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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
24/72

真実

話が纏まらず滅茶苦茶悩んだ回です。

「カリナ、もういいんだ」

「――なにがですか?」

 

 ソウヒはカリナを見つめて考える。カリナの中で目覚めた殺意(いかり)は未だ激しく燃え上がっている。だが自分の言葉に反応する以上、心を全て捨ててしまったわけでない。まだ間に合うはずなのだ。

 

「今、お前の敵はお前自身が倒したんだ。そしてお前の言う通りこれからはお前らしく生きればいい。お前に手を出そうとするなら遠慮なく倒してしまえばいい。

 でもな、これまでのお前なら力に頼らずに最後まで言葉を尽くしたはずだ。そこはお前のいいところだと思う。それは捨てなくてもいいんじゃないか?」

 

 落ち着いたソウヒの言葉を聞いたことで、カリナの表情がすこし和らいだ。『威圧』の効果が解け始めている。だがまだ納得がいかないようで――

 

「そうですね…。でも今までどんなに言葉にしても何もならなかったじゃないですか……。皆がボクの事を見下して、馬鹿にして……」

 

 殺意(いかり)の次に湧き上がってくる感情――哀しみがカリナを包み込む。カリナ自身は皆と仲良くしたいと考えているのに、常に周りからは軽蔑か好奇の目で見られ、虚しく感じていたのだ。

 

「そうか? お前が言葉にすることでついてくる奴もいるじゃないか」

「そんな人どこにも――」

「誰か、カリナの言葉でついてきた奴はいるかッ!?」

 

 声を上げるカリナを遮り、ソウヒが声を上げ――

 

「おう、ここにいるぞッ!!」

 

 ――力強く、ゴードンが応える。

 

「強き者カリナよ。そなたが某と初めて出会った時に言っておったではないか。『こんにちは』と」

 

 食人族(グール)との戦ってる最中、突然現れたゴードンに向けて最初に発した言葉だ。

 

「弱き者であれば、得体の知れない存在に平伏すか攻撃するのが常だ。だがそなたはどうだ、初めて出会ったの某に向かって礼を尽くしたのだ。 これほど強き心を持つものを認めなくしてなんとするか!」

 

 ゴードンの言葉はカリナに染み入る。

 

「あぁ……」

「お前もだろシウラ。お前だってエルフなのにカリナと普通に話をしてるじゃないか」

「……そうだね。そりゃ私も最初は「ダークエルフ」なんて話もしたくなかった。でも実際に話してみれば私達エルフとなにも違わないじゃない? いえ寧ろカリナはいつも笑ってて、時々泣いて、見たことのない魔法を考えたり、剣の腕だって……」

「シウラさん……」

 

 ゴードン、シウラ。二人の正直な言葉は、カリナから哀しみを消していくようだ。

 

「色んな縁があるが、お前が最後まで言葉を尽くした結果がここにいる連中だ。いやもっといるぞ。親父殿や砦の仲間達、それから――」

「お兄さんです」

 

 カリナがいつもの様に笑って答える。その瞬間『威圧』が完全に解けた。

 

「ごめんなさいお兄さん。ボクは道を踏み外すところでした」

「仕方ないさ。(かたき)を目の前にして怒らない奴なんていない」


 溶けて動かなくなった衛兵達に目をやる。奴らはカリナを襲い奴隷にしても尚、反省もしなかった連中だ。同情する必要なんかなかった。だが利用価値はあるかもしれない。例えば――

 

「…お兄さん?」

 

 いつしかのガエンのように、邪悪な顔になるソウヒはカリナと目を合わせながら、

 

「カリナ、いいこと考えたぞ」

 

 

 

*****

 

 

 

(――苦しい……体中が溶ける……灼けるぅぅ……っ!)

 

 藻掻く手足がない。喘ぐ口もない。目も耳も。何もない。唯一、意識だけがハッキリとしている。

 あの娘は言った。「死なない。永遠に」と。

 つまり、この苦痛が永遠に続くという事だ。体が腐りきって溶けても終わらないのだ。

 思い浮かぶのは「何故」という言葉で一杯だ。

 何故、こんな仕打ちを受けなくてはいけないのか。

 何故、あの娘はこんなことができるのか。

 何故、自分はあの時許しを乞わなかったのか。

 

 

 そんな中、あの娘の声が聞こえてくる。

 

「それじゃ、そろそろボク達は行きます。せいぜい反省して生きてくださいね、永遠に」

(待て、待ってくれ――!)

 

 引き留めたくても言葉がでない。それでも衛兵は必死に叫んだ。

 

「もし反省して全てを話してくれるなら……許してあげてもいいかもしれません」

 

 敢えて許すとは言わない。取引で反省されてもカリナが満足しないからだ。

 

(――反省する、反省します! 我らに御慈悲をっ!)

「何を反省するのですか?」

(貴女様を襲った事を! 貴女様の父君を亡き者にしたことを! 貴女様へ背いた事を全て!)

