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第五十八話 ツンツンデレツンデレツンツン

 折角心の準備や計画などをしてきたのに、全てが水泡に帰すこととなった。

 しかし、天水も杏莉も仕事で不在。太陽も日影も、この日の為に他の用事は入れず、家にいる。即ち二人きりである。

「(……一緒に出掛けられなかったのは残念dったけど、これはこれで……)」

「(こういう形なのは少し残念だが、この状況は)悪くはねえな……」

 互いに同じ気持ちだった。望んではいない形ではあるが、結局一緒にいられるのだから良いのだ。

「……何が悪くないって?」

「また口に出してたか?……そりゃ、日影も分かるだろう……」

「……。」

 会話終了。

「……そうだ、次はいつにする?」

「最近色々戦ったりしてるせいで忘れてるかもしれないけど、もうすぐ前期中間テストだし、その後の方が良いと思うけど」

「うお、もうそんな時期か……。テストいつだっけ?」

 太陽は日影の言葉に驚いた。

 (そんなに時間がたった気がしないが……)

「5月28日」

「まだ一か月も先だよね。気が早いよ」

 気を引き締めていた太陽は、日影の言った日時を聞いて大きく気を緩ませる。

「そんなに余裕じゃないでしょ。気付いたらあっと言う間にその時になるよ」

「それはないと思いたいね」

 暫く会話がない状態が続いた。その間、時間だけが過ぎていき、気付けば昼になっていた。

「日影…そろそろ昼だし、何か食べたいもの……」

 声を掛けても返事はない。背を向けて眠りについているようだ。

 反対側へ行き、日影の寝顔を見る。

「色々喋っている日影も良いが、やっぱり寝ている日影が一番だなー」

 眠っている日影に対して、太陽はちょっかいをかける。『寝ている姿が一番可愛い』と、その顔を指で突いてみたり、『髪はどんな感じなんだろう』と、頭を撫でてみたり。

 暫くそんなことを続けていたが、10分くらいで我に返ってやめた。

「ふぅ、満足満足。こういうことはこういう時じゃないとできないな。先生とか杏莉さんとかがいたら、ケダモノ扱いされて、暫くは立ち直れないくらいにボコボコにされそうだし、日影が弱った状態でないと、即亡き者にされそうだしな」

 昼食を用意するためにベッドから離れ、部屋を出ようとした太陽。しかし、扉の目の前で手も足も動かなくなってしまった。

「あ、あと少しだけ……」

 そうして、先程の位置に戻って日影の顔を指で突こうとした瞬間、不幸にも日影の眼が開く。直ぐに手を引っ込めて、何事もなかったように言う。

「よく眠れた?もう昼だし、何食べたい?」

 しかし、そんな手は通用するはずがなかった。

「何しようとしてたの」

「いや、別に何も」

「何しようとしていたの」

 寝起きが悪いのか、普段よりも言葉に棘があり、目つきも鋭い。

「別に何も……」

 その直後に質問はなく、安心して気を緩ませた太陽。しかし、直ぐにそれは終わりを迎えた。

 布団から日影の腕が現れた。握り拳がつくられており、それはいつも通り風景であった。

「あっ……」

 握り拳は太陽に向かって一直線。目を瞑り、いつもの大きな衝撃に備えた。しかし、今日はいつもと違った。

「痛くない……。体調悪いしこんなもんか……」

 威力は無く、質問時の言葉のような攻撃的なものではなかった。

「もう、変な事はしない事。恥ずかしいし、そんな気持ちの悪い薄笑いを浮かべている顔は見たくない。反省して」

「そうだな。ところで、昼は……」

 昼食について質問したところ、唐突に放った別の意味でのクリティカルヒットに驚く。

「太陽が、用意してくれるなら、何でも……」

「……!!!!……分かった、今すぐ持ってくる」

 そそくさと部屋を出て、呼吸を整える。

「(こりゃ驚いた……。あんなことを言ってくるとは……)」

「とりあえず、こう言う時は無難にお粥が良いのかな」

 急いで台所に向かって調理を開始する。


「うーむ……。どうしても上手くいかん。子どもの頃、体調を崩せばよく作ってくれたものだったが、案外難しいな。調べてもなかなか分からん。種類も豊富だし、何が何だか……」

 結局何十分もかかり、気付けば午後2時になろうかという頃になってようやく完成した。

「随分時間がかかったわね」

「そりゃ、お粥は初めて作るし、調べれば色々出てきて大変だし……」

「まぁ、いいわ。普通の食べ物を普通に食べられるだけマシね」

「俺が食えないもの出すとでも思ってたの?」

 心外なことを言われて、ついそう言ってしまった。太陽のその言葉に少し驚いた日影だったが、直ぐに元に戻り、返答する。

「勿論よ。男だし、普段は料理なんてしないから、心配になるわ」

「そこはもう少しオブラートに包んで欲しいなー」

 暫くして、お粥を食べ始める。よく聞こえないが、ブツブツ何かを言いながら食べている。

「何言ってんの?呪文?」

「美味しくなる呪文」

「……マジで?そんな不味かったか?」

 気を落とす俺を見て、少し俯いて言った。

「嘘に決まってるじゃない」

「嘘つきめ……。どんだけ心に響いたと思ってるんだ……」

「…そんなに?それは悪かったわね」

「もろちん。だから……」

 日影は、太陽の発言を途中で遮る。

「『もろちん』って何?太陽こそウソッ●ー、嘘つきなんじゃない」

 突然のウ●ッキー発言に笑いを堪えながら言う。

「失礼、噛みました」

 その言葉に対して、少し形は違うが、思い通りの言葉が返ってくる。

「違う、わざと」

「かみまみた」

「……」

 終了。

「続けてほしかった。で、●ソッキー発言は一体?」

「かみましね」

「過程を飛ばさないで。そして、攻撃始めるの止めて」

「そりゃ、こんなに話をしていたら、折角のお粥が温かいうちに食べられない」

「それは大変失礼しました」

 それから完食するまで、互いに終始無言だった。

 食べ終わった食器を片付けようとして太陽が部屋を出ようとしたとき、日影は突然口を開いた。

「ありがとう、……よかったわ」

「そ、それはどうも……」

 再びそそくさと部屋を出て呼吸を整える。

「(体調悪い時の方がツンもデレも調子が良くなるとか……)」

 その後は、汗で濡れてしまった身体を拭く、一緒に寄り添うなどのある意味きつい作業をする。

「結構大変なもんだな、こりゃ」

 それからすぐ、太陽は日影の布団のすぐ傍で寝息を立て始めた。


「今日も疲れたー」

「そうだねえ。それにしても偶然一緒になるとは」

 仕事を終えて家に帰った二人は、どうしても太陽と日影が気になって仕方がなかった。仕事があったからとはいえ、二人きりにしてしまったことが大いに心配だったのだ。

「太陽は変な事しなかったか……」

「まず、昼をしっかり食べたかが心配だ」

 日影の部屋に向かい、扉を開けて先にあった光景に、二人は和んだ。

「こりゃ…良い光景だ」

「やっぱり、高校生って言ってもかわいいものだ」

 そこには、寝ている二人の男女の姿があった。




 それから暫くして、太陽は慌てていた。

「やばい!もうテストが明日に!」

「だから気付いたらあっと言う間にその時になるって言ったでしょ…」


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