第五十四話 ●
突然の強震に冷静さを欠く一同。特に日影は、ただ呆然として何も出来なかった。
「ど、どうしよう………っ!?」
そんな日影に見かねた太陽は、日影を庇いに行った。
「じっとしてろよ…」
揺れは約30秒で収まった。
「あらら~」
「こんな時にもそんなことをするとは…。太陽は凄い奴だ」
大人二人にそう言われて現在の自分たちの状況を確認すると、理由が分かった。
その構図は、所謂『床ドン』であった。それに気づくと、急いでそれを解いて互いに背を向ける。
「なんか…ごめんな。そういうことをするつもりじゃなくて」
「…私には何をしようとしていたかは分かってる」
「それならよかった。二人のせいで誤解されてたらどうしようかと」
「そんなに私が欲しかったのね…。いいよ…?」
日影から太陽に向けられた言葉は、予想外のものだった。これには、太陽のみならず、杏莉も天水も衝撃を受けた。
「…え?」
「この揺れで冷静さを欠いて思考がおかしく…」
「そんな気でやったのか?」
「…いや、そんな気はないよ。普通に庇おうとしただけだ」
「なんでよー、つまらんなぁ、太陽君は」
「いや…つまらんなじゃないよ。流石にあの状況でそんな悠長なことできないでしょう…」
太陽たちの会話を羨ましそうに見つめる。次いで、三人に近づく。
「で、組織の方は何か言ってない?」
「ふざけるような状況じゃないときにふざけたことに対する弁解はなしか」
冷静さを取り戻したのだろうか、日影は直ぐに組織の話を持ち出す。
「いや、入ってきてないな…。こっちから連絡入れてみるか…。人工地震を起こすのは難しくはないしな」
組織に連絡を入れて組織の関与を確認するも、否定される。まあ、それは当たり前の事だろう。実際にやっていなければ、それは心外な話であり、否定するしかないだろう。やってもいないのに態々『やりました』などと答える必要はない。実際にはやっていたとしても、知られるわけにはいかない事であるため、勿論『やりました』と認めるはずがなく、否定されるだろう。
「じゃ、確認にそっちに行くわ。よろしく」
「じゃ、今から行くか…」
そう言って日影の部屋を出た直後、突然辺りが闇に包まれる。
「あれテイデンかミ」
そう言って焦る一同。真っ暗闇の中の移動はやはり危険である。いくら慣れている家の中とはいえ、少し油断すれば壁や扉に衝突して壁や扉が凹むというアニメや漫画のような事態が起こりうることだろう。
「で、本当は何か策があるんだよな?そうでもないのに『あれテイデンかミ』とかヒテッマ●用語出ないよな」
「炎の呪文で照らすんだよ」
「嫌な予感しかしないぞ…。火災は起こさないでくれよ」
「太陽、奇遇ね…。私も同じ心境よ」
「…魔術の加減が分からない女だったからな…。今もそうkもしれん」
一同、がさつ女天水の発言に戦慄を覚えた。
グォオオオオオオォォォォォ………
唱えられたその呪文により、あっという間に周りは光に包まれる。
「マジかよ。火災を起こさなかった」
「…住むところが無くなるかと思った」
「よかった…」
三人の反応に納得のいかない天水。すぐさま文句を言い始める。
「何だよそれ~…。まるで私ががさつな女みたいな…」
「「「どこからどう見てもがさつ女でしょう」」」
結局、組織の館まで着くのにかなりの時間を要した。
組織の館に辿り着いた頃には、もう辺りが明るくなり始めていた。
「随分と遅いな…」
「色々あったんですよ」
「まあ、大体想像は吐いたが…。天水よ、間違えて家を燃やしたりしてないな?」
「お前もそれを言うのか」
雑談は非常に心が落ち着く。普段頭がおかしくなるような非現実的な日常を送っていると、こうした会話には安心感を覚える。が、今はそんなことをしていられない。
「本当に違うんか?」
「当たり前だ」
「ニュースじゃ『人工地震と断定』と言っていたが、本当に違うのか」
「違う違う。大方やばい組織の犯行だろう」
『この組織もやばい組織だ』という言葉を飲み込み、更に質問を重ねていく。
「…どこか確認出来ちゃったりしてる?」
「調べたらバッチリ証拠が残っていて分かりやすかったよ。『アバレ●ジャー』なる組織なのだが」
「伏字しなきゃいけないような組織出てくるのやめーや」
ボスは杏莉に気付くと、冷や汗を浮かべて質問をし始めた」
「何で杏莉がいる?」
「仲間にしたのさ。私たちが強くなるためにね」
「何で杏莉なんだ」
「…可哀想な人生で、先生しか救いの手を差し伸べられる人がいなかったの」
「で、何でそんな焦ってるんだ?」
「そりゃ、杏莉は思い出したくもないことだろうが、主犯格だったのだよ」
そう言って、突然長々と杏莉に行った愚行の数々をどんどん暴露していった。それは実に2時間。流石に寝たら失礼だと思い、太陽は眠たい目をこすりながら話を聞いていた。
「何で寝るんだ…。しかも当事者まで…。まぁ、重たい話しだったし、聞きたくない話だったろうしな」
「…隙あらば自分語り」
「今する話じゃないよねー」
「………」
相手組織も目的地も判明して出発する頃には、もう普段は朝食を摂っている頃だった。
「あー…腹減ったなぁ…」
「我慢して。この時間帯に開いている店なんてコンビニエンスストアくらいでしょう」
「…普通の飲食店なら、営業なんてできないはずだし…」
「まぁ、空腹でやっていくしかなさそうだ」
「それはそうと…人が多いな…。はぐれないように気をつけないといかん」
普段は仕事をしたり、ゲームを楽しんでいるような人たちが、何もすることが無くて外に出ている。
繁華街でもないのに、まるでさっぽろ雪まつりでもやっているのかと思う程だ。
数時間歩いてやっと辿り着いたそこには、巨大な城が建っていた。
「何でどこもかしこもこんなのを建てたがるんだ…」
「…そうね…迷惑と言えば迷惑…。迷うから」
この城での戦いは、困難を極めることとなることを、この時はまだ誰も知る由もなかった。