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射手座の箱舟  作者: トンブラー
奴隷解放編
40/72

はじめてのおつかい

急に忙しくなったと思えば、急病で入院する羽目に……。

書き溜めも無くなってる状態なので、暫くはスローペースで更新

 砦を発ち、魔素が濃く立ち込めた森を抜けると、そこに見えるのは青く澄んだ空と、彼方まで続く草原地帯。

 

「わあ………」

 

 その景色を見て思わず息を飲む。風と草の音が囁くようで心地よく、砦を発った時の心細さを和らげてくれた。

 昔父親と旅をしていた頃に感じていた、見知らぬ景色を楽しみ、知らない事を知り体験する楽しみが蘇ってくる。

 気分が高揚するのに任せて外套を脱ぐと翼を大きく広げる。これまでのような普通の服では広がる翼によって背中の部分が破れてしまうところだが、今着ている服には大きめのスリットを入れているのでその心配はない。

 翼に魔力を通して飛膜を作り一気に跳躍すると、風が吹き付けてくる方向と対面するように体を傾けた。

 

「あははっ! 気持ちいい――っ!」

 

 久しぶりに湧き上がってくる喜びの感情――外を歩けば誰彼かまわずに奇異の目を向けられるカリナにとって、誰にも見られることのない空間は貴重だった。

 飛膜で風を受け止めると揚力となって上昇する。翼の向きや形を変えることで失速することなく空を駆けることが出来る。その速度は馬よりも速い。

 

 地上を見ると狼の群れが鹿を追いかけている。逃げる鹿は右へ左へと飛び跳ねながら必死に駆けるが、このままでは何れ捕獲されてしまうだろう。

 少し可哀そうな気もするがそれも自然の掟である。カリナは鹿の無事を祈りながらも手を出すことなく通過していった。

 

 空の旅を続けて数時間が経った頃、遥か先に小さな村が見えてくる。

 まだ先を飛ぶことは可能だが、徒歩であればここが1日目の目的地だったし、風を受け続けた事で体が冷えてきたところだったので、今日はこの村で宿をとる事にした。

 人気のないところに降り立つと『魔王化』は解除してハーフエルフの姿となってから村に入る。

 あまり大きくはないが村の周囲には柵や門といったものはなく衛兵の姿も見当たらない。恐らく魔素の濃度が低いせいで魔獣が少ないのだろう。

 常に魔物を警戒していたフォルンの村々とは正反対だ。

 

 村に入ってみると、人は少ないが廃れたという感じはせず、どこにでもあるような田舎の集落といった感じだった。

 村人はカリナの姿を見ると一様に奇異の目を向けてくるが、フォルンと違って嫌悪するような目ではなく、寧ろ珍しい小動物を見つけたような好奇の目だった。

 

「お嬢ちゃん旅人さんかい?」

 

 畑仕事で一息ついていたと思われる中年の男がカリナに声を掛ける。

 

「はい。領都の知り合いに手紙を届けるところですよ」

「まだ小さいのに大変だな」

 

 中年はそう言うと、籠から果物を一つ取り出してカリナに放り投げた。

 

「おじさん、ありがとう!」

 

 カリナは笑顔でお礼を言いながら手を振ってその場を後にした。

 

 

 

「奴隷商人だ……」

 

 広場に着くなり目に入ってきた鎖につながれた集団。そしてこんな村には不釣り合いな程の派手な衣装に身を包む男は間違いなく奴隷商人だろう。

 行商人達はそれを見て訝しげな眼を向ける反面、村人達は気にすることなく通り過ぎたり品定めをするように奴隷達を見ていた。

 長閑な村とはいえここはアルガット――奴隷の売買が行われている国だから、こんな風景も当たり前なのだろう。

 だがカリナの脳裏に一つの疑問が浮かんでくる。

 

(この人達、みんな犯罪奴隷だよね……? 危なくないのかな?)

