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射手座の箱舟  作者: トンブラー
世界樹編
16/72

関所

 砦を発ち3日目の朝。

 最初の関門は文字通りフォルンとアルガットの国境にある関所だ。朝早いせいか、国境を超える旅人の数は少ない。


「カリナ、お前はまだ冒険者登録してないだろ? 先にフォルンの冒険者ギルドに行こう」

「なにかあるのですか?」

「ギルド登録していれば身分証明証代わりになるからな、それに魔獣の毛皮は金になる。 まあでも他国で狩りをするにはCランク以上になる必要があるけどな」


 ソウヒの話によれば冒険者ギルドではランク制を採用していて、最高位のSから順番にA、B、C、D、E、Fと続く。 Fランクは誰でも可能で身分証明証代わりに使われたりもするそうだ。

 カリナは商業ギルドに通うことがあったが、商人見習いだったし毎度父親と一緒にいたので詳しくなかった。冒険者ギルドもつい最近一度覗いただけでそれ以降入ったこともない。

 

「魔獣の毛皮ですか。路銀の足しにするのもいいですね」

「そうだな、あまり時間は掛けられないが。そんなわけで検問では旅の目的をギルド登録って話すから。それと俺達は遠い親戚で同伴している事にしよう。翼が見えないように気を付けてくれ」

「分かりました。お兄さん」

 

 軽く打ち合わせをして関所に並ぶ。列は短いのですぐに順番が回ってくると思っていたが一向に列が進まない。カリナが列を離れ前方の様子を伺うと衛兵と旅人達で揉めているようだ。事情を知るため近くにいた商人に話しかけた。


「おじさん、何かあったのですか?」

「どうやら最近この辺りでフォルンとアルガット間で小競り合いがあったようだね。今関所を閉じてるそうだよ。少なくとも2,3日は開くことはないらしい」

「そんな…」

「困るよな。だから皆で関所を早く開けるように掛け合ってるようだよ」

 

 商人にお礼を言ってソウヒに聞いた事を話す。それを聞いたソウヒが少し考える仕草をして――

 

「それは朗報かもしれないな。」

「……? どういう事ですか?」

「多分、その小競り合いっていうのは――」

 

 一拍間をおいて、少し声を潜めた。

 

「……小競り合いっていうのは多分俺達の事だと思う。小規模とはいえ国境にあれだけの兵力が押し寄せてきたんだ。フォルンとしては挑発と受け止めてもおかしくない」

「……それってつまり、これがもとで軍の編成が遅れるか、上手くいえば討伐自体が無くなるかも……っ!」

 

 嬉しそうなカリナの顔にソウヒも笑みを浮かべる。

 

「そうだ。 少しは時間を稼げるかもしれない!」

「やった、お兄さん!」

 

 声を潜めるのも忘れて二人は喜んだ。そこにを――

 

「おい、お前ら!」

 

 ガラの悪そうな男達がやってきた。身なりからして恐らく奴隷商人と護衛の冒険者達。

 

「延々と待たされてる状況がそんなにうれしいか、あぁっ!?」

「いや、そんなつもりはなかった。すまん」

 

 どう見ても言いがかりだ。だが穏便に済ませようとソウヒは謝ってやり過ごそうとする。

 だがそれでは男達は納得いかないようで――

 

「じゃあどういうつもりだ!てめぇ!」

「こっちの事だ。話すことでもないよ」

 

 ソウヒはあくまで下手に出るが、それを相手は気圧されていると勘違いしているのだろう。更に声を荒げてソウヒに迫る。

 

「うるせぇ! 謝るなら誠意を見せてみろや」

「誠意…?」

 

 ここでソウヒとカリナは気づいた。この男達の目的は二人から脅して金銭を巻き上げることなのだ。最初から話し合う余地なんかない。だがそれは完全に犯罪行為だ。衛兵の多い関所でやれるはずがない。それなら目的は――

 

「ほう、そこの小娘は中々だな。 ならそいつで許してやる、さっさと差し出せ」

 

 衛兵に聞こえないような声でそんな事を言い出した。

 

(あぁ―…)

 

 この男はカリナを奴隷として連れて行くつもりだったのだ。やはり奴隷商人なのは間違いない。

 その遣り取りを見ててカリナが呆れてきた。同時に怒りが湧いてくる。先日までこんな連中に酷い目に遭わされてきただから。ソウヒも同じようだ。解放団の副団長という誇りもあったが、それ以前に――よりにもよってカリナを差し出せと言うかと。


「そうか、じゃあ――」

 

 ――バグンッ

 

「――死ね」

 

 話し終わる前に殴っていた。奴隷商人は鼻血を出してながら倒れこんだ。

 

「てめぇ! やりやがったな!」

「いきなり殴りかかってくるとはいい度胸だ!」

「落とし前つけさせてやる! 覚悟しろや!」

 

 護衛達の動きに迷いがない。ソウヒが殴るのを待っていたかのようだ。

 

「なんだ、最初からやる気だったんだろ? さっさとかかってこい!」

 

