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射手座の箱舟  作者: トンブラー
魔王降臨編
12/72

魔王化

(エルさん、アルさん、やろう!)


≪心得ました主様! 魔王化を発動します。 ――エルベレーナ!≫

 

≪はいっ! ――ダークボール展開!≫

 

 カリナの前に小さな球体――とても深く暗く、光も飲み込む重力球が出現した。

 レーザーは重力球に吸い込まれ消滅した。

 次の瞬間、重力球から黒いフレアレーザーは放出され、火焔の精霊王に直撃する。

 

 「グオオオオオオオォォォ―――ッ!!」

 

 「うわあああああぁぁぁぁ―――ッ!!」

 

 黒いレーザーに飲み込まれた精霊王、そして魔力の逆流によって敵魔導士がもがき苦しみながら倒れ込んだ。

 

 

 

「な、なんとかなりましたぁ…」

 

 敵の無力化を確認し、腰が抜けるようにへたり込む。

 振り返ると、ガエン、ソウヒ、そして男たちが呆けた顔をしている。

 

「……?」

 

 しまった、とっさに使った魔法で驚せたかもしれない。どうやって誤魔化そうかと悩んでいたところで、ソウヒが声を掛ける。

 

「カリナ…。その格好はなんだ?」

 

「え……?」

 

 カリナは慌てて自分の格好を見回した。服は背中の部分がビリビリに破れ、そこから見たことのない翼が生えていた。間違っても天使のような白い羽ではなく寧ろその逆だ。白骨化した鳥の翼としか形容しようがないそれは、とても空を飛べるとは思えない。

 肌は褐色となり、髪色も金赤色ストロベリーブロンドから黒髪になっている。これではまるで――

 

「ダークエルフ……」

 

 誰かが呟いたその言葉でカリナはハッと顔を上げた。皆が自分に向ける視線、それらが急に怖くなってきた。

 

「み、見ないで…」

 

 少し前の記憶が、どこに行っても侮蔑や悪意に満ちた目で自分を見ていた、あの日々が呼び起こされる。

 

「見ないで…。見ないでください――ッ!」

 

 カリナは恐怖でその場にうずくまった。体中から冷たい汗が流れカタカタと体が震え始める。

 周りの視線が怖い、見られたくない――

 周りの声が怖い、話しかけないでほしい――

 頭の中に響くノイズのような声、自分に向ける敵意は遥か過去に掛けられた呪いの記憶――

 

「……カリナ」

 

 ソウヒの声がとても冷めて聞こえてくる。それは――

 

「大丈夫か? おい、誰か毛布持って来い!」

 

 ――とても優しい声だった。

 

「……え?」

 

 ソウヒはカリナを持ち上げ、砦の奥――子供達が隠れている蔵に向かって歩き出した。

 毛布に包まれたカリナが言葉が出せずにいると、ガエンそして周りから歓声が上がる。

 

「おいお前ら! 嬢ちゃんに助けてもらって礼も無しかぁ~!? 俺ぁそんな連中に育てた覚えはないぞ!」

「わはははは! お嬢すげぇよアンタ! 戦術魔法を防ぎやがったぜ!」

「うははは! 見ろよお嬢! 敵の泡食ったあの面を!」

 

 決して男たちに恐怖はなかった訳ではない。だが、それ以上に恐怖しているカリナを見てソウヒが動いた。それに続くようにガエン、そして男達も。

 まるでカリナが元々そうだったかのように振る舞いで。

 

「ほら、皆お前に感謝してるってさ。お前はよくやった」

 

 周囲を、そしてソウヒを見る。青年の目はいつもよりも優しく力強かった。

 

 「ぅ……………ぅぐっ………………ぅあああぁぁぁぁああ―――ッ!」

 

 ソウヒにしがみつき、声を上げて泣いた。

 

 

 

*****

 

 

 