 

 強盗や殺人など凶悪な罪によって捕えられた者の末路は最悪の場合は処刑、そうでなくても犯罪奴隷として労働を課せられる。

 男なら鉱山で、女なら娼館での『肉体労働』が殆どだ。

 そんな連中を気軽に出歩かせたり自由を与えるなど考えられなかった。こんな監視の目も少ない所では猶更だ。

 

 だがそんな疑問など、カリナにとってはどうでもいい。自身にとって最も関わりたくない連中だからだ。

 目を逸らしその場から離れようと背を向けた。

 それでもやはり気になってしまい、こっそり目を移した先には――

 

(……あぁ、見たくないものを見ちゃったなぁ)


 奴隷達に紛れるように並び立たされる、カリナより少し背丈の高い男の子、そしてそれに寄り添う小さな女の子。恐らく兄妹なのだろう。二人はどう見ても犯罪奴隷には見えない。

 生気のない虚ろな目をする兄妹の姿が、思わず嘗ての自分と重なって見える。カリナは小さく溜息をつくと二人の前まで足を進める。

 

「ヨォ嬢ちゃん! 何しに来たんだい?」

「俺達とイイコトしねぇか? グハハハ――!」

 

 左右から人相の悪い男達がカリナに卑下た声を掛ける。それらを無視しながら二人を見た。

 その視線に気が付いた少年は、女の子を隠すように庇いながらカリナを睨む。

 

「おじさん、この子達はどうしたんですか? とても悪い事をしたようには見えませんけど」

 

 カリナが奴隷商人に向かって声を掛ける。商人はカリナを見ると一瞬面倒くさそうな顔をするが、それでも律儀に答えた。

 

「ああ? 事情は知らんが親に捨てられたんだろうかねぇ? 俺達も売人から買い上げただけだから詳しく聞いてないな」

 

 それを聞いた少年の目がつり上がる。だがそれ以上の反応はなかった。

 カリナは二人をじっと見る。二人の手足には自分のときと同じく無数の鞭の跡が痛々しく残っていた。

 

(少しでも反発したら鞭で打たれるんだね……)

 

 嘗てその身に刻まれた恐怖と痛みを思い出し思わず身を竦ませる。何とかして二人の身を引きとらなければきっと後悔すると思った。

 

「でも、こんなに怖そうな人達が逃げ出したら大変ですよね」

 

 世間話をするように先の疑問を投げかけた。

 

「嬢ちゃんはこの国の者じゃないね? 奴隷は主人に逆らったり逃げたりできないように『首輪』を嵌めているんだ。例えば――」

 

 そう言いながら商人は少年から寄り沿う女の子を引きが剥がした。

 

「ユーミッ!」

「お兄ちゃん―――!」

 

 慌てて妹を取り返そうと暴れ出す少年を、他の奴隷達が押さえつける。

 

「な、何してるんですか! やめてください!」

 

 カリナも思わず声を上げたが、商人はそれを無視しながら女の子に囁いた。

 

「おい、お前は逃げていいぞ?」

「――え?」

 

 驚いた表情を浮かべ商人の顔を見返す。

 

「どうせお前みたいなガキは売れ残るんだ。さっさと失せな!」

 

 商人が浮かべる卑下た笑みは、絶対に何かを考えているとカリナは直感した。スグに止めないと拙い事になると――

 

「ちょ、ちょっと待――」

 

 その言葉を遮るように、商人が少年に顔を向けて声を荒げる。

 

「お前も文句はないな! どうせ二人とも仲良く売られるなんて事はないんだ! コイツだけは見逃してやる!」

 

 男達に押さえつけられながら少年は必死に考えを巡らせる。この商人は絶対に何かよくない事を考えていると。

 だが言われた通り、二人が同じ場所で暮らせる時間はもう殆どない。そして自分は兎も角、妹は奴隷としても生きていけないだろう。

 妹を助けるには、この商人(クズ)の提案に乗るしかない。

 

「待ちなさいッ――――!!」

 

 カリナは女の子の腕を掴んで叫んだ。その声に奴隷商人や少年、奴隷達が注目する。

 

「おじさん、あなたはその子に何をしようとした」

「ああ? 今手前(てめぇ)が逃げたらどうなるかを聞いたんだろうが!」

「じゃあ、その子の首輪につけられた鎖は何ですか!」

 

