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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
19/72

強き者

 ソウヒとゴードンが対峙する。二人とも目は真剣だが、出会ったときのような険悪さはない。

「俺の名はソウヒ。この山脈の反対側の国、アルガットの森で暮らしている。」

(それがし)上級猪剛族(ハイオーク)のゴードン。勇気ある者ソウヒよ。そなたがカリナの想いび――」

「わあああああああああああああああああぁぁぁ!」

 

 急にカリナが大声を出したせいで二人が顔を(しか)めた。

 

「いきなり何言いだすのですか! ゴードンさん!」

「某は何かおかしなことを言ったのか?」

「言いましたよね? 危なかったですよね!?」

 

 周りを見たが、男二人は顔から「?」という文字が書いてある。残りは――

 

「あ…」

「え? あぁそうね……」

 

 先程からずっと、皆の視線から逃れるように隅でおとなしくしているエルフ。こちらからは顔に「関わりたくない」という文字が書いていた。出来れば放っておきたかったがそういうわけにはいかない。

「ええと、はじめまして。 お兄さんと一緒に旅をしているカリナです。お姉さん、宜しくお願いしますっ」

 

 久しぶりの営業スマイル。本来は大抵の人には好印象を持ってもらえるのだが、エルフには何故か通用しない。

 

「あ、はい…。この先の村で暮らしてるシウラよ。ところでその……」

 

 あまりハッキリしない反応にカリナは内心がっくりする。

 

「その背中の翼は……?」

「……え? ――はっ!?」

 

 その言葉で自らの姿に今更気が付いた。『魔王化』を解除していない上に翼が大きく広がっているので、傍から見たら異形としか言いようがない。

 

「うむ、小さき者カリナはその翼を広げることで、素晴らしい力を発揮するのだ」

 

 ゴードンが放つ痛恨の一言。微塵も悪意がないので完全に天然だ。或いは空気が読めないともいう。

 

「それって……。 つまり貴女は魔族ってこと……?」

「ええと……」

 

 カリナの背がどんどん小さくなっていく。魔族はすべての人類の天敵。ハーフエルフの様に迫害されているのではなく脅威の対象としてだ。

 

「いや、カリナはカリナだ。俺と仲間達にとって命の恩人だ」

 

 ソウヒがカリナの隣に立ち、代わりに答える。

 

「カリナのおかげで俺達は命を救われたんだ。それもすごい能力(スキル)でな。一人で500人の敵兵士を追い返したときなんか見せてやりたいところだぜ?」

 

 敢えて大げさに話をする。するとゴードンは感心するように続いた。

 

「ふむぅ……さすがは某が伴侶と認める者よ。 そういえば先の閃光も素晴らしい力を秘めていたぞ」

「そうだろ? ……おい待てコラッ!」

 

 男達はまた騒ぎ始める。

 大して、シウラは静かにカリナを見つめていた。暫くソウヒ、ゴードン、そしてカリナを見回して――

 

「まぁ、魔人猿(エイプマン)猪剛族(オーク)がいて、貴女だけ普通なわけないか! …あれ、じゃあ私だけ常識人!?」

 

 と、吹っ切れるように笑い出してカリナを見た。その眼を見てほっと胸を撫で下ろしながら、

 

「ボ、ボクだってこの翼以外は普通なんですから! これでも商人だったんですよ!」

「俺は魔人猿(エイプマン)じゃねぇよ!」

「某を猪剛族(オーク)と呼ぶのはやめてもらいたい。でないと猪剛族(オーク)の様にそなたを追い回すことになるぞ?」

「ひぃっ! ごめんなさいっ!」


 ――最後は皆で笑っていた。

 

 

*****

 

 

 夜が更けてきたところで、村に到着する。

 ソウヒの背にはカリナが――珍しく駄々をこねたので、ゴードンの()にはシウラが乗っている。

 村に入る直前、カリナは『魔王化』を解除してハーフエルフの姿に戻る。翼を小さくしても背中の穴で見えてしまうからだ。その様を見たシウラが「やっぱり普通じゃない!」と突っ込んでいた。

 既に宿屋は閉まっていて、結局シウラの家に泊めてもらうことになった。尤も宿屋が開いていたとしても利用できる面子ではなかったが。

 シウラは「一人暮らしだから部屋は狭いけどね」と言っていたが、3人とも不満を感じる必要もないほどに大きい。エルフとしては珍しく樹木を利用しないレンガ造りの家だ。

 

「それじゃあ、まず足を治しましょう。」


 カリナが言った。

 

「え? でもソウヒの話じゃ、自然治癒に任せた方がいいって……」

「勿論それが一番ですけど、治せない事もないです。ちゃんと固定してから治せば問題ないです。歩けないのは不便ですからね」

「そうね、じゃあお願いしようかな」

 

 カリナがシウラと自らの足に治癒魔法を唱えると腫れが引いていく。ソウヒの術で動かさない限り痛む事もなかったが、それもやがて動かしても痛まない程度まで治療されてしまい、その様子を見ていたソウヒが苦い顔をする。

 

(その治癒魔法があれば、お前の傷痕も消せるじゃないか……)

 

 その言葉を飲み込む。そうしないのは何か理由があるのだろう。態々怒らせるようなことはしたくなかった。

 

 

「カリナちゃん、お風呂に行こ! 色んなお話聞かせてよ!」

「あ、はい。呼び捨てでいいですよ」

「じゃあカリナ、私も呼び捨てにしてよ! 話し方もふつうで!」

「え? はい…じゃない、うんっ!」

 

