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射手座の箱舟  作者: トンブラー
魔王降臨編
14/72

旅立ち

 その後、『魔王化』の問題はすぐに解決した。

 『魔王化』はユニークスキル、つまり能力の一つなのでそれを解けばいいのだ。

 さっそく能力を解いてみると、翼も髪や肌の色も元に戻った。

 だが、一つ問題がある。

 魔王化している方が本来の姿なので、能力を解除する事を意識する必要があったのだ。

 結局、砦内にはカリナの正体を知らない者はいないので、普段は魔王化した姿でいる事になった。

 

 そこで目を付けたのがガエンでだった。

 

 「おう嬢ちゃん。今日もいい翼だな!」

 

 と言いながら、カリナの翼に触れる

 

 「ひぅ! このスケベ親父!」

 

 という遣り取りが最近の日課になっていた。

 

 

 

 先の討伐軍との戦から既に5日が経っていた。

 今後の遣り取りについて、全員で話し合う。

 

「ここがバレてるんだ。いずれ奴らは大規模でやってくるぜ」

「いや、ここが無いとのたれ死ぬのがオチだ」

 

 撤退か防衛か、皆の意見が割れている。

 ガエンによれば隠れ里のような拠点があるが、そこは解放団以外の者がいるので出来れば避けたいそうだ。

 

「ボクが結界を張っているから暫く近づけないと思います」

 

 砦の周囲に高濃度の魔素を振りまいたので、そのうち魔獣が多く出現するようになる。

 大人数で攻めてきても、魔獣達が人間の匂いにつられて勝手に守ってくれる。

 ガエンにはそう説明していた。

 

「だが、それだけじゃ心許ないな……。 急襲されれば一巻の終わりだ」

「そうですね……。他にいい手がないか考えてみます。」

 

 間に合わせの対応として、討伐軍が接近したときにすぐに察知できるよう警戒を怠らない事だった。

 

 

 夜、カリナは一人で門上まで来る。

 気づかないうちにこの場所がお気に入りになっていた。

 いつものように、眷属たちと相談を始める。

 

(アルさん、昼間の話だけどいい案はない?)

 

 二人の眷属のうちの片方、アルベルトは今ではカリナの相談役になっていた。

 

≪主様、それでは今の状況を纏めてみましょう。≫

(お願いします)

≪まずこの砦内の情報ですが、地形は険しい山に囲まれ、食は砦内の栽培以外に森からの恵みが多く、水は川の上流からを引き込んでいる為、持久戦に持ち込むだけの能力を持つ反面、肝心の味方戦力は50人と軍隊を相手にするには不足しております。 大勢で押し寄せてきた場合は敗北は必至です。≫

(そうだね、今は魔素に引き寄せられた魔獣たちで凌いでるけど長くは持たないかも)

≪はい、確実に来るでしょう。アルガットの人口から推測すると、軍全体の規模はおよそ2万程度。 平坦な草原地帯なので騎兵による戦闘を得意としており、逆に山や森での戦いには向かない編成でしょう。 恐らく3000から4000程度が討伐軍として派遣されると思われます≫

(この間は10倍で次は60倍か…… 何とかしないと皆捕まっちゃう)


 捕まれば当然処刑されるのは目に見えていた。

 

≪それ解決するにあたり、一つ確実な方法があります。ですが主様の意に沿わないかもしれません≫


 それはつまり、自分に大量殺戮しろとかそういう類の策なんだろうなと思いつつ、とりあえず聞いてみる。

 

≪主様は魔王として降臨されておりますが、眷属は我らしかおりません。 ならば眷属を増やし軍勢とするのです≫

(……なんだか雲行きが怪しくなってきた気がするよ。 ボクは何をするの?)

≪方法はいくつかありますが、手近な方法としては砦内の者達と精の交換、まぐわう事です。≫

(ま、まぐわ………ぁぁぁっ! 却下! 却下です!)

 

 大慌てで却下した。

 

(そういう方面の提案はダメだからね!)

≪主様、しかしながら我らは主様と魂を共にしており、多少の影響を受けており……≫

(うるさい、うるさーい!)

 

 誰もいない門上で一人悶えていた。

 

 

≪ではもう一つの方法として、過去の眷属たちを呼び寄せます≫

(過去? 800年前の…?)

≪はい、今でも恐らく生きているでしょう。 恐らく主様の御帰還を待ち望んでいる筈です≫

(そ、そんなに生きてるの…?)

≪殆どは眠っていると思われます。 しかし呼び起こせば問題ありません≫

(わかった。一度ガエンさんに相談してみる。それで、それはどこにあるの?)

