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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
32/72

囮作戦

「カリナ様―ッ! そろそろ戻りましょう!」

 

 森の中に入ったカリナに向かってシウラが叫ぶ。

 

「もうちょっと! せめてお母様のお怒りが静まるまで!」

「お嬢様、それでは日が暮れてしまいますし、メリル様は益々お怒りになられます」

 

 隣に立つソウヒがカリナを諭すように声を掛けた。カリナはそれを不満げに声を上げて非難した。

 

「どうしてお母様を宥めてくれなかったのですか!」

「公式の場で俺から口を出すのは如何かと思いましたので」

「うぅ―――ッ!」

 

 更に不満げに声を出す。だがその顔は僅かに顔はにやけていた。自分が「お嬢様」と呼ばれるのに慣れていないせいだ。

 広場でソウヒが提案した芝居――それは自らを囮にして刺客を取り押さえてロメールにつきだすと言うものだ。作戦を聞いてシウラは乗り気はなかったが、カリナはその逆に大賛成だった。

 まるで幼子のごっこ遊びのようなやり取りが続く。

 

(こんな作戦上手くいくのかねぇ?)

 

 そもそもこの作戦は穴だらけなのだ。こんな里の近くで貴族の令嬢が襲われるなどその領地の信用に関わる事だし、襲撃を誰かに目撃されるリスクも高い。

 本当に襲撃してきたとして、敵数も不明で危険だし、先にカリナを襲った連中であるかも分からない、そして――

 

「ま、いっか。カリナも楽しそうだしねぇ」

 

 シウラは考えることを中断して、暫くはカリナ達につきあう事にする。

 

 

「――どうだ? なにか気配は感じるか?」

 

 ソウヒが小声で話しかける。

 

「今のところは何も」

「そうか」

 

 やはり当初シウラが言っていた通り作戦に無理があったかとソウヒは諦めかけていた。

 

「あ、誰かきます。結構な数です」

「よし、念のため警戒しよう。」

「はい――痛ッ!!」

 

 カリナが大声で叫んだ。シウラはその声を聴くと、慌ててカリナに駆け寄っていく。

 これまでが敵を誘い出す作戦なら、これからは敵を釣り上げる作戦だ。トラブルがあった事を見せかけて敵が接近する機会を与えるのだ。同時に戦力として乏しいシウラを呼び戻す意味もあった。

 

「まさか、本当に来たの?」

「ああ、ロメールの奴は余程間抜けらしい、で俺の見立てが正しければ――」

 

 ――ガサッ

 

 近くの茂みから接近してくる何かを感じ、こちらに向かって――わざとらしい声が聞こえてきた。

 

「そこの人、どうかしたかい――ッ!」

「誰だッ!」

 

 声がする方に向かってソウヒが叫ぶ。そこから現れたのは薄汚れた革鎧を着込んだ男達が10人程度。猟師に見えなくもない姿だが人数からしてそれはないだろう。男達の一人がカリナを見て声を上げる。

 

「てめぇ! 生きていやがったのか!」

「おい馬鹿!」

 

 男達のその遣り取りを見たソウヒは――

 

(いきなり正体をばらしやがった! 間抜けすぎるだろッ!)

 

 呆れてものも言えないとはこのこと。カリナに対するその物言いは明らかに前回の犯人と自ら宣言したという事だ。カリナが困ったようにソウヒの顔を見る。

 

「お、お兄さん――」

「あ、ああ……俺もここまでとは思わなかった」

 

 それを怯えているととったのか、先頭のリーダーらしい男が声を掛けてきた。

 

「坊主! 命が惜しければ有り金全部出しなよ! まさか女二人を護りながら逃げ切れるとは思わないだろ?」

「ま、まあそうだな……」

 

 ソウヒはあっさりと懐に手を入れる。少しは抵抗されると思っていた盗賊達は拍子抜けした様子だが、次のソウヒ達の行動で完全に意表を突かれる事になる。

 

「これでもくらえッ!」

「ウィンドブローッ!」

 

 ソウヒが煙幕弾を投げつけると同時にシウラが魔法を唱える。無詠唱で弱められた魔法は、やや強い風程度でしかなかったが、煙幕弾から吹き上げる煙を十分に広げていく。

 

「――うおおっ!」

「――ぐぁ!」

「――ぎゃあぁぁぁ!」

 

 突然の煙によって盗賊達の視界は遮られ、近くから仲間たちが討ち取られる声が響いてきた。カリナは盗賊の数人を張り倒すと、その内の一人を煙から引きずりだしてソウヒ達と一緒に離脱する。

 煙の中で混乱する盗賊達は、自分の周りから聞こえる悲鳴を聞いてさらに混乱し、同士討ちを始めていた。

 

 

「――やっぱり人間だったんですね」

 

 捕えた盗賊を見てカリナが呟く。その盗賊はカリナを見て最初に声を上げた男だった。

 

「大方の予想通りだったねぇ。じゃあそろそろ始めましょうか」

「ああ」

 

 気を失っている男はソウヒに叩き起こされると、捕縛されている自らの状況を理解して声を上げた。

 

「テメェ! 離しやがれ!」

 

 ――ガスッ! ズガッ! ドカッ!

