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射手座の箱舟  作者: トンブラー
魔王降臨編
10/72

カリナの能力

 次の日――

 

 ガエンは頭を抱えこんだ。

 目の前には肩で息をするソウヒと男達、そして何故か呆けた顔をしているカリナ。

 昨晩、カリナから告げられた本人の力――達人級を小指であしらう武器技能と、大魔術師を鼻歌交じりに吹き飛ばす魔法技能。

 ガエンは、カリナの能力が解析通りでないのは薄々感じていたが、流石にその言葉は信じなかった。

 なので稽古を兼ねた実力テストをすることになった。

 

 始めはソウヒが相手になる。まだ経験不足ではあったが、他の男達にともやり合える実力を持っているからだ。

 

 10分―…20分――……30分――……

 

 一向にカリナに有効打を当てることが出来ない。

 それどころか、全ての攻撃――蹴りや掴みすら躱され続けていた。

 これでは勝負にならないと悟ったガエンは、ソウヒに全力で戦うように命じた。

 獣人――ライカンスロープ特有のスキル、獣化することで本能で戦う奥の手。

 ソウヒはカリナを見ながら躊躇ったが、ガエンと同じ結論に達したかスキルを発動した。

 

 それでも結果は変わらない。

 本能を解放したソウヒ、その目にも留まらない速度と変則的な体捌きに、カリナは難なく躱していた。

 次第にソウヒの息が上がってくる。

 それでも止まらないので、カリナがガエンに助けを求めた。

「こ、これ止まらないんですか――ッ!」

「ああ、一度解放したら相手を殺るまで止まったことないぞ!」

「そんなっ! お兄さん~!」

「うがぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 結局、カリナに熨されるまでソウヒが正気に戻ることはなかった。

 

 次に相手になったのは――団員の男達5人。

 それだけでは、野生解放したソウヒの方がまだ脅威だった。

 その為、3分毎に一人ずつ団員が追加されていく、特殊ルールつきだ。

 当初カリナは、男達に囲まれる状況は以前の恐怖が蘇るので嫌がった。

 だがソウヒの「戦場はそういうこともあるのだから」というので渋々承諾した。

 

 開始から60分経過―…

 

 20人目が投入され、合計25人、うち体力切れで3人脱落。

 全ての打撃――カリナが怯えるので男達が掴みにこなかった――を避け切っていた。

 それを見てガエンは乾いた笑いと共に毒づく。

 

「1中隊を相手にしても余裕だとか……。 もう笑うしかねぇなこれは」

「え、ええと」

 遣りすぎたかも知れないとカリナは困った顔をしていた。

「お嬢ちゃんは悪くねぇ。寧ろよく秘密を打ち明けてくれたな。」

「…はい、でもボクには扱いきれない能力です」

「そうかもな。それだけの能力だ。この先、その力に目をつけて利用しようと考える奴もいるだろうさ」

 

 その言葉が重くのしかかる。

 知らないうちに利用され、誰かを不幸にするのではないかと想像して気が沈み込んでいく。

 ガエンはカリナ顔をみてそれを察し、


「大丈夫だって、心配すんな。 ソウヒ!」

「はい! 親父殿との約束は絶対守ります!」


 ソウヒとしては本音では「カリナは絶対護る」と言いたかった。

 だが、カリナの前ではそんなこと言える筈がなかった。

 

「お兄さん…。」


 ソウヒの顔を見ながらカリナは涙ぐむ。だが――

 

「ヒューッ!」

「見ろよ奴の顔! まるでサルだぜ!」

「あれはいつかヤるかもしれねぇ!」

 

 ――感動が台無しだった。それでも皆一様に笑っていた。

 そこに新しい騒乱が舞い込んでくる。

 

 

*****

 

 

「お頭! たった今イシュミルから急報が届きまして、アルガットの軍が接近してやす!」

「なんだって!?」

「バカな、ここは国境に近いのだぞ!? 下手をすればフォルスを刺激することになるのに!」


 その場にいた全員が騒然となる。

 

「お前ら静まれ! それで距離と規模はどの程度だ?」

 

