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射手座の箱舟  作者: トンブラー
魔王降臨編
13/72

新しい生き方

「さて、これからの話をする前に――」

 

 ガエンとソウヒ、そして部下達全員の前に立たされたカリナは不安な面持ちで立っていた。

 ソウヒはいつも通り。だがガエンと部下達が凶悪な笑みを浮かべている。

 

「うへへぇ、嬢ちゃん事を教えてくれよ」

「……何を教えるのですか」

 

 茶化すガエンにカリナは表情を変えない。

 

「そうだな、まずはお嬢が持ってる能力(スキル)について教えてくれ」

「ま、前に『解析』してたじゃないですか!」

 

 ガエンを睨んだが、その眼を見てカリナの方が身を竦ませた。口調は軽いが目は真剣だったのだ。

 

「……わかりました。『鑑定遮断』を解くのでもう一度『解析』して見てください」

「よっしゃ『解析』!」

 

(どうしてそこは生き生きとするんですか!)

 

 名前:カリナ

 性別:女

 年齢:12歳

 HP:1780 / 1780

 MP:7000 / 7000

 攻撃力:1081

 防御力:976

 集中力:757

 魔力:1192

 魔力抵抗:1416

 魔力精度:925

 状態:魔王化/通常

 コモンスキル:武器技能(10+)/魔法技能(10+)/警戒(4)/異常耐性(3)/交渉力(4)

 エクストラスキル:威圧/狂化/暴走制御/鑑定/高速思考

 ユニークスキル:前世の知識/分割意思/魔王の権能/魔王化

 


 最初は笑っていたガエンだが、解析結果を見て絶句した。

 目がさっきよりも険しくなっている。

 

「親父殿、どうしたんだ?」

「ま、魔王…?」

「何?」

 

 ソウヒの問いには答えず、ガエンは黙り込んだ。

 

 

*****

 

 

 暫くの間沈黙した後、気を取り直して解析内容を全員に話し始める。

 

「まずは嬢ちゃんの基礎能力だ。…ぶっちゃけると身体能力(ステータス)が伝説級、つまりSクラスだ」

 

「「…………はぁ?」」

 

 全員が同じ顔でガエンに聞き返す。それを無視して説明をつづける。

 

「次にスキルだ。『武器技能』と『魔法技能』が10…………を超えてるだとぉ!?」

 

 ありえなかった。技能系スキルの最大値は10なのだから。

 ガエンの眼がさらに険しくなっていく。カリナは少し怯えながら思った。

 正直に解析させたのに、何故怒られるのか…。

 

「これは遊ばれるわな……」


 ガエンが先の戦いを思い出しながら呟く。「いや、寧ろ俺はよく生きていた」と。

 

「それでだ……嬢ちゃんはエクストラスキルとユニークスキルの保持者だ」

「なるほどな、強いわけだ。それでどんなスキルなんだ?」


 『解析』を持たないソウヒと部下達は気楽なものだ。

 

「エクストラスキルの方は『威圧』とか『狂化』とかだな。レアだが特別珍しいものではない。……嬢ちゃん『高速思考』ってのはなんだ?」

「ええと、使っている間は時間の感覚がとても長くなります。」

「ふーん? 具体的にどのくらい早くなるんだ?」

「大体1000倍くらいです。1秒が1000秒に感じるというと分かり易いかも」

「おお、そいつは便利だな! いつまでも酒を飲んでいられるじゃん!」

「そんな理由じゃ使いませんよぉ!」

 

 どこから本気でどこまで冗談なのか分からない。

 

「まあいい。それでユニークスキルの話だが……」

 

 今度は急にシリアスになった。

 

「まずは『前世の知識』『分割思考』っていうのはなんだ?」

「……ごめんなさい、黙秘します」

 

 『前世の知識』とはその名の通り、前世の記憶を呼び起こす能力だが、実際のところカリナはを使いこなせていなかった。

 自分が生まれる前は「桜 理世」という名前で別の世界の住人だったのは知っているが、今の世界と違いすぎて今一つ実感がない。不思議な国で住んでいた程度の認識しかない。

 そして『分割意思』とは意思を分けるスキル、すなわちアルベルト、エルベレーナのことだ。この眷属達の存在は隠しておきたかったので本当に黙秘した。

 

「そうか…。けどこれは答えてくれるよな。『魔王の権能』と『魔王化』とはなんだ?」

「魔王…?」

 

 全員が怪訝な表情を浮かべている。

 ガエンの眼は真剣だ。見逃してくれそうにない。

 だが、この能力を教える事は自分の正体をバラすという事だ。それだけはどうしても言いたくなかった。

 

「……ぁぅ……」

 

 自分は昔魔王でした、なんて言えばどう思われるだろう?

 追い出される? 殺される? もっとひどい目に遭わされる…?

