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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
23/72

瞋恚

★★★ グロ回なので耐性ない方は飛ばしてください ★★★ 

 「お、お父さんが生きてるかもしれない!?」

 

 ソウヒはゴードンが感じたことをカリナに伝えた。

 

「いや、まだそうと決まった訳じゃない。期待させてすまないが、今のところ手掛かりがないんだ」

「そうですか……」

 

 だが父モタラの遺体が無い以上、希望が残っているというのも事実だ。気落ちしながらもカリナに元気が戻ってきた。

 

「この先にあるのはボクのお母さんが住んでる里です。そこに行けば何か分かるかもしれません! 急ぎましょう!」

「待てカリナ。焦る気持ちは分かるが慎重に進もう。見落としがあるかもしれないし、まだ手掛かりが残ってるかもしれないんだ」

「――でもっ!」


 ソウヒがカリナの手を握って宥める。手を離すと飛び出して行きそうな勢いだからだ。既に陽は傾き始めてもうすぐ夕暮れになる。本来ならどこで野営するかを決める頃だ。

 ソウヒは安易にカリナに話してしまった事は間違っていたかもしれないと後悔した。話してしまえばこうなることは予想できたはずだ。

 それでも効果はあったようだ。カリナは握られた手を見つめると落ち着いてきたのか静かに頷いた。

 

「……そうですね。ごめんなさい気が逸ってました。」

「仕方ないさ、誰だってそうなる」

 

 ともあれ里までの距離もそう遠くない。夜遅くなるかもしれないが野営することなく辿り着くことは可能だった。

 その時――

 

「そこのお前達、何をしている」

 

 里の方から数人の衛兵がやってくる。その中の一人にカリナは見覚えがある。

 

「あ、あの時の衛兵さん!」

 

「貴女は、メリル様の…」

 

 衛兵はカリナを見て驚いた顔をしている。それをソウヒは見た何かおかしいと感じた。

 

「俺は…いや俺達はこの子と一緒に旅をしてる者だ。 少し前にこの辺りで盗賊に襲われ、父親が殺されたと聞いてやってきた」

 

 ソウヒにとっては初めて会う相手であったが正直に答えた。カリナとこの衛兵は顔見知りのようだし、誰何で嘘がばれると面倒だ。

 衛兵はソウヒの話を聞いて疑うことなく頷く。

 

「モタラ殿はまだ生きておられる。だが非常に危険な状態で明日をも知れぬ身だ。急ぎ里に参られよ!」

「そんな……!」


 衛兵の話を聞いて狼狽えるカリナ。そんなやり取りを見てソウヒはシウラとゴードンを見て合図を送っていた。シウラは戸惑いながらも、そしてゴードンは確信するかのように頷く。


「さあ、急ぎましょう!」

「は、はい!」

「ちょっと待て」

 

 ソウヒがカリナを連れていく衛兵を止めた。

 

「お兄さん…?」

「カリナ、こっちに来て」

 

 すかさずシウラがカリナを後ろに、ソウヒとゴードンが二人を隠すように前に立つ。

 

「お兄さん……どうしたんですか?」

 

 ソウヒはカリナの問いかけに答えず、衛兵に向かって話しかけた。

 

「アンタら、里の衛兵だよな? なぜここにいるんだ?」

「……質問の意味が分からんのだが?」

 

 衛兵の眼が険しくなる。対するソウヒとゴードンの二人は武器の柄に手を掛けた。

 

「俺はさっき、ここでカリナが盗賊に襲われたと言ったんだ。なのにアンタら衛兵がここにいる?」

「その盗賊を探している最中なのだ!」

「それがおかしいんだよ!」

 

 それは今いる場所と里との位置にあった。

 

「ここから里は目と鼻の先だ。とても盗賊が活動できるような所じゃない。アンタら衛兵達が来るんだからな」

「……なんだと?」

 

「なんかおかしいと思ってたんだよ。こんな場所で盗賊に襲われるなんてな」

 

 カリナから聞いていた話の中、ずっと引っ掛かっていたものがあった。

 村に駐在する程度の規模でも盗賊達が寄りつくことは稀だ。村人に姿を見られでもすれば通報され、やがては討伐隊が編成される。ましてや領主が直轄する里の近辺で、十人を超える規模の盗賊団が出るなど考えられない。

