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射手座の箱舟  作者: トンブラー
奴隷解放編
38/72

帰還

 

 カリナとソウヒが世界樹を後にして数週間が経とうとしていた頃、アルガット王国では先日の盗賊討伐の失態について連日会議が行われていた。

 

「兎も角、盗賊が住み着いた位置が最悪だ。ここからあの砦までどんなに急いでも10日は掛る上、纏まった数で出撃すれば先日のように隣国を刺激する事となる! この様な事を繰り返しては戦争の火種となるぞバラク侯爵!」

 

 でっぷりと太った中年男――イシュミルが会議室で吠えた。対するバラクと呼ばれた髭面の男も負けじと吠える。

 

「そんな事は分かっている! だが国の収入源である奴隷を次々と盗賊に奪われているのだ! 最近では奴隷商共の足もすっかり遠退いてしまった! この問題をどう対処するつもりだイシュミル侯爵!」

「第一、この大陸でリスクの高い奴隷売買を未だに続けていることに問題があるのだ! 有事の際に我が国の助けになる国がどれだけいると思っている!」

 

 二人の貴族は元々奴隷の扱いについて真っ向から割れていた。だが寧ろイシュミルの奴隷を開放する路線の方がこの国では異端と言える。何故ならこの国は奴隷を売る事で国庫を潤しているからだ。

 その一方で国家主導でそのような事を繰り返している事で大陸中の国から批判を受けてるのも確かだ。特に大陸中央に位置するスノウレンからは直ちに奴隷売買をやめるように迫られていた。

 それでも奴隷売買をやめられない理由、それはアルガットの北に位置するウルファニアの存在だった。特に産業のないアルガットは、経済的援助を受けており、実質的に属国であった。ウルファニアに逆らうと言う事は、アルガット王国事態を危険に晒すことになるのだった。

 

 この約2ヶ月の間、いつも同じ議題で二人の平行線を辿る。 片方は奴隷制度の廃止を訴え、もう片方は奴隷の保守を訴える。

 人道的に問題はあるが国として益を求める意味では現制度を是とするのも正しいことなのだ。

 

「ウルファニアより奴隷売買を再開するよう既に再三の要求が来ている。直ぐにでも討伐軍を編成しないと更なる圧力を受けることになるのだ!」

「つい先日フォルンより抗議を受けたばかりではないか! 国境封鎖を解いてもらうのにどれだけの骨を砕いたと思っている!」

 

 以前ソウヒが推測した通りの展開が行われていたのだった。何の通告もなく500人もの武装集団が国境まで押し寄せてきたのである。当然、隣国フォルンも非常事態と判断するに難くなかった。

 また、それから1ヵ月もの間、アルガット側から事情の説明と謝罪を繰り返してそれをフォルン側が受け入れるまで、この街道から物流が滞ってしまったのである。

 その失態を突かれたバラク公爵は渋い顔を隠せなかった。

 

「ならば、今度はフォルン側に事前に申し入れておけばよいの事だ!」

「それはまだ時期尚早だ! ほとぼりが冷めるまで、せめてあと3ヶ月は待つべきだ!」

「そんな悠長なことできるはずがないだろう!」

 

 砦に再度国軍が来なかった理由、それはイシュミルの奮戦によるものだ。彼は彼のやり方で奴隷解放を目指していた。

 

(意地でも国軍をガエン共に所には行かせはせんぞ!)

 

 ガエンから聞いた報告――カリナが援軍を連れてきたと言う情報を得た時、イシュミルはそう決意していた。

 

*****


 

「砦が見えてきました、お兄さんっ!」

「ああ、何も起きてないみたいだな」

 

 砦が無事に残っていたことを喜びながらカリナが駆けていく。それを追う様にソウヒも駆け出した。砦の前まで辿り着くとすぐに門から声が掛った。

 

「ソウヒだ! お嬢もいるぞ―――ッ!」

「門を開けろ――――――ッ!」


 その声と共に重い扉が開く。そして中から懐かしい顔触れ――ガエン達がやってきた。

 

「ソウヒ、嬢ちゃん! 無事帰ってきたか!」

「ガエンさん、ただ今戻りましたっ!」

「親父殿、大事なかったか?」

「ああ、お前達が発ってから誰もここに近づいてこなかったぜ」

 

 そういうガエンは少し酒臭い。初めこそ襲撃を警戒していたが、国軍が一向に姿を見せないので不思議に思っていた。調べてみると先の戦闘によって外交問題に発展しているという事や、イシュミルの奮戦によって編成が遅れていることを知りすっかり気が緩んでしまったという。

