模擬戦
昼時の広場は、狩りから戻ってきた冒険者と昼食のために帰ってきた村人で集まっていた。 そこに支部長との模擬戦が始まる話を聞きつけ、ちょっとした賑わいになっている。
見物人が一様に挑戦者を見ている。冒険者質からはカリナの姿に好意の目で見ているが、村人達は例によって蔑んだ目で見ていた。
そんな中――
「あれ? シウラじゃん!」
「本当だ! 死んでなかったんだ!」
カリナの背後で声がした。振り返ると二人のエルフがシウラを見てクスクス笑っている。対してシウラの目は怒りに満ちていた。
「アンタら……私を見捨てて逃げたクセによくそんな事言えるわね!」
「どんくさいあんたが悪いんじゃない? アンタ落ちこぼれだし」
「ほんとほんと! でもよく生き残れたよね!」
どうやら森で動けない所を見捨てられたらしい。それを反省もしないとは最低な連中だとカリナは思った。
そこで二人が目を向けて言い放つ。
「で、そのダークエルフは何?」
「アンタ、愚図で落ちこぼれだけどそんな薄汚いのも拾ってきたの?」
「な……!アンタら何てことを!」
シウラが二人を見て顔をひきつらせて声を上げた。続いてソウヒが―
「ほっとけよシウラ。 こいつらは群れないと何にもできない半端者だ」
いつもならカリナの事になると食って掛かるところだが、今はカリナにとって大事な時だ。内心は腸が煮えくり返る思いでも堪えてシウラを窘めた。
「そうだ。 弱き者には強き者がもつ力を見抜くことなど出来ぬ」
ゴードンはそういいながら、シウラと二人の間に割って入る。そして――
「弱き者共よ。今のうちに退散しなければ明日の日を見ることも出来なくなるかもしれんぞ?」
静かに睨みつけた。それは言い換えると「黙らないとぶっ殺すぞ」と言ってる。
「ひっ! な、何よ……!」
「野蛮人ばっかりじゃない……!」
そう言いながら口を閉じた。
「――さて、準備はいいか?」
「はい。いつでもどうぞ」
広場の中心で、模擬剣を手に持った二人が対峙する。カリナは小さな挑戦者でホーンは胸を貸すAランクという構図だ。周りは見世物を見るような目をして見守っていた。
自分の置かれている立場、周囲が期待する結果、そして何をするべきかを考えた。
(まず、ボクは余所者という事。他の冒険者さん達はあまり気にしてないみたいだけど、村の人たちはボクが負ける事を望んでるんだろうなぁ。そんなつもりはないけど…。 次にボクの目的は……別にランクなんか気にしてなかったんだけど、なんでこうなっちゃったかなぁ。まぁランクが上がれば市場で買い物しやすくなるみたいだし、クエストも受けられたらお金も稼げるから、Cランク狙いで頑張ろうかな)
そんなことを考えていた。そんなカリナの様子を見ていたホーンがいつまでも掛ってこないので声を掛ける
「どうした、掛ってこないのか? それとも止めておくかい?」
「え?あ、ごめんなさい。ちょっと考え事してました」
「そうか。こっちが格上なんだし先手を譲ってあげるから、いつでも掛ってこいよ」
カリナが驚いた表情しながら聞き返す。
「え? 実力という事ならボクの方が強いと思うんだけど…」
カリナのそれを挑発と受け取ったホーンは――
「ほーう……、じゃあお言葉に甘えて先行頂くぜぇ!」
そう言うなり、間髪入れずにカリナに斬りこんだ。
(魔導師に時間をやるつもりはねぇ!)
――ガィン!
速攻をいとも簡単に弾かれる。予想外の結果に驚いたホーンだが、すぐに気を取り直して更に攻撃を続ける。
――ガンッガンッガンッ! ガッガッガッガッ!
――ガガガンッガガガガンッ!
――カカカカカカカカカカカカンッ!
段々と攻撃速度が上がっていく。全ての攻撃が弾かれるが、カリナからの反撃はない。その隙がないほどに速かった。
(このまま削り倒してやる!)
いくら攻撃を防いでいても、このまま武器が持たない。それをホーンは狙っている。そしてその目論見通り――
――バキンッ!
カリナの剣が折れた。
「あ」
「これで、とどめだ!」
――ギィン!
