第五十五話 変わらぬ景色
「何だこれは…」
「これは…今までにはないパターンね…」
「どうやって進むんだよこれ…」
「こりゃ…ロボットでも成し得ない技だね…」
一同驚愕し絶句する。理由としては、そこに今まで見たこともないような空間が広がっていたからである。無数の空間の歪みがあり、どこからどこへ行けるかが全く掴めない。
「取り敢えず闇雲に進んでいくしかないな」
「…まずは、この空間の歪みを避けて通ってみない…?これが罠かもしれないから」
日影のその一言で、次の行動は決した。
一同、頑張って無数の空間の歪みを避けながら進む。
しかし、直ぐに行き止まりが出現する。また戻って別の道を進むも、すぐ行き止まり。
この連続で、結局日影の計画は失敗に終わった。
「日影はこう言う時は本当に使えないんだよな…」
「太陽、普段ならお前を絞めるであろう発言だが…同意する」
そう言った二人に、悪く言われるのが好きではない日影は、伝家の宝刀火の玉ストレートを投げる。
「…折角案を出してあげたのに…。二人は相変わらず残念な思考の持ち主ね」
伝家の宝刀火の玉ストレートに弱い、悪く言われるのが好きではない二人は応戦。
「…今現在の日影の方が余程…」
「…!!!」
戦勃発。
「…いつもこうなのか?」
あまりにも馬鹿馬鹿しいものを見せられた杏莉が、呆れたように言う。
真っ先に答えたのは太陽だった。
「いつもは我慢しているが…心が少しばかり不安定なのか、爆発してしまった。悪気は満載だ」
「そうか、互いに罵り合うのはよくあることなのか。ま、喧嘩する程仲が良いとも言われるしな。…最後待て。悪意は捨てないと…。大好きな日影ちゃんが『太陽なんか大っ嫌い!!』って逃げてしまうぞ…」
杏莉のその発言が心外だったのか、日影が突然大声で話に割って入ってくる。
「そんなことないから!」
「「いきなりどうした」」
突然の出来事に息があってしまう二人。
「…何やってんだ我々は…。今は大変な時だって言うのに。じゃ、次は本当に闇雲に進むぞ」
そう言って先に行こうとする天水に、急いで三人は着いて行った。
しかし、10回、20回、30回…と数を重ねていくが、どれもこれも入口に戻るものばかりで全く進まない。
「…もうやめようかこれ」
太陽は、面倒臭がりの本音を遂にポツリと吐き出す。
「何言ってんだい太陽君!諦めたらそこで試合終了だよ!」
「ゴールの見えない道を進むことは、試合と言えるのか?」
「ちょっと!折角格好良いところ見せようと思ったのに!そういう下らない事言わないでよ…」
「すまんな、つい出てしまった。悪気はある」
「…一応あるのね」
「漫才やってないで進もうや」
どうしようもない漫才集団四人組は、馬鹿なことを言いながら、無数の空間の歪み挑んでいく…。
810回目で遂に次の部屋に進むことが出来たが、その頃には空腹が更に酷くなり、漫才のような会話をしながら進んでいくことは困難になっていった…。
「さぁ、次の部屋は…。またかよ…」
杏莉の落胆の声で一同気付く。前の部屋より少し狭いものの、殆ど同じ状態の部屋に辿り着いた。
「…もうやめようかこれ」
ふと現在の心境を口外してしまった杏莉。
「何言ってんだい杏莉さん!諦めたらそこで試合終了だぞ!」
「パクるな」
「さっき俺に諦めたらそこで試合終了だって言ってたよね」
「確かにそうだけれども、諦めたくなるような気持ちは分からなくもない…」
「ま、根気よくやっていくか」
そうは言っても、闇雲にやっていくのはなかなか当たらない。次に別の部屋へと辿り着いたのは、現在の部屋に着いてから114回目の事だった。
「…流石に嫌気が差すものね」
またしても同様の部屋だった。一体いくつあるのか。
「マジで腹減って…、今にも倒れそうだ」
「そう言うこと言うなよ…私達も必死に我慢してるんだ」
「そうだ!『お腹が空いた』というからお腹が空くんだ。『お腹いっぱいだ』と言うんだ!」
「こんな時に精神論は止めて」
「…流石にそういうものにも限度があるわね。…私も本当にきついわ…」
全員へばって、今にも倒れそうになる。スライムの攻撃一発で棺桶の中に引きずり込まれるレベルだ。
しかし、無数の空間の歪みは容赦なく今にも崩壊しそうな体に更なる負担をかける。
更に次の部屋へ辿り着いたのは、現在の部屋に辿り着いてから514回目の出来事だった。その間、結局誰一人ぶっ倒れることはなかった。
「またか…ちょっと小さい部屋になったけどさ…きつい」
相変わらず無数の空間の歪みしかない部屋が続いて出てくる。
「…やっぱり、無理なのかも…」
日影は珍しく非常に弱気な態度を見せ、そのような言葉を放った日影に対し、太陽はいつも通りのノリで発言してしまう。
「そうだな!無理だ無理!」
太陽のその言葉を聞いた日影は、背を向けると、前の部屋に戻ろうと、帰ろうと壁に向かって進んでいく。
「悪かった日影」
「さっきまで『腹減って死にそう』だったのはどうなったんだ…」
「そう言うこと言うのやめて先生。『お腹が空いた』というからお腹が空くんだ。『お腹いっぱいだ』と言わないと」
「パクるな(二回目)」
今回は狭い部屋だったこともあり、19回という回数で次の部屋へ進むことが出来た。
そうしてついた場所は、同じく小さめだが無数の空間の歪みしかない部屋だ。
「困ったね…終わりが分からない」
遂に一同は無言になって進んだ。流石に疲れすぎて元気がない。ここまで来て、空腹と、同じような行動の繰り返しによる精神的苦痛によって追い込まれたのだ。
今回も運よく19回で次の部屋へ進めた。
そして、遂に一同は最奥に到達したのだった。
しかし、体力はほぼ限界。そんな四人が、これからその部屋にいる人物と戦わなければいけなくなる。
はずだった。