≪はい、その地は――≫

 

 

*****

 

 

「世界樹か…」

「はい、今は高濃度の魔素で誰も近づけなくなっている地域です」


 世界樹とは大陸南部に広がる大森林の奥にそびえ立つ巨大な樹木だった。

 エルフ達の信仰の対象であるが、周囲は魔獣が多数生息しているので容易には近づけない上に、魔族も暮らしていると言われている。

 ガエンに昨晩の話を掻い摘んで説明した。

 

「此処から片道3週間ってところか。 問題は…」

 

 そこでカリナは俯いた。目的地はフォルンの領内にある。当然、旅の行程には各村々で宿をとる事になるだろう。だが、またあの視線を受けながらの旅になるのかと思うと不安しかなかった。

 ガエンはこれまでの経緯は知っていたし、その心情も察していた。誰かを連れて行ければいいのだが…。

 その「誰か」を考えるまでもなく――

 

「……問題は、嬢ちゃんが逃げ出さないかどうかだな」

 

 ガエンの目がまた邪悪に笑っている。

 続くように部下達も笑い始めたが、カリナはすぐに気が付いた。

 

「……親父殿、ちょっとそれは言い過ぎだろう」

 

 ソウヒがガエンに詰め寄る。思った通りだ。

 

「別に逃げてもいいさ、嬢ちゃんが普通の娘だったな? だが嬢ちゃんは『魔王の種』だ。 ここで逃げられて厄災を振りまかれるのは俺としても見逃せん」

 

 ガエンがカリナを見る。カリナは敢えて不安そうな顔でソウヒを見た。

 

「……だったら俺が監視役になろう! それでいいだろっ!?」

 

「ほぉ…。 つまり同行するってことか?」

「そうだ! 俺も一緒に行くぞカリナ!」

「はい、お願いしますお兄さん!」

 

 そう言ながらソウヒにしがみついた。

 

((とんだ茶番だぜ!))

 

 全員、ソウヒをどうやって弄ろうかと考えてたが、二人を見ている内に毒気を抜かれてしまった。

 


「それじゃ行ってきます」

「おう、気を付けてな。ソウヒ、しっかり守ってやれよ」

「ああ、勿論だ」

 

 尤も、ガエンとしてはカリナよりもソウヒの方が心配だった。

 事実カリナの方が強いし、何よりソウヒは単純で騙されやすかったからだ。

 

(ま、嬢ちゃんが良いって言うなら、それで良いんだけどな)

 

 そう思いながら二人を送り出す。それは単にカリナの提案を受け入れただけではない。

 カリナは気づいていないが、ソウヒは気づいていた。

 

 一度だけソウヒは振り返り、ガエン達を見る。そして一礼すると足早に歩き出した。

 

「あいつ、気づいてたか……」

「そりゃ、俺達の自慢の弟ですからな!」

 

 ガエン達は満足げに二人を見送った。

 

*****

 

 砦を出て少し経ったところでカリナがソウヒに話しかけた。

 

 「お兄さん、どうしたんですか」

 

 ソウヒが足早に歩くので、カリナは小走りになっている。それに気づきは歩調を緩めた。

 

「ああごめん、ちょっとな」

 

 口調は穏やかだが表情が険しい。

 このままカリナには気づいて欲しくなかった。だがそれは後になって負担を強いることになるかもしれない。そう思って話し始める。


「…親父殿は死ぬかもしれない」

 

「……え?」

 

 それはカリナにとって思いがけない切り出しだった。

 

「場所も人数割れてるんだ。軍はすぐに再編成して押し寄せてくる。親父殿はその前に俺達を逃がすつもりなんだ」

 

 血の気が引いていくのが分かる。

 

(そうだ、アルさんは言ってたのに……)


「押し寄せてくれば必ず破れる」と。「確実に来る」とも言ってた。自分でも「長くは持たない」と言ったはずなのに。なぜ、こんな選択をしてしまったのか…。今なら後悔しても遅くない。引き返そう!

 そう告げようとするがソウヒに阻まれる。

 

「言っておくが、引き返さないぞ。親父殿も皆もそんなの承知の上だ」

「そんなっ! どうしてっ!? このまま守る事だって出来た筈です!」

 

 すぐに目から涙が零れた。

 自分への怒りと迫る危機への焦り、様々な感情を表に出し、カリナはソウヒに声を上げた。ソウヒはそんなカリナを見つめながら静かに問う。

 

「どうやって?」

「……!? ボクが皆を護るんです……!!」

「それはできない。無理なんだ」

「無理じゃないです!」

 

 これまでにないほど意地を張った。譲りたくなかった。

 

「つまりそれは、お前の手を血で穢すことだ。それも大量に、何百何千と…」

 

 それは大量虐殺。今のカリナにとっては簡単な事だった。そう、今の自分の能力(スキル)なら簡単なことなのだ。

 

「それはもう、人間のする事じゃないんだよ」

 

「あ……」

 

 カリナに人の心を捨てること事を、砦の皆は望んでいない。

 ソウヒの言葉にカリナは気がついた。この短い間だったが、自分がどれだけ皆に大事にされていたかを、どれだけ皆が大事な存在だったかを。

 そうでないなら、ガエンは迷わずカリナを生きる兵器として戦場に送り出しただろう。

 もう涙が止まらなかった。

 

「ぅぅあ……あぁぁぁ……」

 

 嗚咽が漏れる。ここまま見過ごす事しかできないのか、このまま逃げる事しかできないのか……。

 

「泣くな! 俺達はまだやれることがある!」

 

 ソウヒがカリナに怒鳴る。ソウヒも泣いていた。

 

「そうだろ? まだ時間はあるんだ!」

「うう……ぅぅぅ…………………。はい――ッ!」

 

 そうだ、まだ時間はある。すぐに世界樹に言って仲間たちを集めて戻ってくれば、皆を助けられるかもしれない。

 

「急ぎましょう、お兄さん!」

「ああ!」

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