冒険者ギルド
二人旅が一気に四人になったことで、食料と路銀が不安になる。
二人で往復出来る程度の携帯食と宿代を持っていたが、四人になったという事で片道分しかなくなってしまう計算だ。
そこで、出発を一日遅らせてせめて食料だけでも調達することになった。
「シウラ、この村にも冒険者ギルドはあるんだろ?」
「勿論あるよ。この辺も魔獣が多いからね。」
「それならギルドの市場にいくか。冒険者なら安く買えるからな」
冒険者達が集めてきた物はまずギルドが買い取り、その後商人やその土地の住民達に売られていく。そして冒険者にはランクに応じて値引きをしてもらえるシステムがあった。
「どの位安くなるのですか?」
「俺はDランクだから、100センあたり5セン値引きしてもらえるはずだ。食料を追加分用意するとなると……5700センといったところか」
「じゃあ、半分は私が払うわ。ゴードンはお金持ってるの?」
「すまんが、人間たちの通貨は持っておらぬ」
「じゃあ立て替えで。絶対返してよね!」
二人のやり取りを見ながら、カリナがソウヒに尋ねる。
「お兄さん、Cランク以上だともっと安くなるのですか?」
「ああ、Cランクだと100センあたり10セン、Bランクで20セン……なんでそんなことを聞くんだ?」
ソウヒが疑い眼でカリナに聞き返した。
「え? ボクは冒険者登録してないから、ついでにと思って。元々その予定でしたし」
「……そうか、あまり無茶するなよ」
おそらくCランク以上を狙っているのだろう。だがソウヒは敢えて止めなかった。ソウヒよりも優れた能力をカリナが持っているのは確かなのだからと。
「――ここがこの村の冒険者ギルドよ」
村の中心にある広場に面した、古くて大きな建物にシウラが指をさす。
その隣でカリナが青い顔をしていた。
「……ボク、一番後ろでいいかな」
「うん? どうした?」
先程とはうって変わり、明らかに腰が引けてる様子をみてソウヒが尋ねた。
「ちょっと前に用があって中を覗いてみたんだけど、強そうな男の人や女の人が一杯いて、ちょっと怖かったんです」
「まあ、魔獣相手に戦ってる連中だからな。実際強いぞ」
「……それは興味深い。是非とも中を覗いてみたいぞ」
強いという単語に反応するゴードンが率先して中に入る。続いてソウヒ、シウラ。カリナは二人に引きずられるように入っていった。
中に入った瞬間、物々しい格好をした冒険者達が四人――主にゴードンを見て静まり返る。ゴードンは2メートル以上の大男で、今はフードとマスクで顔からは目しか見えない。その明らかに怪しい風体に冒険者達は警戒していた。
(……フンッ、揃いもそろってギラついた眼をしておる)
お気に召さなかったのか、ゴードンはつまらなそうな声で呟いた。
その脇をすり抜けるようカリナが受付まで走った。
「すみません、冒険者登録はここでできますか?」
カウンターにいる受付嬢に声を掛けた。
「はいはい、ここで受け付けますよ。お嬢ちゃんの出身はどこですか?」
「えと、元々行商人で出身地はないんですけど、今はアルガットの山麓の村で暮らしてます」
「そうですか、じゃあフォルン国内の依頼には参加できませんが問題ありませんか?」
「え、そうなんですか?」
「はい、じゃあその辺りも含めて説明しますね。」
受付嬢――ネールが丁寧に説明を始める。
冒険者ギルドは大陸中に支部を置き、各土地における様々な依頼を引き受ける。その活動の多くは魔獣退治や盗賊討伐だ。国家間の紛争や内乱には関わることはない。
冒険者はランクが与えられ、誰でもなれるFランクから始まり、適正によってE、D、C、B、Aとランクが上がっていく。依頼を引き受けることができるのはDランクからだが、引き受けられる依頼は例外を除いて国内に限られた。
理由は、その国で暮らす冒険者たちの仕事を守るためと、他国で活動することによる冒険者達の数と質の偏りをなくす為だ。魔獣退治に関われるだけの実力者が地域からいなくなってしまうのは問題だった。
それもCランクになれば解除される。Cランク特定の依頼に限り国外活動が許された。主に強力な魔獣退治や、盗賊討伐や隊商として参加する為である。
「つまり、Cランクになればどの国の依頼でも受けられるのですね」
「そういう事ですねぇ、お嬢ちゃんもいつか、そんな冒険ができるようになってくださいね!」
ネールはカリナを見て優しく微笑んだ。
「はい! ランクを上げる条件はあるのですか?」
「基本的には実力を認められることです。強力な魔獣を退治したり、盗賊討伐に何度も参加することです。でもDランクまでは薬草の採取や小動物狩りをこなすことで上げる事が出来ますよ」
そこでカリナが食人族を退治した事を思い出した。
「あの…ボクだけの力じゃないのだけど、昨日、この村にくるときに食人族を退治したんですけど…」
「……はい?」
カリナの言葉が一瞬出来なかったようで、ネールの思考が停止した。
「昨日、食人族を退治したんですけど、それだとどのくらいの実力になるんですか?」
