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射手座の箱舟  作者: トンブラー
魔王降臨編
6/72

覚醒

 ガエン 35歳

 元Bランクのベテラン冒険者だった。

 実力だけならAランクに匹敵する強さを誇っていた。

 そんな男が、眼前の少女を真剣に対峙している。

 

(解析…)

 

 名前:カリナ

 性別:女

 年齢:12歳

 HP:30 / 578

 MP:5890 / 5890

 攻撃力:781

 防御力:5

 集中力:10

 魔力:892

 魔力抵抗:7

 魔力精度:13

 状態:瀕死・暴走

 コモンスキル:武器技能(1)/魔法技能(3)/交渉力(4)

 エクストラスキル:****

 ユニークスキル:****

 

 

 ……滅茶苦茶だった。

 年齢の割にHPが高いのも異常だが、更に異常なのはMPの高さ。

 そしてオーガ以上の攻撃力とリッチ並みの魔力を持ちながら、それ以外は人間の少女と変わらない。

 魔法技能はDランク冒険者に匹敵するとはいえ、戦闘技能は素人並み。

 そして、解析不能だがエクストラスキルとユニークスキルを持ってるようだ。

 

(訳が分からん…。これは狂化の影響か? だが攻撃力は高くてもそれ以外は普通の子供と変わらん。やり方はある…)

 

 解析の結果を見て戸惑いつつ、それでも勝機ありと踏んだガエンだが、それが油断となる。

 

「ゥ……ぅうあぁあああああああぁああッ!」

 

 暴走状態のカリナがガエンに飛び掛かる。

 

「んなぁッ!?」

 

 突然の接近と激しい攻撃に出遅れながら、寸前で攻撃を躱し続けた。

 

「この…野郎!」

 

 隙だらけなのに反撃ができない。

 攻撃を受ければ殺られる、そして下手に攻撃すると殺してしまう。

 ガエンにとって一方的に不利な状況だった。

 攻撃の間隙をついて、丁寧に反撃する。

 

「テェェイ――ッ!」

 

 剣の横腹で殴られカリナは吹き飛ばされる。

 手応えありとガエンは呟いたが、カリナはすぐに立ち上がり再びガエンに飛びかかった。

 

「ああああぁぁぁぁあぁぁぁ――ッ」

 

 放たれた威嚇によってガエンが一瞬硬直する。

 同時に振るわれる必殺の一撃。

 

「く…そったれがぁ!」

 

 ガエンは固まった体を無理やり動かし、カリナの鳩尾にカウンターを打ち込んだ。

 それでもカリナは止まらない。動けるはずのないダメージを一切無視して更に襲いかかってくる。

 最早、手加減できる状態じゃない。

 

「ハァァァ――ッ!!」

 

 能力を解放した本気の打ち込み。

 カリナはもう一度吹き飛ばされた。

 今度は起き上がってこない。

 

「ふぅ…。死んでないよな…?」

 

 ガエンは思わず手加減なしで殴ってしまったことを反省しながら、カリナの方へ駆け寄った。

 

 

*****

 

 

 水中から浮かび上がる感覚の中、『桜 理世』が目覚めた。

 

「あれ? いつの間に寝ちゃってたんだっけ? 今何時?」

 

 変な夢を見たせいか、寝汗が酷かった。

 中々覚醒しない頭を振りながら、意識が無くなるまで経緯を思い返す。

 

「えぇと、今日は**月**日だから学校が卒業式……は、この間終わったんだっけ。あの後、家に帰ってお父さんが死んでて、小池君に襲われて……ッ!?」


 自分で発した言葉によって思考が突然覚醒する。


「そうだ、義父さんはどうなった!? 小池君は!?」

 

 その問いかけを応える者は――

 

『主様、お早うございまっ! このエルベレーナ、主様の復活を祝福しまっ!』

 

 頭の中から――まるでイヤホンで音を聞くような感覚で――声が聞こえた。

 

「ど、どちら様?」

 

 どこかで監視されているのか、声はすれど姿は見えない。

 とりあえず声の敵意はなさそうなので、理世も丁寧に対応する。

 出来れば穏便に帰してもらいたい。

 

『はいっ! アタシは主様の眷属長、エルベレーナでございまっ! 改めて主様に仕えさせて頂きまっ!』

 

「主様……?」

 

 元気いっぱいな娘の声に、理世が問いかける。

 

「あー、エルベ…レーナさん? 幾つか聞きたいことが」


『はいっ! 何なりとお申し付けくださいまっ!』


「まず、ここはどこなんでしょうか? 私の記憶が正しければ、私と義父さんは小池君に殺されたはずだけど…?」


 どう見ても卒業式の日と同じ状態の自室だった。留学準備で室内は物が殆ど何もない、


『ここは主様の精神世界の一角でございまっ! 主様はいま夢を見ている思って構いませんっ!そして主様の記憶通り、主様とその血筋の方は兄アルベルトの手に掛かりましたございまっ!』


「はあ、やっぱり死んじゃったか…。」


 分かっていた事を再確認しただけなので、ショックはなかった。

 それと、大事なことが聞こえた気がするが、まずは後回しだ。

 

