第四十八話 下ネタ
「はぁ…」
忌まわしき学校が始まった。結局、春休みも苦行続きだった。
高校2年の一大行事、修学旅行は楽しみで楽しみで仕方がない。ただ、それまでは厳しい物事の連続となるだろう。
先ずは、クラス替え。これで愛しの日影と離れ離れになる可能性もある。もしそうなれば、俺はそれを知った時点で自らをアンインストールすることだろう。
また、学校だけでなく、組織においても色々あるかもしれない。今年中に組織が襤褸を出す可能性もあるし、善良なる組織であるという結論に至ることとなるかもしれない。
他には…
「いつまで寝てるの…。早く起きないと遅刻するかもしれないわよ」
「あと五分だけ」
日影と言う名の最強の目覚ましがやってきた…。今までは散々負けてきたが、今日は屈しないぞ!
「往生際が悪い…五分で何が出来るのさ」
その言葉を聞き終えるのと同時に戸が開き、先生が入ってくる。
「…男には『朝勃ち』なる生理現象があるらしいな」
「何て事言ってんだ!」
何と言う連係プレー。だが、あんな下ネタを使うのは反則だろう…。
「何か浮かない顔しているけれど…どうしたっていうの」
「訊かなくても分かるだろうに…」
「…まぁ、休みはもっと欲しいよね…」
「そ、そうだな。日影もそういう事考えたりするんだな」
「ちょっとはそういうところもあるさ、誰だって…」
そう言うなり、俺に近づき、恥ずかしそうに質問してくる。
「ずっと気になってたんだけど…」
「ん?何かあったか?」
日影の口から出た言葉は、あまりにも要諦外のものだった。
「…先生が言ってた、『朝勃ち』って…」
「…他に人がいる通学路で何て質問するんだよ…。そういう下ネタは家に帰ってから…」
そう言うと、日影は勢いよく俺を引っ張る。
「じゃぁ、一回帰ろう!早く知りたい」
「遅刻する訳にはいかないんだ~!」
何とか日影の手を振り解き、前進していく。
「それにしても…朝勃ちも知らないとは…。かなり純真なのか…」
日影が再び俺に近づき、恥ずかしそうに話してくる。
「…クラス替えだけど…一緒だといいね…」
日影から出てきたその言葉。嬉しいことこの上ない。
「…ねぇ、返事は?もしかして離れたいの?」
心外な事を言われてしまい、慌てて答える。
「そんなことないよ!勿論、日影と一緒が一番さ…」
気づくと、周りがざわざわと騒がしい。我に返って周りを見渡してみると、そこは校門の真横で、道行く人々が立ち止まって観察していた。我が子を見る央に優しい笑顔で見る人や、嫉妬心満載の目で睨む人など様々だ。
「…お騒がせしましたー…」
「…失礼しましたー…」
この出来事は、現場に居合わせた人や窓から見ていた人などによって、瞬く間に全校へと広まった。
クラス替えの結果、運良く日影とは同じ学級となり、担任には手稲天水が就くこととなった。
教室に入ると、案の定先程の出来事を弄られる。
「朝っぱらから何だよー。仲いいのは悪いことじゃないけど程々にしろよー?」
「羨ましいわー」
「ひゅーひゅー」
「あんまり茶化さないでくれよ…」
「…そうね。流石の私も恥ずかしくて思考回路が麻痺しそうよ」
茶化してきた級友たちの中から、一際大きな男子が出てきた。
「……ビューッ、ビューッ」
「…何の音なんだよ…。拾いにくいネタには突っ込みも入れなれない…」
その男は汚い笑みを浮かべて言った。
「何の音かって、そりゃ…。射精音さ」
その言葉を聞いて吃驚。朝からこんなに下ネタに塗れることになろうとは…。
「朝から下ネタ止めてくれよ…。俺の股間がハッスルするだろう」
「…太陽まで下ネタに乗ってどうするの…」
「今日は朝から色々凄かったねー。じゃ、始めようか」
遂に地獄の高校二年の生活が幕を開ける。
昼前に今日は終了し、帰路についた。
日影から、あんなことやこんなこと、様々な下ネタについて問い詰められることとなるのだった。
その為、顔が茹蛸のように真っ赤になった日影は、部屋に籠ってしまった。
「何てことだ…。これは、謝るべきなのか…?」
そう思い三十分にわたる長考の末、日影の部屋へ行き、謝罪することに決めた。
日影の部屋の前。様々な下ネタを吹き込んでしまい、幻滅させたかもしれない。なかなか一歩を踏み出せなかった。
十分にわたる自分との戦いの末、日影の部屋に入る決断を下した。
ドアに手を掛け、開ける。
「日影…。悪かった。あんな恥ずかしい目に遭わせて…。だからさ……ん?」
そこには、半裸の日影がいた。出掛けたりするために着替えると言う訳でもなく、学校へ行かなければならない用事があって制服に着替えていると言う訳でもなく。
日影の左手にはスマホが握られ、もう片方の手は…。
「ななな…何と言うことだ…」
「…!!????!!??」
日影と目が合い、日影は声にならない言葉を発した。
そして、半裸の日影が高速で俺に急接近。即座に察した。
刹那。俺は勢いよく吹き飛ばされたのだった…。
夕食の時間になり、先生に呼ばれるまで目を覚まさなかった。
「…どうしたの。日影…。何か様子が変だけれども…」
「知らないっ!」
先生が何度も質問するも「知らないっ!」の一点張りで、解決しない。
日影がトイレへ行った時、チャンスだと思い、事情を説明した。
「先生、実はさ…。色々下ネタについて質問された訳。それで、正確に全部答えたら、顔真っ赤にして部屋に籠っちゃって。その後、悪かったと思って部屋に謝りに行ったら、自慰行為しててさ…」
「成程ね…。そして、生まれたままの姿、若しくはそれに近い姿を見られたと言う訳か…」
今日は、もう、散々だ…。
「これで、心置きなく性行為出来るな」
「先生、今食事中なんですが」
「太陽から先に振ってきたんだぞ…」
その話をトイレで聞き入っていた日影は、色々な妄想が頭を巡り、トイレでも致すのだった。
このままではいけない。色々な意味で、日影はそう思った。
そして、学校が始まり、だんだん新しい学級に慣れてきたある日、世界は突然闇に包まれた。