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射手座の箱舟  作者: トンブラー
奴隷解放編
52/72

戦奴隷

 討伐軍を相手にたった1000程度の戦力で数倍の敵を相手に砦を守りきらなくてはならない。

 村に駐屯している警備兵が相手ならともかく、日頃から訓練を重ねるれっきとした軍隊だ。

 それに対してこちらは弱くて臆病な子鬼族(ゴブリン)が中心だ。ここで暮らす人間達も、ガエンやソウヒ以外は元々逃亡奴隷や盗賊ばかりだった。

 装備は勿論、個々の技量すら及ばないだろう。

 それにも拘らずここまで持ちこたえているのは、堅牢な砦の防御力に加えて、カリナに仕える戦鬼(オーガ)達の存在が大きい。

 戦鬼(オーガ)達はカリナの指示通り、ガエンとソウヒの命令に従って戦っていた。

 リーシェは前衛を、コンスティとデクスは砦の奥で子供達を守る。

 

「なあ親父殿、此奴ら随分と手応えがないぞ。もしかして……」

「ああ、考えたくないが多分『戦奴隷』だな」

 

 戦鬼(オーガ)にとって人間は脆弱だが、徒党を組んだ人間が相手では分が悪い。

 硬い皮膚も鉄より硬いわけではないので、囲まれて袋叩きにされればなす術もなく倒される。

 現に前線に立つリーシェは何度かそんな状況に陥っていた。にも関わらず無傷なのは、彼女の身体能力(ステータス)だけが理由ではない。

 

「くそっ……自分達は高みの見物かよっ!」

 

 戦奴隷とは、アルガットとウルファニアが保有する戦団で、正規兵達の損害を軽くするため、囮として最前線で戦わされる奴隷達だ。

 訓練は勿論、碌な装備も与えられてないので士気も練度も低く「生きた壁」として扱われている。

 全ての奴隷には「隷属の首輪」が嵌められているので、逃げる事も逆らう事も許されない。

 そんな彼らが生き残る唯一の道は、敵から武器を奪い戦闘が終わるまで殺し続ける事のみだった。

 

 例え敵が弱くとも、奴隷達の解放を目指す解放団にとっては何ともやりにくい相手だ。

 戦奴隷の殆どが元野盗や凶悪犯罪者。そして捕虜となった他国の兵士ばかり――自分達と似た境遇なのである。

 何とか助けてやりたいところだが、背後には今まで奴隷商人を襲って保護してきた子供達がいる。

 当然、相手が奴隷であっても手を抜くことはしないし、やられる気など毛頭ない。

 子供達を再び奴隷にするわけにはいかないのだ。

 

「所詮こいつらは『足止め』部隊だ。じきに押し寄せてくるぞ!」

 

 そしてそれはすぐに訪れた。

 

「ギャギャ――ッ!」

「何? どうした?」

「ギギィ……ソラ、ソラ! ソラヲミロ! ソラガ落チル!」

 

 子鬼族(ゴブリン)がソウヒに何かを伝えようしている。カリナの眷属であるせいか元々そうなのかは定かではないが、子鬼族(ゴブリン)の中には拙いながらも人間の言葉を理解し始める者が増えていた。

 それはこれまでの常識がひっくり返る程に衝撃的な事だった。これまで子鬼族(ゴブリン)程度の低級魔族は魔獣と大して変わらない知能しか持たないと信じられていたのだから。

 ソウヒは言われるままに空を見上げると―――

 

「お、親父殿……。あれは……あれは何だッ!?」

「どうした……。や、やべぇ! とてつもなくデカい魔法だぞ!」

「分かるよそれくらい! あれは何なんだッ!!」

「知らんッ! 俺は魔術師じゃないからなッ!」

 

 二人の顔が青褪める。

 空から真っすぐこちらに向かって降ってくる流星。それが戦術魔法であるのはすぐ理解出来た。

 ただ、それがどのような魔法であるかが分からなかった。あのような魔法、誰も見たことがないのだ。


(砦を捨てて撤退するか、建物に避難してやり過ごすか。奴らが一気に攻めてこないのがこの魔法のせいだとしたら――)

 

 一瞬指揮を執るのをやめ、思考を巡らせるガエンはすぐに気がついた。

 突撃する戦奴隷と未だ突入してこない正規兵達。そして頭上の流星群――。

 討伐軍は戦奴隷を足止めにして、彼ら諸共、ここを一掃するつもりなのだ。

 

「お前ら砦を捨てて撤退するぞ! リーシェは目の前の敵を蹴散らしてロトスを呼び戻せ! ソウヒも部隊を纏めろ!」

「分かった。アタシ達でも流石にあれは無理だ」

「くそっ……! ……クソッタレが―――ッ!」

 