 女の子が掛けている首輪には魔法による不可視の鎖でつながれていた。その鎖の先には商人の手で握られている。もし女の子が走り出したら鎖によって首輪が締まる仕組みになっていた。

 鎖は商人以外に見えることはない。だがカリナは7000もの魔物を眷属におく魔王だ。カリナの持つ能力(スキル)『魔王の権能』により眷属達の能力が集まり、この程度の不可視化を見破ることは容易かった。

 商人にとっては、商品価値のない女の子をこのまま置いておくの費用を食いつぶすだけの存在でしかない。それなら何も知らない行商人たちや奴隷達への見せしめに為に使う事を躊躇う理由はない。

 だが、カリナの言葉が少年の決断を鈍らせた。

 

 カリナは魔力剣によってその鎖を断ち切る。そして奴隷商人の腕を振りほどき、女の子を解放した。

 

「今なら逃げられるから! 早く逃げなさい!」

 

 だが咄嗟の出来事に誰もが反応できなかった。女の子も何が起こったのか理解できず、カリナと兄を交互に見ながらその場に立ち尽くしている。

 

「――もうっ!」

 

 その気になれば1000倍の速度で思考できるカリナは、自らと周囲で全く異なることに焦りを感じて声が漏れた。

 だが、気を取り直して今度は少年を押さえつけている奴隷達に向かって走り出す。

 

「な、何ィ――うげェ!」

「この子達はボクが預かります」

 

 奴隷の一人を打ちのめして、少年を背中で庇うように奴隷商人と対峙する。

 

「何だと! それは俺の所有物(モノ)だ! そんな事許さんぞ!」

「この子達が犯罪奴隷ならボクだって何もするつもりはなかった。でもそうじゃないでしょう?」

 

 カリナは背中の少年に問いかける。少年は戸惑いながらも大きな声で叫んだ。

 

「僕達の父さんと母さんは、コイツに襲われて死んだ! 荷物も全部コイツに奪われたんだ!」

「な……!」

 

 少年の叫び声に、回りにいる行商人達は眉をひそめる。無関心だった村人達も何事かと目を向けていた。

 

「デタラメを言うな! お前は罪を犯した犯罪奴隷だ!」

 

 商人はそう叫ぶが、その言葉に誰も耳を傾けることはない。その焦り声が胡散臭いのだ

 

「それなら、何の罪を犯したか、それを証明するものを見せてください!」

 

 既にカリナは商人が嘘をついてることを看過している。悪魔族(デーモン)は人の心――それも悪意に敏感で、これも『魔王の権能』でカリナにも引き継がれていた。

 

「ええい! 何にせよそいつは俺の奴隷(もの)だ! 奪おうっていうならお前もしょっ引いてやる! かかれ――いッ!」

 

 その掛け声で奴隷たちが一斉にカリナに襲い掛かった。総勢8人の元犯罪者達だが、カリナは慌てることなく魔法を放つ。

 

「「――ウィンドブロー! 」ストーンバレット!」

 

 吹き上がる突風によって加速された石礫が男達に襲い掛かった。

 

「うわぁぁぁぁ――――ッ!」

「ひいぃぃぃ――――ッ!」

 

 瘤や痣を作りながら逃げ回る男達。あっという間に半数が逃げていく。だが――

 

「「――グエェッ!」」

 

 逃げた奴隷達は、主によってかけられた首輪の呪いが発動したことで首が締まり、地面を転げまわった。

 残った奴隷達はそんな光景を目の当たりにしてようやく事の重大さを知ることになる。

 

奴隷商人(その人)に逆らったり離れると、首が締まる呪いが掛かってます」

「なんだって……!?」

 

 狼狽える奴隷達。それを尻目にカリナは奴隷商人の前に歩み寄った。

 

「この子達――いえ、この人達はボクが預かります!」

 

 そういうと、商人の手に握られている不可視の鎖を断ち切る。

 

「お、おのれ……」

 

 奴隷商人は呻きながらその場を立ち去って行った。

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