 

「あの奴隷商人が……貴族だったのですか?」

「ああ、しかも侯爵だ」

 

 ガエンの言葉にカリナが目を丸くして驚いた。

 

「それはそうと、援軍の方はどうなんだ? 見たところお前達二人だけのようだが」

「はい、それは大丈夫です。 と言っても7000体の魔物達を連れてくるわけにもいかなかったので、空間魔法(ゲート)で少しずつ呼び込みます」

「な……ななな、ななせんのまものだとぉ!?」

 

 カリナはあまりに軽く言うが、その規模は既に砦にいる解放団の100倍以上だ。とてもじゃないが扱いきれるものじゃないとガエンは頭を抱える。

 

「それもお兄さんと相談して、1000体くらいに絞ろうと思ってます」

「それでも多すぎるわっ!」

 

 カリナの常識はそれ以外の者の常識に大きなズレがあるのだった。

 

 

 その夜、二人はガエンに呼び出される。その場所は言うまでもなく――広間(たまりば)だ。

 ソウヒとカリナは手を繋いで扉を開ける――既に遠くからも聞こえていたが――中から酒の香りと熱気が伝わってくる。

 

「うっほほおおおおおおおおいっ!」

 

 一斉に歓声が上がる。そして駆け巡る既知感(デジャビュ)――

 

「おいおいおいおい! ソウヒとお嬢が手つないでるぞ」

「なんだよ! 俺らが命がけでここを守ってる時になにしてたんだよぉ!」

「もうヤったのかっ? 何回だっ! 何回ヤったんだよこのエロ猿!」

「うっせぇぇぇぇぇ―――――ッ!!」

 

 ここでの生活は僅かな時間しかいなかったのに、ソウヒと皆の掛け合いが無性に懐かしい――内容はあんまりだったが。

 カリナは呆れたような、或いは困ったような顔をながら笑っていた。

 

「きたか二人共、まずは長旅ご苦労さんだ。まずは詳しい話を聞こうじゃないか」

 

 ガエンの問い掛けに、ソウヒが時間をかけて世界樹までの旅先の経緯を説明する。そして最後に当初の目的である援軍――魔王となったカリナにしたがう眷属について

 

「カリナ――」

「はい、ボクに従う魔物の数は7013体です。内訳ですが――

 子鬼族(ゴブリン)中鬼族(ホブゴブリン)犬子鬼族(コボルト)が全部で6000体――

 上級猪剛族(ハイオーク)がおよそ1000体――

 戦鬼(オーガ)単眼戦鬼(サイクロプス)が500体――

 悪魔族(デーモン)大悪魔族(アークデーモン)で500体で合計7000体です。それと―ー

 ドレイクが5体――

 ワイバーンが3体――

 固有種(ネームド)戦鬼(オーガ)が4体――

 大神狼(オンカムイ)が1体――

 ――という構成です」


「お、おう……そうか――……」 

 

 ガエンは言葉を失う。仲間達全員も一緒だった。子鬼族(ゴブリン)中鬼族(ホブゴブリン)はいい。上級猪剛族(ハイオーク)もまだ許せる。だが戦鬼(オーガ)だの悪魔族(デーモン)だの、果てはドレイクやワイバーン、そして聞いたことのない魔物もいる。

 想像以上の戦力だが自分では扱いきれないと改めて感じていた。しかしカリナはその反応を見て付け加えた。

 

「そこで提案ですが、ボクとお兄さんで魔物達の指揮を執ります。皆さんとの間もボクが取り持ちます。そしてガエンさんが扱える数だけの戦力を譲渡するというのはどうでしょうか」

「おお、そうしてくれるのはありがたいな」

 

 その提案にガエンはほっと胸を撫で下ろした。結局、ガエンが人間達の部隊50人に一般兵となる子鬼族(ゴブリン)達を100体加える事になり、カリナとソウヒはロトス達固有種戦鬼(ネームドオーガ)を筆頭とした部隊400体ずつを率いる事となった。

 

「でも、嬢ちゃんは分かるが何故ソウヒも指揮を? まあ指揮官が多いに越したことはないが」

「お兄さんは――」

「カリナ、ここは俺が話す――親父殿、俺は旅の途中で一度命を落とした。今はカリナが自分の命を分けてくれた事で生きながらえている。今の俺はカリナと魂でつながっているんだ」

 

 これは理世が事前に考えていた自分の存在を自然に隠すための言い訳だった。ガエンはソウヒが一度死んだと聞いて驚いていたが、最早この手の話に慣れてしまったのか、すぐに立ち直る。

