情報収集
翌日、カリナ達はラムール領直轄の里に到着する。
すぐにでも領主館に乗り込んでロメールに問いただそうと息巻くメリルだったがカリナがそれを止める。
レウナス領の衛兵達から得た情報は既に報告書に纏めさせているが、それだけではロメールを追及するには証拠が少ないからだ。
そこでメリルが直接ロメールと会う一方で、カリナ達は里内で情報を探る方針となる。
「アイツに会った瞬間に首をねじ切るかもしれないけどね……!」
と笑顔で話すメリルを見て、ゴードンを除いた3人が心底震えあがった。
結局、本当にやられると国内で戦になりかねないので念のためソウヒとゴードンが護衛と称してメリルに付くことになる。
「さて、まずはどうしますかね」
食堂の一角を陣取ってシウラが切り出す。
「まずはボクが盗賊に襲われた時の状況をもう一度話します。そこから情報整理したらいいと思います」
「そうだねぇ……。あまり思い出したくないだろうけどお願いするわカリナ」
「はい、わかりました」
カリナが当時の状況を話し始める。もういい加減忘れたいのだが忘れられない話。シウラはそれを沈痛な表情を浮かべながら真剣に聞いていたが、話し終わったときは目から涙が滝のように流れていた。
「ガリナァ―…よくがんばっだねぇ」
「シウラさん……あの、周りの目もありますので……」
諜報と言うには大げさだが、それでも正体がばれるわけにはいかないのだ。目立つのは避けたいところなので、カリナは慌ててシウラを宥める。
暫く経ちシウラが落ち着いてくると、改めて情報を整理し始める。
「うん、まず気づいた事だけど、盗賊は殆ど人間か少なくとも他種族かも知れないね」
「……どうしてですか?」
「だってさ、カリナを見て上玉って言ったんでしょ? 勿論カリナは可愛いけどさ、そういう物言いをエルフがするのは珍しいしね」
「……うぅん?」
カリナの頭の上に「?」が浮かんでいる。 カリナはカリナで身なりに気をつけてはいるし、エルフから見ても十分可愛らしく見える。
だが、エルフ達とそれ以外の種族の美的感覚の差は大きく、エルフの感覚でちょっと可愛い程度が、多種族からは絶世の美少女に見えるのだ。
「それでその……カリナにした盗賊の行動も人間臭いんだよね」
「……はい」
その話は思い出したくない、生きてきた中で一番と言っていい程の恐い思い出だ。
「流石に12歳の女の子に手を出すエルフはいない……と思いたいっ!」
「に、人間はいるんですか?」
「いるよ。人間だけじゃなくて獣人もそうかな? 逆にドワーフ達は熟女好きって聞くけどね」
「お兄さんっ……!」
そう、身近に12歳の女の子に惚れる変態がいることを思い出した。今更信用できないとか恐いと思う事はないが。
「よく分かりました。じゃあ人間やエルフ以外が集まる場所と言えば――」
「――冒険者ギルドだね」
二人は頷いて行動に移した。
*****
「急なお目通り感謝致します。ラムール侯爵」
「いやいや、既に先触れは届いておりましたので。もうお身体はよろしいのですかなメリル卿」
「おかげ様ですっかり快復しまして、もうこの通りですわ」
領主館にて、メリルは領主ラムールに挨拶を交わす。少々顔に皺があるもののエルフらしい端正な顔つきをした領主はこれでも齢180を超えている。
対するメリルは若干36歳。領主から見れば小娘もいいところだったが、それでも領主レウナスの代理として扱っていた。
「それで、此度はどのような用向きで?」
「はい、先日ロメール卿より親睦の御挨拶を頂いたのですが、生憎その時は病で伏せておりましたので。此度は是非お会いしてお礼を申し上げたく参りました」
「おお、それはありがたい! ここだけの話、ロメールはメリル卿のことがすっかり気に入ってしまっておってな。伯爵が会いに来たと聞けば飛んでくるだろう!」
「あらあら……うふふ」
メリルは顔を少しを赤らめる。それは本心で照れてるわけではなく貴族としての嗜みからだ。本心では――
(寒気がするわッ!)
――と。それを後方で控えていたソウヒは、流石貴族だ――と冷や汗をかいていた。
その時応接間の扉が開き、廊下からエルフらしからぬ派手な衣装をまとった優男が入ってくる。一目見ただけで十分分かる。目当ての男だ。
「メリル殿! 病に伏せていたと聞き心配しておりましたよ! お身体はもう大丈夫なのです?」
「はい、ロメール卿。 先日は態々お越し頂いておりながら大変失礼致しました」
「いえ……、御夫君と御息女が盗賊共に襲撃されたと聞かされれば。 この度はお悔み申し上げる次第――」
ロメールは沈痛な面持ちでメリルに語りかける。そのわざとらしさにメリルは怒りで震えていた。それを必死にこらえて顔を背ける。
「おお、儂もその話はロメールから聞いておる。 ラムール領を代表してお労わり申し上げよう」
ラムール侯爵も目を閉じながら言葉を述べた。
ここまで話してメリルは気付いたことがある。なぜ他領地の内情を二人は知っているのか? そもそもモタラとカリナの死はレウナス領内でも知る者は殆どおらず、精々里の近辺に盗賊らしい姿がみつかった事くらいの情報しか出回っていない。
いきなり自分から尻尾を見せてくれるとはなんと間抜けな奴だと思いつつ、メリルは更にカマをかけてみる事にしてみた。
「いえ、盗賊共に襲撃されはしましたが、夫も娘も生きておりますよ?」
「――え?」
「おお何と! そうだっであったか!」
ロメールとラムールが示した反応で全てが分かった。ロメールは明らかに動揺しているが、ラムールは更にそこから純粋に喜び表情をしている。どっちが黒かは一目瞭然だ。
それに気づかない振りをしてメリルは続ける。
「夫モタラは娘を庇い深手を負っており、今は父の領地内で治療を受けております。その為娘を連れてきたのですが――好奇心が強く到着するなりすぐにいなくなってしまい……里から出ていなければいいのだけれど……」
メリルが心配そうな声でカリナの事を話した。
「……そうであったか、ならば探して来させましょう。――特徴をお教え頂けますか?」
「恐れ入ります。髪は金赤色で色白の肌、細身で遠くから見てもすぐにわかりますわ」
「承りました。急ぎ使いを出しましょう」
「ソウヒ、そなたも探してきなさい。母が怒っていたことも含めてね!」
「――かしこまりました。メリル様」
ソウヒはメリルの考えを見抜き、急いでカリナを探しに外に出る。
(娘を囮にするのかよ……。全く大胆な母上様だよッ!)
