カリナvsオーガ
書き溜めてた話に追いつかれちゃったよ!
これからは不定期投稿になるよ!
できれば2,3日毎に投稿したいよ!
チクショー!
魔力剣を手に構えるカリナ。対する戦鬼はカリナを見た目通りの少女と侮っていた。そして倒れたゴードンに目を移し腹を立てている。
「なんだ上級猪剛族、もう終りかよ? 案外脆かったな。てめぇの役目ってのはこんなものかよ」
「……某の役目はこの者を護る事だ。 そなたと戦う事ではない」
「そうかい……! ならこのガキをぶっ殺せばもう一戦できんだなぁ―――ッ!!」
同時に戦鬼の大剣が唸りを上げながらカリナに迫る。
――ガッ!!
「な……ッ!?」
「――くぅッ!!」
いつもと段違いの速度と重さの剣戟にカリナは小さく唸る。受け止めこそしたが、何度も受け続けるのは危険だ。 流石のカリナも真剣に武器を構えなおした。
だがそれ以上に驚愕しているのは戦鬼の方だ。この魔物にとっては小動物にも等しい獲物に攻撃を受け止められたのだから。
ゴードンを介抱しながらルネも目を見開いている。
「ど、どういう事……!?」
殆ど捉えきれない動きで繰り出してくる攻撃をあっさりと防いだカリナを見て驚いていた。
自分では戦鬼の動きを捉えきれなくてカリナができるのはいい。だが、あの重い一撃を受ければ剣は折れ体が砕かれるのは間違いない。
カリナが仕返しとばかりに戦鬼に斬りかかる。魔力剣は強靭な戦鬼の肉体をあっさりと切り裂き、そこから赤い鮮血が噴出した。
「ぐああッ! おのれぇ―ーッ!」
浅いとはいえ傷つけられると思っていなかった。その傷は戦鬼が持つ超回復によりすぐに塞がれる。だがそんな事よりも、油断して傷を負わされた自分が許せなかった。
暴風のように大剣を激しく振り回してカリナに迫る。その剣戟をカリナはその場から動くことなく全て防いでくが、その代償は小さくない。体格差から繰り出される激しい攻撃による圧力と背後の二人の存在で精神力が削られていた。
カリナも最初に戦鬼の攻撃を受けた時から、可能なら回避することも考えていた。だがそれは背後にいる二人を危険に晒すしてしまうかもしれなかった。
それは二人にとっても同じことだ。どちらも少なからず傷を負っており、この危険地帯の中で迂闊に動くことも出来ない。
(でも、打つ手がないわけじゃない……!)
激しい攻撃の最中、カリナが薄く笑みを浮かべて、次の瞬間――戦鬼の腕から血が噴き出す。
「ぐうッ!」
何をされているのか理解できない。大剣を振り下ろす度にカリナの体がブレて見え、同時に腕や足に傷がつけられていく。
「貴様、一体何して…ッ!?」
戦鬼がカリナの顔をみて一瞬怯んだ。一見すると華奢な少女だが目を薄く閉じて不気味に笑みを浮かべた顔、先程とは違って呼吸も薄く、それはまるで無我の境地にいるかのようだ。
負った傷はすぐに修復される、だが失った血は戻らない。斬りつける度に傷つくのは戦鬼の方だった。次第にその動きが鈍くなっていく。
「フレアレーザー!」
ヂュンッ――――――!
「ガアアアアッ!!」
鈍くなった戦鬼の不意を衝いて無詠唱で戦略魔法を唱えると収束された閃光が戦鬼の肩を貫ぬく。衝撃で腕が吹き飛ばされた。
「フ…フレアレーザーを無詠唱で……!?」
「うむ……。いつ見ても輝かしい閃光だ」
ルネが声を漏らした。魔力を溜めるだけで数十分、そして精霊王を顕現させるのに更に魔力を消費する戦略魔法を、まるで石を放り投げるように放つなど、夢か幻の世界だ。
もしかすると自分は今も猪剛族に捕えられているのかもしれない。そして自分に都合のいい夢をみているのではないか――? そう思えてきた。
もしこれが夢なのならもう覚めないでほしい。でももしこれが夢でないのなら……。
(あの子は一体何者なの……?)