 

「よし分かった! 改めて長旅ご苦労さんだ! よし飲むぞ乾杯―ーッ!」

「いぇええええええええええい!」

 

 ガエンは言葉に間髪入れず乾杯の音頭を、そして男達が続いて歓声を上げる。

 

「はあ……。やっぱりこうなるのか」

 

 呆れるソウヒを見てカリナが微笑む。

 

「でも、こんな皆を見て思いました。帰ってきたんだなって――」

「――そうだな」

 

 カリナの言葉を聞いてソウヒも自然と顔が綻んでいた。

 

 

******

 

「うぅ……気持ち悪い」

「何やってるんですか、お兄さん……」

 

 カリナの肩に担がれるのは、言うまでもなく――さっきまで男達に散々飲まされたソウヒだ。既に足元も覚束ないので寝室まで担いできたのだ。

 そしてカリナがソウヒをベッドに放り投げる。明かりの点いてない薄暗い部屋の窓から、月明かりが白く眩しく差し込んでいた。

 

「それじゃお兄さん、おやすみなさい――」

 

 部屋から出て行こうとした時、ソウヒの手が伸びてカリナの腕を掴む。そして――

 

「カリナ、服を脱いでくれ――」

「―――へ?」

 

 突然の言葉にカリナの思考が停止する。その瞬間ソウヒはカリナの服に手を掛けた。

 

「――はっ! ひやぁぁぁぁっ! お兄さんっ!? お兄さんっ!」

 

 今まさに何が起きるのか――何をされるのかを想像して、カリナが必死に抵抗する。

 

「大丈夫だ。俺に任せろ」

「だいじょうぶってなに!? なにするのっ!?」

 

 服を脱がされ下着姿のカリナは顔を真っ赤にして間を置こうとする。カリナの体を見たソウヒの目は本気(マジ)なのだ。

 

「ボクまだ12歳なんだけどっ!」

「……何言ってるんだ。歳は関係ないだろ?」

 

 そう言うソウヒがカリナ体に手を触れ――なかった。

 

「―――――?」

 

 ソウヒの動きが急に読めなくなり、だが非常警戒体制を解くことなく見守る。そして――

 

「――治癒術(ヒール)

「え? ―――あっ!」

 

 カリナの肢体に刻まれていた無数の傷痕、それが綺麗に消えていく――

 

「……お兄さん、どうして――」


 自らの体を空しく見ながら、カリナは哀しそうな声を絞り出した。

 

「初めてお前がここに来たとき、いつか元に戻してみせるって言っただろ?」

「それは……でもそれじゃあ……」

 

 カリナが項垂れる。ソウヒとの絆が失われてしまったと感じながら。それはソウヒ自身も察していることだった。

 

「大丈夫だよカリナ。俺はこんな傷痕だけでお前と一緒にいたわけじゃない。こんなのは切っ掛けに過ぎないんだ。」

「でも、やっぱりボクは怖い。何度大丈夫って言われても、お兄さんの気が変わってしまうのが怖い」

「俺は―――想像できないな。俺の気が変わるのも、お前の気が変わるのもな――」

「お兄さん――」

 

 その言葉を聞いて安心するようにソウヒにしがみつく。そのままの姿でカリナはソウヒのベッドに転がり込んだ。

 ソウヒは優しくカリナの頭を撫でる。服を脱いで冷えた体にはソウヒの腕の中が心地よかった。

 

「あ、でもエッチな事はしませんからね!」

「……何言ってるんだ。お前まだ12歳(こども)だろ?」

「―――ッ!? ムキィィィィィ―――ッ!!」


没にした最後のシーン ―――――――――――――――――――


「カリナ。俺はこんな傷痕だけでお前と一緒にいたわけじゃない。こんなのは切っ掛けに過ぎないんだ。」

「お兄さん――」

 

 カリナがソウヒを見る。顔の赤らみは酒のせいか照れてるのか分からない。眼が真剣そのもの。いや決意が籠っている。

 

「俺はお前を―――あいしてる」

 

 カリナの目から涙があふれた。溢れて零れて止まらなかった。言葉が思い浮かばない。返したい言葉があるのに出てこない。

 やがて出てきた言葉――

 

「うん――……ボクもお兄さんを――あいしてます」

 

 自然と二人の唇が重なり合う。そしてそのままベッドに倒れこんだ――

 

 

 ―――――――――――――――――――



おかしい。冒険物にするはずなのに、どんどん恋愛物になっていく気がする……

と言う事で没。

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