「それで、主様っていうのは……?」


『はいっ! 主様は今から約800年前この大陸を統治していた皇でしたっ! 大陸は主様の庇護により実り豊かに暮らしていたのでございまっ!』


 エルベレーナの話によると、理世の前世は大陸を統治する存在だった。その強力な力と知恵の恩恵により、大陸中の文明は発達し豊かになっていった。

 しかし、豊かになると問題が発生する。人口の問題、食料の問題、土地の問題だ。

 豊かになればなるほど人口が増える。人口が増えればそれを賄う食料が必要になる。食料を確保するには土地が必要になる。

 そして土地が増えれば新たな実りが手に入る。

 永遠に解決することのない問題だった。

 そしてついに土地の奪い合いが始まり、大陸は幾つもの国に分かれた。

 理世(前世)の最後は魔王と呼ばれ討伐された。

 

『その時、最後までお仕えしたのがアタシと兄アルベルトでございまっ!アタシたちは永遠の忠誠を誓って魂を献上したのでございまっ!』


 エルベレーナは誇らしげに語った。

 

「……あ、はい。」

 

 その突拍子のない話に理世はついていけず、そう返すしかなかった。

 

『アタシは天才なので魂の癒着に成功できたのですが、愚図な兄アルベルトは癒着に失敗してしまいましたっ!』

 

 クフフッとエルベレーナが笑いながら話を続けた。


「…なるほど、そして小池君となって私に付きまとってきたのね。」

 

『はいっ! そして主様が遠くに行かれると知った愚兄アルベルトは、最後の手段として心中によって主様と魂の癒着する策を計ったのでありまっ!』

 

 兄から愚兄に格下げされたアルベルト。


「それで、愚兄アルベルトさんはどこに?」


『はいっ! 愚策ながら上手くいったようで、無事主様の魂との癒着に成功しておりまっ! お呼びしましょうか?』


「…お願いします」

 

 理世の声のトーンに、エルベレーナが笑いを堪えるような気配がした。

 

『…お呼びにより参上しました。主様』


 エルベレーナの時とは違い、紳士的な声。


「おい、小池!」


『…はい』


 理世の声で何を言われるのかは理解していたのだろう。

 静かに小池ことアルベルトが応える。


「話はエルベレーナさんに聞かせてもらったわ。君は元々思い込みが激しい奴だったし、私も君の気持ちを汲みきれてなかったの悪かったわ。それで殺されるとは思わなかったけど。でも問題はそれじゃない。」


 自分の死よりも重大なこと。それは義父の死。

 

「どうして義父さんにまで手をかけたんだよっ!!」

 

 心中するのなら路上で襲うなり、人気のないところに連れ込むなりできただろう。

 それをせず、大切な家族を殺したことが許せなかった。

 

『……はい。妹が申すところの愚策、それを思いついた時にふと思ったのです。取り残された主様の育ての父君の悲しみ、そして復活された主様の心境を』


「つまり、私が今後、義父さんの事を気にする必要がないように処分したと…」


『…その通りでございます』


「――――ふ、ふざけんなッ!!」

 

 全くもって理不尽で迷惑な話だった。

 そんな理由で殺されたのであっては、義父は浮かばれないではないか!

 

「ニュースとかでストーカーの特集とか見たことあるけど、本っ当にそんな自分勝手な理屈が通ると思ってたんだねッ!」

 

『……面目次第もございません。』

 

 許せるはずがなかった。時間を戻し、全て元通りにしろと。

 勿論、そんなことができるはずもない。

 暫くの間、一人で頭の中の分割意思に説教するのが精一杯だった。

 

「もういい。それで私はどうなって――…。ああ、そうか」

 

 そう言いながら思い出した。

 

「あぁ、私の今の名前はカリナ。モタラとメリルの子、ハーフエルフ――」

 

 『桜 理世』は『カリナ』の前世だ。

 何故理世の記憶と人格が蘇ったのかは不明だが、カリナのそれらと混じった状態だ。

 そこで問題が生じる。

 記憶については混じったところで整理がつく。

 だが、人格はそうはいかない。

 いくら前世とはいえ性格や考え方が異なるのだから。

 今は『カリナ』の人格が眠っていて、代わりに『桜 理世』が起きたに過ぎないが、このままでは人格の主導権争いになる。

 

「じゃあ、私はもう一度寝なおすわ」

 

 理世はあっさりそういった。

 

『…よろしいのですか?』


「私は『桜 理世』であって『カリナ』じゃないの。今生きてるのは『カリナ』であるべきよ。だから後の事は次の世代に任せて私はさっさと退場するわ。でも……」


 理世が話を続ける。

 

「君は寝るな! 義父さんに手をかけた罰としてカリナを見守ること! よく知らないけど、それくらいできるんでしょ?」


『……可能です。』


『アタシも兄を手伝いまっ!』


 エルベレーナの声も聞こえてきた。


「…よしっ!」

 

 これでゆっくり眠れる。ストーカーに悩まされることなく。

 そして理世の行事は――学校だけでなく人生としても――これで全て終わった。


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