 ソウヒも既に戦闘態勢に入っている。それを見ていた旅人達は逃げ、衛兵たちが駆け寄ってくる。だが――

 

「おにいさん~?」

「!? お、おう……?」


 カリナがソウヒの前に歩み出た。その様子に肩を竦ませる。

 

「後はボクがやっておくから、列に戻っててください」

「おう……。気を付けてな…」

 

 ソウヒはそそくさと下がっていった。

 

「おいおい、あのガキ本当に娘を置いて逃げて行ったぞ!」

「ははっ! お嬢ちゃん見捨てられちゃったなぁ!」

「うははは! なら俺達が面倒見てやる! なに悪いようにはしねぇよ!」

 

 男達が口々に下品な笑い声をあげる。それもカリナの怒りに更に火をつけた。

 

「――地の精霊よ!」

 

 カリナの呼び掛けに地の精霊が応え顕現する。

 

 「「……え?」」

 

 ついさっきまで笑っていた男達の顔が固まっていく。

 

「――石の弾丸で敵を貫け! ストーンバレッド!」

 

 ――ドガガガガガッ!

 

「ぐはぁ!」

「ぎゃぁあああ!」

「うおおおおおおお!」


 地の精霊が無数の石礫に変化し男達に飛来していく、そして口々に悲鳴を上げ逃げ惑う男達。

 

「このガキめ!」

 その内の一人がカリナに斬りかかる。避けることなく――

 

 ――ガキンッ!

 

「そんなナマクラでは斬れる物も斬れませんよ」

「くそ! ってうわあああああっ!」

 

 この間にも、石礫が降り注いでくる。男はたまらずまた逃げ回り始めた。こうして飛び交う石の襲来が過ぎ去った時には男達は体中が痣だらけになっていた。

 

「お兄さんは私を置いて逃げた訳じゃないですよ――」

「な、何を……!?」

「だって、お兄さんが下がらないと巻き込んじゃうじゃないですか」

 

 そう言うとカリナの目が怪しく光る。同時に『威圧(スキル)』を仕掛けた

 

「―――――!?」

 

 男達がカリナを見て恐怖に包まれる。そして男達の目の前に――カリナの周囲に多数の魔獣が湧き上がってきた。それらは他の旅人達には目もくれず男達を睨んでいる。

 

「な、なんだこいつら!」

 

 そんな男達の声に答える魔獣はおらず、代わりに一斉に飛びかかった!

 

「う、うわあああぁぁぁぁっ!」

「ひやぁぁああああああああっ!」

 

 一目散に逃げ出だした。だが人間の足では魔獣からは逃げられない。すぐに回り込まれて次第に包囲が狭まっていく。そして完全に身動きが取れなくなったところにカリナがやってきた。

 

「お、俺達が悪かった! 許してくれ!」

「ああ、もうしない! 絶対に!」

「……………」

 

 二人は必死に謝りながら、残り一人は既に泡を吹いて気絶している。カリナは笑いながら――

 

「一人、反省していない人がいますね……」

「ひぃぃぃ! おい、起きろ起きてくれ!」

「こ、こいつはもう十分反省してるんだ! なんなら俺がこいつの分も謝るから!」

「……そうですか」

 

 そこでカリナの怒りが収まっていく。素行は悪いが、仲間を見捨てない姿が砦の仲間たちに似ていたので許してあげようと思った。男達を取り囲んでいた魔獣たちが消えていく――

 

「これは一体…」

 

「幻惑魔法の一つです。もう二度と悪いことしないでくださいね!」

 

 にっこり笑うカリナを見て、男達は心の底から謝り去って行った。

 

 

「戻りました、お兄さん」

「おう……」

 

 何故かソウヒがゲンナリした顔をしている。

 

「? どうしました?」

「いや……なんでもない。それよりも、もうすぐ関が開くそうだ」

「え? もしかして…」

 

 さっきの話は間違いかもしれない、もしかしたら砦のすぐそこまで軍が来ているのかもしれない――

 カリナは先程とは打って変わって不安気な顔をしてソウヒを見た。

 

「いや、ここにいる連中でも随分な数が足止めされてるからな。 今日だけ特別に開くそうだ」

「そうなんですか……。よかった…」

「それにしても…」

「はい?」

 

 ソウヒがカリナを見て、一瞬沈黙の後――


「さっきはあの迫力に寒気すらしたくらいなのにな」

「―――はぅわぁ!?」

 

 ソウヒの言葉を聞いた瞬間、カリナの顔が真っ赤になった。怒りにまかせてやりたい放題やってしまったと。そういえば先の男達の去る姿に違和感があった。残酷に笑いながら近づくカリナの様子が余程恐ろしかったのだろうと。

 

「あわわ…」

 

 今更になって周囲を見渡す。その瞬間、近くで様子を伺っていた旅人達や衛兵すらも目を逸らせた。

 

「わあああぁぁ…」

「まぁ少なくともここで絡まれることはなくなったな」

 

 だがソウヒは予感する。

 

(お前はどこに行っても絡まれるだろうな)

 

 その予感が外れることを祈りつつ――

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