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射手座の箱舟  作者: トンブラー
奴隷解放編
50/72

変化

「お待ちしておりました勇者様!」


 夜が明け日が昇りきった頃、村にはジルマンが到着していた。

 昨夜の一件の後、村人がジルマンを呼ぶために危険な夜道を隣の村まで走っていたのだった。

 

「ああ、事のあらましは聞いている。まさか犯人が吸血鬼だったとはな……」

「はい。村の何人かが襲われ勇者様のお連れの方も。襲われた村の者を護ろうとして、恐らくは……」


 吸血鬼から血を吸われた際、運よく生き残ったとしても、隷属魔法によって本人の意思とは関係なく捕食者(あるじ)への忠誠と服従を誓わされる。

 捕食者(あるじ)の魔力が体内に廻るせいで、どんな強者であってもその強制力に抗う術はなく逃れることは出来ないのだ。

 

 村長の沈痛な面持ちをみて、ジルマンも眉間にしわを寄せる。

 高い知識と能力を持っていたので助手として連れてきたが、まさかこのような事になるとは予想だにしていなかった。

 依頼者であり旧知の仲であるイシュミルにどう詫びればよいのか……と。

 だが今はそれどころではない。時間が経てば取り返しがつかなくなる可能性がある。

 

「そっちも心配だが吸血症の今は蔓延が心配だ。もしかしたらここら一帯が壊滅状態に……――って、何だあれは?」

 

 ふと空を見上げると、遠くからこちらに向かって何かが飛んでくるのが見える。

 腰の辺りまで伸びた金赤色ストロベリーブロンドの長い髪。透きるような白く美しい肌をした娘で、歳は15、16くらいだろうか。

 やや童顔ながらも綺麗な顔立ちをしており、カリナと見間違える程に似ている。

 ジルマンの呟きに気が付いた村人達はその娘の姿に見惚れて息を飲んだ。

 だが、体にぴったり張り付いた服と蒼く禍々しい光の翼が娘の可憐さを否定する。まるで美しさで魅了する魔物、淫魔(サキュバス)のようだ。

 

「おい、あれ…」

「おぉぉ、肌が白くて透き通ってて綺麗だ……」

「でも、あれじゃぁ」

「どう見ても、魔物だよな」

「だけど魔物でもいいから相手してもらいたいぜ」

「それは……確かに」

 

 娘に視線を向けながら、思うがままの感想を述べる男達。

 そんな中で娘はゆっくり着地すると、バツの悪そうな表情を浮かべながら口を開いた。

 

「た、ただいま戻りました……」

「――もしかして、ゆうべの娘っ子!?」

「何だってぇ? こんなに可愛かったのかぁ!? 暗くて気づかなかった……」

 

 少々声色が違うが、その声はカリナの声に間違いなかった。

 昨夜は夜の暗がりのために、村人にはカリナの顔を覚えていた者――そして髪や肌の色の変化にも気づいた者も殆どいなかった。

 その姿を目の当たりにして一様に驚く村人達だったが、カリナのその姿を見てジルマンも戸惑う。

 これまでよりも体の方もひとまわり程度大きくなっているが、そんな事よりも、お世辞でも豊満とは言えないが、それでもその体に見合った体躯、そしてそれを強調するように着込む服により、目のやり場に困るのだ。

 だが困っていたのは、カリナも同じらしく、ジルマンと同じ顔をしている。

 

「――どうしたんだその姿は」

「色々ありまして……。とりあえず着替えが欲しいですのですが――」

「ああ、とりあえずこれでも羽織ってろ」

 

 妙にモジモジしてるのはそのせいかと、ジルマンはカリナに外套を手渡す。

 事実、カリナが来ている服はこれでの服と何も変わっていない。体の方が大きくなっただけで服はそのままのサイズだった。

 カリナが着ている服は、普通の服よりも頑丈に作ってある。旅人用であるのも理由の一つだが、翼を広げた時に誤って破れないようにするためだ。

 破れなかったのは幸いだったが、それ以上に恥ずかしい思いをさせられるのであった。

 

 

「それで一体何があったんだ? 聞けば吸血鬼と戦って連れて行かれたっていうじゃないか」

「えと……」


 カリナは二人の眷属の事は隠しておきたかった。

 この二人は自分の能力の秘密であり、それを封じられると何もできなくなってしまうという、弱点でもあるからだ。

 そこで、住処で目が覚めてから吸血鬼を倒し、洞窟を崩して封じ込めたのだと説明する事にした。

 洞窟内に生存者がいないか心配だったが、アルベルトによれば内部に目立った生命反応はなく、気配は生死人(アンデット)化した者達だけだったという。

 それにはカリナも安心したが、更にもう一つ気に掛かる事が出てきてしまう。

 

「生きている人はいなくても、洞窟ごと埋めてしまった生死人(アンデット)の中には村の子がいた可能性もありました。でも吸血鬼が強くて余裕がなくて――」

 声を落として打ち明けた。未だに我が子の安否が分からずにいる親の気持ちを考えると、申し訳なく思っていたのだ。

 これは嘘ではない。エルベレーナは否定していたが、アルベルトによるとかなりギリギリだったらしく、相手に余裕振って見せながら実際は全力全開だったらしい。

 寧ろ能力の枠組みでは吸血鬼の方が高く、それでも勝てたのは長年仕えてきたエルベレーナの忠誠と経験があったからだそうだ。

 それに比べ、自分がもっとしっかりしていれば、と無力感に苛まれる。

 聞けば、昨夜の襲撃でダンに襲われた村人は結局帰らぬ人となったという。

 だが、村長や村人達そして子供を攫われたその親達は一様にカリナに感謝していた。

 

