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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
17/72

魔獣

「ここから手前の山にある村に住んでいるソウヒだ。旅の目的はこの子の冒険者ギルドの登録だ。」

 

 ソウヒが検問で衛兵に旅の目的を告げる。事前に話していた通りだ。

 

「そうか、良い旅を」

「ありがとう」

 

 案外すんなり通過したのでカリナは驚く。父親と関所を通過するときはもっと時間も手間も掛るものだった。

 

「俺も冒険者登録してるからな。冒険者ギルドがある国に入るのが楽になるんだ」

「そうなんですか…」

 

 ともあれ、この先はフォルンだ。カリナにとってはあまりいい思い出がある国ではない。恐らくこの先もいい思い出になることは多くないだろう。

 だが、この国には母親がいる。父親も眠っている。そういえば父モタラと死に別れてからまだそんなに時間が経っていない。出来れば遺体を見つけて埋葬したかった。

 山歩きも終盤に差し迫ってきた頃、カリナはソウヒに話しかける。

 

「お兄さん、相談があるのですが…」

「どうした?」

 

 カリナはこの国で起こった出来事――父親の最後について話した。ソウヒはその話を聞いて答える。

 

「わかった。少し寄り道をすることになるが、まあ大丈夫だろう。」

「……我儘言ってごめんなさい」

「気にするな。というかお前は――…」

 

 いつも我慢してきたじゃないか、と言いながら頭を撫で笑いかけた。カリナが顔を赤くして頬を膨らませる。

 

「また、そうやって子供扱いして!」

「子供でいいじゃないか。まだ12歳だろ」

「そういう問題じゃないですっ! お兄さんに子供扱いされるのが嫌なんです!」

「ん、何故だ? 親父殿やあいつ等ならいいのか?」

「何故って…」

 

 カリナの足が止まる。

 

(お兄さんの役に立ちたいって言ったら、また子供扱いするんだろうな……)

 

「どうした?」

「――!? 何でもありません!」

 

 と、その時――

 

 ――カンッ! カンッ!

 

 微かに金属音が聞こえてくる。

 

「お兄さん! この先から誰かが戦っています!」

「え?」

 

 カリナが山の麓を差して声を上げるが、咄嗟の事でソウヒの反応が遅れる。

 

「誰かが魔獣に襲われている? 急ぎましょう!」

 

 そう言ってカリナが走り出した。

 

「あ! 待てカリナ――!」

 

 ソウヒもカリナに続いて走り出した。

 

 

 

「やっぱり、襲われてる人はエルフなんだよね…。」

 

 走りながらふと自分の心に問いかける。これまで散々嫌な目に遭わされてきたのだ。そんな人達の味方をするのかという葛藤があった。

 

「私の気持ちもだけど、相手からも敵とみなされたらどうしよう……。」

 

 エルフは排他的種族だ。自分がハーフエルフに見えなくても十分敵視される可能性がある。悩みながらも走り続けるが、森の中で考え事をしながら走るものではない。 踏み込んだ先の木の根が引っ掛かり――

 

「わっ――…!? ぅひあああああぁぁぁぁぁぁ―――……」


 ゴロゴロゴロゴロ―――……

 

 坂を走って下っていたせいで勢いが付きすぎていた。カリナはそのまま崖から谷へ転げ落ちて行った――…

 

 

 *****

 

 ソウヒがカリナを追って走る。だが一向にその姿が見えない。

 

「くそっ! 俺が追い付けないなんて!」

 

 ソウヒは猿人――猿の獣人(セリアンスロープ)だ。これまでも奴隷商人や討伐軍を相手に偵察や工作活動などを何度もこなしてきた実績があった。

 カリナの能力(スキル)が常識外であるだけで、実際ソウヒも優秀な能力(スキル)を持っていた。

 

「仕方ない! 『獣化』!」

  

 能力(スキル)を発動させるとソウヒの腕や足の毛が獣のように伸び、同時に身体能力(ステータス)が向上していくのを感じる。ただし本能の解放だけはしない。本能まで開放してしまっては自我が保てなくなるからだ。

 

 そしてその先に――

 

「いた!」

 

 エルフの女が魔獣に襲われていた。腕から血を流して座り込んでいる。

 

「ひぃぃっ! 黒魔熊(デビルベア)だけじゃなくて魔人猿(エイプマン)も来るなんて!」

「誰が魔人猿(エイプマン)だ! 失礼な奴だな!」

 

 文句を言いながらもエルフを庇うように魔獣の前にでる。その姿を見ると15、16歳くらいの綺麗な女の子だ。足も折れているのか立ち上げることが出来ない。

 そして目の前にいる魔獣――黒魔熊(デビルベア)は凶暴な肉食魔獣だ。獣化しているソウヒでも手に負える相手ではない。

 魔獣に背を向けないように気を付けながら女の子に話しかける。

 

「あんたエルフだな?魔法は使えるのか?」

「え、ええ……。 初級魔法だけど何とか」

 

 最初は大分混乱していたようだが、ソウヒの言葉に落ち着いてきたのか、問いかけに答える。ソウヒは臭い玉を取り出しながら、

「こいつに並みの攻撃魔法は効かない。この臭い玉と風魔法を組み合わせて撃退するんだ!」

「わ、分かったわ! 少し待って!」

 エルフが魔力を練り始めた。

 

(くそ…ッ! その間は俺が相手かよ!)