 想像するだけでカリナの小さな体はさらに縮こまり、自然とソウヒに顔を向けてしまった。

 

「親父殿…」

 

 その姿を見かねてソウヒがガエンに声を掛ける。

 

「黙ってろソウヒ。俺達はとんでもない奴を目覚めさせてしまったかも知れないんだ」

「だが…」

 

 ソウヒを無視してカリナをジッと睨み、返答を待つ。

 逃げることも胡麻化すこともできそうにない。腹を括るしかなった。

 

「……そのままです。『魔王の権能』はボクの眷属が持つ能力をボクが使う能力、『魔王化』はボクが持つ本来の能力を解放する能力です」

「そうか、なら嬢ちゃんは……」

「はい。ボクは魔王の種。800年前に魔王と呼ばれ滅ぼされた存在の生まれ変わりでした」

 

 カリナが俯きながら答えた。

 『魔王の種』は別名『厄災の根源』とも言われる、どの種族のお伽噺に出てくる有名な悪魔の化身だ。

 人間の間では『魔王』、ドワーフでは『厄災』、そしてエルフでは『ダークエルフ』と。

 

「今のボクの能力は全部『魔王の種』によるものです。盗賊に襲われた時に『種の発芽』が始まり、ガエンさん達と出会った時に能力に目覚めました。そして先の戦術魔法を防ぐために――」

 

 これまでの経緯を掻いつまんで説明した。

 その場にいる全員が沈黙する。

 空気が重く居たたまれない。

 

 更に暫くの沈黙の後、ガエンが真剣な顔になって口を開いた。

 反対に部下達は邪悪な笑顔に染まっていく――

 

「そうか…まぁやる事は一つだけどな」

「親父殿! この子は…カリナは俺達を助けてくれたんだぞ!?」

 

 ソウヒが皆からカリナを守るように抱きかかえて叫んだ。

 

「お兄さん…」

 

 カリナもソウヒにしがみつく。その姿は兄妹にように、或いは騎士と姫のように――

 

 

「まずは―― 祝勝会だ――――ッ!」

「「うおおおおぉぉぉぉぉ――――ッ!!」」

 

 叫ぶガエン、続く部下達。

 

 「「……え?」」

 

 取り残されたのはカリナとソウヒだった。

 

*****

 

 祝勝会。

 

「つまるところ、嬢ちゃんが何者でもどうでもよかったんだよ」

 

 ガエンが話し始めた。

 

「どんなに強くても、嬢ちゃんはやっぱり嬢ちゃんだからなぁ。 いつもビクビクしてるし、少なくとも『魔王』じゃねぇよな!」

「酷いです!」

 

 カリナが顔を膨らませているが、全員ガエンと同意見だった。

 

「んでソウヒ、お前は分かり易過ぎ」

「……ぅえええ!? な、何言ってんだよ!」

 

 ソウヒは男達に無理やり酒を飲まされている。だがその反応が初々しい。

 

「うははは! もう告っちゃえよ!」

「「ヒュ――――ッ!!」」

「お前らうるせぇ―――――ッ!」

 

 

 宴会がまだ続いているが、カリナとソウヒはこっそりと――バレバレだが――門上にやって来た。その理由は

 

「この姿、元に戻らないかな」

 

 カリナが呟いた。

 

「まあ、せめて翼は何とかして隠さないとな」

 

 肌や髪の色はまだいいが翼は何とかしたい。このままでは立っているだけで見世物になってしまう。

 それに触れられるとなんだかくすぐったい。

 カリナが一人悩んでいたところ、ソウヒが門上まで連れてきたのだった。

 

≪主様、主様の翼は魔力の根源となります。 恐らく完全に取り除くことは不可能でしょう。しかし幻惑魔法を応用することで不可視にすることは可能です。≫

(ほんと? じゃあまずはそれから…)

 

 カリナの体から黒い霧が立ち込め、暫くして霧が消えると翼は見えなくなっていた。

 

「あ、これはいい感じ…。あれ?」

「おお! 見えなくなってる…っておい!」

 

 背中がまる見えになってるので、思わずソウヒが顔を背ける。

 翼は見えていないだけで、魔法を解除すると見えるようになった。

 

「こ、これだと背中が寒いね! 他の方法を探します!」

≪主様、ならば変身魔法を応用してみます≫

 

 今度は変身魔法によって翼が次第に小さくなっていく。

 最後は服の下に隠れる程度に小さくなった。

 

「こ、今度は大丈夫そうか?」

「これはいけそう……かな?」


 これくらいの大きさなら服の下に隠れるなら問題ない。だが触れてみると――

 

「ぅひぁああぁぁああああああ――ッ!」

 

 なんだか感覚が増している。思わず声を上げてしまった。

 

(な、な、何がっ!?)

≪主様、小さくなった分、敏感になっているようです≫

(え、えー!? それってつまり……)

 

 変な想像してしまい、カリナの顔が真っ赤になる。

 これはマズイ、非常にマズイ!

 だが、もっと不味い事態に見舞われる。

 

「どうした!?」

「なっ何でもない!」

 

 思わず赤くなった顔を背けた。

 

「あぁ、やっぱり生えてるのか…。でもこんなに小さいなら服で隠せば目立たないだろ」

 

 と、ソウヒが言いながら翼に手を伸ばす――

 

「えっ!? あ、お兄さんちょっと待っ……」

 

 時すでに遅し。伸びた手が翼に触れた瞬間――

 

「ひぃやぁぁああぁぁああああ――ッ! お兄さんのエッチ――ッ!!」

 

 悲鳴を上げて逃げて行った。

 

「な、なんだ……!?」

 

 次の日――

 

「「ゆうべはお楽しみでしたね!」」

 

 ガエンの生暖かい目の先には、顔真っ赤でむくれるカリナと男達に弄られるソウヒの姿があった――

 

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