 二人はそう言いながら部屋から出て行った。

 

 

 村の共同風呂でカリナとシウラが並んで湯につかっていた。夜が更けているせいか二人以外に誰もいない。

 シウラはカリナに目を移した。ずっと気になっていたが何となく聞いてはいけない気がする。

 

「それでカリナ。あなたのその体中についてる傷痕って…」

 

 少なくとも、見せたくないなら一緒に風呂に入る事はないだろう。せっかく仲良くなったのだからと思い切って聞いてみることにした。

 

「え? あ―……少し前に盗賊に襲われて――…」

 

 カリナは盗賊に襲われた事や奴隷にされたことを話した。エルフなのに自分の事を蔑んだ目で見ず、友達か妹のように接してくれるシウラに、つい身の上の事も話してしまう。

 

「――その時、傷を治してくれたのがお兄さんです。感謝してもしきれません」

「でも、さっきの治癒魔法があれば傷痕なんてなくなるんじゃないの?」

 

 その言葉を静かに首を振りながら否定する。

 

「この傷痕は色んなことを思い出させてくれます。だからそんなことはしません」

 

 腕の傷痕を撫でながらカリナは想い馳せる。自分の弱さで父親を死なせてしまった事や、奴隷になるという事の意味、そして、そこから救い出してくれたソウヒの事。

 それらをシウラに丁寧に話す。はじめは興味本位で聞いていただけだったが、次第に目つきが険しくなり、やがては涙ながらにカリナを抱きしめ頭を撫でた。

 

「そっかぁ……まだ小さいのに苦労したんだねぇ!」

「ひゃっ!? そ、そうですね。色々ありました。」


 カリナの髪がくしゃくしゃになっていく。いきなりの事で驚いたが、まんざらでもないようで、シウラの腕の中でくすぐったそうに身を竦めながら笑顔を返した。

 

 

 

*****

 

 

 早朝、ゴードンがカリナ達に「一緒についていく」と告げる。カリナはゴードンの事を頼もしいと思っているが問題はソウヒの方だ。

 

「あんたが悪い奴じゃないのは眼を見て話せばわかる。だがな……」

「お兄さん…」

「あんたは村じゃ目立ちすぎるんだ。この世の中じゃ見た目で判断する奴は沢山いる。下手すればカリナにも危害が及ぶかもしれないのは見過ごせない。何より……」

 

 一拍おいて話を切り出す。

 

「あんたはカリナを嫁にするとか言ってたよな? それだけは許さん!」

「……えええぇぇぇ!?」

「なんか、娘を渡さない父親みたいなこと言ってるんだけど……」

 

 いきなりの事で戸惑うカリナと飽きれるシウラ。

 ソウヒの言葉にゴードンは――

 

「そうか、そなたはカリナに惚れていると」

「……ええええぇぇぇ!?」

「そりゃ見ればわかるわ。山での狼狽え方は半端なかったし」

 

 予想外の発言に混乱するカリナと、知ってたよと言わんばかりの顔をするシウラ。

 

「グっ……! そ、そうだ!悪いか」

「…………!」

「おおぅ! 潔く認めるなんて男らしいね!」

 

 最早、カリナにはついていけない。ただ、顔から火が出そうなほどに真っ赤なのは分かる。

 

「ならば、(オス)らしく拳で語れぃ! より強き者が強き(メス)を手にすることができるのだ!」

「いいだろう! 表に出ろ!」

「よくありません! ボクを賞品に殺しあいとか許しませんから!」

 

 二人の間に割って入った。

 

「お兄さん、どうしたんですか! いつもはもっと冷静に収めるじゃないですか!」

「う……、すまん少し頭に血が上っていたようだ」

「ゴードンさんも、一緒に来てくれると心強いです。是非お願いします。」

「カリナ…」

 

 ソウヒが寂しそうにカリナを見る。それを無視して話をつづけた。

 

「でもお兄さんのいう事も尤もです。村に居るときはマスクを着けてくれますか」

「弱き者どもに気を遣うのは馬鹿げてると思うのだが」

「世の中は力だけが全てじゃないのです。ゴードンさんは旅からそれを学んでほしいです」

「力だけでは全てを制することは出来ぬと? それは是非学びたい!」

「それじゃあ、目立たないよう気を付けてくださいね」

「心得た!」

 

 ソウヒも一旦はそれで納得したようだった。だが話は終わっていなかった

 

「んじゃ、私も一緒に行くわ!よろしくね!」

「「……え!?」」

 

 シウラも同行するという言葉を、カリナは嬉しそうな声で、そしてソウヒは不意打ちされたような声を出した。

 

「なんて言うかね、山で色々あったけどワクワクしてたんだ! なんか運命を感じる気がするのよ!」

「わけが分からん…」

「シウラさん、ボクはハーフエルフです。エルフにとって軽蔑する存在ですよ?」

「ごめんねカリナ、私も最初はそう見てた。でもあなたを見ていると自分がとても小さなことに拘ってたんだって気づいたのよ。」

「シウラさん……」

「だからさ、私も見聞を広げて見ようかと思う。どうかな?」

「はいっ! ボクはうれしいです!」

「まあ、ゴードンはよくてお前が駄目だって言うわけにはいかないしな」


こうして、新しい仲間が一気に2人も増えたのだった。


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