戦鬼の傷は普通なら即死でもおかしくない程の深手を負っている。だがその回復力によって修復されていった。
「うわぁぁ……」
その修復の過程があまりにグロくてカリナは目を背けてしまった。その瞬間、戦鬼が手を伸ばしてカリナの小さな体を持ち上げる
「あ―――ッ! くぅ……放せ!」
戦鬼の手に力が入る。肺が圧迫され息が漏れ出てきた。
「ぐ…………はぁ………ぁああああッ!」
「死ねェ! ダークフレアァァ――ッ!」
戦鬼はカリナを脅威と判断した。自身の最大火力をもってカリナを焼き尽す。 少女を持ち上げるその手から溢れだした黒炎は超高温でカリナを包み込でいく。
「ぅああアアアァァァアアァァ――ッ!!」
炎の中からカリナの絶叫が響いた。高温から逃れるように小さな手が炎の中で宙を泳ぐのが見える。
「アアアア―ァァ―ァ―………」
「カリナさんッ!?」
燃え上がる炎に包まれるカリナ。その声が徐々に小さくなっていく。ルネが声を上げたその時――
「うおおおおォォォ―――――ッ!」
――ソウヒの短槍が戦鬼の横腹を貫いた。
「ぐああああっ!」
「お……ぉ兄……ん――……」
******
ソウヒとシウラは森に入ってすぐに異変に気付いた。
――グオオオォォォオオオンッ!
「い……今のなに――!?」
「魔獣の叫び声か……いや、これは猪剛族の咆哮だッ!」
元冒険者のソウヒは何度か猪剛族との戦闘経験を積んでいた。その強靭な肉体によって何度も死の淵を彷徨ったことすらある。
「ぇえッ? 猪剛族――ッ!?」
「……もしかしたらゴードンかも知れないが聞き覚えがある。どちらにせよ声の先に何かいる!」
「ぅぅぅううう……」
猪剛族と聞いてシウラが尻込みする。女性であれば絶対に相手にしたくないのだから仕方ない。本当なら村に戻って同業者に伝えるべき情報だ。
「あ……あれ!」
シウラが指差した先には――ソウヒには見覚えのある姿、カリナが空を飛んでいた。
「あいつ、声の方に向かってるぞ!」
「急いで追いましょう!」
だがソウヒはシウラの腕を引いた。そして、
「シウラは村に戻れ。猪剛族が相手なら分が悪すぎる。それとこの情報をギルドに伝えるんだ!」
「くっ………………分かったわ……。ごめん、私じゃ足手纏いになってしまうから……」
「馬ッ鹿! こう言うのはできる事をやればいいんだよ!」
そういうと『獣化』を発動して森の中を全速力で駆け抜けていった。
ソウヒの進む先から地鳴りや咆哮が聞こえてくる。時々誰かの叫び声も。この先で誰かが戦っているのは間違いなかった。
更に進むと、空に向かって走る閃光――カリナの戦略魔法だ。
「あいつ、また迷子になってるんじゃないだろうな……」
そんなはずはないのだが、そう考えてしまうのは日頃のカリナの行いのせいだ。だが、そんな呑気な雰囲気を吹き飛ばす声が聞こえてきた。
「ぅああアアアァァァアアァァ――ッ!!」
声の主は間違いなくカリナだ! そして視線の先には炎に巻かれる姿が――瞬間、抑えていた本能が呼び覚まされる。
「うおおおおォォォ―――――ッ!」
傍にいる魔物に向かってソウヒは駆け出す。短槍がその横腹を貫いた。
「ぐああああっ!」
「お……ぉ兄……ん――……」
魔物の手から炎が零れ落ちた、その中から体中に火傷を負ったカリナが出てくる
「ウ――……グ――………」
「カリナ! しっかりしろ!」
「ダィ……ジョ……ブ――……」
今にも消えそうな声をしているが、体を起こして体を翼で包み込むと光の粒がカリナの体を癒していく。瞬く間に火傷が消え、いつもの姿に戻った。
「あ、ありがとうございます。お兄さん……」