ホーンの渾身の一撃。それを魔力剣で防がれた。突然現れた半透明の短剣を目にして仰天している。
「そ、その剣はなんだ?」
「え……ボクの武器ですけど、剣が折れたのに止めてくれなかったから咄嗟に出したのですが」
「い、いやそんなことはないぞ。」
事実、ホーンはそれを狙っていたこともあって強くは言えなかった。
「大丈夫ですよ。この剣なら折れないし斬れないようにしてます。第一ボクは反撃する気もないし」
「…どういうことだ?」
カリナの言葉が理解できず聞き返した。
「この程度だと何日受け続けても当たる気がしないので」
薄い笑みを浮かべるカリナ。その顔をみてホーンが激昂して斬りかかる。
「おのれ…! なめるなァ―――ッ!!」
繰り出される激しい剣戟を全て受け止める。
――10分経ち、20分が経った。
ホーンの動きが次第に鈍くなってきた。防戦一方とはいえ、カリナが攻撃を受け止めるだけのシーンの繰り返しに見物人達にも飽きてきた頃、
「おいカリナ、そろそろ終わりにしてやれよ」
見かねたソウヒが声を掛けた。その声に顔を和らげながら、
「あ、はい! じゃあホーンさん、そろそろ終わりにしますね。」
「ハァハァ…ッ! な、何をするつもりだ!」
「行きますよ! ――火の精霊よ!」
カリナの呼び掛けに火の精霊が顕現する。
「クッ! 火球か!」
その場を飛び退き間合いを外す。ホーンに他意はなかったが後ろには見物人がいる。このままでは彼らにも被害が出てしまう。
ホーンのとった行動を非難する。
「あ、ずるい! じゃあ――土の精霊よ!」
火の精霊に続き、土の精霊も顕現した。
「なんだと! 同時詠唱!?」
「なんでこんな子供が!?」
その場にいる全員が驚愕する。複数の精霊を顕現させるほどの魔力量など普通ではないからだ。 そんなことをしたら一瞬にして魔力が底をつくか、最悪生命力をも吸い取られてしまう。
「念のために、――水の精霊よ!」
「「はぁ!?」」
更に顕現した水の精霊の姿。見物人達は目を丸くして3体の精霊を凝視した。
「水と土をもって結界となせ! 水地魔障壁!」
カリナとホーンの周囲に水の障壁が発生した。
「すごい…! カリナすごーい!」
「な、何あれ…」
「こんな魔法見たことない…」
シウラが驚き声を上げる。シウラとカリナをバカにしていた二人組のエルフは、その光景を呆けた顔で見ていた。
「おまけです。――風の精霊よ!」
最後に風の精霊が顕現した。
「全属性の精霊を呼び出しやがった……」
「あのお嬢ちゃんは何者だッ!?」
最早ホーンは動けない。 これだけの魔法を使いこなす魔術師相手になす術がなかった。
「舞い上がれ炎の旋風! 火焔竜巻!」
火球が突風によって広がり、竜巻となってホーンに向かっていく
「う……うおおおおぉぉぉぉっ!」
それがホーンを包み込んだ瞬間、消失した。
「……なんちゃってっ! 本当に当てるとすごい火傷になっちゃいますからねっ」
カリナが微笑みながら魔法を止めた。死を覚悟していたホーンはその場に座り込んで――
「ま、参った……」
その一言で見物人とソウヒ達から歓声が上がった。
「すっげぇ! Aランクの支部長を圧倒してたぞ!」
「今の魔法はなんだったんだ!?」
「魔法だけじゃないぞ! あの剣戟を掠りもしてねぇ!」
模擬戦を振り返って口々に声を上げる冒険者達、そして村人たちもカリナを見て驚きを隠せなかった。
「これは一体…」
「我々でも知らぬ魔法をあんな子が…」
驚愕というよりも畏怖に近い。そんな目をするエルフを見ながら、何がそんなにハーフエルフを嫌うのかカリナには理解できなかった。
だがそれを吹き飛ばす言葉が聞こえてくる。
「すごい! すごいねカリナ! こんな魔法見たことないよ!」
シウラがカリナに駆け寄って抱きついてきた。
「ぅわっ! シウラさん!?」
「ねえ、さっきの魔法は何? どうやったの?」
「え……水地魔障壁と火焔竜巻ですか? 思いつきで作ったんですけど…」
「「つくった―――っ!?」」
何気なく種明かしをするカリナ。そして何度目かの驚愕の顔をする周囲だった。