 そのような盗賊がいるとすれば、余程間抜けなのか、それとも討伐隊が出せない規模の盗賊団がいるのか、或いは――

 

「……最初から仕組まれていた?」

 

 ソウヒの話を聞いてシウラも気がついた。続いてゴードンが口を開く。

 

「そして、後方で控えているそこの者、何故そなたからカリナの父と同じ血の匂いがするのだ?」

「……え?」

「――ッ!?」

 

 カリナが驚きながらゴードンが指をさす衛兵を見た。兜を付けて気付かなかったが、その衛兵(・・)の顔は確かに見覚えがある。

 

「あ……」

 

 男の顔を見た瞬間カリナの体が震えだす。思い出したくない過去が呼び起こされていく。自分に触れる幾つもの男達の手と、狂気の眼――

 

「ぁ………あぁ……。ぃゃ…………ッ!!」

「カリナ、落ち着いてっ!」

 

 額に汗を滲ませ震えながら肩で息をするカリナを、シウラが抱きしめながら声を掛ける。『狂化』が発動するギリギリを踏みとどまっている状態を見たソウヒは確信した。

 

「アンタらがカリナを襲った犯人だな! 何が目的だ! 今更ここで何をしている!」

 

 ソウヒの話だけを根拠にするなら衛兵達も言い逃れが出来ただろう。だが、カリナが顔を覚えていた以上それは不可能だった。

 衛兵達は何も言わず剣を抜き、そして――

 

「かかれ―ッ!」

 

 全員がソウヒとゴードンに斬りかかった。

 

 

*****

 

 総勢5人の衛兵と切り結ぶソウヒ達。数では不利でもソウヒとゴードンの身体能力(ステータス)を以てすれば互角の戦いに持ち込めている。

 そんな二人の姿が、父親の最後と重なるように見えて目をきつく閉じた。

 

(お父さん…)

 

 カリナは朦朧とした意識の中、恐怖と性格(こころ)で押し込められてきた感情――怒りが湧き上がってきた。

 それは無力が故に父モタラを死なせてしまった自分への怒り。暴力を突きつけ父親を殺し、自分を追いつめた盗賊達への怒り。ハーフエルフとして生まれたというだけで理不尽な態度を見せる周囲への怒り。

 様々な「怒り」が「憎悪」に変わった時――

 

 ――ブツンッ

 

 理性で堰き止めていた感情――殺意(いかり)が洪水となって氾濫する。

 

「ゥゥうううああああァァアアア―――ッ!」

 

 シウラの手をほどき『魔王化』を発動すると、今までのハーフエルフだった姿が黒髪褐色の姿へと変化する。伸びをするように翼を大きく広げると、窮屈だった心が少しは晴れた気がする。

 

「何だあれは!」

 

 カリナを見た衛兵の一人が叫んだその瞬間、その男の頭が吹き飛んだ。

 

「カリナ! 何を――…っ!?」

 

 ソウヒがカリナをみて声を上げ息を飲んだ。魔王化した姿は既に見慣れているが、いつもはこんな攻撃的な目はしていない。視線が交差するとカリナが言い放つ。

 

「お兄さん、邪魔です」

 

 ソウヒを見る目も尋常ではない。逆らうと衛兵と同じ末路になると言わんばかりだった。カリナは衛兵たちに目を向ける。

 

「警告は一回だけ。武器を捨てて全てを話し、心から父へ謝罪するのなら見逃してあげる。それ以外の行動は永遠にこの森の餌になるわ」

 

 その言葉に衛兵だけではなく仲間達も目を丸く見開いた。明らかにいつもと雰囲気が違う。

 

 衛兵たちはカリナの姿に戸惑いつつも口々を開いた。

 

「黙れ! 半端者のダークエルフが!」

「貴様の様な存在が、神聖なエルフの血を穢し貶めるのだ!」

「もう一度捕え奴隷としてやる!」

「その娘を捕え、仲間は殺せ!」

 

 衛兵全員がカリナに敵意を向けた瞬間――

 

 ――キィィィィィィィィィィン――…

 

 つんざく音が鳴り響くと同時に衛兵たちの両足から根が張ったように動かなくなり、そして――

 

