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第五十七話 太陽エネルギー

 やっと安静な日常が戻った。

「やっぱり電気様様だねぇ」

「当たり前にあるものが無くなる…その大変さ、当たり前にあるものの大切さに気付かされたな」

 一同、本当にそう思った。

 当たり前にあるものが無くなる…。そう思えば、我々は他にもなくなってから大変さ、大切さに気付いたものが沢山…。

「あぁ…学校再開か…。怠いなー…」

「教師がこんなんでいいのか」

「…別にいいんじゃない?これが平常運転なんだろうからね…」

 「よくねーよ」という言葉を飲み込んだ。実際、生徒の目の前でこんなことを言う教師は困る。

 今は家の中だから、まだ良いのだが…。


 職員室に辿り着いた天水。開口一番に吐き出した言葉に職員室は凍り付く。

「あー…怠い怠い…。ずっと休みたい…。何で教師になっちゃったかね…」

 小声で独り言を言うようなものであればまだ良かったのだが、職員室中に響き渡る程大きな声でそう放った。

 すぐ横の机の福井は何とか和ませようとする。

「いやー、皆さん元気で本当に良かったですよ…」

「…そうだねぇ」

 どこからどう見ても疲労困憊の天水は、まともな返事が出来ない。

 福井は、今度は天水にしか聞こえないようか小声で質問する。

「…組織か?また面倒な相手だったか?」

「組織さ…。相手というよりは、相手組織の建物の構造がね…。死ぬかと思った」

「そうかー…後で詳しく聞かせてね!」

 職員会議が始まる。長い一日の始まりだ。

 「だるすぎる ああだるすぎる だるすぎる」

 天水、心の俳句。


 一方その頃、教室では太陽と日影がおかしな世界を作っている…はずだった。

「太陽…、太陽、太陽…」

 そこには異様な光景が広がっていた。日影は、太陽に抱き着いていた。

「どうしたどうした…。また死にそうになった訳でもないのに…」

「足りない…エネルギーがががが」

 予鈴が鳴り響いた。廊下には、担当する教室に向かう教員が行ったり来たりしている。

「もう予鈴なったから」

「まだ。まだまだ…」

 相変わらず離れない。

 その直後、天水がやってくる。先程までの有様が嘘のようだ。

「ありゃー。何してるんだい…」

「何って…太陽エネルギーの吸収」

「吸収しないでくれ…。俺のエネルギーを奪って、殺す気か…」

 教室中が笑いの渦に。今日はずっとこんな感じだった。

 

 今日は、用事で日影と別行動になった太陽は、一時間遅れで家に到着した。

 家に辿り着いた太陽は、普段通り自室に直行する。

 扉を開いた瞬間、体が重くなった。しかし、視界に原因は映らない。

 少し目線を下にやることで全てが明らかになった。日影だった。

「今日はおかしいぞ…。どうした」

「太陽エネルギーが」

「意味わからん…。本当の目的は何だ?」

 その質問に対する答えは、衝撃的なものだった。

「粘膜接触がしたい」

 普段はこんな事を言いそうにない者が言い出したのだから、ちょっとの事でも驚くが…。

「そうか…。なら、まず離れてくれ」

「そうね…」

 すると、日影は突然服に手を付けて脱ごうとした。すぐにその手を止めさせる。

「待て待て。何しようとしてる」

「粘膜接触」

「どことどこの粘膜だ?」

「どこって…。性こ」

「やっぱり答えなくていいや」

 太陽と日影の考えていた『粘膜接触』に違いがあったようだ。

 太陽は、所謂キスを想像していた。

 一方の日影は、キスの何倍も先の行為を考えていた。

「今は、その気はないから…。というか、何でそんなことしようと思ってたの」

「先生たちに『ゆうべはおたのしみでしたね』って言われたくて」

「成程、大人が純粋な女子高生で遊んだ訳か。こりゃ説教だ」

 その瞬間、玄関の扉が開く音と共に、太陽の決意を知らない二人が帰ってきた。


「二人とも…。何で下らない事を吹き込んだ…。俺はある程度一般教養があったからいいが、相手によっては日影が…。この歳にして処女喪失、性の悦びを知る、そして…」

 2時間の戦いが終わった。居間から部屋へ戻ろうした太陽に、杏莉が言う。

「本当に性行為がしたかっただけなのかなー?また一緒に出掛けたかったとかもあるんじゃない?太陽エネルギーが足りないとか言ってたんでしょ?…太陽はそういうところは鈍感だからね…。あくまで可能性だけど、訊いてみると良いよ」

 その後の夕食の時間に、杏莉が言ってくれたことを実践することにした。

「日影…。俺は他人の気持ち、とりわけ女性の気持ちに鈍感だ。一緒に遊びたい、出掛けたいとかがあるなら、はっきりと伝えてくれよ」

「分かった。じゃ、土曜日出掛けよう」

「あーやっぱりな」

「太陽エネルギーか…。私も、彼氏に良くやってたなー。勇良ニウムの充電とか」

 太陽も、日影も、早く土曜日が来るのを願うのだった。


 念願の土曜日、残念な事態が発生する。

「う~ん…体重い」

「…日影、本気で言ってるのか?」

 体温計を出して体温を測ると、熱が出ていた。

「マジかよ…」

「こりゃついてないねー」

「まぁ、悪くはないじゃん。付きっ切りで看病できるよ太陽君。そして、本気になって看病してくれる、普段とは全く違って紳士的な太陽君が見られるよ、日影ちゃん」

「何という思考だ…。そして余計な言葉を付け加えるな」

「…それはそれでいいかも」

 この発言に、太陽は嫌な予感がした。一応確認のため訊いてみる。

「日影…。このために熱を出すようなことしてないよな?」

「何もしてないよ…。やっぱり普段は人間のクズみたいね」

「酷い言いようだな。元気になったらボコボコにしてやるぜ」

 看病生活が始まる。互いにドキドキの時間が始まる。

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