心の中で愚痴るが、だからこそメリルは信頼できるソウヒを送り出したのだ。その考えには気づけないソウヒだった。
そしてソウヒにはもう一つ気付いていない事がある。この地に着いた時のカリナは、黒髪褐色の『魔王化』した姿だったことを。
*****
「……失敗した」
「そうですね……」
シウラとカリナが里の広場で立ち尽くす。人間が集まると思って冒険者ギルドに向かうつもりだったが、そもそも里には冒険者ギルドがない。
フォルン王国は保守的なエルフの地。他種族が集める施設を里に作る筈などなかったのだ。
それに気が付いたとき、同じエルフであるシウラはもんどりを打って倒れた。
「とりあえず、酒場にでも行こうかねぇ。あそこなら依頼を受けた冒険者も集まるでしょうし」
「でも、まだ昼前ですよ? まさかもう飲んでるなんてことは――」
「ま、言ってみれば分かるよ!」
そういって、盛り場の方に足を向けて行った。
「――どう?」
「ん―…まさかこんな時間から酔っぱらってる人がいるなんて……」
「ま、冒険者なんて四六時中酔っぱらってるからね! ってそうじゃなくて、見覚えのある奴とかいない?」
「分かりません……」
人間相手に酒を出す店は限られているので、その内の1軒を選んで中に入った。だがその中に盗賊らしい人間は見当たらない。
そもそも、盗賊がエルフと人間のどちらだったかも分からなかったのだ。顔を覚えてるかなんて怪しい。
「おお、そこのエルフの姉ちゃん! 奢ってやるから一緒に飲もうや!」
「そこのお嬢ちゃんもどうだい!」
早速、人間達が二人に絡んでくる。どちらも綺麗な顔立ちをしているので目立っていた。
「あ、いえお構いなく」
「まあま、そう言わずにさぁ! 一杯だけでも相手してくれよぉ!」
気の良さそうな酔っ払いを邪険に扱うにもいかないので愛想よくお断りする。だが酔っ払いもせっかくの美少女達を簡単に逃がしたくはないので強引に背中を押した。
その手がカリナの背中に触れて――
「ふゃぁぁっ! ど、どこ触ってるんですか!」
突然背中の翼に触れられた事で思わず声が漏れた。
「なんだお嬢ちゃん、背中が弱いのか?」
こういう時、酔っ払いは良からぬ事を考える者だ。ニヤニヤしてカリナの背中を更に擦る。同時に電撃の様なナニかがカリナの背筋をハシり――
「ちょ…ァァッ! ヤメッ! ぃやァァァァ!」
顔を真っ赤にして酔っ払いの顔をぶん殴った。 その人並み外れた腕力で酔っ払いは吹っ飛んでそのまま目を回してしまう。周りの男達が驚いてカリナを見た。
涙目になっているカリナに視線が集中すると――
「あ………ぃ…………やだ…………」
「――カリナ!」
震えて怯えるカリナをシウラが抱きしめて落ち着かせる。そしてそのまま店を後にした。
「カリナ、大丈夫?」
「ぐすっ……はい……」
隣で泣いているカリナをシウラが慰める。結局その1軒目から次の店を探す気にもなれず、広場に戻ってきた。
「ああ、ここにいたのか――どうかしたのか?」
二人が顔を見上げるとソウヒがやってきた。ソウヒはカリナの様子を見て心配気に見ている。カリナはソウヒに走り寄ってしがみついた――
「なるほどな。大丈夫かカリナ?」
「はい……もう大丈夫」
そう言うカリナだがソウヒの腕に組み付いて離さなかった。仕方ないので話題を変えようとソウヒの方から話を切り出す。
「さっき、ロメールを見てきたよ」
「――ッ!」
カリナの目が変わるのを感じながら、話を続ける。
「メリル様はやはり奴を犯人と見たようだ。それでカリナ。もしお前が平気なら一つ芝居を打ってくれないか?」
「分かりましたっ!」
先程とは打って変わってカリナの顔に生気が戻っている。もうすぐ父親の仇をとれると思うと恐いなんて言ってられないのだ。
「それで、何をしたらいいんですか?」
「それはだな――」