「そう、お父さんは……」

 

 薄々気づいていたが、やはり父モタラは死んでいたようだ。今ここではっきりした。

 

「……それで、首謀者は誰ですか?」

(隣里の領主様の長男、ロメールです――!)


 衛兵の話によれば、ロメールは母メリルを気に入り、結婚を申し込んだそうだ。だが母メリルは既に父モタラと結婚しており娘カリナがいる。

 ロメールは嫉妬から衛兵達を買収して父娘を始末することを考えた。

 衛兵達においても、領主の娘が人間と結ばれた事を不満に思っており、更にダークエルフまで生んでしまった事に「血が穢れた」として許すことができなかった。

 双方にとって利害が一致する事で話は簡単にまとまっていく。

 5年に1度だけ里に事は衛兵達も知っている。そのため、父娘が里に着いたところで盗賊に扮して襲撃したというのが大筋の流れだ。

 一度目の襲撃は失敗した。まさか反撃される事もカリナが魔法を使えることも知らなかった為だ。そこで2度目は手数を増やし、カリナは魔法を使う前に無力化、人質にする作戦を取る。

 こうして父娘の襲撃は完了した。

 

 一通りの話を聞いたのち、カリナは衛兵達を元の姿を戻した。安堵する衛兵達に向かってカリナは今一度確認する。

 

「貴方達は、本当に反省していますか? 罪を認め償う覚悟はありますか?」

「私達が間違っておりました。 今後二度と同じ過ちを犯しません。 今後一生、贖罪のために父君へ朝な夕な祈りを捧げます」

 

 衛兵達は迷うことなく答えた。その言葉を確認してカリナは言う。

 

「それなら、お父さんがいる場所まで連れて行ってください」

 

 

 

「この辺りです……」

 

 衛兵が案内した場所は街道から少し逸れた藪の中だった。カリナ達が襲撃された所からそう遠くない。夕暮れになり陽が落ちてきたにもかかわらず、父モタラと思われる遺体はすぐに見つかった。

 

「お父さん――ッ!」

 

 カリナが白骨化した遺体に駆け寄る。そして衣服と身に着けた物から、父モタラであることを確認する。その場で泣きくずれ、言葉にならない声が森の中で響き渡っていた。

 そんなカリナを見てソウヒは思った――。

 ――衛兵達は言った。エルフは神聖な血であると。ハーフエルフがその血を穢すのだと。だが実際はどうだ? 親娘を襲撃し、年端のいかない女の子を捕え奴隷に貶め、死者を冒涜する行為をするものが神聖な血であると? 笑わせるな!

 

「こんな仕打ちが出来て、よくカリナをダークエルフなんて呼べるものだな!」

「……エルフの恥だわ!」

「死者を辱める行為は、己の魂が汚れる事と思わなかったか!」

 

 仲間達がに衛兵に怒鳴る。衛兵達も言葉無く目に涙を浮かべて頭を下げ続けた。そしてカリナは憔悴しきって怒る気力もなく――

 

「もういいです……もう何をやってもお父さんは帰ってこない……」

 

 力なく呟く。そんなカリナをソウヒは抱きしめ、カリナもソウヒに寄りかかっていた。

 

 父モタラを埋葬し、彼らが心から謝罪したことで、やっとカリナの溜飲も下がった。だが根本の問題はエルフの多種族に対する偏見にある。それを何とかしない限りは同じような悲劇は繰り返されることになるだろう。

 だが、それを解決する時間はない。今は世界樹に行くことが先決だ。カリナはそう考えた。

 しかし、ソウヒの考えは少し違うようだ。

 

「それで、ロメールとかいう奴は今どこにいるんだ?」

「はい、先日までは我らの里に滞在していましたが、先日の事で、その……メリル様が本当に伏せてしまいまして……」

 

 父モタラとカリナの到着を今か今かと待ちわびていた母メリルは、盗賊に父娘が襲われたという報を聞いて部屋に閉じこもってしまったという。それを聞いてカリナの中の怒りがまた湧き上がってくる。

 

「そんなことになっていながら、まだやる気だったんですか! 貴方達は!」

「い、いえ! 決してその様なつもりではなく、村からダーク……いえハーフエルフが暴れ……いえ騒いでいるという通報を受け――」

 

 衛兵達は必死に弁解した。恐らく村で暴れているハーフエルフはカリナの事で、それを知らず捕縛の為に向かっていた。つまり、ここに来たのは偶然でしかない。

 

「……分かりました。もう用はありません。お引き取り下さい」

「いや、しかし…!」

「――行ってくださいっ! 気が変わる前に!!」

 

 カリナが怒鳴る。これ以上心を保つ自信がなかったからだ。衛兵達は一礼した後早々に立ち去る。

 ともあれ真実に辿り着き父モタラを送り出せたのはよかった。気掛かりなのは父と自分を思って伏せてしまった母メリルの事。

 とにかく母に会いたいとカリナが言う。ソウヒもシウラもゴードンも同意した。

 

(お母さん……やっと会える…!)

 

 母親への心配と期待を胸にカリナ達は里へ急ぐ。


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