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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
34/72

 カリナはラムールに事の次第を話した。

 当初は訝しげな顔をしていたラムールであったが、モタラの死とカリナの魔王の種が発芽した話をすると目を開いてカリナを見る。

 

「そなたはやはり、メリル卿の娘であったか」

「はい」

 

 カリナがその名前を名乗ったときから薄々と感づいていた。メリルの急な訪問も説明がつく。思えばモタラ氏とその娘(カリナ)が盗賊に襲われたという報告はロメールから受けたもの。メリル卿は否定していたが、少女がここに乗り込んできた以上、モタラ氏がロメールによって謀殺されたという話は本当の事なのだろう。それにロメールが関わってる疑いは十分に考えられた。

 だが、そこでラムールに一つ疑問が残る。

 

「……ロメールの関与についての証拠は、その盗賊共の証言だけか?」

「――正直に言うと、その通りです。物的証拠はありません」

 

 その言葉を聞いてロメールは安堵する。もしこの少女の話が真実だとしても物的証拠がなければ手出しは出来まいと。

 だが、カリナは予想外の言葉を口にする。

 

「だから、ボクは文句を言いに来ただけです」

「……どういう事だ?」

 

 その眼から真意は掴みとれない。ロメールが問い質そうとしたその時、今度はノックの音すらすることなく扉が開け離れた。

 

「父上ッ!! おのれ賊め! そこになおれ!」

 

 執務室に飛び込んできたのは、派手な衣装に身を固めたエルフ――ロメールだった。

 

「……ロメールか」

 

 その姿をみて静かに呟くラムール。ロメールは腰に差した小剣を引き抜くとカリナに斬りかかる。カリナはそれを難なく躱しながらロメールの横腹に足刀蹴りを打ち込んだ。

 

「グぉ……ッ!?」

 

 ロメールの体がくの字に折れ曲がる。苦悶に歪むその顔に今度は掌底がヒットした。倒れ伏すロメールの利き腕に体重をかけて――

 

「ギャァ―――ッ!!」

 

 折られた腕を抱え蹲る。その様子を冷やかに見つめながらカリナは笑った。

 

「まさか、斬りかかってきてくれる(・・・)なんて、おかげで手間が省けました」

「ロメール! 貴様……何をしたのか分かっているのかッ!?」

 

 カリナを非難するラムールだが、カリナに目を向けられた瞬間に竦み上がった。『威圧』が込められたその視線によって完全に言葉を失う。

 

「何を、ですか? ボクは問答無用で斬りかかってきたこの人(・・・)を無力化しただけです。ラムール様」

 

 異様に冷めた口調でカリナが語り始める。

 

「それで、貴方がロメール卿ですね? 初めまして、ボクがメリルの娘カリナです。そして貴方に忙殺された父モタラの娘でもあります」

「貴様が…あのダークエルフだとぉッ!?」

 

 カリナの口がニィッと釣り上がっていく。ロメールは痛みで思考が鈍くなっているせいで、致命的な失敗を犯してしまったのに気付いていなかった。

 

「ラムール卿、いまロメール卿は自信でこの件の関与をお認めになられました。なのでコイツ(・・・)は今からボクの父の仇です。」

「……クッ!」

 

 ラムールは苦々しく顔を顰める。物的証拠がない以上知らぬ存ぜぬを貫けば手出しができないのに、いとも簡単に口を割ってしまった愚かな息子を睨んだ。

 この問題は息子一人の問題だけではなくなってしまったのだ。何せ貴族――メリル卿の家族を手に掛けてしまった事を認めてしまった事になるのだから。

 そしてラムールは気づいた。この少女の真意は、自らがダークエルフにされたことに文句を言いに来たのではない。父親の仇を取るために来たのだと。

 

(それも無理のない話か……)

 

 カリナの目が次第に釣り上がっていく。抑えていた怒りが堪えきれなくなり、そしてロメールを見た瞬間――

 

「ウアアアアアアァァァァァアアア――ッ!!」

 

 ロメールの顔を何度も殴りつけた。殴った手がどれほど痛くなっても何度も――

 

「ぐあっ! がぁっ! や、やめ……ッ! げふっ!!」

 

 その細腕から振り下ろされる拳は見た目通りではない。戦鬼(オーガ)が振り下ろす大剣にも耐える程の腕力なのだから。瞬く間にロメールの顔がはれ上がっていく。

 ロメールが認めてしまった以上、彼を庇う事は領地間の問題に発展するのは間違いない。だがそれを見過ごせるほどラムールも非情にはなりきれなかった。ロメールの上に覆いかぶさるとカリナに許しを請う。

 

「カリナ殿、そなたの怒りは尤もだ! だがこやつは儂にとってたった一人の息子。どうか子を想う親の気持ちに免じて許してはくれないか!」

 

 その言葉を聞いてカリナは少し気持ちを落ち着かせて、ラムールに言い放つ。

 

