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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
18/72

上級猪剛族

 ソウヒはカリナの姿を探して山道を掛けていた。

 既に辺りは暗くなっている。このままでは自分はともかくカリナと、そして背中にしがみついているエルフを危険に合わせる事になる。

 

「くっそっ! カリナ!どこだ―――ッ!」

 

 もう何度叫んだことか。一向に見つからない事態にソウヒは焦っていた。

 カリナの強さは何度も見てきた。自分など足元にも及ばない身体能力(ステータス)能力(スキル)がある。だが全く安心できなかった。

 なぜなら――

 

「もう暗くなってきたわ……。何とかしないと……」

 

 エルフの一人言にソウヒの思考が遮られた。ついでに思い出したことがある

 

(そういえば名前を聞いてなかったな。俺はソウヒだ。アンタは?)

「シウラよ。麓の村に住んでるんだけど……って今はそれどころじゃないわね。連れの女の子ってどんな子なの?」

「ああ、名前はカリナ。黒髪で肌が少し褐色の……子供だ」

「子供!? 何とかしないと危ないわ!」

「いや、見た目は子供だが……実際子供だけど俺より強い」

「え…?」


 シウラの声が疑問に変わった。背負ってるためにソウヒから顔を見ることは出来ないが、恐らく「何言ってるの?」と言いたげな顔をしているのだろう。


「何言ってるの? まだ子供なんでしょう? もしかしてアンタが弱いとか?」

「バカにするな! 会えば分かるよ!」

「そんなに強いならなんで焦ってるのよ!」

「それは――…」

 

 カリナは強かった。だが目を離すといつも傷ついていた。身体も心も。まるで世間がカリナを目の敵にするように。

 だから目が離せない。一人にできない。それこそ消えてしまいそうな弱々しさがあった。

 暫し足が止まったその時――

 

 グォオオオオオオオオオ――ッ!!

 

 何処からともなく声が聞こえてきた――

 

「な…何、今の…!?」

「……分からん、だがこの近くに魔獣か何かがいて、ここは危ないってことは分かる」

 

 グォオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!

 

 その雄叫びは一度だけではない。何度も聞こえてきた。近くに魔獣がいるとすれば暗くなれば不利。最悪はソウヒもシウラもやられてしまう。山を下りるなら今しかない。

 ソウヒは選択を迫られていた。

 

「……一旦村にいこう」

「え!? カリナちゃんはどうするの?」

「あんたを村に送ったらもう一度探す。アイツなら大丈夫だ絶対!」

 

 ソウヒの選択にシウラが抗議する。

 

「そ、そんなの私がゆるさ――――ゥヒャァァァァァ!」

 

 その声を無視して山道を駆け下りた。




*****


「あ、あははは……こんにちは……」

「ゴンニヂワ」

「ぅうぇ!?」


 予想外の反応にカリナが戸惑う。まさか猪剛族(オーク)に挨拶を返される――それ以前に会話ができたとは……

 まだ警戒を解くわけにはいかないが、それでもカリナは話を続けた。

 

「た、助けてくれてありがとうね!」

「……」

「うん?」

 

 猪剛族(オーク)の反応がない。手を自らの首にあてて苦しげに顔を(しか)めている。

 

「どうかした?」

「グググ……ガガガ……ガ――ガ――ガ――」

「ぇ……?」

 

 暫くその様子が続いた後、次第に声がクリアになってきた。


 

「ガ――ガ――ガ――、ア――ア――ア――」

「――……」

 

 その様子をずっと見守ってきたが、どうやら発音を正そうとしていたらしい。

 改めて猪剛族(オーク)がカリナを見る。

 

「はじめまして小さき者よ。(それがし)上級猪剛族(ハイオーク)のゴードンという」

「あ、はじめまして…ボクはハーフエルフのカリナです。改めて助けてくれてありがとう!」

 

 見た目とは裏腹の紳士的な態度に思わず声が上擦ってしまった。

 

上級猪剛族(ハイオーク)……それも固有種(ネームド)なんて初めて見ました。」


 上級猪剛族(ハイオーク)はその名の通り猪剛族(オーク)のよりも上級の魔物。見た目は猪剛族(オーク)に似ているが、文明的な一面を持ち少数の集落で暮らしている。殆ど人の前に現れることはなかった。

 

「某は村に強き者を求めるため旅を続けている。小さき者カリナよ。そなたは強き力を纏っているようだ」

「え…?」

「ぜひ、某の嫁にしたい」

「えぇぇぇぇ!?」

 