そう言うと視線を周りに移した。動けない状態だがルネもゴードンも無事だ、そして横腹を貫く短槍をやっと引き抜いた戦鬼はその激痛で呻いている。
「くっそが! 邪魔しやがって!」
「……お兄さん、この魔物はとても強いです。ボクも本気にならないといけない」
「――そうか、わかった」
すぐにカリナの意図を理解した。すぐにゴードン達と共にその場を離れる。3人がこの場にいたらカリナに負担になると察したのだ。
(ありがとうございます、お兄さん)
心の中でもう一度ソウヒに感謝する。そして翼を大きく広げながら戦鬼に向かって叫んだ。
「――じゃあ、仕切り直しましょうか!」
「おのれぇ……! もう一度焼いて灰にしてやる!」
戦鬼がカリナに向かって斬りかかる。既に超回復によって傷はふさがっていた。だが何故か動きが鈍い。体が思うように動かない戦鬼はそれがもどかしく苛立っていた。
「クソ……! 血が足りねぇ……」
迂闊に斬りつければまた反撃を受ける。かといって小娘の動きが早すぎて捉えきれない。結局はどうにかして捕まえ黒炎で焼き殺すしか手がなかった。
だが戦鬼は本能で分かっていた。先の黒炎は最大火力だったのだ。であればそれを受けた瞬間にはその高温によって灰になる。だがそうはならなかった。
それはつまり、黒炎がこの小娘には有効でないという事だ。
それが納得いかない。人の身でありながら己を凌駕する戦闘力を持っている存在が。
「貴様……一体何者だッ!?」
動きを止めて戦鬼がカリナに語り掛ける。
「ボクですか? 単なるハーフエルフ…だったんですが――色々あって魔王になりました」
「は――!? 魔王だとッ!?」
この魔物は魔王が何かを知らない。そもそも魔王と言う存在は人類が作り出した産物だ。魔物には関係ない話という事に。
だが、一つだけ解ったことがある。つまり目の前の少女は見た目通りの存在ではないという事。そして恐らく自分達と同じ魔物に近しい存在という事――。
ならば話は早い。この世界は弱肉強食なのだ。強いものが弱いものを従えるのがルール。
「もう、終わりにするのですか? それなら帰ってください。 もう人を襲わないと約束するのなら見逃します」
誇り高い戦鬼にそう言ってのけるカリナはある意味大物なのだろう――単に相手の正体を知らないだけだが。だが、戦鬼にとっては相手がそう言う資格があると思っていた。
「――いいだろう。ここは引かせてもらう。良ければ名前を教えてもらえるか?」
「ボクの名前はカリナ。あなたは固有種ですか?」
「ああ、名前はロトス。いずれ借りを返させてもらう」
「じゃあロトスさん、一つお願いしたいことが――」
******
「カリナさん、大丈夫なんでしょうか……」
カリナと別れて村に向かうソウヒ達。途中でルネが呟くいた。
「まあ、色々と抜けたところはあるけど大丈夫だ」
「うむ。それにあのまま留まっていればカリナも全力が出せまい」
そういうが、自分の子供とあまり歳が離れていない女の子を死地に残してきたのだ。気にならない方がおかしい。
「時に童の母君よ。カリナを見てどう思ったか」
ゴードンがルネに語り掛ける。
「……あの姿を見て何とも思わない方が不思議です。御伽噺にも出てくるようなダークエルフそのものでした」
ルネは正直に答えた。ソウヒはその答えを聞いて寂しそうな表情を浮かべている。
「でも、あの子が来てくれたから助かりました。 今まで私はあの子を信用しなかった。いえ正直言って蔑んでました。 それなのにあの子は来てくれた。」
ルネは言葉を続ける。
「今は感謝してもしきれません」
「そうか」
ルネの最後の言葉を聞いて、ゴードンは満足げに返した。