 結局、この日の討伐作戦は失敗に終わった。

 討伐軍は砦からさほど遠くない場所で陣地を構築している。

 指揮官は天幕に入り、今日の戦を振り返る。

 

 まずは自分を含めた討伐軍全体の慢心だ。所詮は盗賊と甘く見すぎていた事を認めざるを得ない。

 次に部隊編成。騎兵による拠点攻略がここまで不利だったとは思わなかった。

 そして敵魔術師の存在。風魔法によって弓矢による攻撃が殆ど効かなかった。

 最後にその魔術師の優秀さ。戦略魔導師による攻撃を防ぐことなど、聞いたことがない。

 「そんなことが可能なのか?」と何度も報告を聞き直したくらいだ。 

 

 これら状況を把握したときには既に遅かった。

 唯でさえ戦意の低い新米兵士たち完全に打ちのめされ、恐慌状態に陥ったのだ。

 

 この戦いにより、まさか引き連れた500人の兵の内、負傷者を含めて100人近くを消耗することになった。

 だが、このまま逃げ帰る訳にはいかない。

 この近辺での盗賊被害は増え続けており、今回の情報も入念に調査の上でやっと得た拠点情報なのだ。

 どうにかして奴らを捕える必要があった。

 

 「拠点攻略が不可能であるならば、援軍を用意すればいいだけの事だ」

 

 指揮官は呟いた。

 援軍を呼び寄せ、それまでは敵が逃げられぬよう釘付けするに止めておこう。

 必ずこの屈辱を雪いで見せよう。

 だが、その企みもすぐに覆されることになる。

 

「…ん? なんだか外が騒がしいな」

 

 直後、兵士が天幕に飛び込んでくる。

 

「ほ、報告します! 盗賊どもが陣地に侵入、我らの馬の幾らかと兵糧の悉くを奪われました!」

 

 指揮官は絶句する。

 

「な、なんたる事か、この無能共め! それでは敵を引き留めておくことも出来んではないか!」

 

「申し訳ございません! 潜ませている密偵の報告によれば、敵の中に優秀な魔導師がいるとの事!」

 

 そんな情報は必要なかった。あの戦略魔法を防いで見せたのだぞ!

 

「今更そのような情報持ってこなくてもよいわ! ああもうよい! 陣地を放棄して帰還するぞ!」

 


 カリナが提案した奇襲作戦は、ソウヒによってあっさり成功した

 

「まさかこんな簡単に上手く事が運ぶなんてなぁ」

 

 あまりの呆気なさに驚くソウヒだったが、山育ちのソウヒにかかれば夜の奇襲など造作でもない。

 彼は獣人。猿の獣人なので夜目をもつといった特性はないが、人間以上に暗闇に紛れて行動する事は可能だった。

 

 と、難なく砦に戻ってきたところで、カリナが駆け寄ってきた。

 

「おかえりなさい、お兄さん。 怪我はありませんか」

 

「ああ、上手く行き過ぎて拍子抜けだったくらいだ。そしてこれが戦利品だ!」

 

 ソウヒの後ろには引き連れてきた馬30匹、それに乗せられる食料1か月分。

 陣地にはまだ食料が残っていたが、とても持ち帰れる量ではないので残りは殆ど焼き払った。

 それを見た砦の中にいる全員が「おぉ~!」と声を上げる。

 

「これで当分は凌げるな! でかしたぞソウヒ」

 

 ガエンがソウヒに声を掛けながら背中をバシバシ叩き上げた。

 男たちもそれに続いてソウヒに群がっていく

 

「いてぇ!痛ぇよ! 加減しろよお前ら!」

 

 沢山の男達の後ろで見ていたカリナがその光景を――傷痕が痛むように見ていた。

 そして心の中で呟く。

 

(お兄さん今日はありがとう。お兄さんにはずっと助けられてばかりです。)

 

 その心には感謝以外の何かが芽吹いている事を、カリナ自身はまだ自覚していなかった。

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