表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/58

第五十三話 お互いに

 家に帰った太陽は、靴を脱いで玄関から居間へ行った。その居間で何が起こっているのかも知らずに。

「ただい…ん?」

 戸を開くと、そこにはもじもじとして少し顔を赤らめている日影が立っていた。この様子だと、少々緊張しているらしい。

 今更何を緊張することがあるのか…。

「ど、どうした…?そんなに緊張して、恥ずかしそうにして」

「…私、決めたの…。いつも、太陽からの何かしらのアクションを待っていた。でも、それだけでは駄目だって」

 そして、意を決して日影は太陽に近づき、非常に恥ずかしそうにして囁く。

「わ、わわ、私は…た、太陽のことががが……」

 その声は震え、掠れ、ギリギリ聞き取れる程度のものであった。

「す………、す……、すす…す…」

 ここまでくると、何も聞こえない。ただ、口がキスを待っているように動くだけだった。

「…ん?どうした?今日は妙だな…」

 その太陽の言葉に吹っ切れた日影。

「な、なんでもないわよバカ~~~~!!!!」

 太陽を一瞬睨むと、そのような捨て台詞を吐いて逃走した。

「本当に何だったんだ…。あの口の動きは、何かを言おうとしていたのは確かだが、あの言葉に続く言葉となると…」

 邪な考えが沢山浮かんでくる。口の動きのまま、キスをねだっていたのか。それとも、それを超える何かを望んでいたのか。キスを超える粘膜接触…。

 おっとこれ以上は対象年齢が上がってしまう。ただ、何かをしようとしていた、若しくは言おうとしていたことは間違いないだろう。

「まさか、『好き』とか…。…それはないか。最悪な仕打ちばっかりやっているのにそれはな…。想像が行き過ぎているな…。飯食って頭冷やすか。…でも、気まずくなりそうだこれは」


 夕食の時間になった。察しの通りになった。非常に気まずいものとなった。

「うーむ…。気持ちを伝えるのには失敗しちゃったのかな?」

「いや、それだけではない可能性も」

「だとすると…。色々候補はあるが…」

「「性行為でもしたの?」」

「どうしてそうなった」

「…それは食事中には適さない話題」

 30分もこれでは精神的に辛い。何か話しかけないと…。そう思った時、不意に日影が此方を見てきた。

「…さっきはごめん…。途中で逃げ出したりして」

「…そんなにキスしてほしかったのか?」

「「「!!!」」」

 俺の言葉に一同驚く。日影が驚くのはともかく、残りの二人もというのは些か疑問だが。

「えっ…」

 想像の斜め上を行く発言に驚いた日影。自身は『好きだ』と伝えたかっただけなのだから仕方がないとも言える。

「「はぁ~…。太陽から…」

 驚きの目から暖かく見守るような目に変わり、早くキスしろと言わんばかりの拍手付き。

「いや、食事中だし後でいいか」

「「「えっ」」」

 またしても三人が息をそろえて言う。何か企んでいるのではないかという疑問が発生する。

「何を企んでいるんだ…?」

「………」

「何も」

「い、いやぁ、ナニモタクランデナンカナイヨ」

 相変わらず口の堅い日影は言葉を放たず、先生は鉄壁のポーカーフェイスを披露。それに比べ杏莉は、何かをしようとしていたことが丸わかりの態度だ。

「何かしようとしていたんだな…。何だ?」

 天水は、仕方なく正直に話し始めた。

「いつも太陽からのアクションを待っている日影に、もう少し積極的に太陽にね…」

「そして、内に秘めた想いをしっかり出してほしいってね。いつまでも秘めてちゃ相手には分からないもの」

「日影…そうなのか?」

 口ではいくらでも嘘を吐ける。特に、隠し事満載の天水と出会って間もない杏莉だ。彼女たちには、『信用』の『s』の字すらない。一応本人に確認をとる。…本人も嘘を吐く可能性もあるが、そう思い続けるとキリが無くなる。

「…そうだよ」

「他には?」

「それを教えたらねー」

「…ごちそうさま…」

 いつの間にか全て平らげていた日影は話の途中だが抜け出す。この二人は信用ならないからいてほしいのだが。

「日影ったら、部屋で一人で自慰を」

「ん?」

 その言葉を聞いて、時間が止まる。

「なにバカなこと」

「本当さ。色々考えていたようで、いつの間にかそんなことを」

「変なこと教えるんじゃないよ…。あんたたちがさ」

「変なの?少なくとも、日影くらいの年齢なら半分以上は一回はしたことがあるらしいよ」

「そうじゃない。…俺が教えてやりたかったのに」

「…太陽は可笑しな奴だなあ」

 結局、太陽は食事を全て平らげるのに一時間半を要した。


 そして、日影の事が心配になった太陽は、日影の部屋へ直行する。

「今大丈夫か?」

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 アニメであればお約束のドタバタが聞こえる。これは着替えていたり、散らかっている部屋を片付けたりと色々ある訳だが…。何をやっているか非常に気になる所だ。

「いいよー」

 入室許可まで、実に十五分。本当に何やっていたの。自慰?違うか。

「な、何の用?」

「いや…何かさ、二人から色々聞かされて…。日影は頑張ろうとしているのに、俺が頑張らないでどうするんだと思ってさ」

 互いに心臓が高鳴る。非常に緊張する瞬間だ。これを聴く為に外で待機している天水と杏莉にも緊張が走る。

「おつきあいを」

「…を前提に?」

 『おつきあい』から始まることに違和感を覚えつつも、その続きが気になって仕方がない一同。

「いや、それだけだけど」

「…どういうこと?」

 日影は拍子抜けした。外野二人衆も同じだった。

「おつきあいって…?」

「お突き…あ………ん?」

 ふと、体に違和感を覚える。それは眩暈のようだった。

「くっ…!眼前暗黒感が……いや、これは…」

 太陽のならず、その症状は全員に飛び火した。

 そして、家中のスマートフォンが一斉にけたたましく鳴り響く。

「「「「やばい!!!」」」」

 これは眩暈などではない。地震であった。それも非常に大きいものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