が動かせていない。

 

 ラクーンの剣が地面の泥を巻き上げ、思わず手で目を隠す。

 決闘前の意気込みとは裏腹に苦戦を強いられ、ソウヒは次第に焦りを感じ始めていた。

 それと同時に感じるのは、やはりカリナとの力量の差――

 

 護ると誓ったその対象の方が強いという悔しさ。それを情けないと考えるようになったのはいつ頃からか。

 『魔王』などと言っても初めて会った時はとても弱々しく、身体能力(スタータス)が高いだけで能力(スキル)も使いこなせない、本当にただの小さな女の子だったはずなのに。

 短期間で能力(スキル)の使い方を覚えていく。

 時には「思いついた」と言った次の瞬間、見た事のない魔法を編み出していく。

 次第に差を埋められ、今では相手にすらならない。

 悔しい――そう、猛烈に悔しいのだ。

 

 

  ガィィィン――ッ!!

 

「――――ッ!!」

 

 不意に武器が重なりあった瞬間、ラクーンが振るった大剣がソウヒを後方へ吹き飛ばす。

 バランスが崩され、その衝撃に戸惑いながらも難なく着地――、だがそこに追撃の一撃が頭上へと振り下ろされた。

 

  ガンッッ!

 

「……ぐァっ!?」

 

 とっさに振り下ろしを短槍で防ぐ。だが振り下ろしの威力に大剣の重さが加わったことでソウヒの手は耐えきれなかった。

 手が痺れるなんてものではない鈍痛。右の手首の骨が衝撃によって折れたのを感じる。

 

「クッソォォォッ!」

 

 続けてくる横薙ぎの一撃を泥にまみれながら回避した。

 追撃は来ない。その代わりにラクーンの顔に満足げな表情が浮かんでいる。

 

「今の一撃は手ごたえあったぞ猿野郎。どちらかの手を痛めたな?」

「……どっかの我儘な王子様にも花を持たせないとダメなんでね。 なんせ俺の夢を叶えてくれる大事な客人だ」

「フンッ、減らず口を叩きやがって!」

 

 憤るラクーンだが挑発に乗る事もなく、慎重に間合いを詰める。最早片手では十分に戦える状態ではないと分かっているのだ。

 こうなった以上勝負はついた。ソウヒが降参するまで削りつくすのみである。

 それはラクーンの考えはソウヒにも伝わっていた。利き手が使えない以上十分に武器は振えない。

 

 (どうするか……どうすればいい…?)

 

 このままでは確実に敗北する。そんな考えが頭の中を駆け巡る。

 いや、絶対に負けるわけにはいかない。負ければ夢もカリナも全てを奪われる。

 例え死んでもそれだけは――

 

≪なら、何故私を使わない? これでも君の相棒のつもりなんだけど?≫

(それは俺の能力(ちから)じゃない。貰い物で何かを得ようなんて――)

 

 ソウヒの頭の中で理世はため息をついた。

 

≪今まで君を単純(ばか)だと思ってきたけど。本当の意味での馬鹿だったのか?≫

(なんだと――?)


≪私の知ってるソウヒ君は単純(ばか)で不器用だが、真っすぐで仲間想いで気配りの出来る奴のはずだ! 今掛けているモノが何かを思い出せ!≫

 

 そんなの見なくともわかっている。背後にはいるのはカリナとガエン、大切な家族だ。

 だが、理世の言葉を聞いて少し意識がそちらに向くとすぐに異変に気が付いた。

 

「……ハッ……ハッ……ハァ……ハァ」

 

 離れているのに聞こえてくる乱れた呼吸音。その主はカリナだ。

 一瞬だけ振り返ると、そこには眼に涙を溜めながら顔を赤く上気させるカリナの姿があった。

 まるで初めて森で出会った時――奴隷として連れられていた時のような表情。

 

(カリナ……そんな顔すんなよ)

 

≪まだ分からないのか? 君の決めた約束はあの子(カリナ)にとってどれだけ重い物か。何せ自分の想い人に売られようとしてるのだかね≫

(なっ!?)

 

 ソウヒは理世の言葉を聞いて驚愕する。

 いや、事実それは自覚していたし覚悟もしていた。

 だがそれはあくまで自分だけの覚悟。カリナも理解してくれていたが、どれだけの覚悟を以って送り出したのかは想像していなかった。

 同時に自分の過ちに気付く。

 これはただ決闘じゃない。自分だけでなくカリナの運命を決める決闘だ。言葉の上では理解していても、つまらない意地と自尊心(プライド)がそれを鈍らせていた。

 どれだけ醜く卑怯と罵られようが勝たなくてはいけないのだと、今一度認識する。

 

「なるほど……俺は馬鹿だ」

「フンッ! 今頃気が付いたか?」

≪ハア… 今頃気が付いたのか≫

 

 理世とラクーンの言葉が被る。ラクーンは兎も角、ソウヒは体に宿る相棒に理世に礼を言いながら改めて願い出た。

 

(ああ、俺は馬鹿だ……。だから助けてくれ相棒)

≪ははっ! 前世は散々仕事を押し付けられてウンザリだったけど、君みたいな頼り方は、なんだかこそばゆいな! とても遣り甲斐がある仕事だ。

 でも私は戦闘は出来ないぞ? 精々あの子(カリナ)から借り受けた身体能力(ステータス)を与えるくらいだからな≫

 

 十分すぎるだろっ! とツッコミながら左手の短槍を構えなおす。

 

「よーし、ここから反撃開始だっ!」

仕事の納期が迫ってるので執筆時間がないっす……。

推敲はGW中になるかも??


来月は長期出張らしいので急いで3章まとめないと!

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