 

 魔獣を前に短槍を構えながら心の中で毒づいた。黒魔熊(デビルベア)は獲物を横取りされると思ったのかソウヒを見て威嚇している。

 

「グフッ―! グオオオオオォォオオオォォ――ッ!!」

 

 鋭い爪でを振り回しソウヒに襲いかかった。難なく躱すが掠っただけで肉が抉れ、受ければ腕が折れる威力だ。次第にソウヒが追い詰められていく。

 

「クッソが! デェェェエエエイッ!」

 

 距離を置きながら短槍を突き刺す。しかし刃が通らず攻撃がまるで効いていない。逆にその行動が魔獣の怒りを買ったようでますます凶暴になった。

 

「流石、C+級指定魔獣(プレデター)だな! 俺じゃ適わねえよ!」

 

 そろそろ時間稼ぎも限界だが、その時――

 

「――風の精霊よ!」

 

 エルフの魔法で風の精霊が顕現した。ソウヒはすぐに臭い玉を放り投げ短槍を振り回して粉々にする。

 

「――降りかかる凶刃を防げ! ウィンドブロー!」

 

 突風に乗った臭い玉の粉が黒魔熊(デビルベア)の顔にかかった瞬間、

 

「――!? グオオォォォッ!?」

 

 鼻を地面にこすり付け、一目散に逃げて行った。

 

 

「ムニャムニャ……キェェェェェェェェェェェェェイッ!!」

「ひえっ!?」

 

 ソウヒから奇声でエルフが短く悲鳴を上げた。

 

「すまん、腕は問題ないが足は痛み止めしかできない。骨折を術で無理に治すと最悪歩けなくなるかもしれないからな」

「いえ、助かったわ」

 

 エルフは素直に感謝する。

 

「まさか魔人猿(エイプマン)に助けられるなんてね…」

魔人猿(エイプマン)じゃねぇよ! それよりここに女の子は来てないのか?」

「女の子?」

 

 エルフの女が目を瞬かせる。どうやらカリナは来ていないようだ。

 

「ああ、黒髪の女の子だ。 君が魔獣に襲われてるのに気付いてすぐに走って行ったんだが…」

「見てないわ。あなたが来るまでは誰も来なかったし」

「そうか……」

 

 そういうとソウヒはカリナを探す為に立ち上がる。だが目の前のエルフは立ち上がることも出来ない。カリナは心配だがエルフも見捨てるわけにはいかない。

 

「すまんが、君を村まで送ってあげたいが、先に連れを探さないといけない。」

「……ええ、ここで置いて行ってもかまないわ」

 

 すこし寂しそうな声で答えたが、ソウヒは話を続ける。

 

「いや、アンタを背負って探す」

「……え?」

「見捨てるなんて事はしない。安心しろ」

「…………」

 

 そういうと返事を待たずに女の子を抱き上げた。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 思わず声を上げるが、それを無視して――

 

(気づかずにカリナを追い抜いたとしても、もう来てもいいはずだ。なのに来ないという事はどこかの道に逸れたか、或いは…)

 

 既に日が傾き始めている。ソウヒは最悪の想定をしながら走りだした。

 

 

 

*****

 

 

 

 ――顔を舐められてる……。そんな感覚でカリナが目を覚ました。目を開けるとそこには――

 

「ブシゥー…」

 

 体長2メートルを超える巨大な毛むくじゃらの獣――食人族(グール)の顔が迫っていた。

 

「っひやぁぁぁあああぁぁあああ――ッ!!」

 

 突然の事でパニックになる。食人族(グール)はカリナの事が気に入ったのか、体を持ち上げて顔をベロンベロンと舐めまくっていた。

 

「うぷッ――――! コラ、やめなさ……っ痛ッ!」

 

 崖から落ちたせいか食人族(グール)に折られたか、足に激しい痛みが走る。既に顔中が食人族(グール)の唾液まみれになっている。

 

「――ッ! ――ぷはっ……! もう、いい加減に――っしろ!」

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ――――

 

「ゴブァッ!」

 

 カリナからの電撃を受け食人族(グール)が手を放した。その隙に這うように離れようとするが、怒った食人族(グール)に足を掴まれそのまま岩に投げ付けられる。

 

「ぅああっ!」

 

 規格外の頑丈さで大したダメージにはならなかったが、衝撃が体中を駆け抜け一瞬意識が朦朧とする。

 

「くぅぅぅ……! も、もう怒ったぞ!」

 

 本来は服が破れるので躊躇っていたが、強力な魔法を撃つ為には仕方ない。翼を広げると電撃を食人族(グール)に流し込んだ。カリナ自身の髪と食人族(グール)の体毛が逆立っていく。

 

ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ――――!

 

「ギャァァァァァァッ!」

 

 食人族(グール)は凶悪な再生力を持つ。体中が電撃によって所々焼け焦げていたが、瞬く間に傷が塞がっていく。

 

「もう、しぶとい!」

 

 その生命力にカリナも焦れてきた。その時、

 

 ――ズバァッ!

 

「ギアアアァァァァ――ッ!!」

「ぇぇえっ!?」

 

 食人族(グール)の頭をかち割られ、叫びながら倒れこんだ。

 その背後には、片手に自らよりも巨大な戦斧を持つ猪の巨人、猪剛族(オーク)

 

 ――ガスッ! ガスッ! グシャッ!

 

 それが食人族(グール)の頭に何度も斧を振り下ろす。食人族(グール)は次第に動きが鈍くなり、そして動かなくなった。

 

「す、すごい強さだ……」

 

 獲物をしとめた事を確認した猪剛族(オーク)が足元のカリナに顔を向けてジッと見つめてくる。

 

「ブルルルルル……」

 

「あ、あははは……こんにちは……」

 

 猪剛族(オーク)好色(おんなずき)で知られる魔物だ。捕まれば自分がどうなるか十分すぎるほど理解している。だがまだ何もされていないので取敢えず挨拶してみた。出来れば穏便に帰してほしい……。

 

「ゴンニヂワ」

「ぅうぇ!?」


 予想を裏切って挨拶を返された――

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