「「ぐぁぁぁああァァァァァアアア――ッ!!」」

 

 衛兵達が突然の苦しみの叫びと共に手で顔を覆い藻掻きだした。両手両足、いや体中が(ただ)れて腐りドロドロに溶けていく。両足が腐敗によって脆くなり、体を支えることが出来ず千切れた。手は指が無くなり、体中の皮膚や毛穴からどす黒い血液が滲み出る。

 激痛で声を上げようとするが、爛れた肺と喉で呼吸をすることから更なる激痛を生んでいく。内臓だけが綺麗に残った状態で、それ以外の皮膚や骨は得体の知れない液体になっていった。

 見るだけで吐き気のする惨状。シウラは口を手で覆い、ソウヒは目を背け、ゴードンですら顔を顰めている。

 

「大げさな……。別に死ぬ程の事じゃないでしょう? 永遠に生かしてあげるから安心しなさい」

 

 微笑みながらそう言い放つカリナ。その言葉が衛兵達に聞こえると、溶けた目でカリナを探しながら、どこにあるかも分からない口とドロドロになった体を震わせ、必死に許し(とどめ)を乞う。

 

(頼む! 殺してくれ! もう殺してくれぇ! 許してくれぇ―――ッ!)

(あぁぁぁ! 俺の手が、足があぁぁ――ッ!)

(――――――――――――………)

 

 人の原型はもう留めていない。体中から血液が噴き出しては消え、消えては噴き出す永遠のループ。にも関わらず気を失う事も狂うことも出来ない。

 衛兵達はもう動くことはなかった。ただ終わる事のない激痛だけが続いていく――……。

 

「まあ、そのうち蟲が集まって苗床とかになるんじゃない?」

 

 興味を失ったように言い放つと、ソウヒ達の方へ顔を向ける。衛兵達の声は次第に小さくなり、もう誰にも聞こえることはなくなった。

 

 

 

 カリナは視線をソウヒに向けて告げる。

 

「お兄さん、ボクはこれから行くところがあるので先に行って下さい。すぐに追いつくと思います」

「……何処へ何をしにいくんだ?」

 

 その問いが予想外だったのでカリナは一瞬言葉に詰まる。カリナ自身、何をしたいのかは決めていない。ただ何故自分を狙うのか、何故父親は殺されたのかの真実を知りたいだけだった。

 

「ボクはこのまま里まで行ってお母さんと話をするだけです」

「……そうか」

 

 ソウヒは一度振り返り、シウラとゴードンと目を合わせた。二人とも真剣な眼差しで頷く。

 カリナは領主も母親も、そして里に住むものを悉くそこの衛兵達と同じ目に遭わせる気なのだろう。この件に関わりのある者も無い者も関係なく。

 

「だめだ、カリナ。このまま旅を続けよう」

「――……はい?」

 

 カリナがソウヒを睨みながら『威圧』を発動する。それは邪魔をするなら誰でも容赦しないという意思表示だ。今のカリナなら例えソウヒであっても「苗床」に変えてしまう、そんな迫力があった。

 それでもソウヒは怯まない。ここで引くわけにはいかない。

 今のカリナは危険だ。父親を殺した犯人であり、カリナ自身を追い詰めてきたエルフ達に対しての敵意が溢れだし、自棄になっている。

 今カリナを止められるのは他でもない、自分だけだと心に念じながら――

 

「今のお前は道を踏み外そうとしている。本当に『魔王』になってしまうぞ」

「……もうボクは構わないと思ってます。今までが甘すぎたんです」

「ダメだ、自棄になるな!」


 『威圧』の力が強くなっていく。その力はカリナの怒りそのものだ。

 

「ボクはずっと考えてました。どうしてボクはハーフエルフなのか、目の前にいるだけでその人を怒らせてしまうボクは何なのか、そんな事を考えるボクは自分が憎かったんです。

 でも今思えば、それは間違ってたんだと思います。なぜそれがいけないのかって。皆がボクのことを敵にするなら、ボクから見ても皆は敵なんです。敵を倒すことを躊躇ってはいけないと、そう思うことにしました。」

 

 そしてカリナはソウヒにむかって言い放った。

 

「だからお兄さん。ボクの邪魔をするなら、お兄さんも敵です」

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