 頭に血が上り思わず言葉を荒げてしまったが、悔しさで顔を歪めつつもガエンに従う。

 これまでもガエンの咄嗟の判断が仲間達を危機から救ってきた。

 その決断に異を唱えられる程の言葉をソウヒは持っていない。

 

 すぐに撤収準備を始める。

 雨の増水から水没している可能性があり使用するのは躊躇われたが、砦の隠し通路から地下水脈を通ってフォルンに落ち延びのだ。

 

「先頭はソウヒ、中心に子供達を連れて俺が守る。そして戦鬼(オーガ)達と配下の魔物達は――」

 

 この陣形は当然、最後まで残る魔物達が最も危険な位置となる。

 ソウヒはそれを断った。

 

「すまん親父殿……。俺は魔物達と一緒にカリナを待つ」

「ソウヒッ! 今はそんなことを言ってる場合じゃないのは分かってるはずだぞ!」

 

 本来ならそんな意見は受け付けない。指揮者としてそれを許してしまえば混乱するだけだ。

 ソウヒも副団長としてそれは理解している。だがその上での意見だ。

 

「ああ、だがアイツから預かった魔物に何かあったら申し訳ない」

「……分かった。時間がないから話はあとだ! 必ず生き残れよ!」

「ああっ!」

 

 ソウヒの意見は正しかった。

 砦に住むことになった魔物達、そして人間達はお互いを警戒するような事はしなくなっていた。

 だが、もし魔物達を盾にするようなマネをしたら、これまで一緒に暮らし築いてきた信頼関係は揺らぐことになる。

 

「そんじゃ尻尾撒いて逃げるぞ! ガキ共は遅れずついてこいよ!」

 

 

*****

 

 ソウヒは直感でカリナが近くまで来ている事を察していた。

 尤もそれは直感ではなく、理世とカリナの魂のつながりにより察しているのだが。

 

≪で、君は何故逃げない?≫

(さっき言った通りだ。ここで魔物達を見捨てるわけにはいかない)

≪私に嘘はつけないぞ?≫

(……フンッ)


 カリナが砦を発って半月が過ぎていた。

 元々ソウヒはカリナを恋人と言うより妹のような存在と捉えていたが、いざ身近にいる人がいなくなると存在は大きくなるもので、

 たった半月だが、カリナにとって途轍もなく長く感じる時間だったが、それはソウヒも同じだった。

 

 勿論、魔物達を危険に晒して自分達だけ安全に撤退するというのは、今後の信頼関係を築くのに障害になるという意味もある。

 だが一番の本音は「カリナに会いたい」唯一つだった。

 そんな事、口が裂けても言えない。

 

≪フフッばれてないのは本人たちだけってな≫

「うるせー!」

 

 思わず声が漏れてしまった。そんなソウヒを配下の戦鬼(オーガ)達は首を傾げて見てくる。

 既に戦奴隷達は砦の外に押し返した。残りは自分達で対処できる。

 

「コンスティ、ロトスはまだ戻ってこないのか?」

「はい、伝令は姉さん(リーシェ)が出したはずですが……」

「そうか……。アイツが来ないと撤退も出来ないってのに」

 

 その時、背後から殺気を感じてくる。

 振り向くと、既に死んだはずの戦奴隷達が呻き声を漏らしながらこちらに向かってくる。

 

「な、なんだコイツら!」

「確かにやっつけたはずなのにッ!?」


 思わず声を上げるデクスとコンスティだが、敵はそんな事お構いなしに襲ってきた。

 その動きは生死人(アンデット)のように緩慢と思いきや、狙いを定めた瞬間に予測のつかない動きで魔物を圧倒する。

 

「ギャ―――ッ!?」

「まずいな。一先ず後退しろ! ゼクスとコンスティはコイツらを子鬼族(ゴブリン)から引き剥がせ!」


 ソウヒはチラリと後方を見る。

 戦況は一変して劣勢。これ以上時間は掛けられない。

 動きに翻弄され、対応できない子鬼族(ゴブリン)達が逃げ惑う様を見て撤退を決めた。

 子供を守りながらとは言え少数だ。ガエンたちは既に撤退済みで残りは自分達だけ。

 未だ戻らないロトス、そしてカリナが気がかりだが、拘って全滅などしてしまってはそれこそ申し訳が立たない。

 敵の攻撃を受け流した後は――

 

「ウヒャヒャ―――ッ! 逃がしませんよぉ!」

 

 集団の後方――壊された砦の出入口から気に触る声がしてきた。

 趣味の悪そうな装飾品に身を身を、ボロボロのマントと目だけを覗かせるマスク魔術師風の何者か――。

 ガラガラ声によって男とも女とも判別がつかない。

 

「ウヒヒヒ……我はグヒッ――――ッ!?」

 

 ドシャァ――ッ!!