「お嬢ちゃんはよくやってくれた。子供達が戻ってこないのは悲しいが、もしお嬢ちゃんが村を守ってくれなかったらもっと酷いことなっただろう」

「そうだよお嬢ちゃん。だからそんな顔しないで、ね?」

「他の村や依頼主には俺から説明しよう。何にせよカリナはよく頑張ったな。そこまで背負い込むことははないから後は任せろ」


 落ち込むカリナを大人達が励ます。

 その言葉で胸のつかえが少しとれた気がしたのだった。

 

 その後、ジルマンは村の殆ど全員から吸血症の感染を確認する。

 だが、既に吸血主はカリナによって能力を封じられた上に今は地下深くに埋まっている。

 また、吸血症に感染しているとは言え殆ど進行しておらず、帝都から神官を派遣し処置すれば大事に至らない程度の症状だったので、すぐに連絡すれば問題なかった。

 ジルマンが帝都に連絡を取っている間、カリナは気休め程度にしかならないと断っておきながらも村人達に解毒魔法をかけて回った。

 不甲斐ない自分でも、せめて村人達の不安を少しでも取り除けるならと思っていた程度だったが、それでも村の者達はカリナに感謝していた。

 

「あ、聖女様だ!」

「せ、せいじょっ!?」


「聖女様……。今日も愛らしくて眼福です」

「ひゃあっ!」


 子供達や一部の村の者達にカルト集団が生まれる程に――

 

*****

 

 

「それで、なぜそんな体になったんだ? もしかしてそっちが本当の姿なのか?」


 10日後、この一件における全ての処理が終えたアルガットへの帰りの道すがら、ジルマンがカリナに問い掛ける。

 

「いえ、吸血鬼に血を吸われた影響です。多分ですけど――」


 アルベルトの説明では、それほどの量ではないにせよ吸血によって数年分の寿命を吸い取られたらしい。

 それによって老化してしまう事になった。

 だがカリナの年齢にしてみれば、まだまだ老化と呼べるものではなく、厳密には成長したと言う方が正しいのだが。

 結果、精神年齢はそのままで体だけが大きくなってしまったのだ。

 それを聞いたジルマンはカリナを見てこう思わざるを得ない。

 

(残念美少女ってやつだな……)

「……? どうしました?」


 哀しい目をして見つめるジルマンが理解できないカリナだった。

 

「それよりも、使徒化したおかげで色々能力が増えてます」


 その能力の一つが『変身能力(メタモルフォーゼ)』だ。これによって翼を自由に収納できるようになった。

 魔法でも似たことができるが、魔力を消費し続けるため実用的ではない。

 

「これで翼と言う弱点も無くなりました!」

 

 と喜んでいたが、ジルマンが試しに背中を撫でてみると悲鳴を上げて逃げて行った。

 どうやら翼と言うよりも背中が弱点らしい。

 

「それ以外も『不死』という能力で、心臓を貫かれないと死なないようになりました。勿論、首が飛んだり体が真っ二つになったりすると死にますが」

「いや、心臓を貫かれたら誰でも死ぬからな」


 ジルマンのツッコミは冷やかだ。

 

「ほ、他にも血を吸って魔力を奪う『吸血』やその逆の『給血』って言うのも……」

「それを使う予定は?」

「……ありません」

 

 他人の血を吸ったり入れたりするなど、想像するだけで気が変になりそうだ。

 

 結局、使えそうな能力(スキル)は『変身能力(メタモルフォーゼ)』しかないが、これはカリナにとってこの上なく有用な能力(スキル)だった。

 何と言っても、『魔王化』を抑えるようにずっと意識する必要がある状態から、気軽に人の姿を保っていられるようになったのは大きい。

 背中の翼は思いの他目立ち、それだけで周囲から視線を集めていたのだから。

 

「それで、その姿は戻らないのか?」

「はい。ボクは元はハーフエルフだし、エルフやハーフエルフはある程度成長したら暫くは老化することなくずっとそのままの姿を保って――」

「それってつまり――」

 

 お前はこの先ずっと残念美少女(てんねん)のままなのか、と可哀そうな子を見る目で見るのだった。

 そんなやり取りの最中、前方から何かが土煙を上げながらこちらに向かってくる。

 

「何でしょうか、あれ」

「早馬だろ? それほど珍しいものでもない」

「でも、アルガットとスノウレンって敵国同士ですよ? 表向きは交流もないのに早馬をだすのって不自然じゃないでしょうか」

「まあ確かにそうだな。っと、そろそろ脇によけないと轢かれるぞ」


 二人が歩く街道はそれほど広くはない。

 慌てて道を譲ると、馬は通過することなく二人の前で急停止した。

 

「其処の御仁は勇者ジルマン殿で間違いないか」

「おう、ジルマンは俺で間違いないぜ」

「勇者殿は例の村人失踪事件について直接報告を受けたいと侯爵様が仰っておる。急ぎ向かわれよ」

 

 堅苦しい騎士によれば、それはジルマンが事前に報告していたこの事件の真相を、改めて聞きたいという。

 それならば、丁度今向かっているので何も問題はなかった。

 

「それと、そこの少女がカリナ殿で間違いないか」

「え? あ、はい。カリナはボクです」

「侯爵様より書状を預かっている。改められよ」

 

 そういうと懐から書状をカリナに手渡す。

 それを読んだ瞬間、カリナの顔からサッと血の気が引いていくのが見て取れた。

 

「……ジルマンさん、ボク直ぐに砦に戻ります」

「砦? そこがお前さんの住処か? どうかしたのか?」

 

 書状にはこう記されていた。

 

 ――討伐軍編成中 およそ4500―――


そういえば、ダンが蝙蝠に化けた時、服はどこに行ったんだろうか……。

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