ネールの動きが完全に止まる。そして――
「お嬢ちゃん、何かと見間違えたんじゃないかな? いくら何でも食人族を退治するなんて――」
「見間違えではない。某はしかと見たぞ」
後ろにいたゴードンが昨日の事を話し始めた。
「確かにとどめを刺したのは某だ。だが食人族は既に息も絶え絶えで某は不意打ちで倒しただけの事」
それを聞いていたソウヒとシウラは、
「また無茶しやがって……」
「へぇ……、カリナって強いんだね!」
とそれぞれの感想を述べる。だがネールは――
「死体や毛皮などがあれば信じますが……」
食人族を倒す実力となると、少なくともBランクだ。おいそれと信じることは出来なかった。
「まだ昨日の場所に残ってると思いますけど…」
「わかりました。探索班に探してもらいます」
*****
二時間後――
カリナが教えた場所付近で、探索班達から食人族の死体の発見されたという報告が入った。
それを聞いたネールは観念したように、
「分かりました……。とにかく支部長を呼んできます」
数分後、ネールが中年男性を連れて戻ってきた。
「どうも初めまして。支部長のホーンだ。食人族を退治したと報告があったのだが、本当にお嬢ちゃんがやったのか?」
ホーンと名乗った中年男性は興味深そうな顔をしてカリナを見る。
「はい、私だけの力ではありませんが」
「ほぉ、それはすごいな!」
表面上は笑っているようだが目の奥は逆。信用していなかった。その瞬間、カリナは背筋を撫でられるような感触に顔を顰める。
(あ、今解析された)
カリナには解析遮断が備わっているので解析が読み取れない。そして、勝手に解析するのはマナー違反だと考えているので今度はこっちの番だと言わんばかりに解析をやり返した。
名前:ホーン・ディラ
性別:男
年齢:42歳
HP:371 / 371
MP:153 / 153
攻撃力:427
防御力:318
集中力:223
魔力:80
魔力抵抗:115
魔力精度:59
状態:正常
コモンスキル:武器技能(5)/戦闘指揮(6)/警戒(3)/異常耐性(4)/交渉力(3)
エクストラスキル:威圧/鑑定解析
身体能力はガエンに匹敵するが能力が地味だった。『鑑定察知』も持っていないのでカリナが解析しても気づかれていない。
反対にいくら解析してもカリナの能力が見れないので、ホーンが首を傾げている。
「――勝手に解析するのは失礼ですよ」
カリナがホーンに声を上げる。その言葉にホーンの顔が凍りついた。
「これは失敬。何しろそんな幼い姿では先程の話も俄かに信じ難かったもので。 だがやはり仮の姿だったか。」
ハーフエルフなので見た目より歳をとってると勘違いしたようだ。
「歳は12歳です、姿も変えてません」
「ははっ……まあそういう事にしておこうか。だが、解析も出来ないとなると実力を測る方法がないな…」
「何でしたら、もう一匹食人族を狩ってきましょうか? 一緒についてきてもらえればいいのですが」
「いや、その必要はないよ。時間が掛りすぎるからな」
(……なんだかこの人、嫌だ…)
先程からの振る舞いにカリナは内心気分が悪かった。最初からカリナの実力を甘く見ているし信じようともしない。
「ここは一つ模擬戦で実力を示してもらおう。」
「分かりました。それじゃあ何処で誰と戦えばいいでしょうか」
「本来なら訓練場で指導員と打ち合うのだが、生憎彼はBランクの実力じゃなくてな。私が相手になろう。表の広場でやればいい余興になると思うのだが」
その言葉を聞いたネールが声を上げる。
「待ってください! 広場だと防御結界も張ってないので周りに被害が出てしまいます! それに支部長はAランク――」
「まあ、魔法勝負でないなら問題ないだろ。 食人族を倒す実力だ。 お嬢ちゃんはどうする?」
ホーンはカリナの実力を侮って能力詐称を疑っているのだろう。広場でやるというのは本当に余興かも知れないが、悪意を持っているとすれば他の冒険者に対する見せしめだ。
魔法を使えば周りに被害が出るのだから気軽に使うことが出来ない。つまり魔術師だと思っているのだ。子供相手に――それも信じていないかも知れないが、随分な提案だった。
だが、カリナにとっては、最早どうでもいい。
「ボクはどっちでもいいですけど」
投げやりに答えた。その遣り取りを見てシウラが、そしてゴードンとソウヒがそれぞれの反応をする。
「ね、ねえゴードン…カリナ大丈夫だよね!?」
「心配する必要はない。 あやつは某よりも強いのだからな」
「カリナ、あまりやりすぎるなよ」
ソウヒの反応が意外だった。カリナは口を尖らせながら、
「あれぇ……。お兄さんは心配してくれないのですか?」
「お前と何分打ち合ったと思ってるんだ。実力は俺がよく分かってるよ。それに今実力を示しておけば、後から絡んでくる奴もいないだろ?」
ソウヒはソウヒなりにカリナを信頼している。心配の必要はないという事だ。それはカリナにとって嬉しい言葉だった。
「分かりました! ボク頑張りますね!」
「だからやりすぎるなって」