 

「月並みな台詞言ってんじゃねぇよ。 まずはこっちから質問、いや尋問が先だ」

 

 声のトーンを変えることなく事務的に語りかけながら蹴り続けるソウヒ。男はようやく口を噤んだ。

 

「で、お前は誰の命令でここに来た?」

「……はぁ?」

 

 ――ドカッ!

 

「とぼけなくていいんだぞ? 痛みが長く続くだけだ。……言っておくが聞きたい返答がくるまで殴るからな」

「……知らねえよ! 知りたいなら頭に聞け!」

 

――ガスッ!


「お前はカリナの顔を知ってたんだろ? なら依頼の内容は知ってるはずだ」

「……」


 

――バキッ! ドガッ!


 獣人(セリアンスロープ)のソウヒは人間よりも力が強い。だが延々と蹴りつけても男は口を割らなかった。

 

「クソッ! 中々しぶといな」

「お、お兄さん……ちょっといいですか?」

 

 ソウヒの尋問が恐ろしくて、目と耳を塞いでいたカリナだったが、ソウヒが焦れているのに気が付いて声を掛ける。ソウヒのその顔はいつもの優しい目ではなかった。

 少し怯えるカリナの様子を見て、すぐにソウヒは気を取り戻していつもの調子を取り戻す。


「ああ、すまん。どうした?」

「はい、村で話したと思いますが、ここは一つ助っ人にお願いしたいと思いまして」

「あぁ、そういえば……」

 

 ソウヒはカリナが戻ってきたときに聞いた戦鬼(オーガ)の存在を思いだす。

 

「え?助っ人?」

「あ、シウラさんには話してなかったでしたっけ? じゃあ紹介を兼ねて呼び出しましょう――」

 

 そう言うなり、カリナは『魔王化』を発動して姿を変える。そして唱える魔法は――

 

「我、ここに顕現させるは忠実なる(しもべ)なり。()でよ――戦鬼(オーガ)の皆さん!」

 

 カリナの目の前に漆黒の空間(ゲート)が現れそこから4体の戦鬼(オーガ)が出てくる。

 

「なんだその間抜けな詠唱は……」

 

 戦鬼(オーガ)の1体――ロトスがカリナに声を掛けた。

 

「だって、一体ずつ呼び出すのが面倒だったので……」

 

 それを見たシウラは――

 

「え……ナニコレ……」

 

 と腰を抜かしてへたり込む。盗賊も口を開いたまま声が出ない。

 二人を無視してロトスはソウヒに笑いかける。

 

「てめぇは昨日の奴か! 俺はロトスだ。我が主(カリナ)の僕となる事になった。よろしくな!」

「あ、ああ…。おれはソウヒだ――…」

 

 対するソウヒは警戒と緊張から硬直していた。

 

 

 カリナは戦鬼(オーガ)達に事情を説明しする。そして最後に――

 

「――と言う事で、そこの男がいつまでも情報を話してくれないので処分(・・)したいのですが」

「……え?」

 

 その言葉を聞いて盗賊がやっと一言だけ言葉を吐く。すぐに比較的小柄な戦鬼(オーガ)が喜んで手を上げた。

 

「ラッキー! じゃあオイラは頭頂戴! 脳みそが珍味なんだ!」


それに続くように他の戦鬼(オーガ)達も次々に手を上げる。


「なら俺は足を片方もらおう。モモ肉は柔らかくて美味い」

「それなら僕は肝臓……いや心臓にしようかな」

「アタシはチ○コ!」

「「ええぇ……!?」」

 

 女の戦鬼(オーガ)の爆弾発言にそれ以外の全員が目を剥いて叫んだ。

 

「知らないの? チ○コは滋養強壮に良いんだよ! 煮てよし焼いてよし揚げても美味い!」

「「は、はぁ……」」

 

 その感覚についていけないその他だった。そんな反応を無視して、

 

「まあいいや! じゃあ早速引っこ抜くよ!」

 

 その言葉を聞いた盗賊は――

 

「ひ……ひぃぃぃ! 分かった! 話す! 話すから助けてくれぇぇぇ!」

 

 と泣き叫んだ。と同時に女の戦鬼(オーガ)の方も声を上げる。

 

「あ、こいつ漏らしやがった! もう食えないじゃん!」


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