「ハァハァ……。ボクは親じゃなくて子供です。コイツに親を奪された――」

 

 だが、カリナは再度拳を振り下ろすことはなかった。

 

 

 衛兵から執務室に来るよう呼ばれたメリルが中に入ると、そこは散々たる有様となっていた。

 いつの間にか館に来ていたカリナと、足元で横たわるロメール――と思われる男(・・・・・)、そしてそれに覆いかぶさるラムール卿。何が起こったのかは想像に難くなかった。

 

「あらあらカリナ、随分派手にやっちゃったのねぇ?」

「ごめんなさいお母さん、お母さんの分を残せませんでした……」

 

 メリルは憔悴しきったカリナを優しく撫でる一方で、横たわるロメールの前に腰を落とした。

 

「ラムール卿。ロメール卿には我が夫に手を掛けた嫌疑、我が領地の治安を乱した嫌疑、そして娘に大してこの国では禁止されている奴隷に仕立てた嫌疑がかかっています。 すぐにお引き立てしますので、よろしくお願いしますね」

「…………」

 

 ラムールは何も言えなかった。これ以上ロメールを庇えば内戦になる。その沈黙を了と見て、メリルはゴードンにロメールの捕縛を命じた。

 

 

*****

 

 

 

 翌朝――

 メリルは馬車にロメールを乗せフォルン首都に向かう。そこで彼の行いを糾弾する為だ。道中の護衛はシウラとゴードン務める事となる。

 だがカリナとソウヒはメリルの馬車に乗る事はなく、このまま世界樹に向かう事になっていた。

 

「シウラさんゴードンさん、お母さんをお願いします。」

「あいよー! またどこかで合流できたらいいね!」

「しばしの別れだが、いつか必ず出会うであろう」

 

 二人はこの別れを永遠のそれとは捉えていない。シウラもゴードンもすぐに会えると信じている。

 

「シウラはなんだか楽しそうだな。」

「そりゃそうよ! 王都に行くなんて初めてなんだし、他にも色んな所を冒険してみたいんだから!」

「強き者カリナよ、そなたとの旅は某にとっても知らぬことを知る、楽しいひと時だった。ならば次の出会いに期待するのは当然の事」

「ありがとう、ゴードンさん」


 そう言う二人に笑いかけた後、カリナはメリルの方を見る。

 

「しっかりね、カリナ」

「はい、お母さんも、またいつか会いに行きます」

「ええ、まってるわ」

 

 母娘が交わす言葉は少なかった。言葉を交わせば交わすほど感情が漏れ出てしまうのだから。だがカリナの目の端に涙があふれる。それでもしっかりメリルを見て――

 

「それじゃお母さん、行ってきます!」

「はい、いってらっしゃい!」

 

 何度か名残惜しそうに振り返りながら、二人は森の奥へと進んでいく――。

 

 

 

「ここから世界樹までは歩いて2日程、目と鼻の先だ」

「いよいよ、砦に帰れますね」

「ああ……それカリナ、そろそろ話してほしいんだが。世界樹に何かがあるという話、それは何処から得た情報だ?」

「ええと……内緒です。ちょっと説明が難しいので『魔王』の力の延長と思ってくれれば――」

「――そうか」

 

 それ以上ソウヒから聞かれることはなかった。気にはなるが誰にだって秘密は持っているものだ。自分だってカリナに言えない秘密くらいはあるのだからと。

 

 森の中を歩き始めて数時間が経過した。カリナはソウヒに小声で声を掛ける。

 

「――お兄さん、取り囲まれてます」

「……何っ?」

 

 警戒する二人の前方から一人、二人と姿を現す男達。そして左右に二人、背後には五人――見えるだけでも10人以上はいる。

 男達は全員武装している。それどころか既に戦闘態勢に入っていた。

 

「――何だお前ら……」

 

 ソウヒが短槍を構えながら前方の男を睨む。

 

「その娘を置いていけ。命が惜しければな」

「ハッ! 応じると思ってるのか?」

「思っていないさ」

 

 その時――

 

「お兄さん!」

 

 カリナの声が聞こえると同時に――

 

 ――ヒュドッ!!

 

「くあッ!!」

 

 ソウヒに目がけて飛んできた矢をカリナが庇う。矢は右胸に突き刺さり、痛みで膝から崩れ落ちた。

 

「カリナ―ッ!!」

「今だ! かかれぇ――ッ!」

 

 一斉に斬りかかる盗賊達、なす術なく切り刻まれていくソウヒ―――

 そして――

 

「ぃ……嫌ァァァァァァ――――――ッ!!」

 

 動けないカリナに男達が群がっていく――

 

「やめろ……ヤメロォオオオオオ――!!」

 

 ソウヒの悲鳴はすぐに男達によってかき消されていった――


何故かカリナが襲われるときだけ執筆速度が上がる気がする(ゲス顔)

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