 

 気持ちの悪い何者かが名乗りを上げようとするところで、ソウヒは短槍を眉間にぶちかました。

 魔術師はそれをまともに受け、そのまま地に倒れ伏す。

 それと同時に戦奴隷達も動かなくなった。

 

「何なんだこいつら……」

「さ、さあ? デクスは見たことある?」

「オイラが知るわけないだろ」

 

 3人とも首をかしげる。

 

≪死人を操っていたように見えるな。そんなこの世界にそう言った魔法はあるのかい?≫

(噂程度だが、死人を蘇らせて思い通りに操る死霊魔術師(ネクロマンサー)っていうのがいるらしい。リッチもその類とかなんとか――

 だが死霊魔術はどの国でも非合法だぞ? 死者を冒涜する行為だからな。この国だって――)

 

 なるほどね、と理世はつぶやいた。

 もし今の魔法が死霊魔術であるのなら敵はかなり厄介な相手なんだろう。

 死んでも生き返る兵士が相手という事は、隣で戦っていた戦友ですら次の瞬間に敵になるのだから。

 恐らくこの死人たちを使って足止めする算段だったようだが、幸いにも今回は相手がマヌケですぐに倒せてしまったのがよかった。

 いや、もしかすると――

 

「き、貴様――ッ! 口上の隙をつくとは!」

≪厄介だな。死んでも他の死霊魔術がいる限り蘇るかもしれない≫

 

 理世の推測は正しかった。

 魔術師が立ち上がると同時に、動かなくなった戦奴隷も再び動き出す。

 そして、退路を断つように戦奴隷達はソウヒ達を取り囲み始めた。

 

「クソッ時間を掛け過ぎたかッ!! 全員穴倉まで退避しろ、急げッ!」


「ヒ――ヒヒッ! もうすぐ流星のメテオフォールが落ちてくる! さぁ我らと共に土に還ろう――」

 

 魔術師が不気味に笑う。

 それが指を差す先――空には流星の群れがすぐそこまで迫っていた。

 

  灼熱の精霊王―――ッ!!

 

 だが、ソウヒの眼にそれは映っていない。その眼に映るのは黒と赤の炎を纏った精霊。そして――

 

(あれは……カリナ、じゃない?)

 

 遠目から見てもわかる、髪の色や綺麗な顔立ちはカリナによく似た女性。

 腰まで伸びたその髪の長さ、その姿では見せることのない翼、小柄な体躯に小さめの胸――

 

(……こんな時に俺は何を考えてるんだっ!)


 思わず邪な考えが浮かんでしまう自分を戒める。

 改めて見てみてもカリナにそっくりなその女性は、外壁の上から戦略魔法を唱える。

 

「火焔の閃光にて敵を薙ぎ払え! フレアレーザー!」

 

 放たれた白金に輝く熱線は、迫りくる流星を一瞬で薙ぎ払ってみせた。

 

≪すごい熱線だな。あれなら隕石も一瞬で蒸発する≫

「お前が驚くなんて珍しいな」

 

 だが、そんなことできる人間などいる筈がない。

 そもそも戦略魔法を扱える者は、国家に仕える上級魔術師並の魔力と知識が必要なのだから。

 

「な……ななな何だとぉぉ――ッ!? そんなバカな……。

 これでは作戦が台無しではないかッ! なんだあの小娘は!」

 

 視線を落とすと、先ほどまで不気味な声を上げていた魔術師が声を裏返らせて叫んだ。

 その声に気が付いたのか、女はこちらに視線を向ける。

 

「――お兄ぃぃさぁぁぁん!」

 

 カリナ満面の笑顔で壁上から飛び降りると、両手を広げてソウヒにしがみつく。

 慌ててそれを受け止めるが、その体は見た目よりもずっと軽い。そしてやわらかい――。

 そんな事を気にも留めず、久しぶりのカリナの顔をじっと見つめる。

 

「まさかと思ったが、やはりカリナか! 」

「すごいっ! 一目でボクって気づいてくれたっ!」

「気づいたというか……」

 

 あんな非常識な魔法を放つ奴が他にいてたまるかと、心の中で呟いた。

 本来ならゆっくりと旅の事を聞いてあげたいところだったが、今は戦闘中。

 

「貴様―――ッ!! タダでは済まさんぞ―――ッ!!」


 敵はこの作戦に余程の自信があったのか、激怒して睨みつけていたが、それに付き合う義理はない。

 すぐにでもガエンたちを呼び戻して外にいる敵兵達を追い払う必要があるのだから。

 

「カリナ、話は後だ。今はとにかく切り抜けるぞ!」

「はいっ!」

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