「イシュミルの情報によりますと、凡そ500、距離は1、2日だそうです!」


 その情報にガエンは眉をつり上げた。

 

「近すぎるな…。こっちが逃げられないように速さを優先してきたか……」

 

 ガエン達はアルガットに連れて行かれる奴隷達の解放に活動している。

 アルガットはこれといった特産品がなく、国力が乏しいために奴隷で労働力を補っていた。

 当然、前々から目をつけられていた。

 

「親父殿! 迎撃だ!」

 

 ソウヒがガエンに声を上げた。

 

「こっちの戦力は50人だぞ! 正規軍相手じゃ戦にならねぇよ!」

 

「まずは子供達を避難させるのが先だ!」

 

 上を下への大騒ぎとなった。

 カリナがガエンに問いかける。

 

「ガエンさん、討伐軍というのはそんなに強いのですか?」

「兵の質にもよるが、まさか賊討伐に精兵を当ててくることはないだろう。数からしても新兵の実戦演習も兼ねてると思う。一人ひとりの単純な力だけなら俺達の方がまだ上だ。」

 

 ガエンはさらに話を続ける。

 

「だが、問題が二つある。一つは目は装備の質。新兵の武装でも俺達よりもずっといいものを使ってる。こっちの武器では当たり所によっては全く歯が立たねぇ」

 

「もう一つは?」

「この砦には非戦闘員がいるという事だ。そいつらを護りながら戦うとなると戦力の差がさらに広がる」

 

 非戦闘員というのは、野盗に攫われ連れてこられた身寄りのない子供たちだ。年齢はカリナと同じくらいか、更に小さな子供もいる。

 そんな子供たちは帰ることもできず、砦内であらゆる仕事――主に畑仕事や手伝い等に従事していた。

 だが、どこから漏れたのかこの砦の場所がばれ、討伐軍が向かってきている。

 

「何処か逃げる場所はないのですか?」

「ここから1週間ほど離れた所に一つある。ただ、この所帯を連れていくとなると難しいな。」

「という事は、まず攻撃を凌ぎ切らないと。後の事はそれが終わってからです。」

 

 その通りだ、とガエンは心を決めた。

 

「よし、まずは迎撃準備だ! 子供達は裏の蔵に隠せ! 敵はすぐ来るぞ!」

 

 

 夜になっても、砦内は喧噪に包まれていた。

 昨日とは違った質の喧噪で、皆ピリピリしている。

 その雰囲気を嫌ったカリナは、砦門の上で外の様子を伺っていた。

 

(アルさん、勝てると思う?)

 

 カリナがアルベルトに問いかける。

 

≪勿論です主様。必ずや勝利出来ましょう≫

 

 アルベルトの言葉を頼もしく感じながら、もう一つ問いかけた。

 

(それは、ボク達が能力を行使するから?)

 

 今のカリナの能力を使えば、500人すら容易く蹴散らせることだろう。

 だが、それを実行するのは躊躇っていた。

 カリナは正直、自分が持ってしまった能力を恐れていた。

 この能力はいつか人を傷つけることになるだろうと。

 その気持ちを正直にアルベルトに伝える。

 

≪問題ありません主様。 此度の戦で主様の力を行使することは限定的となるでしょう≫

 

(それはやっぱり、使う場面もあるという事だね)

 

 そこでエルベレーナが口をはさむ。

 

≪はいっ! 主様、兄アルベルトは主様が『能力を行使しない』事に拘ることはないと言いたいのでありまっ!≫

 

(どういうこと?)

 

≪はいっ! もし主様や主様が大切にされている方々に危険が及ぶとき、主様の能力があれば護ることができまっ!≫

 

(だから、その時は能力を使うべきだと)


≪はいっ! お優しい主様、もし使わずにいれば何れ悲劇が訪れる事でしょう!≫


(そっか、そうかもしれないね。 分かった。能力はあまり使いたくないけどいざと言うときは躊躇わないよ。 アルさんエルさん。ありがとうね)


≪≪全ては我が主のために!≫≫

 

 そう告げ、アルベルトとエルベレーナは主に勝利を約束するのだった。

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