 出会って5分でプロポーズされた。

 

「だ、駄目っ! ボクにはお兄さんがいるの! ――はっ!」

 

 急なことで気が動転してしまったせいで、つい口が滑ってしまう。自分で口にしたセリフによって更に動揺する。

 

「あ、あわわ…」

「そうか残念だ。 強き嫁を迎えれば村の者たちも喜ぶのだが」

「そ、そんな理由で口説かないで下さい!」

「だが諦めぬ。 その男と勝負を挑み勝利することで某の強さを証明するとしよう」

「駄目だってば!」

 

 

 

 辺りが暗くなってきた。

 自身の軽率な行動が今の事態を招いてしまったことを後悔する。恐らくソウヒに心配をかけてしまった。今も探している事だろう。もしかしたらもう会えないかも知れないという不安がよぎる。

 

(お兄さん……ごめんなさい)

 

 自分はもっと大人だと思っていた。それは単なる自惚れでしかなかった。そのことに気付いた途端、涙がこみ上げてくる。

 

「――ぅあああああん! どこですかお兄さん――ッ!」

 

 迷子が親を呼ぶようにソウヒの名前を叫んだ。ソウヒからの返事はない。そのことが更に不安となってカリナの胸を締め付けた。

 それを隣にいたゴードンは不思議に見ている。

 食人族(グール)は人間達だけの天敵だけではなく、上級猪剛族(ハイオーク)達にとっても無視できない存在だ。食人族(グール)を見つけ駆けつけた時、遠巻きながらそれを圧倒するカリナを見ていた。今、目の前で泣く子と同じ存在とは思えない。

 ゴードンがカリナに尋ねる。


「小さき者カリナよ。そなたは力を持ちながらも今はとても弱々しい?」

「グスッ…ボクはいつもお兄さんに迷惑ばかりかけてばかりです。お兄さんに会えないかも知れないと思うと恐くなります」

 

 カリナの返答はゴードンには難しいことだったようだ。

 

「某には理解できぬ。そなたの力があれば敵を、脅威を排除できる。捻じ伏せることもだ。不安になる必要などない筈だ。」

「……どんなに背伸びしてもボク一人では何もできません」

「その兄がいれば、不安ではなくなると? 強き者になると?」

 

 ゴードンが興味深そうに聞いてきた。

 

「……はい、お兄さんがいればボクは安心できます。強くもなれます」

「それはすごい! 是非とも会ってみたいぞ。某もそなたに力を貸そう」

 

 そう言うとゴードンは立ち上がり、大きく息を吸って――

 

 グォオオオオオオオオオ――ッ!!

 

 周囲の空気が震えるような叫び声。

 一瞬驚いたが、何故かその声に勇気づけられた気がした。

 負けずにカリナも声を上げる。

 

「お兄ぃぃぃぃさあぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

 グォオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!

 

 二人の大声を上げる。この声がソウヒまで届けと。その時カリナは閃いた。

 

(声が……届く? それだッ!)

 

 背中の大きく開いた穴から翼が広がる。

 

「小さき者カリナよ、その翼で何をする? それでは飛べるとは思えない」

「この翼はボクの力の源。 いつもは小さくしていますが、広げると大きな力が出せるのです。」

「その力で何をする?」

「要はボクがどこにいるかをお兄さんに伝えればいいのです。きっと迎えに来てくれます。」

「それは如何にして?」

 

 凶悪そうなゴードン顔だが、その目はキラキラと輝いている。まるで聞いたことのない英雄譚(ものがたり)を聞く少年のようだ。

 

「こうするのです! フレアレーザー!」

 

 カリナは空に向かって魔法を放った。暗くなった空で煌々と照らす光は、まるで太陽が戻ってきたかのようだった。

 そして聞こえてくる頼もしい声――

 

「カリナ!どこだ―――ッ!」

 

「きたっ!来ましたよ! ゴードンさん!」

「おお、小さき者カリナよ、その力と知恵に某は感動した!」

 

 カリナとゴードンが二人して喜ぶのもつかの間――すぐに修羅場と化した。

 

「カリ……ナ…猪剛族(オーク)!? テメェ、カリナから離れろ!」

「失礼な、某は上級猪剛族(ハイオーク)だ。 貴様には見分けがつかないのは仕方ないが、下級種族と思われるわけにはいかぬ」

「お兄さんまって! この人は……、その背中にしがみついてる人、誰ですかお兄さん?」

「うぇ!? 私っ!?」

 

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